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熱中症事件
平日のお昼、いつものように昼ごはんの写真を撮って、優太さまにメールを送る。
お昼に、菓子パンばかり食べてることがバレて、「毎日ちゃんと報告しなさい」と、言われてしまったせいだ。
個人秘書として朝食と夕食は、新人研修の時に習った栄養バランスとカロリー計算をして、一ヶ月の献立を決めて作っているのだが、自分だけのためにやる気にはなれない。 From 山城優太 TO 小川章人 会議が長引いて、やっとお昼休憩だよ。 章人は今日も、そうめんだったのか。サラダをちゃんと作ったのは偉いけど、身体冷えやすいから、クーラーの風には直接あたらないように。 いつもながら心配性なメールが返ってくる。
私はメールの文章を考えるのが苦手なので、いつも「分かりました」や「了解しました」等の短い返事をかえす。
クーラーをつけていないことは、言わないでおいた。
広々としたリビングで、私一人が涼むためにクーラーをつけるのは何となく気が引けてしまう。
暑さを我慢するくらい、なんてことない。
窓は全開にしていたが、いつも吹き込んでくる海からの強い風が今日は大人しい。
三時過ぎた頃、喉が渇いたので窓拭きをしていた手を止めて、水を飲みにキッチンに向かったときインターホンが鳴った。
「お届けものです」 モニターで宅配便のお兄さんの姿を確認して、マンションの入り口の鍵を開く。
多分、この間私が注文した、“例のモノ”が送られてきたんだろう。チャイムがなって、ハンコを持って玄関に向かう。
玄関扉を開けたとたん、熱気が吹き込んできて、一瞬頭が、くらっとした。
「こちらにハンコをお願いします」 汗をかいたお兄さんがダンボールを抱えて立っていて、伝票を差し出す。
「は、い」 なんだか少しだけ胸のあたりが気持ちが悪い。
差し出された伝票にハンコを押そうとするも、焦点が合わない。
するっと、ハンコが手から滑り落ちた。
「す、すみません……」 慌ててしゃがんだ瞬間、一気に喉へと吐き気がこみ上げてきた。
「え、っと。大丈夫ですか?」 お兄さんの声が遠い。
目の前が黒く染まっていく。
ぐらっと、身体がよろめいて、私はそこで意識を失った。 ぼんやりとした視界に、スーツ姿の輪郭が浮かびあがってくる。
「優太、さま……?」 「章人っ」 聞きなれた優太さまの声。
「私……なんで、優太さまが?」
優太さまが心配そうな顔で私を覗き込んでいる。
じわじわと周りの景色も見えてくる。白い天井とクリーム色のカーテン、自分の腕から伸びるチューブ。頭の内側がずきずきと痛んでいる。
「熱中症だって。玄関先で倒れて意識がなかったから、宅配便の人が救急車を呼んでくれたんだって……。いきなり、病院から電話が来たから……もう、心臓とまるかと思ったよ」
優太さまが私の額から頬を撫でながら言う。
「ごめんなさい……私……」 まさか、こんな大事になってしまうなんて……。
あの宅配便のお兄さんにも迷惑かけて…優太さまも、こんなに心配かけて。
優太さまはため息をついて、ベッドの隣の椅子に、力が抜けた様子で腰掛けた。
「反省の言葉は体調回復したら、たっぷり聞かせてもらうから。とりあえず回復するまで、絶対安静」 「はい……」
点滴を終え、私はお医者さんからは熱中症予防の注意を受けてから、優太さまの運転する車でマンションに戻った。
優太さまにはベッドに押し込められたその時には熱ももう下がっていたのに、翌日また熱があがってしまった。
「優太さま……お仕事は?」 「章人はなにも心配しなくて大丈夫。ほら、これ飲んで」
優太さまが、ストローのささったコップをさし出す。
ほどよい冷たさが、喉にしみる。
優太さまはそれからも、こまめに私の汗を拭いたり、氷枕を変えたりと、付きっきりで看病をしてくださった。熱を出したのも久しぶりだったが、こんな風に誰かに看病してもらったのは初めてだった。
「章人。お皿の片付け終わったら、僕とお話し合いね」
一週間もの間ひたすら甘やかされ、やっと家事復帰のお許しが出た日の夜、優太さまに硬い表情で告げられる。
病院で言われた「反省の言葉は体調回復したら、たっぷり聞かせてもらうから」という言葉はもちろん覚えていた。
「はい、優太さま」 久しぶりに両手の先が冷たくなる。
いつもより念入りに時間をかけて皿洗いを終えると、リビングで優太さまがノートパソコンを閉じて立ち上がった。
「章人は、自分の寝室。正座して、待ってなさい」
「はぃ……」
一人で寝室に向かい部屋の真ん中で正座すると、一気に不安に押しつぶされそうになる。
扉がひらいて私の寝室にやってきた優太さまは、右手に木製のブラシを持ってきた。
スーツの埃をとる、分厚くて楕円形の硬いブラシだ。
「立って」 短くそう命じて優太さまは私と向かい合うように、ベッドに軽く腰掛ける。
