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第七章 孤独な鳶は月に抱かれて眠る
114 賭け※
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ウィノがいなくなったことに気づいて探し回っていた仲間たちは、大山脈側からのんびり帰ってきたふたりを見て騒ぎ立てた。
「っも~、探したんだぜ!」
「ほんとだよ!起きたならひと言かけてくれればよかったのに」
心配から声を荒げたヘロンとラークを、カイトが制する。
「ウィノと話し合って、今後の方針を決めた」
「はっ?」「えっ?」「なんだって?」
「準備が整い次第ここを出る。予定通り、妖精たちは封印したまま移動させ、治療はベレン領で。ガレノス先生」
「あ?」
「帰るか、ベレン領まで付き合うか、決めてくれ」
「ああ?」
「フローラ」
「え、あ、はいっ!」
「できればお前にはスミュルナの──バルボアのところへ戻って、ガレノス一族に事の顛末を伝えてほしい」
「へ?!」
「アスカとフェザントはドワーフ王国へ、クレインとジェイにはクウェイルとメイのところへ、アイビス、ラーク、ヘロンには青の教会へ、それぞれ行ってもらいたい」
「えっ、えっ?!ええっ?!」
次々と矢継ぎ早に飛んでくるよくわからない指示に、仲間たちは混乱のるつぼに落とされる。
けれどカイトは頓着せず、さらに一同を混乱させることを言う。
「お前たちに頼みたいことも、フローラと同じだ。メーディセインで起こったこと、そしてウィノから聞かされた世界の危機を伝え、その時に備えて準備するよう忠告を送ってくれ」
「その時?」
「鍵を開ける時」
しん……──と静まり返る。混乱を通り越して、唖然だ。
なのにカイトは構わずどんどん話を進めていく。
「なるべく早く開けるに越したことはないが、情報を巡らせるために時間も必要だろう。それに『この日』と広く知らしめるためには、一般の人たちにもわかるような条件下で開けた方がいい。よってウィノと俺からの提案としては、約半年後に起こると予測されている日蝕、その日に開けてはどうか、と」
「日蝕?」
他にも聞きたいことはたくさんあるのに、アイビスの口からはそんな質問しか出てこない。
「天文学が進んでいる国や組織──つまりベレン領がある中央諸国やヴェルドット、教会では周期的に起こる現象だという知識があり、『日蝕の日』と言えば共通認識として伝わる。それに確か、ドワーフ王国や人魚も知っているはず──だな、フェザント、ユエ」
「あ、ああ……」「え、うん……」
「日蝕を知らない一般人にも、例えばこう噂を流せばいい。『昼間なのに太陽が見えなくなるという凶兆の後、太陽の復活とともに新たな世界の夜明けがくる。それは吉兆であり、恐れることはない』とか、なんとか」
「……その日が曇りだったらどうするんだ」
ヘイレンの質問もどこか的外れで、いつもの切れ味がない。
「曇りでもかまわんさ。鍵が開いた後に『あの噂はこれだったのか』と思ってもらえればいいんだから」
あまりに当然のようにカイトが鍵を開けることを前提に話すから、その前にもうひと手順必要なことを、なかなか誰も言い出せなかった。
──あれ?まず『妖精の鍵』を見つけなくちゃいけないんじゃあ?あれ?もう見つかったんだっけ?いやいや、そんなはずない。
自分たちの記憶が欠けているのか、と何人かは真剣に悩んでいる。
「あのぅ……おれとカイトはどうするの?」
おずおずと手を挙げたユエは、指名漏れをどう受け止めるか悩んでいたらしい。
「あ、人魚のところ?」
「いや、人魚にはメイ経由で知らせてもらう。俺たちは……」そこでカイトはふっと笑って「妖精の鍵担当だ」
カイトの方から何でもないように軽やかに言い出されたことで、仲間たちは『妖精の鍵』について何となく安易な気持ちになってしまった。
すなわち、簡単に手に入るのだと思い込まされたのだ。
「担当って……おれたちふたりで探しにいくの?どこにあるかわかったの?」
「ああ、どこにあるかはわかってる」
「えっ、どこにあるの?」
「俺たちが向かうのはベレン領だ。そこで……準備を整える」
ここでもカイトは仲間たちにわざと誤認させた。まるでベレン領で旅の準備を整え、それからどこかへ探しに向かうかのように。
「今から探して間に合うの?日蝕とかいうのが起こる日に」
クレインが猜疑的に尋ねると、「間に合わせる」と言い切られる。
釈然としない感もあったが、カイトとウィノという二大巨頭を相手に文句や抗議をぶつける猛者はいない。ここまで具体的に決めているということは、カイトにはよほどの自信があるのだろうと、仲間たちは信じることにしたのだ。
そんな仲間たちを見渡すカイトは、ほんのわずか哀しげに目を伏せた。
しかし次の瞬間には「……よし」と自分にも仲間にもはっぱをかけるようにつぶやいて、違和感を抱かれる前に空気を変える。
「それぞれ使者の役割を果たしたら、日蝕の日までにベレン領へ集合してくれ」
「了解」
「とりあえず……ふた手に別れることになるか。大山脈から西へ抜ける組と、湖から南回りでベレン領へ向かう組と」
「西からってことは、海路を行くのか。まあ、今の状況からすると、遠回りでも海の方が安全か」
「ヘイレン」
指名を待っていた男は、名前を呼ばれただけで万事承知と指を立てる。
「わーかってるって。船は用意させてもらいますよ。クウェイルんとこ寄って、それから教会、ドワーフ王国の順番だな」
カイトも多くは言わないで「まあ、お前は好きにやってくれ」と放置する。
