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32.次々と現れる一角獣

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 手に入れた薬草52株を持って来た道を引き返していると、リットウシグレ号が立ち止まった。
「今度は……アーモウドバイさんか」
「え……?」

 シールドシップ号の登場に驚いたばかりだが、今度僕たちの前に現れたのは、この辺りの地域で最も多くのグレードワンランクの魔物を屠ってきた名一角獣だ。
 彼女は一角獣としては、平凡な鹿毛の馬体を持っており、ごく普通の牝馬のような雰囲気で近づいてきた。

「その匂い……もしや、山雀のハーブをお持ちですか?」
「うん、持っているよ。クエストをこなして帰るところだからね」
「……余分に持っていたりしないでしょうか?」

 シグレ号は、少し考えると答えた。
「いくつか予備用ならあるけど……必要なら持って行くかい?」
「そうですね……それでは2株頂けませんか?」

 メリザンドを見ると、彼女は頷いてから2株をアーモウドバイ号に差し出した。
「ありがとうございます。そろそろ仔馬が生まれる頃なので……良い薬草が欲しかったのです」
「元気な赤ちゃんが生まれるといいね!」


 そのやり取りを見ながら、どこかホッとしながらシグレ号を見ていた。
 彼がいるから、交渉という形を取れるが……僕たちだけだと、下手をすればバトルになるかもしれない。というか。こんな超一線級のユニコーンに絡まれたりしたらなんて……考えただけでもぞっとするぞ。

 アーモウドバイ号と別れると、今度は牡一角獣が姿をみせた。
「……そこの若馬」
「貴方は……キシダンブラックさん!」

 現れた牡馬は、真っ黒な馬体をした立派な牡だった。
 よく顔を見ると、なかなかに精悍で、牡馬すら彼に惚れるのではないかと思えるほど男前だ。

 そんな男前の彼は言った。
「……その匂い、例の草をもっているな?」
「うん、クエストようにね……予備もいくつかあるよ」
「では、5株ほどもらえるか?」
「では、どうぞ……」


 メリザンドが5株のハーブを差し出すと、キシダンブラックは優しい嘶き声を出した。
 すると藪が揺れて仔一角獣たち5頭が姿を見せる。その愛らしい姿に、メリザンドやアビゲイルも顔をほころばせている。
 仔一角獣たちの姿は、キシダンブラックと似ているモノから違う者もいて、もしかしたら近所の仔という立場のヤツもいるのかもしれない。
「さあ、仲よく食べるんだ……」

「キシダンおじさんは食べないの?」
「……その草は、霊力を持つ特殊なシロモノだ。どうしても近所の仔ユニコーンたちに食べさせたいから、お願いしたまでのこと」

 なるほど。確かにキシダンブラックを通じて、仔ユニコーンと仲良くなっておけば、後々に困ったことがあっても、彼らが力になってくれるかもしれない。


 仔ユニコーンたちを見て、すっかり休憩をとった僕たちは、再び歩き出した。
 しばらくは何事もなく通り過ぎていくのだが、今度現れた一角獣は……なんとブルフェオールだった。

「おい、そこの若馬……貴重な草を持ってるな?」
「うん、いくつか予備があるけど……」
「じゃあ1株くれ。最近……毛艶が悪くなってきてよぉ……」
 歳……なんだな。僕も貴方と同じような立場だから、その気持ちはよくわかる。

「う、うん……いいよね?」
 メリザンドが1株渡すと、ブルフェオールは「ありがとよ!」と言いながら立ち去ったが、500メートルも歩くと、今度は牝一角獣のグレンアークマリアが登場した。
「あの……あの……」
「あ、何でしょう?」
「ひ、一株……わたくしにも……」


 他にもコンドコソトレルや、エンジンブラッシュなど様々な一角獣が、何かと理由を言いながら1株から3株ほどを要求してきた。
 そして、無事に森を抜けたとき……残っていたのは28株ほどだった。

「本当に、たくさん無くなりましたね……」
「というかさ、シグレ号?」
「なんだい?」
「どうして、あの一角獣たち……バラバラに貰いに来たんだ?」
「それは、仲間同士でもけん制し合っているから!」


 キシダンブラックの発言で、なんとなくはわかっていたが……この【山雀のハーブ】は貴重な草のため、一角獣の間でもあまり乱獲……というか乱食するのは嫌がられるらしい。

 しかし、今回ぼくたちがやったのは、増やしてから回収するという方法だったので「乱獲するな!」ということにはならず、むしろ少し分けてもらってお腹に収めるチャンスだったというワケだ。

 そして受付嬢ソフィアに25株を提出すると、彼女は満足そうに微笑みながら言った。
「お疲れ様です。一角獣に襲われたりはしませんでしたか?」
「いや、むしろ……なんていうか……」
「別の意味で……大変でしたね」
 僕たちは力なく笑うと、ソフィアから受け取りのサインをもらって、ギルドを後にした。


 そして、メリザンドのアパートへと戻ると、リットウシグレ号は残った3株の【山雀のハーブ】を眺めた。
「メリィお姉さん。この残ったのは少しずつ増やして、たまにおやつに出してよ」
「わかりました」
 彼女は僕を見る。
「あなたの部屋で育ててもいいでしょうか?」
「構わないよ」

 そう言いながらハーブを持って行くと、ぽそりとシグレ号が呟いていた。
「……それにしても妙な話だな。どうしてメリィお姉さんの部屋だけないんだろう?」

 彼は視線を一角へと向けていく。
「それに……妙な空間と、嫌な空気も感じる」

 そこまで呟くと、彼は脚音をたてずにそっと近づいた。

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