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第三章 交点に降るは紅の雨
40 傷を見せ合う ※
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バタン……!
扉が閉まる音を、クレインはジェイの身体越しに聴いた。
「え……」
間抜けな声が漏れ、自分の身体を拘束する腕の力が、さらに強まる。
(な、にして……?えっ?!なに?!)
「お、い……っ!」
いきなりの出来事に混乱して、腕の中でもがくと、より一層強く抱き締められる。
──そう、抱き締められている。
クレインはあまり深く考えずに扉を開けた。アイビスが戻って、誰かがそれを知らせに来たのだろう、と。
カイトは『先に休め』と言ってくれたが、クレインはアイビスの報告を聞くつもりで、まだ横になってはいなかった。
自分の服に着替えて、いつものように足首にサラシを巻いて、そうして待機していた。
部屋の外にジェイの姿を見た時、クレインはまだ気まずい空気を引きずっていた。
血塗れの自分を見る、ジェイの顔──彼が何を思い起こしているのか、手に取るように分かった。
(バカだな……お前が責任感じること、ないのに……)
その思いは、口には出せなかった。
他人に辛辣で自分にも厳しいクレインだが、ジェイに対してだけは、思ったままを口に出せないのだ。それは本人にも自覚がある。
そしてその理由も、よく分かっている。
クレインはジェイに罪悪感を持っている。
ジェイを巻き込んだのは、自分だという罪悪感を。
そしてジェイがクレインに対して罪悪感を持っていることも、知っている。
加害者だという、罪悪感を。
(……俺が勝手にお前の槍を使って、勝手に目の前で死のうとしただけなのに……そこまで、俺のことを背負い込まなくても、いいのに……)
だからクレインは、ジェイに本音をぶつけられない。
『もう俺に縛られなくていい』
そう言って、本当に彼が去ってしまったら──クレインは途方に暮れることだろう。
だから、こんな時も他の人間になら平気で金的をくれてやれるのに、彼に対しては身体が動かなくなるのだ。
痛いほどに、抱き締められる。
「い、た……っ」
パッと、ジェイは身を離す。
「わ、悪い……!」
まともに、瞳にぶつかった。
文句を言おうとして怯んだのは、ジェイが泣いているように見えたからだ。
「ジェイ……?」
頰に手を寄せる。と──
「ぅ、ンっ!!」
いきなり、舌が捻じ込まれた。
混乱するクレインの舌が、それに絡め取られる。
「んっ、んぅ……!」
色事を根こそぎ排除してきたクレインにとって、初めての口づけ──それはとても一方的なものだった。
溢れる唾液を啜られ、舌を噛まれ、喉の奥までかき混ぜられる。
「ぅ、んん~……っ!!」
苦しくて腰を引くクレインを、ジェイはどこまでも追いかけてくる。
顔がほとんど上を向いて、首が痛い。
立っていられなくなって、座り込みそうになる身体を大きな手が支えて──支えたまま、一緒になって背後へと倒れていく。
「……っ!!」
クレインの背中を受け止めたのは、柔らかなベッド。ベレン卿の館の最高級の寝具が、二人分の体重を難なく包み込む。
最初は扉の側にいたはずなのに、いつの間にかベッドの近くまで移動していたことに、クレインは気づくことすらできていなかった。
上から覆い被さられて、口づけはさらに深くなっていく。
両手をベッドに縫い止められ、開かされた脚の間に、身体を割り込まれる。
「ぅン……っ、んんっんー……!」
唾液が流れ込んで、噎せるほどだ。
クレインが手を振り解こうとしても、脚の自由を取り戻そうとしても、ジェイは微動だにしない。
(……っ、このっ……!)
正気ではないジェイの様子に、クレインは最終手段を取ることにした。
がりっ!!
