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夢のなかのような
私はまるで夢の中にいるみたいに、頭がぼんやりしていた。
優太さまが着ていたコートを脱ぎ、私の肩にかけたときもただ黙ってされるがままになっていた。
けれど、優太さまが「社長さんが待ってるから、少し話してくるね」と立ち上がったとき、咄嗟にその手を掴んだ。
「私も、行きます」 優太さまは眉をさげて心配そうに私を見つめる。
けれど私の思いを拒否することなく、 「じゃあ、一緒に行こうか」 と、言って私の手を握りなおした。 「お話は、お済みになりましたか」
義隆さまは私には絶対に見せない柔らかい笑顔で、待っていた。
「はい。突然お伺いして、二人で話がしたいなど無理を言ってしまい、申し訳ありませんでした」
優太さまが真面目な表情で、軽く頭をさげる。
「いえいえ、お客様のどんなご要望にも応えることが、弊社の理念ですから」 「それは良かった。今回は、小川章人と、本契約結びたいと思いまして。それは…なんの問題もありませんよね」
優太さまがいつもの穏やかな声で言い切ると、義隆さまは目を見開き、「それはそれは」と、驚いたような表情で頷いた。
「お客さまに、本契約を結んでいただだけるというのは、弊社といたしましては、大変喜ばしいことです」
「本契約を結べば、もう章人は、会社のものではなく、主人である僕のものですよね」
「相違ありません」
「それを聞いて安心しました。今後、誰であろうと私以外の人間に、章人が傷一つ付けられては困りますので」
きゅっと繋いだ手を握り締められる。
「弊社の商品を大切にしていただき、有り難く存じます。ですが、弊社には他にも優秀な個人秘書が揃っております。出来損ないの個人秘書で本当によろしいのですか。いつまた逃げ出すか、本契約を結んでからでは交換も受け付けられませんし、私も責任をもつことができなくなりますが」
義隆さまが私の方に視線を投げかけ、私は優太さまのとなりで、身の縮まる思いがした。
どんなことを言われても、私には言い返す資格がない。
「僕には、章人しかいません。それに私は……章人があなたに向ける、敬意や感謝や恐れ以外にも、弱さや恥じらいや、愛情や、その他全てのどんな感情をも受け入れられる自信がありますから」
まるで宣戦布告をするように、優太さまは言った。 昨日の晩は一人でくぐった門を、優太さまと二人でくぐり抜けたとき「章人さん」と、後ろから追いかけてくる足音に私と優太さまは振り返った。
屋敷の玄関から駆けてきた桜井さんは、軽く優太さまに頭をさげてから、私の方を向き直り紙袋を差し出した。
「これ、は……?」
意外にもずしりとした重さに、私は首をかしげた。
「あとで、中身を確認して貰えれば分かると思いますが、昔、義隆さまが没収された章人さんの本です。施設から持ってきた大切なもの、ですよね?」 「捨てられたと……」
「義隆さまは私に保管しておくようにと、命じられていました。章人さんは……今回、本契約を結ばれたとお聞きしました。であれば、もうここへ帰ってくることもありませんよね。お返し、しておきます」
桜井さんにそう言われた瞬間、怒涛のように過ぎていく状況を処理しきれず乾いていた涙が、一気に溢れ出した。
自責とか、安堵とか、よく分からない感情が全部ない交ぜになって、私は路上の真ん中で紙袋を抱えて、いつまでも泣いた。
優太さまが着ていたコートを脱ぎ、私の肩にかけたときもただ黙ってされるがままになっていた。
けれど、優太さまが「社長さんが待ってるから、少し話してくるね」と立ち上がったとき、咄嗟にその手を掴んだ。
「私も、行きます」 優太さまは眉をさげて心配そうに私を見つめる。
けれど私の思いを拒否することなく、 「じゃあ、一緒に行こうか」 と、言って私の手を握りなおした。 「お話は、お済みになりましたか」
義隆さまは私には絶対に見せない柔らかい笑顔で、待っていた。
「はい。突然お伺いして、二人で話がしたいなど無理を言ってしまい、申し訳ありませんでした」
優太さまが真面目な表情で、軽く頭をさげる。
「いえいえ、お客様のどんなご要望にも応えることが、弊社の理念ですから」 「それは良かった。今回は、小川章人と、本契約結びたいと思いまして。それは…なんの問題もありませんよね」
優太さまがいつもの穏やかな声で言い切ると、義隆さまは目を見開き、「それはそれは」と、驚いたような表情で頷いた。
「お客さまに、本契約を結んでいただだけるというのは、弊社といたしましては、大変喜ばしいことです」
「本契約を結べば、もう章人は、会社のものではなく、主人である僕のものですよね」
「相違ありません」
「それを聞いて安心しました。今後、誰であろうと私以外の人間に、章人が傷一つ付けられては困りますので」
きゅっと繋いだ手を握り締められる。
「弊社の商品を大切にしていただき、有り難く存じます。ですが、弊社には他にも優秀な個人秘書が揃っております。出来損ないの個人秘書で本当によろしいのですか。いつまた逃げ出すか、本契約を結んでからでは交換も受け付けられませんし、私も責任をもつことができなくなりますが」
義隆さまが私の方に視線を投げかけ、私は優太さまのとなりで、身の縮まる思いがした。
どんなことを言われても、私には言い返す資格がない。
「僕には、章人しかいません。それに私は……章人があなたに向ける、敬意や感謝や恐れ以外にも、弱さや恥じらいや、愛情や、その他全てのどんな感情をも受け入れられる自信がありますから」
まるで宣戦布告をするように、優太さまは言った。 昨日の晩は一人でくぐった門を、優太さまと二人でくぐり抜けたとき「章人さん」と、後ろから追いかけてくる足音に私と優太さまは振り返った。
屋敷の玄関から駆けてきた桜井さんは、軽く優太さまに頭をさげてから、私の方を向き直り紙袋を差し出した。
「これ、は……?」
意外にもずしりとした重さに、私は首をかしげた。
「あとで、中身を確認して貰えれば分かると思いますが、昔、義隆さまが没収された章人さんの本です。施設から持ってきた大切なもの、ですよね?」 「捨てられたと……」
「義隆さまは私に保管しておくようにと、命じられていました。章人さんは……今回、本契約を結ばれたとお聞きしました。であれば、もうここへ帰ってくることもありませんよね。お返し、しておきます」
桜井さんにそう言われた瞬間、怒涛のように過ぎていく状況を処理しきれず乾いていた涙が、一気に溢れ出した。
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