「あー……あのよぅ」そこでフェザントが弱々しく言い出した。「ドワーフ王国を任されたはいいんだが、それってもしや俺とアスカは、国王まで話をつけることを期待されてんのかなぁ、とか?」
「できれば」
「いやいやいや!そんな簡単に言われても!」
「無理ならアスカ村だけでもいいし、噂を流すだけでもいい」
大きなからだを縮こめるフェザントに対して、「アスカ、がんばる!」とちびっこの方がやる気を見せる。「任せて、フェザント!アスカが王さまに謝ってあげるから!」
「あ、アスカ?」
「『純血のドワーフなんていない』って王さまにうそついてもらっちゃったでしょう?」
「あ……そ、そうだった……」
「外の世界に純血のドワーフがいたら、王さまがうそついたってばれちゃうよ。だからね、アスカが頼んでうそついてもらったんだってみんなに説明しないと!」
アスカの発言でドワーフ王国との密約について思い出し、ここで緊急対策会議が開かれることになった。
カイト、ヘイレンが政治的な駆け引きについてフェザントに助言し、アスカにもドワーフ王国での立ち回り方を教える。
しばらくは他の場所の担当者たちも一緒になって聞いていたが、これは自分には必要ない知識だなと気づくと、ひとり、またひとりと自然に出発準備へと取りかかっていった。
******
定番になった事後報告に、ベレン卿は眉間にシワを寄せて不快感をあらわにしたが、それをぶつけるような真似はしなかった。
「まあ……よい。ちょうどこちらも到着したと報告があったところだ」
鷹揚に、というよりも、諦めたようにカイトに対する。
「到着って?」
準備万端で荷物を背負い、ヘロンがひょいっと顔を出す。
ベレン卿は湖に接岸する船を指差して、「私に代わってここを指揮する者だ」
「あっ!」船から降りてきたのは、ヘロンも見覚えがある二人を含んだベレン卿の配下の兵士だった。
「エンデにレイラ!よかったぁ~、無事だったんだなっ」
以前お世話になったその二人はメーディセインには突入せず、聖軍の元帥を拘束する役目を担っていた。そのため震源地の『赤の大聖堂』近くにいたと思われ、ベレン卿も連絡があるまで安否がわからなかったのだ。
ヘロンの声を聞いて他の仲間たちも集まってくる。次々に無事を喜ぶ声がかけられて、エンデもレイラも嬉しそうだ。
エンデになら自分の代理を任せられるということで、ベレン卿もカイトたちとともに領地へと戻ることになる。
その引き継ぎをしている間に、レイラが一行に、自分が知る限りの周囲の情報を教えてくれる。ほとんどは倒壊・火災・山崩などの悲惨な単語が踊ったが、中にはこんな希望ある情報も。
「お礼を伝えてほしいと頼まれました。アスカさんの忠告に従って鉱山を捨てて山を降りたことで、命を拾った、と」
一行が大山脈で居候していた坑夫たちからだ。あの後すぐに廃坑にしたことで被害者を出さずに済んだらしい。
「それでは、メーディセイン及び妖精の谷をお預かりいたします」
エンデはウィノに向けて敬礼した。
妖精にはあまり国や領地という概念はないのだが、聖会を牽制する意味もあって、この地の暫定的な統治者はウィノということになっている。
そして体裁としては、ウィノがベレン卿に管理を依頼し、ベレン卿が管理者としてエンデを置くという格好だ。
エンデやレイラが乗ってきた船には入れ替わりに、妖精を封印したアルケーを再結晶化したものや、再生の水を詰めた樽、聖会の研究資料など、ベレン領へと持ち帰る積み荷がすでに運び込まれている。
後は人が乗り込んだら、すぐに出発できる。
そのため自然と、大山脈を抜ける組が湖から脱出する組を見送るという構図になっていた。
ベレン卿が部下とともに乗り込み、続いてガレノス医師が、それから飛び移ったカイトがユエの手を引いて乗せる。
「あれ?ウィノ?」
当然のように同族たちについて行くと思っていた妖精が、見送る側でいることに、ラークが首をかしげる。
「わたしは……君たちについて行くつもり」
ラークの肩に乗って、ウィノは明言した。
「え、いいの?」
「わたしという証拠がいた方が、話が早い」
「たしかにそうだけど」
「それに……ちょうどいいから、いろいろと見て回りたいとも思ってて。妖精の存在が忘れ去られてからずっと、見つからないよう上空から様子をうかがうだけだったから」
ドワーフ王国から旅立った時のアスカのような気持ちなのだろうかと、仲間たちは一応納得した。
船が岸から離れ始め、またしても事後報告のベレン卿が今と同じ問答を船内でしている声が聴こえて、お見送りは苦笑いになる。
「あーあ、ベレン卿も勘違いしてたみたいだな。きっと、やっとウィノとゆっくり話せるとか楽しみにしてたんだろうぜ」
ヘロンは他人事に言って、湖に背を向ける。
この別れを特別だと思っていないから、見送る側も見送られる側もあっさりとしたものだ。
そうでないと知っているのは、ふたりだけ。
旅の終着点を思い描いて、ウィノは遠去かる船からしばらく目が離せなかった。
次に彼らと再会する時は、ひとつの世界が終わり、新たな世界が始まる時。しかしそれと同時に、もうひとつの終わりが待っていることを知っているからだ。
カイトとウィノ、ふたりの間だけで取り決めた約束がいくつかある。ウィノにはこれが本当に正解なのかはわからなかった。けれど決定権は自分にはないから、迷いを持ちながらも進むしかない。
「さ、俺たちも出発しよう」
アイビスの号令で、ウィノもやっと船を視界から外す。対岸に着くのを見届けることなく、後発組もメーディセインを後にした。
******
ベレン卿の館までの旅路は、過酷な前半と快適な後半という落差の大きな道行になった。