「ぐっ……!」
自分の口の中で好き放題するジェイの舌に、思いっきり噛みついた。血が出るほどに──。
「はぁ……はぁ……」
息を整えながら睨みつけるクレインに、ジェイの視点がだんだんと合ってくる。
「あ……」
「この……!やっと正気に戻ったかっ?!」
だがジェイの目に飛び込んできたのは、赤──
「……血、が……」
「えっ?」
「俺、の血……か?」
クレインが引き結ぶ唇に、ジェイの舌から流れた血が赤々と光る。
「だ……めだ!お前が汚れる……!」
手の甲で唇を拭おうとしたクレインを押し留め、あたふたと己の服の袖を擦りつける。
そう言う本人の口元からも、血が垂れているのに、それには御構いなしだ。
「俺は……違うんだ……、お前をただ……お前が、ただ生きて──幸せに生きていてくれれば……それで……」
懺悔するように、ジェイは頭を垂れていく。
(ばか、だな……『汚れる』なんて。自分の血をそんな汚いもの、みたいに……俺は──俺だって、お前が考えるほど、綺麗なものじゃ、ない、のに……)
クレインはジェイの顔に手を添えて、視線を上げさせた。
この世の終わりのような顔をして、ジェイは断罪を待っている。
(そういえば……)
顔を近づけながら、クレインはふと思う。
(そういえば、ジェイの顔を真正面から、こんなに近くで見るのなんて、すごく久しぶり──)
ジェイはいつもクレインの背後に控えている。ずっと誰よりも近くにいたはずなのに、互いに距離を感じていたのは、このためだったのかもしれない。
目を合わせ、息遣いを感じ、体温を共有する距離──ここまで近づいてやっと、互いの心に触れた。
そして今──身体も、触れる。
「んぅ……」
一度表面を擦り合わせてから、クレインはジェイの口元から垂れる血を、ぺろっ、と舐める。
顎まで辿ってから、また唇へ──動けないジェイの緩んだ口の中へと潜り込み、さっき噛んだ舌に今度は慰めるように触れる。
ビクッ、と身体を震わせたジェイは、ゼロ距離で閉じられた瞼を見て、そっと自分の視界も黒に染めた。
そして、血の味のする唾液を絡ませ合う。
互いの傷を、舐め合うように。
己の醜さを、啜るように。
******
「あっ、ン……ぅ……っ」
クレインの控えめな喘ぎを聞きながら、ジェイは首筋に舌を這わせていく。
(ち、がう……!俺は、こんな……)
軋む心とは裏腹に、身体はとても滑らかに動いている。
襟首をはだけると、桃色の頂が顔を覗かせる。誘われるように、唇を滑らせた。
「あっ……」
思わず上がった声を抑えようと、クレインは己の口を隠す。
それが痛々しく見えるのに、ジェイは手を口を止められない。
(っ俺はクレインを汚すつもりなんて……)
これまでジェイが軽蔑の目で見てきた、クレインに性的な目を向ける男たちの醜い顔が、ジェイを嘲笑う。『お前も同類だ!!』と。
(違うっ!!)
否定しながらも、ジェイの行為は激しくなるばかりだ。
むしゃぶりつくように乳首を吸っては、歯を立て、唾液を擦りつける。
「んっ、ん」
両手は弄るように全身を這い、昂った股間を押しつける。
「ンぁ、ぅ……!!」
(ほらな、俺はお前たちとは、違う……!!)
