お仕置きと、恋と、涙と

青森ほたる

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反省の言葉

「それで、今回の一連の事件だけど……とりあえず、章人の反省の言葉を、先に聞こうか」

 最初にお説教から始まるだろうと身構えていたら、予想外のことを言われて戸惑う。

「まず……ご心配とご迷惑をおかけしたこと、本当に申し訳ありませんでした。私の自己管理の甘さで、大ごとになってしまい、優太さまは病院にまで来ていただき、それから熱の看病までしていただいて。……二度とこういうことにならないよう、注意、します」

 なんとか優太さまが満足する答えを出そうと、必死に言葉を選んで答えた私に、優太さまはゆつまくりと頷いた。

「そうだね……反省の言葉としては、30点くらいかな」

 表情は厳しく、何より優太さまにハッキリと切り捨てられるような言葉を言われたことが初めてで、身体が固まった。

「ズボンと下着を下ろして、うしろの壁に両手をつきなさい」
「…ぃ」
「返事、聞こえないよ」

 優太さまが右手で持ったブラシを、左手の中にパシィっと、弾ませる。

「は、ははいっ。ご、めんなさいっ」

 今までになく厳しい優太さまに、まるで、全身に冷水を浴びせられたような心地になった。

震える手で慌ててズボンを下ろし、後ろの壁まで歩いていって手をついた。

「頭下げて」

 優太さまが斜め後ろにやってくる。空気に触れる裸のお尻が、緊張で引き締まった。

「これからいくつか質問するけど、もし嘘をついたりしたらお仕置きが増えるだけだからね?」
「はい……優太さま」

 心臓がきゅっと絞られる。

前に、お迎えの時間に遅れてお仕置きされたときよりもこわい。

「じゃあ……まずは最初に言っておきたいこと。今回のことに関わらず、だけど、僕は章人のことを、めちゃくちゃに心配はしても、迷惑に思うことは絶対ないから。病院から呼び出されたことも、熱の看病をしたことも、何一つ迷惑なんかじゃない。今回、僕が怒ってるのはね、病院に運ばれることになった原因、ただそれだけ。わかる?」

 声は冷たいままだが、優太さまの気持ちが伝わってきて、余計に心が苦しくなる。

ただいつもこういうときは向かい合って話すのに、今日は優太さまがどんな表情をしているのか確認できなくて、不安になった。

「はい……ごめんなさい」
「じゃあ、まず一つ目の質問。六月の終わりごろ、僕が夏の間はちゃんとクーラーをつけるように言ったことは……覚えてる?」

 ぺたぺた、とお尻にブラシの背の部分があてられて全身が緊張する。

「はい、覚えています……」
「熱中症で倒れたあの日、部屋のクーラー、つけてなかったよね?」

「はい。つけて、ませんでした」

 お尻にあてられていたブラシが、離され、次の瞬間バシィィインっと、お尻の真ん中に振り下ろされる。

「ぃっ……っ!」
 バシィィン、バシッィイン、バチィインっ、と、立て続けに休む暇なく、ブラシが落ちる。

いきなり道具でお尻を叩かれる痛みに、声が漏れる。

おそらく叩かれたのは、10回。

ブラシが止んでも、お尻の真ん中にはじんわりとした熱が残る。
そこにまた、軽く触れるようにブラシの背があてられた。

「クーラーをつけてなかったのは、あの日だけ? それとも、毎日のように、僕の言いつけを破ってたのかな?」

 答えるのがこわい。また打たれることは確実で、少しでも引き延ばしたくて、何度も唾を飲んだ。

「すぐ、答える!」
 パシィンッ、とブラシが弾んで、背中が反り返る。

「ごめんなさいっ。あの日だけ、じゃなく……いつもあまり、つけて、いませんでした」

 バシッィイン、ベチィンッ、バチィインと、今度はお尻の右側だけを連打される。

「ごめ、なさいっ…! ……っ!」

 両手が汗でじっとり滲む。右側を10回叩かれ、終わりと思ったら、続けて左側にバチィイインッと痛みが走った。

「ひぃっ………っ!あぁっ!!」
 左もきっちり10回、連打が止んで息をつく。

「それで、クーラーをつけなかった理由は?」
「それは………。私一人のために、つけるのは贅沢なことだと思って。大変なお仕事をこなしてるわけでもないのに…。でも!……知られたら怒られるとは思ってて。多分、もっと自分を大切にしなさいって……」