故郷に別れを告げるカイトは、後ろ髪を引かれるように何度も湖を振り返っていた。「一度くらい、沈んだ村を見に潜ればよかったな」と名残惜しく言うから、ユエは「暖かくなったら、また来ればいいよ」と慰めた。
対岸の村は、ベレン領の兵士や傭兵たちの手によって復興が始まっていたため、実際の被害が見えにくくなっていた。
それで油断したユエやガレノス医師は、東へ進むごとに自分の認識の甘さを悔やむことになる。
全壊して、手つかずの家々。
通れない道。荒廃した農地。
焚き火に身を寄せ合う人々。
今日食べるものもなく、安全な飲水を確保することも難しい。
ケガをしているのに、治療もできない。薬がないし、そもそも医者もいない。
堪らず、ガレノス医師はひとりの子どもに駆け寄った。しかしその子の治療をしているうちに、我も我もと取り囲まれて、どう見ても薬も包帯も足りない。
それに人々は自ら気づき、諦観した笑みを浮かべて去っていく。
嘆くことも、憤ることもできないほど疲れ果てていたのだ。
ベレン卿の部下が事前に無事な道を確認してくれていたため、その点で迷うことはなかった。大きく南回りで震源地を避け、途中でガレノス医師の家へと寄る予定だった。
しかしガレノス医師は、到着前に離脱を申し出た。
「ウィノが言ってたのはこういうことなんだろうな。未来のために、目の前の苦しんでいる人を見捨てることになるって。確かに今ここで何人か治療するより、今後の災害を止める方が大事なんだろうが……」
その考えを否定はしないながらも、さっぱりした顔で「なし崩しに医者に戻っちまったからな。無視できねぇわ」と言って、生気のないケガ人たちへ突撃していった。
そのためガレノス医師の家に寄る必要はなくなって、予定よりも少しだけ近道できることになった。
***
十字行路にまでたどり着けた時には、安堵でユエは座り込みそうになったほど。通常よりも慌ただしさはあったが、店も開き商品もそろっていて、見てきた荒廃が幻のようだった。
震災から逃れてきた人もいたようだが、「地震があったらしい」「聖会は壊滅的らしい」といったうわさ話ばかりが飛び交っていて、ユエにとっては世界が壊れるのではと思った揺れも、実際にはほんの一部の地域だけだったのかと愕然となった。
それと同時に、ウィノが言う大災害が本当に起こってしまったら、この大陸全てがあの荒廃に飲み込まれるのかと思うと、早く鍵を開けなければという使命感が募る。
この時のユエは、カイトとウィノが指定した半年後がとてつもなく遠い日のように思っていた。
ベレン領を有する国に入る頃には、あの揺れの爪痕などどこにも残っていない、平和でいつも通りの日常が流れていた。
ベレン卿は領地に戻る前に国王に報告があるからと王城へ向かい、その時改めてユエは、ベレン卿よりも上の身分の人がいることを思い出したものだ。
そのためユエとカイトは主人よりも先にベレン領へと足を踏み入れることになり、心配で待ち構えていた使用人たちに質問攻めにされた。
けれどベレン領に届いていたのも曖昧なうわさ話ばかりで、領主のお出かけ先を知らなかった領民たちは不在をいつものことと受け止めていたよう。
その温度差を責めることはできないけれど、ユエは賑やかな街を見るのが少しだけ辛かった。
前と同じ館に通されたカイトとユエは、何を置いてもまず、妖精たちが封印されたアルケーと樽に詰められた再生の水の無事を確認した。
確認し、安全な場所での保管を頼み、それから背負っていた荷物を下ろす。
やっと気を抜いてもいいと自分に許可を出したふたりは、顔を見合わせて、互いの顔に同じ願望が書かれていることに笑った。
──「風呂に入ろう」「お風呂、入りたい」
館自慢の大浴場に浸かったふたりは、熱いお湯によって疲れと緊張がほぐされていくのを感じる。
不思議とその瞬間が、ユエの中で旅にひと区切りついた瞬間だった。聖会とメーディセインに関する旅が終わり、今度は妖精の鍵を探す旅が始まるのだと、ユエはこの時まだ信じていた。
******
「部屋はひとつでいい」と告げるカイトは堂に入ったもので、もはや照れや恥じらいもない。あまりの堂々っぷりに、こういう話題が大好物の使用人たちもからかいひとつ繰り出せなかったくらいだ。
食事の後「こっちから呼ぶまで絶対に邪魔をするな」と明言して、カイトはユエを連れてさっさと部屋へ引っ込んだ。
熱いお風呂に、豪華な食事、暖かな部屋に、ふわふわの寝具──ユエはわずか一週間前との違いに頭がついていけず、まだ違和感が拭えないが、切り替えの早いカイトはユエを抱えてベットに寝転ぶことに躊躇ない。
ユエの髪に鼻を埋めて、久しぶりの石けんの匂いを堪能してから、安全な場所で抱き合えることを感謝するように、背中に回した手にぎゅっと力が込められる。
道中のカイトはいつになく穏やかで、心乱されてばかりのユエとは対照的だった。
ユエが悲しめば慰めてくれ、憤ればなだめてくれ、不安になれば安心されてくれて。
それは周りから見れば甲斐甲斐しいほどで、ベレン卿からは「ユエばかり見てないで、少しくらい私を手伝え」と、からかいなのか本気なのかわからない文句をもらっていた。
「カイト」
「うん?」
今もカイトは、一瞬も見逃さないというように全神経をユエに集中させている。
髪をすく手つきも優しいけれど、何と言っても表情が甘い。ベットの上でこんな顔を向けられては、とろんとユエの顔もからだも心も蕩けてしまう。
「……口づけ、して」
要望にすぐさま応えて、甘い口づけが唇だけでなく顔中に散らされる。
くすぐったいそれにもちろん先を期待するけれど、疲れ切ったからだと安心感は眠気を連れてきて、居座ってどいてくれない。