クレインのそこも緩く反応していることが、全ての免罪符になっていた。
「クレイン……っ、クレインっ!」
苦しそうに名前を呼ぶの男を、クレインは赦すように、撫でていた。
とうとう、ジェイは下肢に手をかける。
ズボンを引き下げ、露わになった股間は、確かに緩く勃ち上がっていた。
(──綺麗だ……)
瞳や髪よりももう少し深い紺色が、薄くそこを彩り、中心は充血したような先端が震えている。
「あぁ……っ!!」
果実の蜜を啜るように、そこに飛びついた。
ヂュッ……と吸うと、クレインは驚いたように脚を跳ねさせる。
全てを口に含んで、舌を絡ませ唇で扱くと、クレインはジェイの頭を抱えるようにして身を丸めた。
口淫しながら、足の付け根を開かせるようにグッと押す。そしてその手で、尻たぶを掴んだ。
「ぅ、あっ……っ!!」
揉み込んで、指の跡がつくほどに握る。薄い尻たぶは緊張と弛緩を繰り返している。
「え……?」
戸惑いの声を無視して、ジェイの親指が、最奥に触れた。
表面をなぞってから、ぐっ、と押し込む。
「えっ……?!」
大きくなる戸惑いを打ち消すように、ジェイは口淫を激しくする。
「え、あっ!あっ!ぁあーー!!」
クレインは抑えきれない喘ぎと共に、ジェイの口内に放埓した。
クレインの射精に合わせて、ジェイは後ろに潜り込ませた指を、ぐりっ、と縁を拡げるように一周させていた。
いきなり過ぎる絶頂に、クレインは痺れた身体を投げ出して、「はぁ、はぁ、」息を整えることしかできない。
そんな柔らかな肢体を、ジェイは容赦なくひっくり返す。
「お、ぃ……っ、なに……っ?!」
そして、そこに舌を這わせた。
腰だけを高くして露わにした窄まりに、己の唾液と彼が出した精液を混ぜて、濡らしていく。
「やっ……!!やめ……っ」
さすがに抗議の声を上げるクレインだが、ジェイの耳には届かない。
舌を広げて滑りを乗せてから、今度は尖らせて、ぐぐぐっ、と押し入った。
「ぃや……だ……っ、ジェイ!!」
壁をぐるっと舐め回して、ぐいっと舌の根元まで射し込んでから引き抜き、入れ替わりに指を──
ジェイの頭にはクレインが発する言葉は届かないで、先ほどのカイトとの会話が鳴り響いていた。
『クレインを抱き締めたいのも、一人にさせたくないのも──抱きたいのも、全部、お前だ』
(そうだ……『クレインが幸せならそれでいい』などと偽善者ぶっておきながら、いざとなったら──)
カイトのベッドにクレインがいると勘違いした時、ジェイに浮かんだのは、紛れもなく怒りの感情だった。
(──誰にも、渡さない……!!)
そんな傲慢な考えが、ジェイの頭を占める。
誰かに奪われる前に、自分が──!!
クレインの身体を再び反転させて、脚を持ち上げて腰を上げさせ、濡れてヒクつくそこに、己の昂った楔を──
「……っ!」
クレインの腹部が目に入った瞬間に、その全てが消え失せる。
「あ……」
滑らかな肌に陰を落とす、傷。
ジェイがクレインの腰を持ち上げたことで上着がめくり上がり、露わになったそれが、ジェイの頭の血を下げていく。
「ク、レイン…………」
見ていたはずなのに、見えていなかった彼の表情が、ジェイの頭を殴る。
クレインの泣き顔を、彼は初めて見た。
いや、そうは言っても涙は流してはいない。耐えるように唇を噛んで、目元を赤くして、眉間に力を入れている。
だがジェイには確かに、泣いているように見えた。
「クレ、イン……っ!すま、ない……、俺は……っ!!」
傷を隠すように、ジェイはクレインを抱き締める。
「すまない……っ、俺も、結局あいつらと同じ──お前を傷つけて……!俺は、守りたい、のに……っ」
ベッドに放り出されていたクレインの手が、ゆっくりとジェイの背中に回った。
そして、痛みを和らげるように摩る。
「お前は、違う。お前は、俺を守ってくれたよ」
「っ違う!!守れな、かった……」
皮膚を痙攣らせる大きな傷を、震える手でなぞる。
「これは……俺が……」
「お前のせいじゃない。お前が責任感じることなんて、ない、のに……」
クレインの指が、ジェイの頰を拭う。
ぽた……、クレインの頰に雫が落ちて、そこでジェイは自分が泣いていることに気づいた。
透明なはずのそれが、赤に見えて、ジェイは全身に寒気が走る。
「……俺は……血に濡れたお前を見るたびに、怖くて堪らなくなる……!お前が俺の手の届かないところで、死んでしまうんじゃないかと……」
