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第三章 交点に降るは紅の雨
番外編 雪の日の夜に…… ※
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「……だから、やめておけと言っただろう」
暖炉の前の白い塊に、カイトは笑い交じりの目を向ける。
ガタガタ、ブルブルと震えながら、ユエが「だって……」と反省していない目を返した。
「ほら、飲め」
使用人に温めてもらった牛乳を渡す。シナモンやショウガなどの香辛料が入った、体を内側から温めてくれるものだ。
ユエはかじかんだ手で、落とさないように慎重に受け取って、一口飲んで、ほっと息をついだ。
******
初めての雪に大興奮だったユエは、日が暮れるまで遊び倒した。
雪合戦に雪だるま作り、足跡をつけて回り、木の枝を弾いて雪を落として回り──使用人が夕食に呼びに来るまで、飽きることなく外にいた。
湯を借りてから、当然のようにカイトの部屋にいたユエは、夜中になって再び降り出した雪を見て、もう一度外へと出てしまったのだ。
「湯冷めするぞ」というカイトの警告を無視して。
「……だって、うさぎが……」
昼間に作った雪うさぎを部屋まで連れてきて、ガラスの器に乗せておいたのだが──湯を借りて戻ると、それが溶けて、目と耳に見立てた赤い実と緑の葉っぱだけが残っていた。
「溶けるだけだぞ」と言うカイトに、「それでもいい」と持ってきたユエだったが、水に浮かんだ赤と緑になんだか悲しくなって──「もう一度作ろう!」と外へ飛び出した。
二匹目は反省を踏まえて、雪だるまの隣に置いてきた。
それについては、ユエはとても満足していた。
最初よりも上手に作ることができたし、一匹目の遺品の赤い実と葉っぱを、二匹目に受け継ぐことができたのだ。
みんなで作った雪だるまと自分が作った雪うさぎが、屋根の下で並んでいるのが嬉しくて、しばらく見ていたことが、まずかった。
夜着のまま頭に雪を積もらせて、ユエはガタガタしながら、部屋へ戻ることになったのだ。
******
「ぅう~……指がジンジンする……」
暖炉の前を占拠して、ユエは飲み干してしまった牛乳の残り温で、手を温めようとする。
「ぅうぅ~~~……なんか、かゆくなってきた……?」
雪うさぎのような姿のユエに近づいたカイトは、「しもやけだな」と手を取る。
大きな手でユエの手を覆って、「はぁーー」と息を吹きかけ、柔らかく揉む。
暖炉の灯りに揺らめきながら、二人の影が重なり合う。
カイトの伏せられた目元はどこか官能的で、ユエは魅入ってしまう。
肌に近づけられる唇が、触れそうで触れないのが、もどかしいほどだ。
それを何度か繰り返してもらうと、かゆみが引いた時には、身体の震えも治っていた。
──いや、寒さによる震えは治ったのだが、今度は違う震えが、ユエの背中に走る。
ユエが覚えたばかりのモノだ。
「今日は疲れただろう。早めに寝たら──」
手を離そうとして、カイトは気づいた。
「っ、おい、まさか……」
暖炉の灯りに照らされているのではない、ユエの頰の紅潮に──。
******
「ぅ……?カイト……」
今回のカイトの判断は素早かった。
バッ、と抱き上げてベッドへと運び、サッ、と手を外して、クルッ、と背を向ける。
「カイト……?」
「さすがにもう、一人でできる、な?」
質問しているのではなく、念を押している。
「カイ──」「俺はどこかで時間を潰してくる。その間に、処理、しとけ」
しどけなく横たわった肢体を、見てはなるものか、と頑なに目を背けて、バタン……部屋から逃げ出した。
******
ベレン卿の館には書庫がある。
彼が世界中から集めた、貴重で、希少で、そして一般的ではない本が、一室に並べられている。
ベレン領には他に、一般の民も利用できる図書館もあるが、この館にあるものはそれとは違い、『妖しい』内容ばかりだ。
『妖精大図鑑』
『人間と人魚の解剖比較』
『大山脈の頂上の景色』
『毒草全集』
『人間の始祖に迫る』
『幻の生き物』などなど──。