「う~……」
子どもがぐずるようなユエの声に、カイトは吐息だけで笑った。
「ユエ、どうする?寝るのか、するのか?」
究極の二択を迫られてユエは「……どっちも」と無理難題を押しつける。
それにもカイトは笑って「そうか、それは困ったな」と全然困っていない口調で言う。
その瞬間、ユエは唐突に何かおかしいと思った。
けれど何がおかしいのかは全くわからない。わからないから、会話を続けてみる。
「カイトは?」
「うん?」
「もう、眠い?」
「眠いといえば、眠いな」
「……したい?」
「ユエがしたいなら」
これだ、とユエは違和感を捕まえた。
メーディセインから離れて以降、カイトは妙にユエの意見を優先しようとするし、それから『どうする?』とか『どうしたい?』とか訊かれる頻度も上がったような。
気のせいだと流してしまえばよかったのに、確かめようという方向へと向かってしまった。
「……途中で寝ちゃっても、許してね」
盛大な布石を打って、ユエはカイトを引き寄せる。
キスの続きから始めると、横向きに向かい合う格好から次第にカイトがユエの上へとのしかかってきて、それにつれてキスも深まっていく。
それは心地いい重みなのだけど、試しに「今日はおれが上になる」と言ってみると、カイトはあっさり位置を交換してくれた。
ユエの全体重を余裕で受け止めて、カイトは大人しく敷布団になっている。ユエに身を委ねているとも、主導権を完全に放棄しているともとれる態度だ。
すると途端にユエは困った。
手持ち無沙汰をどうにかしようと、とりあえずカイトの服のボタンを外してみるが、それからどこに進めばいいのかわからない。
「ど、どうすればいい?」率直に訊いてみると、カイトはユエの手を自分の首筋に誘導して、「好きに触っていいぞ」とまた委ねられる。
いつもカイトがしてくれることを思い出しながら、首から肩にかけてを広げた手で撫でて、同じところを唇でもなぞる。
途中でカイトの様子をうかがうと、微笑ましいものを見るような目で見られていて、ユエは何だか恥ずかしくなった。
「……やだ」
「ユエ?」
「見たら、だめ」
ユエに目を塞がれても、カイトはされるがままだ。
ここで早くもユエは降参した。「やっぱり、カイトが触って」とカイトの手を取って自分の頬に押しつける。
それで攻守が交代するかと思いきや、撫でてくれるのはほっぺたや耳ばかりでそれより下へは進んでくれないから、「こっちも」とユエが自分でほしい場所を申告しなければならなかった。
そうして全身をゆったりと愛撫されて、ユエは案の定、うとうとと微睡みかける。
「……このまま寝るか?」耳許で暗示のようにささやかれるが、ゆるゆると首を振って「きて、カイト」と譲らない。
「あ……っ」
ゆっくりと穿たれる感覚に、背中が震える。
『今日はおれが上』というユエの希望を守って、カイトはその体勢のまま器用に挿入していく。ユエはべったりと抱きついて離れないから、あまり深くまでは進めない。
けれどカイトは無理に押し入らないで、どこまでもユエの心地よさを優先してくれる。
楽に繋がったまま、また全身をゆったりと撫でられると、「ふ、あ……ぁ……」力が抜けて自分で自分の前をカイトのお腹に押しつけるようになる。刺激はそれだけで充分だった。
ほとんど抽送はなく、カイトは上に乗ったユエごとゆらゆらとからだを揺らすようにして、じわり、じわりと昂めていく。まるであやされているような優しい振動だ。
「ふぁ……」
それはいつもの突き抜けるような快楽とは違って、繋がった場所からとろとろと溶けて混ざっていくような──この時ユエが思い浮かべたのは、ウィノの羽の振動で溶けるアルケーのことだった。
あのアルケーのような粘液になって、自分とカイトの境目がなくなって、ひとつになっていく──「……っ」そんな想像をしながら、ユエは達していた。
「ん、んぅ……」
今のユエにとってその快感は、眠る直前の浮遊感とほとんど同じものだった。
けれどカイトがまだだということは感触でわかるから、浮遊感が落ちる感覚に変わる前に、「カイト、も、だして……」と何とか口に出す。
もう開きそうにないまぶたに、ちゅっと唇が触れた。
眠りに落ちる寸前、お腹の中を圧迫していた剛直が優しく離れていくが、ユエは引き留めることはできない。
(待って……行かないで……)
声にならなかった言葉は、夢の中でもユエの頭に残り続けていた。
******
──「っごめん、カイト!おれ、寝ちゃ……って?」
夢の中まで後悔を引きずっていたユエは、起き抜けにいきなり謝ったはいいが、今がいつなのかわからなくてぽやんとなる。
あの続きなのか、夢の中なのか、起きたところなのか──最後の記憶そのまま、カイトの上に寝転がった状態だったからなおさらだ。
視界を占めたカイトの顔は、驚いた後にふっと緩む。
「気にするな。予想通りといえば予想通りだった」と微妙な慰めをもらい、ユエの眉は情けなく下がる。
反省を込めて、こてんとカイトの胸にひたいをくっつける。
落ち着いてみれば、カイトもユエも乱れた服は整えられているし、窓の外は明るくなっているし、お腹は減っているし──それだけの時間が経っていることは明白だ。
「今、何時くらい?」
ユエはそれでも朝のうちだろうと思っていたが、知らされた時刻はもう昼近く。
そんなに寝ていた自分にも驚くが、それよりユエが不思議なのはカイトだった。
「カイトも今起きたの?」
「いや、そうでもない」
「だよね」
カイトは基本的に、夜更かししても朝はそれほど寝過ごさない。今朝もそうだったということは、つまりユエが起きるまでこの体勢で待っていてくれたのだろうか、とユエは首を傾げる。