「……俺は別に『死にたがり』って訳じゃ、ないんだ。簡単に死んでやったりしない。足掻いて、闘って──この傷だって俺からすれば、その闘いの結果だ」
「クレイン……」
「それに──俺は結構、これを気に入ってるんだ」
嘘のない強い瞳──
「お前は、強い……」
「……俺は、強くなんて、ない」
否定するクレインに、ジェイは首を曖昧に振って、心臓の音を聴くように、彼の胸に耳を乗せる。
ドクン、ドクン、と力強く鳴る鼓動が、なぜか涙をさらに溢れさせる。
(お前のその強さが、俺は、怖い……)
あの闘技場の、そして今回のような危険がその身に迫った時──クレインは陵辱されるよりも、死を選ぶのだろう。
(何をされても、ただ生きていて欲しい──そう願う俺は、クレインを苦しめる……)
『お前はクレインが俺に惚れてるとでも思っているのか?……いや、違うな……その方がいいと思っている』
カイトの言葉が、身に染みる。
(あれは、図星だ。俺は──自信がない)
あの闘技場からいとも容易く二人を救い、様々な伝手を持ち、世界を知り尽くしたような、カイト──彼ならばクレインにまとわりつく『陰』を──『死の気配』すら、打ち負かすことができるのだろう。
(そうだ……俺は自分にできそうにないことを、カイトに押しつけようとしていただけだ……)
情けない自分に、顔が歪む。
クレインの目から逃れるように、体を起こして、彼に背を向けた。
だがクレインは、そんなジェイを追いかけて、その背に寄り添う。
ジェイ自身すら直視できない醜ささえ、慈しむように──。
手を、視線を、そして舌を絡め、クレインに導かれるように、再びベッドに折り重なる。
クレインから脚を開き──ジェイを包み込んだ。
「あっ、あっ、あぁ……っ」
クレインの中をゆっくりと穿つと、きついくらいにジェイを締めつけてくる。
それはジェイが考えていたような、『奪う』行為ではなく、自分を──互いを──慰めるような優しい時間だった。
******
ジェイは狡い自分を自覚しながら、最後まで決定的な言葉を放つことはなかった。
クレインの気性を──それこそ死さえ辞さないそれを──十分過ぎるほど知っていたジェイは、彼が何も言わないこと、彼が拒否しなかったこと、彼が受け入れてくれたこと、それを自分に都合よく受け取る。
だが『都合よく』受け取ったことを、誰より一番、自分が自覚していた。
ついに解かれることのなかった足首のサラシ──クレインの最も深いところにジェイは踏み込めず、クレインは自分の最も見られたくないものを見せられずに──。
それが二人の間を隔てるように薄くクレインに巻きついたまま、言葉もなく、二人は果てた。
扉が閉まる音を、クレインはジェイの身体越しに聴いた。
「え……」
間抜けな声が漏れ、自分の身体を拘束する腕の力が、さらに強まる。
(な、にして……?えっ?!なに?!)
「お、い……っ!」
いきなりの出来事に混乱して、腕の中でもがくと、より一層強く抱き締められる。
──そう、抱き締められている。
クレインはあまり深く考えずに扉を開けた。アイビスが戻って、誰かがそれを知らせに来たのだろう、と。
カイトは『先に休め』と言ってくれたが、クレインはアイビスの報告を聞くつもりで、まだ横になってはいなかった。
自分の服に着替えて、いつものように足首にサラシを巻いて、そうして待機していた。
部屋の外にジェイの姿を見た時、クレインはまだ気まずい空気を引きずっていた。
血塗れの自分を見る、ジェイの顔──彼が何を思い起こしているのか、手に取るように分かった。
(バカだな……お前が責任感じること、ないのに……)
その思いは、口には出せなかった。
他人に辛辣で自分にも厳しいクレインだが、ジェイに対してだけは、思ったままを口に出せないのだ。それは本人にも自覚がある。
そしてその理由も、よく分かっている。
クレインはジェイに罪悪感を持っている。
ジェイを巻き込んだのは、自分だという罪悪感を。
そしてジェイがクレインに対して罪悪感を持っていることも、知っている。
加害者だという、罪悪感を。
(……俺が勝手にお前の槍を使って、勝手に目の前で死のうとしただけなのに……そこまで、俺のことを背負い込まなくても、いいのに……)
だからクレインは、ジェイに本音をぶつけられない。
『もう俺に縛られなくていい』
そう言って、本当に彼が去ってしまったら──クレインは途方に暮れることだろう。
だから、こんな時も他の人間になら平気で金的をくれてやれるのに、彼に対しては身体が動かなくなるのだ。
痛いほどに、抱き締められる。