カイトはベレン卿の館に滞在する時は、余った時間を全部つぎ込んで、本を読み漁ってきた。
それでも来るたびに増えていくから、読み終わるということはない。
「……ふぅ」
カイトが今置いたのは、『呪いの歴史』という題名だ。
ほとんどはまゆつば物と一笑に付される逸話ばかりだったが、その中からいくつか、自ら体験したような話を見つけ、カイトは思わず時間を忘れて読みふけってしまった。
もういいだろう、と時計を見て部屋へ戻る。
最初に扉を少しだけ開けて、中の様子を伺う。今夜は月明かりもなく、暖炉の火の消えた部屋は真っ暗だ。
ベッドの上からユエの寝息のようなものが聞こえ、足を踏み入れる。と──
「うっ……ん、んふ……っぅぅ……!」
寝息ではない、鼻にかかった声。
回れ右してもう一度部屋を出かけたカイトだが、さすがになんでも、長過ぎる。
「……おい、だいじょ──」
「うっ、うっ……カイトぉ……」
暗闇の中でもよく見えるカイトの目に飛び込んできたのは──
横向きになって陰茎を握り締め、涙でぐちゃぐちゃの顔。
「ユエ……」
「うっ、うっ、ぐす……ひっく、ぅう~……」
カイトの顔を目に入れたとたん、さらに涙が溢れる。
「い、いた……いたい……!カイトぉ、ここっいたい……っ」
強く擦り過ぎて赤くなった陰茎からは、まだ出された様子がない。乾いて赤くなっているのに、完全に萎えることもなく緩く芯が残ったままだ。
「お、まえ……もしかしてずっとこのまま……?」
「ぃたい、のにぃ……んっんっ、で、なぃ……!うぅ……っ、なんでぇ……?」
自分が本を読んでいる間、ずっとこのままの状態だったのか……?と、カイトは呆然とする。
一人で怖かったのかもしれない。涙が流れたシーツにはシミができている。
それでも起き上がることもできなくて、カイトの戻りを待ち続けていた。
「…………はぁ、……俺が、悪かった……」
カイトは「辛かったな」と頭をポンポンとして、「ほら、手、離せ。強く握り過ぎだ」と、自分で動かせないユエの指を、一本一本陰茎から剥がしていく。
「んっんっ……!」
「……力加減が分からなかったんだな。赤くなって腫れて……このまま治りそうか?」
ブンブンっ、と横に振られて、カイトは突き放した責任を取ることに、ため息をこらえつつ覚悟を決めた。
「……触ると、痛いか?」
「ぅ、んっ……いたい、ヒリヒリする……っ」
腰を引くユエを見て、カイトは自分の荷物から取り出した塗り薬をまとわせる。
「んっ!つめた……っ」
「これでどうだ?まだ痛いか?」
ぬめりを陰茎全体に塗り込むようにして聞くが、
「……いたぃ……」
痛みが邪魔をするのか、快楽を拾えないようだ。それなのに、完全に痛みだけではないからやっかいこの上ない。
カイトはユエを己の脚の間に収め、背中から抱き締める体勢になって、陰茎以外の快楽を引き出すことにする。
「……ユエ、少し別のところを触るぞ」
放置された股間がうずいて、恨めしげに後ろを見上げるユエだが、
「あっ……あっ、あぁ……っ!!」
カイトの手が何かを探すように身体を辿っていくのに、すぐに夢中になる。
脚の付け根や薄い茂み、下腹の柔らかい皮膚、腰から背骨を数えるように上がっていった手は、「あっん!!」胸へ到着する。
「……ここ、感じるか?」
「あアァ……っ!!んっぁ、なにっ?かんじ……?」
「気持ちいい、か?」
「きもち……?」
ここは、陰茎と違ってユエにも馴染みのものだった。──だった、はずなのだが、
「あっや……、な、に、ジンジン……っ!!」
今はユエが知らなかった顔を見せて、彼を翻弄する。
つん、と勃ち上がった乳首は、カイトの指の腹で揉まれると、ますます硬く尖っていく。普段は小さく慎ましい桃色が、赤く色づいてその存在を主張するようだ。
「んンン……っ、やっ、なになんで……ぇ?そこっも痛い……っ!」
「『痛い』じゃなくて『気持ちいい』と思ってみろ」
「きも、ち……?」
「ああ、ここも快楽を拾える」
ぎゅ、と摘んでは離し、ぐっ、と指の腹で押し上げてはこねられる。胸全部を揉み込んでから、頂点だけを爪でえぐられる。
(『気持ちがいい』……?気持ちが、いい……きもちぃ……っっ!気持ちいい……っ!)