それはカイトがただ寝坊するよりも不思議なことだった。
ここはベレン卿の館という安全地帯で、今は急ぎの旅の途中──その条件下ならカイトは、ユエを寝かせたまま自分は起きて、旅の準備に取りかかるというのが通常運転のはず。
違和感がふたつ重なって、ユエは一気に不安になった。
そしてその日の午後には三つ目の違和感が忍び寄って、さすがにひとりで秘めていられなくなる。
「どうしたの、カイト。なんか、おかしいよ」
のんびり散歩するカイトを、ユエは直撃した。
起きてからものんびり朝食兼昼食を食べ、のんびり荷物の整理をして、そしてのんびりベレン卿の館周りの庭を散歩するなんて、カイトらしくない。
ユエが「準備はいいの?」と訊いても「大丈夫」と答えるばかり。休息のためにのんびりすることはあったが、今のカイトは何もしないことを選んでいるように見える。
「妖精の鍵を探しに行くんじゃないの?半年後に、ちゃんと間に合う?」
ベレン領へ戻るまでにも半月以上かかっている。焦りを見せるユエに、カイトはまた「大丈夫」だ。
その場ではいったん収めたユエだが、夕食後、明日の予定を尋ねたことで不安は再燃した。
「明日はどうするの?」
「……もう少し休んでもいいだろう」
「もう少しってどのくらい?いつ出発するの?」
不安を通り越して、間に合わなければどうしようと恐怖を感じているユエを見て、カイトは負けを認めたように手を挙げた。
「わかった、ちゃんと話す。……もう少しだけ、なにも考えずにいたかったんだがな」
後半は弱々しく、自嘲の笑みとともに吐き出される。
「カイト……?」
「お前にまだ話してないことがある」
けれど話し始めたカイトは、どこかあっけらかんとした清々しさがあった。
「おれだけ、知らないこと?」
「いや、知ってるのは俺とウィノだけだ。俺がウィノに頼んだ。ユエには俺から話すから、黙っておいてくれって。それから、他のやつらには俺たちと別れた後でウィノから伝えてほしいってな」
嫌な予感がじわりとにじみ出す。
どう考えてもいい報告ではなさそうなのに、カイトの口調がどちらかというと明るいことが、何よりユエを恐れさせる。
怖いけれど、後回しにする方がもっと怖いから、「……なに?」と勇気を出した。
「妖精の鍵はもう見つかってる。だから探しに行く必要はないんだ」
「え……それって、ウィノがもう持ってるってこと?」
「いや、持っているのは、俺だ」
混乱するユエの手を取って、カイトは自身の胸に二人の手を重ねて置く。
「ここに、妖精の鍵はある」
「え……?」
「あとは取り出すだけだ。けれど……取り出すにはユエ、お前の許可がいる」
「えっ?なんで、おれ?」
「俺の命運はお前が握っているからだ」
もっと混乱したユエに、カイトは「……怒るなよ」といたずらを告白する子どものような顔で先手を打つと、「俺はお前に賭けることにしたんだ」とまた訳のわからないことを言う。
「賭け?」
「妖精の鍵を取り出すと、俺は生きていられなくなるだろう」
「……え」
「でも取り出さないと世界の鍵を開けることはできず、大災害を避けることは難しくなる。つまり……世界の安全をとるか、俺の命を優先するか──そんなもの、選ぶべくもないが」
「カイト、なにいってるの?」
「鍵を開けることに異論はない。けどな……」
流れ落ちる寸前で、ユエの涙はカイトの唇に吸い込まれた。その口許は優しい微笑みをつくる。
「俺は簡単に死んでやる気はないぞ」
「っも~、探したんだぜ!」
「ほんとだよ!起きたならひと言かけてくれればよかったのに」
心配から声を荒げたヘロンとラークを、カイトが制する。
「ウィノと話し合って、今後の方針を決めた」
「はっ?」「えっ?」「なんだって?」
「準備が整い次第ここを出る。予定通り、妖精たちは封印したまま移動させ、治療はベレン領で。ガレノス先生」
「あ?」
「帰るか、ベレン領まで付き合うか、決めてくれ」
「ああ?」
「フローラ」
「え、あ、はいっ!」
「できればお前にはスミュルナの──バルボアのところへ戻って、ガレノス一族に事の顛末を伝えてほしい」
「へ?!」
「アスカとフェザントはドワーフ王国へ、クレインとジェイにはクウェイルとメイのところへ、アイビス、ラーク、ヘロンには青の教会へ、それぞれ行ってもらいたい」
「えっ、えっ?!ええっ?!」
次々と矢継ぎ早に飛んでくるよくわからない指示に、仲間たちは混乱のるつぼに落とされる。
けれどカイトは頓着せず、さらに一同を混乱させることを言う。
「お前たちに頼みたいことも、フローラと同じだ。メーディセインで起こったこと、そしてウィノから聞かされた世界の危機を伝え、その時に備えて準備するよう忠告を送ってくれ」
「その時?」
「鍵を開ける時」
しん……──と静まり返る。混乱を通り越して、唖然だ。
なのにカイトは構わずどんどん話を進めていく。
「なるべく早く開けるに越したことはないが、情報を巡らせるために時間も必要だろう。それに『この日』と広く知らしめるためには、一般の人たちにもわかるような条件下で開けた方がいい。よってウィノと俺からの提案としては、約半年後に起こると予測されている日蝕、その日に開けてはどうか、と」
「日蝕?」
他にも聞きたいことはたくさんあるのに、アイビスの口からはそんな質問しか出てこない。
「天文学が進んでいる国や組織──つまりベレン領がある中央諸国やヴェルドット、教会では周期的に起こる現象だという知識があり、『日蝕の日』と言えば共通認識として伝わる。それに確か、ドワーフ王国や人魚も知っているはず──だな、フェザント、ユエ」