「い、た……っ」
パッと、ジェイは身を離す。
「わ、悪い……!」
まともに、瞳にぶつかった。
文句を言おうとして怯んだのは、ジェイが泣いているように見えたからだ。
「ジェイ……?」
頰に手を寄せる。と──
「ぅ、ンっ!!」
いきなり、舌が捻じ込まれた。
混乱するクレインの舌が、それに絡め取られる。
「んっ、んぅ……!」
色事を根こそぎ排除してきたクレインにとって、初めての口づけ──それはとても一方的なものだった。
溢れる唾液を啜られ、舌を噛まれ、喉の奥までかき混ぜられる。
「ぅ、んん~……っ!!」
苦しくて腰を引くクレインを、ジェイはどこまでも追いかけてくる。
顔がほとんど上を向いて、首が痛い。
立っていられなくなって、座り込みそうになる身体を大きな手が支えて──支えたまま、一緒になって背後へと倒れていく。
「……っ!!」
クレインの背中を受け止めたのは、柔らかなベッド。ベレン卿の館の最高級の寝具が、二人分の体重を難なく包み込む。
最初は扉の側にいたはずなのに、いつの間にかベッドの近くまで移動していたことに、クレインは気づくことすらできていなかった。
上から覆い被さられて、口づけはさらに深くなっていく。
両手をベッドに縫い止められ、開かされた脚の間に、身体を割り込まれる。
「ぅン……っ、んんっんー……!」
唾液が流れ込んで、噎せるほどだ。
クレインが手を振り解こうとしても、脚の自由を取り戻そうとしても、ジェイは微動だにしない。
(……っ、このっ……!)
正気ではないジェイの様子に、クレインは最終手段を取ることにした。
がりっ!!
「ぐっ……!」
自分の口の中で好き放題するジェイの舌に、思いっきり噛みついた。血が出るほどに──。
「はぁ……はぁ……」
息を整えながら睨みつけるクレインに、ジェイの視点がだんだんと合ってくる。
「あ……」
「この……!やっと正気に戻ったかっ?!」
だがジェイの目に飛び込んできたのは、赤──
「……血、が……」
「えっ?」
「俺、の血……か?」
クレインが引き結ぶ唇に、ジェイの舌から流れた血が赤々と光る。
「だ……めだ!お前が汚れる……!」
手の甲で唇を拭おうとしたクレインを押し留め、あたふたと己の服の袖を擦りつける。
そう言う本人の口元からも、血が垂れているのに、それには御構いなしだ。
「俺は……違うんだ……、お前をただ……お前が、ただ生きて──幸せに生きていてくれれば……それで……」
懺悔するように、ジェイは頭を垂れていく。
(ばか、だな……『汚れる』なんて。自分の血をそんな汚いもの、みたいに……俺は──俺だって、お前が考えるほど、綺麗なものじゃ、ない、のに……)
クレインはジェイの顔に手を添えて、視線を上げさせた。
この世の終わりのような顔をして、ジェイは断罪を待っている。
(そういえば……)
顔を近づけながら、クレインはふと思う。
(そういえば、ジェイの顔を真正面から、こんなに近くで見るのなんて、すごく久しぶり──)
ジェイはいつもクレインの背後に控えている。ずっと誰よりも近くにいたはずなのに、互いに距離を感じていたのは、このためだったのかもしれない。
目を合わせ、息遣いを感じ、体温を共有する距離──ここまで近づいてやっと、互いの心に触れた。
そして今──身体も、触れる。
「んぅ……」
一度表面を擦り合わせてから、クレインはジェイの口元から垂れる血を、ぺろっ、と舐める。
顎まで辿ってから、また唇へ──動けないジェイの緩んだ口の中へと潜り込み、さっき噛んだ舌に今度は慰めるように触れる。
ビクッ、と身体を震わせたジェイは、ゼロ距離で閉じられた瞼を見て、そっと自分の視界も黒に染めた。
そして、血の味のする唾液を絡ませ合う。
互いの傷を、舐め合うように。
己の醜さを、啜るように。
******
「あっ、ン……ぅ……っ」
クレインの控えめな喘ぎを聞きながら、ジェイは首筋に舌を這わせていく。
(ち、がう……!俺は、こんな……)
軋む心とは裏腹に、身体はとても滑らかに動いている。
襟首をはだけると、桃色の頂が顔を覗かせる。誘われるように、唇を滑らせた。
「あっ……」
思わず上がった声を抑えようと、クレインは己の口を隠す。
それが痛々しく見えるのに、ジェイは手を口を止められない。
(っ俺はクレインを汚すつもりなんて……)
これまでジェイが軽蔑の目で見てきた、クレインに性的な目を向ける男たちの醜い顔が、ジェイを嘲笑う。『お前も同類だ!!』と。
(違うっ!!)