同じ言葉を頭の中で唱えていたユエは、両方を同時にぎゅうっ、と引っ張られた瞬間──言葉とカラダが、繋がる。
「あんっあ、あっあっ、アァ……!きも、ち……きもちぃ……っ!!カイトっ気持ち、いいぃ……っ!」
「っ、そのまま、感じてろ」
「うんっ、あぅ……っ!やぁっ……ふあぁぁ……っ!!」
口に出したことで、さらに乱れていく。
腰は跳ねて、頭はカイトの鎖骨に擦りつけ、手は後ろに回って黒い髪をかき回す。
「……っ出せそう、か?」
本人は無意識なのだろうが、何もまとっていない下半身がくねるように動き艶かしい上に、どんどんと尻がカイトの股間に近づいてくるのだ。
『とにかく早く!』と願うカイトは、塗り薬だけではないぬめりが溢れ始めた茎を、とても頼もしく感じていた。
だがユエはまだ、カイトの意図を理解していなかった。
ユエには乳首への刺激によって陰茎から射精するという思考が、なかったのだ。
「ん、ん……『出す』……?なに?むねからも、出る、の……?」
硬く芯を持った乳首からも、陰茎のように白い液が出るところを想像して、ユエは一瞬キョトンとした。
カイトもその発想に、一瞬手が止まる。
見つめ合って、数秒──先にカイトが負けた。
「あー…………、いや、ここからは、出ない」
「……?」
「あーー……っと、だな……つまり、ここで感じる快楽を、こっちに繋げてみろ」
乳首から指を下ろしていって、勃ち上がった陰茎を指す。
「つな、げる……?」
ピンとこないユエに、カイトは言葉での説明を放棄した。
「……いや、考えなくていい。さっきみたいに、『気持ちがいい』と思ってろ」
そう言って、辿らせた指をぬめりに絡める。
「あぁ……!」
放置されてもどかしかったそこに、いきなり直接的な刺激が与えられ、ユエは思考を手放す。
乳首への強いくらいの圧とは反対に、そこへの刺激は掻痒と紙一重の焦れったいものだ。
まだ痛いだろう、という配慮なのだが、ユエにとっては拷問に近い。
「やぁ!カイトっ、あぅん……っ、」
乳首への刺激で完全に勃起し、塗り薬が流れるほどに先走りが溢れているのに──最後の一押しが足りない。
「っカイト、カイ──っ、ん、だめぇ……まだっ、来ない……!」
涙がぶあっ……と溜まったのを見て、カイトは──さらに深みに足を踏み入れた。
「っっああーーーっ……!!!」
垂れていくぬめりを追いかけるように、カイトの親指がぐぐっ、とそこを押した瞬間──ユエは叫びに近い喘ぎを放った。
長時間溜まりに溜まった快楽が、押し出されるように先端から零れる。
「っあ、あ、あ、」
溜まり過ぎて一気には出て来られないのか、ユエが「あ」と言うたびに、新しい雫がこぷ、こぷ、と顔を出す。
「あっっん!!」
カイトの指はその間ずっと、会陰を押し続けていた。
******
「──ふぁ……っ」
四肢を投げ出して腰をひくつかせるユエは、カイトに全てを任せて、白濁を拭ってもらっている。
上着が喉元にたわんでそこを隠すだけで、後は全ての肌をさらしていた。
「……もういいぞ。服を着ろ」
カイトに促されても、長引く余韻に浸って指一つ動かす気がないようだ。
こんな危険物をいつまでも放置できないカイトは、ため息をついて手ずから服を着せ始めた。
「……ん、カイト……」
「ほら、足を通せ」
「ん、……」
やっと淫靡を隠したカイトは、疲れた心を回復しようと、寝る体勢を整える。
ユエに背中を向けてふとんにもぐるが、すぐさまその背中に寄り添われて、
「ねぇ、カイト」
空気を読むことを知らない人魚に話しかけられる。
「…………」
「……この前より、すごかった……」
「…………」
「俺、胸があんなになるなんて、知らなかった……」
「…………」
「カイトが最後に触ったとこ──あそこも、すごかった……びくってなんか来て、きゅうぅ、ってなって……」
「…………」
「……ねぇ、カイト……これって、交尾、なの?」
「断じて交尾ではない」
「じゃあ、なに……?」
「お前の自慰を手伝っているだけだ」
「じゃあ、どうなったら、交尾なの?」
カイトはむくりと体を起こして、口を開こうとしたが──無垢な瞳に見つめられ、文句の言葉を飲み込んだ。