「あ、ああ……」「え、うん……」
「日蝕を知らない一般人にも、例えばこう噂を流せばいい。『昼間なのに太陽が見えなくなるという凶兆の後、太陽の復活とともに新たな世界の夜明けがくる。それは吉兆であり、恐れることはない』とか、なんとか」
「……その日が曇りだったらどうするんだ」
ヘイレンの質問もどこか的外れで、いつもの切れ味がない。
「曇りでもかまわんさ。鍵が開いた後に『あの噂はこれだったのか』と思ってもらえればいいんだから」
あまりに当然のようにカイトが鍵を開けることを前提に話すから、その前にもうひと手順必要なことを、なかなか誰も言い出せなかった。
──あれ?まず『妖精の鍵』を見つけなくちゃいけないんじゃあ?あれ?もう見つかったんだっけ?いやいや、そんなはずない。
自分たちの記憶が欠けているのか、と何人かは真剣に悩んでいる。
「あのぅ……おれとカイトはどうするの?」
おずおずと手を挙げたユエは、指名漏れをどう受け止めるか悩んでいたらしい。
「あ、人魚のところ?」
「いや、人魚にはメイ経由で知らせてもらう。俺たちは……」そこでカイトはふっと笑って「妖精の鍵担当だ」
カイトの方から何でもないように軽やかに言い出されたことで、仲間たちは『妖精の鍵』について何となく安易な気持ちになってしまった。
すなわち、簡単に手に入るのだと思い込まされたのだ。
「担当って……おれたちふたりで探しにいくの?どこにあるかわかったの?」
「ああ、どこにあるかはわかってる」
「えっ、どこにあるの?」
「俺たちが向かうのはベレン領だ。そこで……準備を整える」
ここでもカイトは仲間たちにわざと誤認させた。まるでベレン領で旅の準備を整え、それからどこかへ探しに向かうかのように。
「今から探して間に合うの?日蝕とかいうのが起こる日に」
クレインが猜疑的に尋ねると、「間に合わせる」と言い切られる。
釈然としない感もあったが、カイトとウィノという二大巨頭を相手に文句や抗議をぶつける猛者はいない。ここまで具体的に決めているということは、カイトにはよほどの自信があるのだろうと、仲間たちは信じることにしたのだ。
そんな仲間たちを見渡すカイトは、ほんのわずか哀しげに目を伏せた。
しかし次の瞬間には「……よし」と自分にも仲間にもはっぱをかけるようにつぶやいて、違和感を抱かれる前に空気を変える。
「それぞれ使者の役割を果たしたら、日蝕の日までにベレン領へ集合してくれ」
「了解」
「とりあえず……ふた手に別れることになるか。大山脈から西へ抜ける組と、湖から南回りでベレン領へ向かう組と」
「西からってことは、海路を行くのか。まあ、今の状況からすると、遠回りでも海の方が安全か」
「ヘイレン」
指名を待っていた男は、名前を呼ばれただけで万事承知と指を立てる。
「わーかってるって。船は用意させてもらいますよ。クウェイルんとこ寄って、それから教会、ドワーフ王国の順番だな」
カイトも多くは言わないで「まあ、お前は好きにやってくれ」と放置する。
「あー……あのよぅ」そこでフェザントが弱々しく言い出した。「ドワーフ王国を任されたはいいんだが、それってもしや俺とアスカは、国王まで話をつけることを期待されてんのかなぁ、とか?」
「できれば」
「いやいやいや!そんな簡単に言われても!」
「無理ならアスカ村だけでもいいし、噂を流すだけでもいい」
大きなからだを縮こめるフェザントに対して、「アスカ、がんばる!」とちびっこの方がやる気を見せる。「任せて、フェザント!アスカが王さまに謝ってあげるから!」
「あ、アスカ?」
「『純血のドワーフなんていない』って王さまにうそついてもらっちゃったでしょう?」
「あ……そ、そうだった……」
「外の世界に純血のドワーフがいたら、王さまがうそついたってばれちゃうよ。だからね、アスカが頼んでうそついてもらったんだってみんなに説明しないと!」
アスカの発言でドワーフ王国との密約について思い出し、ここで緊急対策会議が開かれることになった。
カイト、ヘイレンが政治的な駆け引きについてフェザントに助言し、アスカにもドワーフ王国での立ち回り方を教える。
しばらくは他の場所の担当者たちも一緒になって聞いていたが、これは自分には必要ない知識だなと気づくと、ひとり、またひとりと自然に出発準備へと取りかかっていった。
******
定番になった事後報告に、ベレン卿は眉間にシワを寄せて不快感をあらわにしたが、それをぶつけるような真似はしなかった。
「まあ……よい。ちょうどこちらも到着したと報告があったところだ」
鷹揚に、というよりも、諦めたようにカイトに対する。
「到着って?」
準備万端で荷物を背負い、ヘロンがひょいっと顔を出す。
ベレン卿は湖に接岸する船を指差して、「私に代わってここを指揮する者だ」
「あっ!」船から降りてきたのは、ヘロンも見覚えがある二人を含んだベレン卿の配下の兵士だった。
「エンデにレイラ!よかったぁ~、無事だったんだなっ」
以前お世話になったその二人はメーディセインには突入せず、聖軍の元帥を拘束する役目を担っていた。そのため震源地の『赤の大聖堂』近くにいたと思われ、ベレン卿も連絡があるまで安否がわからなかったのだ。
ヘロンの声を聞いて他の仲間たちも集まってくる。次々に無事を喜ぶ声がかけられて、エンデもレイラも嬉しそうだ。
エンデになら自分の代理を任せられるということで、ベレン卿もカイトたちとともに領地へと戻ることになる。
その引き継ぎをしている間に、レイラが一行に、自分が知る限りの周囲の情報を教えてくれる。ほとんどは倒壊・火災・山崩などの悲惨な単語が踊ったが、中にはこんな希望ある情報も。