否定しながらも、ジェイの行為は激しくなるばかりだ。
むしゃぶりつくように乳首を吸っては、歯を立て、唾液を擦りつける。
「んっ、ん」
両手は弄るように全身を這い、昂った股間を押しつける。
「ンぁ、ぅ……!!」
(ほらな、俺はお前たちとは、違う……!!)
クレインのそこも緩く反応していることが、全ての免罪符になっていた。
「クレイン……っ、クレインっ!」
苦しそうに名前を呼ぶの男を、クレインは赦すように、撫でていた。
とうとう、ジェイは下肢に手をかける。
ズボンを引き下げ、露わになった股間は、確かに緩く勃ち上がっていた。
(──綺麗だ……)
瞳や髪よりももう少し深い紺色が、薄くそこを彩り、中心は充血したような先端が震えている。
「あぁ……っ!!」
果実の蜜を啜るように、そこに飛びついた。
ヂュッ……と吸うと、クレインは驚いたように脚を跳ねさせる。
全てを口に含んで、舌を絡ませ唇で扱くと、クレインはジェイの頭を抱えるようにして身を丸めた。
口淫しながら、足の付け根を開かせるようにグッと押す。そしてその手で、尻たぶを掴んだ。
「ぅ、あっ……っ!!」
揉み込んで、指の跡がつくほどに握る。薄い尻たぶは緊張と弛緩を繰り返している。
「え……?」
戸惑いの声を無視して、ジェイの親指が、最奥に触れた。
表面をなぞってから、ぐっ、と押し込む。
「えっ……?!」
大きくなる戸惑いを打ち消すように、ジェイは口淫を激しくする。
「え、あっ!あっ!ぁあーー!!」
クレインは抑えきれない喘ぎと共に、ジェイの口内に放埓した。
クレインの射精に合わせて、ジェイは後ろに潜り込ませた指を、ぐりっ、と縁を拡げるように一周させていた。
いきなり過ぎる絶頂に、クレインは痺れた身体を投げ出して、「はぁ、はぁ、」息を整えることしかできない。
そんな柔らかな肢体を、ジェイは容赦なくひっくり返す。
「お、ぃ……っ、なに……っ?!」
そして、そこに舌を這わせた。
腰だけを高くして露わにした窄まりに、己の唾液と彼が出した精液を混ぜて、濡らしていく。
「やっ……!!やめ……っ」
さすがに抗議の声を上げるクレインだが、ジェイの耳には届かない。
舌を広げて滑りを乗せてから、今度は尖らせて、ぐぐぐっ、と押し入った。
「ぃや……だ……っ、ジェイ!!」
壁をぐるっと舐め回して、ぐいっと舌の根元まで射し込んでから引き抜き、入れ替わりに指を──
ジェイの頭にはクレインが発する言葉は届かないで、先ほどのカイトとの会話が鳴り響いていた。
『クレインを抱き締めたいのも、一人にさせたくないのも──抱きたいのも、全部、お前だ』
(そうだ……『クレインが幸せならそれでいい』などと偽善者ぶっておきながら、いざとなったら──)
カイトのベッドにクレインがいると勘違いした時、ジェイに浮かんだのは、紛れもなく怒りの感情だった。
(──誰にも、渡さない……!!)
そんな傲慢な考えが、ジェイの頭を占める。
誰かに奪われる前に、自分が──!!