「…………お前、本当に、気をつけろよ」
「?なに……?」
「だから……今回の事件でも危ない目に遭っただろう。お前やクレインなんかは男から劣情を抱かれることがあるんだ。こんな無防備に、性的な話をするな」
首をかしげるユエに、カイトは少し強い口調で続ける。
「今のお前の発言は、性交を誘っていると思われてもおかしくないぞ……!相手が俺じゃなかったら、犯されていたかも──」
「でも、カイトに言われたから……」
「……は?」
怒られたユエは、理不尽だという顔でむくれる。
「カイトが言ったんじゃないか。『分からないことは俺に聞け。他の奴にはこういうことは聞くな』って……だから、聞いたのに……」
ギリーとミカエルの逢い引き現場を見てしまった時のことだ。
ユエとしては、分からないことをただ質問しているだけなのに、どうしてカイトの機嫌が悪くなるのか理解できない。
それもちゃんと約束を守って、カイトと二人の時に──。
「そう、だ……言った、な」
カイトは頭を抱える。言った、確かに言ったのだが──いくらカイトでも、あの時点でこんな展開を予想はしていなかったのだ。
少しばかり後悔するが、かといって、今になっても他に代替案は浮かばないのだ。
カイトは苦渋の決断を下すように口を開き、
「……分かった、そうだな、俺に聞く分には構わん。だが──」
もう一度、念には念を押す。
「絶対に、他の人間には、話すな」
「?……うん、話さない」
(……カイト以外に話す訳ないのに……)
カイトの心配や葛藤をよそに、ユエは何でそんな当たり前なことを?という顔だ。
そんな様子を見て、カイトはこの先に待ち受けるさらなる苦難を予想できてしまった。
(……はあ……俺が自分を保てば、いい、はずだ……)
自分に言い聞かせるのであった。
暖炉の前の白い塊に、カイトは笑い交じりの目を向ける。
ガタガタ、ブルブルと震えながら、ユエが「だって……」と反省していない目を返した。
「ほら、飲め」
使用人に温めてもらった牛乳を渡す。シナモンやショウガなどの香辛料が入った、体を内側から温めてくれるものだ。
ユエはかじかんだ手で、落とさないように慎重に受け取って、一口飲んで、ほっと息をついだ。
******
初めての雪に大興奮だったユエは、日が暮れるまで遊び倒した。
雪合戦に雪だるま作り、足跡をつけて回り、木の枝を弾いて雪を落として回り──使用人が夕食に呼びに来るまで、飽きることなく外にいた。
湯を借りてから、当然のようにカイトの部屋にいたユエは、夜中になって再び降り出した雪を見て、もう一度外へと出てしまったのだ。
「湯冷めするぞ」というカイトの警告を無視して。
「……だって、うさぎが……」
昼間に作った雪うさぎを部屋まで連れてきて、ガラスの器に乗せておいたのだが──湯を借りて戻ると、それが溶けて、目と耳に見立てた赤い実と緑の葉っぱだけが残っていた。
「溶けるだけだぞ」と言うカイトに、「それでもいい」と持ってきたユエだったが、水に浮かんだ赤と緑になんだか悲しくなって──「もう一度作ろう!」と外へ飛び出した。
二匹目は反省を踏まえて、雪だるまの隣に置いてきた。
それについては、ユエはとても満足していた。
最初よりも上手に作ることができたし、一匹目の遺品の赤い実と葉っぱを、二匹目に受け継ぐことができたのだ。
みんなで作った雪だるまと自分が作った雪うさぎが、屋根の下で並んでいるのが嬉しくて、しばらく見ていたことが、まずかった。
夜着のまま頭に雪を積もらせて、ユエはガタガタしながら、部屋へ戻ることになったのだ。
******
「ぅう~……指がジンジンする……」
暖炉の前を占拠して、ユエは飲み干してしまった牛乳の残り温で、手を温めようとする。
「ぅうぅ~~~……なんか、かゆくなってきた……?」
雪うさぎのような姿のユエに近づいたカイトは、「しもやけだな」と手を取る。
大きな手でユエの手を覆って、「はぁーー」と息を吹きかけ、柔らかく揉む。
暖炉の灯りに揺らめきながら、二人の影が重なり合う。
カイトの伏せられた目元はどこか官能的で、ユエは魅入ってしまう。