「お礼を伝えてほしいと頼まれました。アスカさんの忠告に従って鉱山を捨てて山を降りたことで、命を拾った、と」
一行が大山脈で居候していた坑夫たちからだ。あの後すぐに廃坑にしたことで被害者を出さずに済んだらしい。
「それでは、メーディセイン及び妖精の谷をお預かりいたします」
エンデはウィノに向けて敬礼した。
妖精にはあまり国や領地という概念はないのだが、聖会を牽制する意味もあって、この地の暫定的な統治者はウィノということになっている。
そして体裁としては、ウィノがベレン卿に管理を依頼し、ベレン卿が管理者としてエンデを置くという格好だ。
エンデやレイラが乗ってきた船には入れ替わりに、妖精を封印したアルケーを再結晶化したものや、再生の水を詰めた樽、聖会の研究資料など、ベレン領へと持ち帰る積み荷がすでに運び込まれている。
後は人が乗り込んだら、すぐに出発できる。
そのため自然と、大山脈を抜ける組が湖から脱出する組を見送るという構図になっていた。
ベレン卿が部下とともに乗り込み、続いてガレノス医師が、それから飛び移ったカイトがユエの手を引いて乗せる。
「あれ?ウィノ?」
当然のように同族たちについて行くと思っていた妖精が、見送る側でいることに、ラークが首をかしげる。
「わたしは……君たちについて行くつもり」
ラークの肩に乗って、ウィノは明言した。
「え、いいの?」
「わたしという証拠がいた方が、話が早い」
「たしかにそうだけど」
「それに……ちょうどいいから、いろいろと見て回りたいとも思ってて。妖精の存在が忘れ去られてからずっと、見つからないよう上空から様子をうかがうだけだったから」
ドワーフ王国から旅立った時のアスカのような気持ちなのだろうかと、仲間たちは一応納得した。
船が岸から離れ始め、またしても事後報告のベレン卿が今と同じ問答を船内でしている声が聴こえて、お見送りは苦笑いになる。
「あーあ、ベレン卿も勘違いしてたみたいだな。きっと、やっとウィノとゆっくり話せるとか楽しみにしてたんだろうぜ」
ヘロンは他人事に言って、湖に背を向ける。
この別れを特別だと思っていないから、見送る側も見送られる側もあっさりとしたものだ。
そうでないと知っているのは、ふたりだけ。
旅の終着点を思い描いて、ウィノは遠去かる船からしばらく目が離せなかった。
次に彼らと再会する時は、ひとつの世界が終わり、新たな世界が始まる時。しかしそれと同時に、もうひとつの終わりが待っていることを知っているからだ。
カイトとウィノ、ふたりの間だけで取り決めた約束がいくつかある。ウィノにはこれが本当に正解なのかはわからなかった。けれど決定権は自分にはないから、迷いを持ちながらも進むしかない。
「さ、俺たちも出発しよう」
アイビスの号令で、ウィノもやっと船を視界から外す。対岸に着くのを見届けることなく、後発組もメーディセインを後にした。
******
ベレン卿の館までの旅路は、過酷な前半と快適な後半という落差の大きな道行になった。
故郷に別れを告げるカイトは、後ろ髪を引かれるように何度も湖を振り返っていた。「一度くらい、沈んだ村を見に潜ればよかったな」と名残惜しく言うから、ユエは「暖かくなったら、また来ればいいよ」と慰めた。
対岸の村は、ベレン領の兵士や傭兵たちの手によって復興が始まっていたため、実際の被害が見えにくくなっていた。
それで油断したユエやガレノス医師は、東へ進むごとに自分の認識の甘さを悔やむことになる。
全壊して、手つかずの家々。
通れない道。荒廃した農地。
焚き火に身を寄せ合う人々。
今日食べるものもなく、安全な飲水を確保することも難しい。
ケガをしているのに、治療もできない。薬がないし、そもそも医者もいない。
堪らず、ガレノス医師はひとりの子どもに駆け寄った。しかしその子の治療をしているうちに、我も我もと取り囲まれて、どう見ても薬も包帯も足りない。
それに人々は自ら気づき、諦観した笑みを浮かべて去っていく。
嘆くことも、憤ることもできないほど疲れ果てていたのだ。
ベレン卿の部下が事前に無事な道を確認してくれていたため、その点で迷うことはなかった。大きく南回りで震源地を避け、途中でガレノス医師の家へと寄る予定だった。
しかしガレノス医師は、到着前に離脱を申し出た。
「ウィノが言ってたのはこういうことなんだろうな。未来のために、目の前の苦しんでいる人を見捨てることになるって。確かに今ここで何人か治療するより、今後の災害を止める方が大事なんだろうが……」
その考えを否定はしないながらも、さっぱりした顔で「なし崩しに医者に戻っちまったからな。無視できねぇわ」と言って、生気のないケガ人たちへ突撃していった。
そのためガレノス医師の家に寄る必要はなくなって、予定よりも少しだけ近道できることになった。
***
十字行路にまでたどり着けた時には、安堵でユエは座り込みそうになったほど。通常よりも慌ただしさはあったが、店も開き商品もそろっていて、見てきた荒廃が幻のようだった。
震災から逃れてきた人もいたようだが、「地震があったらしい」「聖会は壊滅的らしい」といったうわさ話ばかりが飛び交っていて、ユエにとっては世界が壊れるのではと思った揺れも、実際にはほんの一部の地域だけだったのかと愕然となった。
それと同時に、ウィノが言う大災害が本当に起こってしまったら、この大陸全てがあの荒廃に飲み込まれるのかと思うと、早く鍵を開けなければという使命感が募る。
この時のユエは、カイトとウィノが指定した半年後がとてつもなく遠い日のように思っていた。