 一瞬、口ごもってしまい、また急かすように叩かれるのがこわくて、一気に答えた。優太さまがため息をつく。

「そこまで分かってて言いつけを破るなんて、ずいぶん悪い子だね」

 バチィイインッと、お尻と太腿の間を叩かれる。
「いあぁぁっ…っ!!!!」

 バヂチィイッ、バシィイン、と連打されて、今まで一番強い痛みに足に力をこめて、耐える。

「ごめんなさぁぃっ、ごめんなさぁぃっ」

 10回で止んだ時は、爪先立ちになっていた。

「章人、僕との一番大切な約束は?」
「自分の身体は傷つけないっ、です」
「今回、それも破ったことになるよね?」
「は、い」

 身構えた通り、お尻の上の方に10回の連打。

「あぁあっ…!!!!!」
 お尻は満遍なく熱く、じんじんと痛みを主張する。

「じゃあ、章人。もう一回、何が悪かったか言ってごらん」
「は、ぃっ…!今回は……っ怒られるって分かってたのに、優太さまの言いつけを破りっ……自分で、自分の身体を傷つけました…っ」
「そうだね。それじゃ、そんな章人は、ブラシではあと50回のお尻叩きで、しっかり反省しようね」

「そ……そんな…っ」

 今もすでにこんなに痛いお尻に、さらに重ねられたら…っ。思わず顔をあげて振り返った私は、縋る余地など欠片もない厳しい瞳と、視線がぶつかった。

「前を向いていなさい」

 静かに命じられて、目が一気に熱くなる。

「はいっ、ごめんなさぃ…」
 こみ上げる涙を堪えて、また地面に視線をおとして、声を絞り出す。

「足、開いて」

 ブラシで太腿を軽くはたかれて、足を開く。ブラシはそのままお尻の真ん中に、準備される。軽く、当てる位置を定めるように弾まされて、歯を食いしばる。

「………っ、あぁあああっ!!!!」
 バシィイイイインッ!と、お尻の真ん中に叩きつけられたブラシは、先ほどまでと比べ物にならないほど強い。

ベチィインッ!!バシィイィイインッ!!と、一打ずつ違う場所に、強い痛みが走る。

「あぁっぁあっ……!!!いやぁぁあっ……!!!あぁああん……っ!!!」

 もう何回打たれているのか、あと何回残っているのか、分からなくなる。

飛び上がるほどの痛みに、壁に両手の爪をたて身をよじる。

時折、優太さまの手で強制的に体勢を整え直されて、またすぐにブラシ打ちが再開する。

「ごめんなさあぃいっ!! ごめんんなさいぃいいっ!!」
 私が叫んでも、床に、ぼたぼたっと涙が落ちても、優太さまは終始無言で、ただ同じ力でブラシは振り下ろされた。

優太さまが口を開いたのは、お尻に蓄積される痛みに、もう立っているのが限界だと、思ったそのときだった。

「章人、あと5回だよ」
「うぅっ………は、はひぃっ…」

 涙をのんで、崩れかけた身体をもう一度立て直す。あと、5回。あと5回だから、と自分に言い聞かせる。

「いやぁぁああっ!!!!あぁあぁっッ…っ!!!あぁあああっっっっっ!!!」
 バシィイイインッ!!バシィイインッ!!バシィイイインッ!!と、連続で三回。お尻が熱い。喉が張り裂けそうだ。

「もう、ゃぁ………ぁあああああんっ…!!!!」
「あと1回」

 パシン、パシン、と強く弾まされたあと、バシッィイインッ!!と、衝撃が走る。

「ひぁあああぁぁあっ…!!!!」

 喉を破る悲鳴と、溢れる涙。両手が、ずるずる、っと壁を滑りおちて、私は地面にうずくまる。

「うぅぁっっ…っ」

 涙の溢れる両目を覆う。お尻が、燃えてるみたいに熱い。

「章人」
 泣きじゃくる私の両腕を後ろから、持ち上げられて、半ば抱き上げられるよう立たされた。

「ゆう、た…さ、ま…っ」
「まだ終わりじゃないよ。前を向いて、しっかり立ってなさい」

 振り返ろうとした私に、冷たい声がかかる。

同時に抱え上げられていた手を離されて、私はがくがく、と再度床に崩れ落ちた。
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