肌に近づけられる唇が、触れそうで触れないのが、もどかしいほどだ。
それを何度か繰り返してもらうと、かゆみが引いた時には、身体の震えも治っていた。
──いや、寒さによる震えは治ったのだが、今度は違う震えが、ユエの背中に走る。
ユエが覚えたばかりのモノだ。
「今日は疲れただろう。早めに寝たら──」
手を離そうとして、カイトは気づいた。
「っ、おい、まさか……」
暖炉の灯りに照らされているのではない、ユエの頰の紅潮に──。
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「ぅ……?カイト……」
今回のカイトの判断は素早かった。
バッ、と抱き上げてベッドへと運び、サッ、と手を外して、クルッ、と背を向ける。
「カイト……?」
「さすがにもう、一人でできる、な?」
質問しているのではなく、念を押している。
「カイ──」「俺はどこかで時間を潰してくる。その間に、処理、しとけ」
しどけなく横たわった肢体を、見てはなるものか、と頑なに目を背けて、バタン……部屋から逃げ出した。
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ベレン卿の館には書庫がある。
彼が世界中から集めた、貴重で、希少で、そして一般的ではない本が、一室に並べられている。
ベレン領には他に、一般の民も利用できる図書館もあるが、この館にあるものはそれとは違い、『妖しい』内容ばかりだ。
『妖精大図鑑』
『人間と人魚の解剖比較』
『大山脈の頂上の景色』
『毒草全集』
『人間の始祖に迫る』
『幻の生き物』などなど──。
カイトはベレン卿の館に滞在する時は、余った時間を全部つぎ込んで、本を読み漁ってきた。
それでも来るたびに増えていくから、読み終わるということはない。
「……ふぅ」
カイトが今置いたのは、『呪いの歴史』という題名だ。
ほとんどはまゆつば物と一笑に付される逸話ばかりだったが、その中からいくつか、自ら体験したような話を見つけ、カイトは思わず時間を忘れて読みふけってしまった。
もういいだろう、と時計を見て部屋へ戻る。
最初に扉を少しだけ開けて、中の様子を伺う。今夜は月明かりもなく、暖炉の火の消えた部屋は真っ暗だ。
ベッドの上からユエの寝息のようなものが聞こえ、足を踏み入れる。と──
「うっ……ん、んふ……っぅぅ……!」
寝息ではない、鼻にかかった声。
回れ右してもう一度部屋を出かけたカイトだが、さすがになんでも、長過ぎる。
「……おい、だいじょ──」
「うっ、うっ……カイトぉ……」
暗闇の中でもよく見えるカイトの目に飛び込んできたのは──
横向きになって陰茎を握り締め、涙でぐちゃぐちゃの顔。
「ユエ……」
「うっ、うっ、ぐす……ひっく、ぅう~……」
カイトの顔を目に入れたとたん、さらに涙が溢れる。
「い、いた……いたい……!カイトぉ、ここっいたい……っ」
強く擦り過ぎて赤くなった陰茎からは、まだ出された様子がない。乾いて赤くなっているのに、完全に萎えることもなく緩く芯が残ったままだ。
「お、まえ……もしかしてずっとこのまま……?」
「ぃたい、のにぃ……んっんっ、で、なぃ……!うぅ……っ、なんでぇ……?」
自分が本を読んでいる間、ずっとこのままの状態だったのか……?と、カイトは呆然とする。
一人で怖かったのかもしれない。涙が流れたシーツにはシミができている。
それでも起き上がることもできなくて、カイトの戻りを待ち続けていた。
「…………はぁ、……俺が、悪かった……」
カイトは「辛かったな」と頭をポンポンとして、「ほら、手、離せ。強く握り過ぎだ」と、自分で動かせないユエの指を、一本一本陰茎から剥がしていく。
「んっんっ……!」
「……力加減が分からなかったんだな。赤くなって腫れて……このまま治りそうか?」
ブンブンっ、と横に振られて、カイトは突き放した責任を取ることに、ため息をこらえつつ覚悟を決めた。
「……触ると、痛いか?」
「ぅ、んっ……いたい、ヒリヒリする……っ」
腰を引くユエを見て、カイトは自分の荷物から取り出した塗り薬をまとわせる。