優太さまとの距離に、また不安感が増す。
お昼に、菓子パンばかり食べてることがバレて、「毎日ちゃんと報告しなさい」と、言われてしまったせいだ。
個人秘書として朝食と夕食は、新人研修の時に習った栄養バランスとカロリー計算をして、一ヶ月の献立を決めて作っているのだが、自分だけのためにやる気にはなれない。 From 山城優太 TO 小川章人 会議が長引いて、やっとお昼休憩だよ。 章人は今日も、そうめんだったのか。サラダをちゃんと作ったのは偉いけど、身体冷えやすいから、クーラーの風には直接あたらないように。 いつもながら心配性なメールが返ってくる。
私はメールの文章を考えるのが苦手なので、いつも「分かりました」や「了解しました」等の短い返事をかえす。
クーラーをつけていないことは、言わないでおいた。
広々としたリビングで、私一人が涼むためにクーラーをつけるのは何となく気が引けてしまう。
暑さを我慢するくらい、なんてことない。
窓は全開にしていたが、いつも吹き込んでくる海からの強い風が今日は大人しい。
三時過ぎた頃、喉が渇いたので窓拭きをしていた手を止めて、水を飲みにキッチンに向かったときインターホンが鳴った。
「お届けものです」 モニターで宅配便のお兄さんの姿を確認して、マンションの入り口の鍵を開く。
多分、この間私が注文した、“例のモノ”が送られてきたんだろう。チャイムがなって、ハンコを持って玄関に向かう。
玄関扉を開けたとたん、熱気が吹き込んできて、一瞬頭が、くらっとした。
「こちらにハンコをお願いします」 汗をかいたお兄さんがダンボールを抱えて立っていて、伝票を差し出す。
「は、い」 なんだか少しだけ胸のあたりが気持ちが悪い。
差し出された伝票にハンコを押そうとするも、焦点が合わない。
するっと、ハンコが手から滑り落ちた。
「す、すみません……」 慌ててしゃがんだ瞬間、一気に喉へと吐き気がこみ上げてきた。
「え、っと。大丈夫ですか?」 お兄さんの声が遠い。
目の前が黒く染まっていく。
ぐらっと、身体がよろめいて、私はそこで意識を失った。 ぼんやりとした視界に、スーツ姿の輪郭が浮かびあがってくる。
「優太、さま……?」 「章人っ」 聞きなれた優太さまの声。
「私……なんで、優太さまが?」
優太さまが心配そうな顔で私を覗き込んでいる。
じわじわと周りの景色も見えてくる。白い天井とクリーム色のカーテン、自分の腕から伸びるチューブ。頭の内側がずきずきと痛んでいる。
「熱中症だって。玄関先で倒れて意識がなかったから、宅配便の人が救急車を呼んでくれたんだって……。いきなり、病院から電話が来たから……もう、心臓とまるかと思ったよ」
優太さまが私の額から頬を撫でながら言う。
「ごめんなさい……私……」 まさか、こんな大事になってしまうなんて……。
あの宅配便のお兄さんにも迷惑かけて…優太さまも、こんなに心配かけて。
優太さまはため息をついて、ベッドの隣の椅子に、力が抜けた様子で腰掛けた。
「反省の言葉は体調回復したら、たっぷり聞かせてもらうから。とりあえず回復するまで、絶対安静」 「はい……」
点滴を終え、私はお医者さんからは熱中症予防の注意を受けてから、優太さまの運転する車でマンションに戻った。
優太さまにはベッドに押し込められたその時には熱ももう下がっていたのに、翌日また熱があがってしまった。
「優太さま……お仕事は?」 「章人はなにも心配しなくて大丈夫。ほら、これ飲んで」
優太さまが、ストローのささったコップをさし出す。
ほどよい冷たさが、喉にしみる。
優太さまはそれからも、こまめに私の汗を拭いたり、氷枕を変えたりと、付きっきりで看病をしてくださった。熱を出したのも久しぶりだったが、こんな風に誰かに看病してもらったのは初めてだった。
「章人。お皿の片付け終わったら、僕とお話し合いね」
一週間もの間ひたすら甘やかされ、やっと家事復帰のお許しが出た日の夜、優太さまに硬い表情で告げられる。
病院で言われた「反省の言葉は体調回復したら、たっぷり聞かせてもらうから」という言葉はもちろん覚えていた。
「はい、優太さま」 久しぶりに両手の先が冷たくなる。
いつもより念入りに時間をかけて皿洗いを終えると、リビングで優太さまがノートパソコンを閉じて立ち上がった。
「章人は、自分の寝室。正座して、待ってなさい」
「はぃ……」
一人で寝室に向かい部屋の真ん中で正座すると、一気に不安に押しつぶされそうになる。
扉がひらいて私の寝室にやってきた優太さまは、右手に木製のブラシを持ってきた。
スーツの埃をとる、分厚くて楕円形の硬いブラシだ。
「立って」 短くそう命じて優太さまは私と向かい合うように、ベッドに軽く腰掛ける。
優太さまとの距離に、また不安感が増す。
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