クレインの身体を再び反転させて、脚を持ち上げて腰を上げさせ、濡れてヒクつくそこに、己の昂った楔を──
「……っ!」
クレインの腹部が目に入った瞬間に、その全てが消え失せる。
「あ……」
滑らかな肌に陰を落とす、傷。
ジェイがクレインの腰を持ち上げたことで上着がめくり上がり、露わになったそれが、ジェイの頭の血を下げていく。
「ク、レイン…………」
見ていたはずなのに、見えていなかった彼の表情が、ジェイの頭を殴る。
クレインの泣き顔を、彼は初めて見た。
いや、そうは言っても涙は流してはいない。耐えるように唇を噛んで、目元を赤くして、眉間に力を入れている。
だがジェイには確かに、泣いているように見えた。
「クレ、イン……っ!すま、ない……、俺は……っ!!」
傷を隠すように、ジェイはクレインを抱き締める。
「すまない……っ、俺も、結局あいつらと同じ──お前を傷つけて……!俺は、守りたい、のに……っ」
ベッドに放り出されていたクレインの手が、ゆっくりとジェイの背中に回った。
そして、痛みを和らげるように摩る。
「お前は、違う。お前は、俺を守ってくれたよ」
「っ違う!!守れな、かった……」
皮膚を痙攣らせる大きな傷を、震える手でなぞる。
「これは……俺が……」
「お前のせいじゃない。お前が責任感じることなんて、ない、のに……」
クレインの指が、ジェイの頰を拭う。
ぽた……、クレインの頰に雫が落ちて、そこでジェイは自分が泣いていることに気づいた。
透明なはずのそれが、赤に見えて、ジェイは全身に寒気が走る。
「……俺は……血に濡れたお前を見るたびに、怖くて堪らなくなる……!お前が俺の手の届かないところで、死んでしまうんじゃないかと……」
「……俺は別に『死にたがり』って訳じゃ、ないんだ。簡単に死んでやったりしない。足掻いて、闘って──この傷だって俺からすれば、その闘いの結果だ」
「クレイン……」
「それに──俺は結構、これを気に入ってるんだ」
嘘のない強い瞳──
「お前は、強い……」
「……俺は、強くなんて、ない」
否定するクレインに、ジェイは首を曖昧に振って、心臓の音を聴くように、彼の胸に耳を乗せる。
ドクン、ドクン、と力強く鳴る鼓動が、なぜか涙をさらに溢れさせる。
(お前のその強さが、俺は、怖い……)
あの闘技場の、そして今回のような危険がその身に迫った時──クレインは陵辱されるよりも、死を選ぶのだろう。
(何をされても、ただ生きていて欲しい──そう願う俺は、クレインを苦しめる……)
『お前はクレインが俺に惚れてるとでも思っているのか?……いや、違うな……その方がいいと思っている』
カイトの言葉が、身に染みる。
(あれは、図星だ。俺は──自信がない)
あの闘技場からいとも容易く二人を救い、様々な伝手を持ち、世界を知り尽くしたような、カイト──彼ならばクレインにまとわりつく『陰』を──『死の気配』すら、打ち負かすことができるのだろう。
(そうだ……俺は自分にできそうにないことを、カイトに押しつけようとしていただけだ……)
情けない自分に、顔が歪む。
クレインの目から逃れるように、体を起こして、彼に背を向けた。
だがクレインは、そんなジェイを追いかけて、その背に寄り添う。
ジェイ自身すら直視できない醜ささえ、慈しむように──。
手を、視線を、そして舌を絡め、クレインに導かれるように、再びベッドに折り重なる。
クレインから脚を開き──ジェイを包み込んだ。
「あっ、あっ、あぁ……っ」
クレインの中をゆっくりと穿つと、きついくらいにジェイを締めつけてくる。
それはジェイが考えていたような、『奪う』行為ではなく、自分を──互いを──慰めるような優しい時間だった。
******
ジェイは狡い自分を自覚しながら、最後まで決定的な言葉を放つことはなかった。
クレインの気性を──それこそ死さえ辞さないそれを──十分過ぎるほど知っていたジェイは、彼が何も言わないこと、彼が拒否しなかったこと、彼が受け入れてくれたこと、それを自分に都合よく受け取る。
だが『都合よく』受け取ったことを、誰より一番、自分が自覚していた。
ついに解かれることのなかった足首のサラシ──クレインの最も深いところにジェイは踏み込めず、クレインは自分の最も見られたくないものを見せられずに──。
それが二人の間を隔てるように薄くクレインに巻きついたまま、言葉もなく、二人は果てた。
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自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
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