「んっ!つめた……っ」
「これでどうだ?まだ痛いか?」
ぬめりを陰茎全体に塗り込むようにして聞くが、
「……いたぃ……」
痛みが邪魔をするのか、快楽を拾えないようだ。それなのに、完全に痛みだけではないからやっかいこの上ない。
カイトはユエを己の脚の間に収め、背中から抱き締める体勢になって、陰茎以外の快楽を引き出すことにする。
「……ユエ、少し別のところを触るぞ」
放置された股間がうずいて、恨めしげに後ろを見上げるユエだが、
「あっ……あっ、あぁ……っ!!」
カイトの手が何かを探すように身体を辿っていくのに、すぐに夢中になる。
脚の付け根や薄い茂み、下腹の柔らかい皮膚、腰から背骨を数えるように上がっていった手は、「あっん!!」胸へ到着する。
「……ここ、感じるか?」
「あアァ……っ!!んっぁ、なにっ?かんじ……?」
「気持ちいい、か?」
「きもち……?」
ここは、陰茎と違ってユエにも馴染みのものだった。──だった、はずなのだが、
「あっや……、な、に、ジンジン……っ!!」
今はユエが知らなかった顔を見せて、彼を翻弄する。
つん、と勃ち上がった乳首は、カイトの指の腹で揉まれると、ますます硬く尖っていく。普段は小さく慎ましい桃色が、赤く色づいてその存在を主張するようだ。
「んンン……っ、やっ、なになんで……ぇ?そこっも痛い……っ!」
「『痛い』じゃなくて『気持ちいい』と思ってみろ」
「きも、ち……?」
「ああ、ここも快楽を拾える」
ぎゅ、と摘んでは離し、ぐっ、と指の腹で押し上げてはこねられる。胸全部を揉み込んでから、頂点だけを爪でえぐられる。
(『気持ちがいい』……?気持ちが、いい……きもちぃ……っっ!気持ちいい……っ!)
同じ言葉を頭の中で唱えていたユエは、両方を同時にぎゅうっ、と引っ張られた瞬間──言葉とカラダが、繋がる。
「あんっあ、あっあっ、アァ……!きも、ち……きもちぃ……っ!!カイトっ気持ち、いいぃ……っ!」
「っ、そのまま、感じてろ」
「うんっ、あぅ……っ!やぁっ……ふあぁぁ……っ!!」
口に出したことで、さらに乱れていく。
腰は跳ねて、頭はカイトの鎖骨に擦りつけ、手は後ろに回って黒い髪をかき回す。
「……っ出せそう、か?」
本人は無意識なのだろうが、何もまとっていない下半身がくねるように動き艶かしい上に、どんどんと尻がカイトの股間に近づいてくるのだ。
『とにかく早く!』と願うカイトは、塗り薬だけではないぬめりが溢れ始めた茎を、とても頼もしく感じていた。
だがユエはまだ、カイトの意図を理解していなかった。
ユエには乳首への刺激によって陰茎から射精するという思考が、なかったのだ。
「ん、ん……『出す』……?なに?むねからも、出る、の……?」
硬く芯を持った乳首からも、陰茎のように白い液が出るところを想像して、ユエは一瞬キョトンとした。
カイトもその発想に、一瞬手が止まる。
見つめ合って、数秒──先にカイトが負けた。
「あー…………、いや、ここからは、出ない」
「……?」
「あーー……っと、だな……つまり、ここで感じる快楽を、こっちに繋げてみろ」
乳首から指を下ろしていって、勃ち上がった陰茎を指す。
「つな、げる……?」
ピンとこないユエに、カイトは言葉での説明を放棄した。
「……いや、考えなくていい。さっきみたいに、『気持ちがいい』と思ってろ」
そう言って、辿らせた指をぬめりに絡める。
「あぁ……!」
放置されてもどかしかったそこに、いきなり直接的な刺激が与えられ、ユエは思考を手放す。
乳首への強いくらいの圧とは反対に、そこへの刺激は掻痒と紙一重の焦れったいものだ。
まだ痛いだろう、という配慮なのだが、ユエにとっては拷問に近い。
「やぁ!カイトっ、あぅん……っ、」
乳首への刺激で完全に勃起し、塗り薬が流れるほどに先走りが溢れているのに──最後の一押しが足りない。
「っカイト、カイ──っ、ん、だめぇ……まだっ、来ない……!」
涙がぶあっ……と溜まったのを見て、カイトは──さらに深みに足を踏み入れた。
「っっああーーーっ……!!!」
垂れていくぬめりを追いかけるように、カイトの親指がぐぐっ、とそこを押した瞬間──ユエは叫びに近い喘ぎを放った。
長時間溜まりに溜まった快楽が、押し出されるように先端から零れる。
「っあ、あ、あ、」
溜まり過ぎて一気には出て来られないのか、ユエが「あ」と言うたびに、新しい雫がこぷ、こぷ、と顔を出す。
「あっっん!!」
カイトの指はその間ずっと、会陰を押し続けていた。
******
「──ふぁ……っ」
四肢を投げ出して腰をひくつかせるユエは、カイトに全てを任せて、白濁を拭ってもらっている。
上着が喉元にたわんでそこを隠すだけで、後は全ての肌をさらしていた。
「……もういいぞ。服を着ろ」
カイトに促されても、長引く余韻に浸って指一つ動かす気がないようだ。
こんな危険物をいつまでも放置できないカイトは、ため息をついて手ずから服を着せ始めた。
「……ん、カイト……」
「ほら、足を通せ」
「ん、……」
やっと淫靡を隠したカイトは、疲れた心を回復しようと、寝る体勢を整える。
ユエに背中を向けてふとんにもぐるが、すぐさまその背中に寄り添われて、
「ねぇ、カイト」
空気を読むことを知らない人魚に話しかけられる。
「…………」
「……この前より、すごかった……」
「…………」
「俺、胸があんなになるなんて、知らなかった……」
「…………」
「カイトが最後に触ったとこ──あそこも、すごかった……びくってなんか来て、きゅうぅ、ってなって……」
「…………」
「……ねぇ、カイト……これって、交尾、なの?」
「断じて交尾ではない」
「じゃあ、なに……?」
「お前の自慰を手伝っているだけだ」
「じゃあ、どうなったら、交尾なの?」
カイトはむくりと体を起こして、口を開こうとしたが──無垢な瞳に見つめられ、文句の言葉を飲み込んだ。
「…………お前、本当に、気をつけろよ」
「?なに……?」
「だから……今回の事件でも危ない目に遭っただろう。お前やクレインなんかは男から劣情を抱かれることがあるんだ。こんな無防備に、性的な話をするな」
首をかしげるユエに、カイトは少し強い口調で続ける。
「今のお前の発言は、性交を誘っていると思われてもおかしくないぞ……!相手が俺じゃなかったら、犯されていたかも──」
「でも、カイトに言われたから……」
「……は?」
怒られたユエは、理不尽だという顔でむくれる。
「カイトが言ったんじゃないか。『分からないことは俺に聞け。他の奴にはこういうことは聞くな』って……だから、聞いたのに……」
ギリーとミカエルの逢い引き現場を見てしまった時のことだ。
ユエとしては、分からないことをただ質問しているだけなのに、どうしてカイトの機嫌が悪くなるのか理解できない。
それもちゃんと約束を守って、カイトと二人の時に──。
「そう、だ……言った、な」
カイトは頭を抱える。言った、確かに言ったのだが──いくらカイトでも、あの時点でこんな展開を予想はしていなかったのだ。
少しばかり後悔するが、かといって、今になっても他に代替案は浮かばないのだ。
カイトは苦渋の決断を下すように口を開き、
「……分かった、そうだな、俺に聞く分には構わん。だが──」
もう一度、念には念を押す。
「絶対に、他の人間には、話すな」
「?……うん、話さない」
(……カイト以外に話す訳ないのに……)
カイトの心配や葛藤をよそに、ユエは何でそんな当たり前なことを?という顔だ。
そんな様子を見て、カイトはこの先に待ち受けるさらなる苦難を予想できてしまった。
(……はあ……俺が自分を保てば、いい、はずだ……)
自分に言い聞かせるのであった。
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夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
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選び直すまでの物語。
*本編完結しました
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