ベレン領を有する国に入る頃には、あの揺れの爪痕などどこにも残っていない、平和でいつも通りの日常が流れていた。
ベレン卿は領地に戻る前に国王に報告があるからと王城へ向かい、その時改めてユエは、ベレン卿よりも上の身分の人がいることを思い出したものだ。
そのためユエとカイトは主人よりも先にベレン領へと足を踏み入れることになり、心配で待ち構えていた使用人たちに質問攻めにされた。
けれどベレン領に届いていたのも曖昧なうわさ話ばかりで、領主のお出かけ先を知らなかった領民たちは不在をいつものことと受け止めていたよう。
その温度差を責めることはできないけれど、ユエは賑やかな街を見るのが少しだけ辛かった。
前と同じ館に通されたカイトとユエは、何を置いてもまず、妖精たちが封印されたアルケーと樽に詰められた再生の水の無事を確認した。
確認し、安全な場所での保管を頼み、それから背負っていた荷物を下ろす。
やっと気を抜いてもいいと自分に許可を出したふたりは、顔を見合わせて、互いの顔に同じ願望が書かれていることに笑った。
──「風呂に入ろう」「お風呂、入りたい」
館自慢の大浴場に浸かったふたりは、熱いお湯によって疲れと緊張がほぐされていくのを感じる。
不思議とその瞬間が、ユエの中で旅にひと区切りついた瞬間だった。聖会とメーディセインに関する旅が終わり、今度は妖精の鍵を探す旅が始まるのだと、ユエはこの時まだ信じていた。
******
「部屋はひとつでいい」と告げるカイトは堂に入ったもので、もはや照れや恥じらいもない。あまりの堂々っぷりに、こういう話題が大好物の使用人たちもからかいひとつ繰り出せなかったくらいだ。
食事の後「こっちから呼ぶまで絶対に邪魔をするな」と明言して、カイトはユエを連れてさっさと部屋へ引っ込んだ。
熱いお風呂に、豪華な食事、暖かな部屋に、ふわふわの寝具──ユエはわずか一週間前との違いに頭がついていけず、まだ違和感が拭えないが、切り替えの早いカイトはユエを抱えてベットに寝転ぶことに躊躇ない。
ユエの髪に鼻を埋めて、久しぶりの石けんの匂いを堪能してから、安全な場所で抱き合えることを感謝するように、背中に回した手にぎゅっと力が込められる。
道中のカイトはいつになく穏やかで、心乱されてばかりのユエとは対照的だった。
ユエが悲しめば慰めてくれ、憤ればなだめてくれ、不安になれば安心されてくれて。
それは周りから見れば甲斐甲斐しいほどで、ベレン卿からは「ユエばかり見てないで、少しくらい私を手伝え」と、からかいなのか本気なのかわからない文句をもらっていた。
「カイト」
「うん?」
今もカイトは、一瞬も見逃さないというように全神経をユエに集中させている。
髪をすく手つきも優しいけれど、何と言っても表情が甘い。ベットの上でこんな顔を向けられては、とろんとユエの顔もからだも心も蕩けてしまう。
「……口づけ、して」
要望にすぐさま応えて、甘い口づけが唇だけでなく顔中に散らされる。
くすぐったいそれにもちろん先を期待するけれど、疲れ切ったからだと安心感は眠気を連れてきて、居座ってどいてくれない。
「う~……」
子どもがぐずるようなユエの声に、カイトは吐息だけで笑った。
「ユエ、どうする?寝るのか、するのか?」
究極の二択を迫られてユエは「……どっちも」と無理難題を押しつける。
それにもカイトは笑って「そうか、それは困ったな」と全然困っていない口調で言う。
その瞬間、ユエは唐突に何かおかしいと思った。
けれど何がおかしいのかは全くわからない。わからないから、会話を続けてみる。
「カイトは?」
「うん?」
「もう、眠い?」
「眠いといえば、眠いな」
「……したい?」
「ユエがしたいなら」
これだ、とユエは違和感を捕まえた。
メーディセインから離れて以降、カイトは妙にユエの意見を優先しようとするし、それから『どうする?』とか『どうしたい?』とか訊かれる頻度も上がったような。
気のせいだと流してしまえばよかったのに、確かめようという方向へと向かってしまった。
「……途中で寝ちゃっても、許してね」
盛大な布石を打って、ユエはカイトを引き寄せる。
キスの続きから始めると、横向きに向かい合う格好から次第にカイトがユエの上へとのしかかってきて、それにつれてキスも深まっていく。
それは心地いい重みなのだけど、試しに「今日はおれが上になる」と言ってみると、カイトはあっさり位置を交換してくれた。
ユエの全体重を余裕で受け止めて、カイトは大人しく敷布団になっている。ユエに身を委ねているとも、主導権を完全に放棄しているともとれる態度だ。
すると途端にユエは困った。
手持ち無沙汰をどうにかしようと、とりあえずカイトの服のボタンを外してみるが、それからどこに進めばいいのかわからない。
「ど、どうすればいい?」率直に訊いてみると、カイトはユエの手を自分の首筋に誘導して、「好きに触っていいぞ」とまた委ねられる。
いつもカイトがしてくれることを思い出しながら、首から肩にかけてを広げた手で撫でて、同じところを唇でもなぞる。
途中でカイトの様子をうかがうと、微笑ましいものを見るような目で見られていて、ユエは何だか恥ずかしくなった。
「……やだ」
「ユエ?」
「見たら、だめ」
ユエに目を塞がれても、カイトはされるがままだ。
ここで早くもユエは降参した。「やっぱり、カイトが触って」とカイトの手を取って自分の頬に押しつける。
それで攻守が交代するかと思いきや、撫でてくれるのはほっぺたや耳ばかりでそれより下へは進んでくれないから、「こっちも」とユエが自分でほしい場所を申告しなければならなかった。
そうして全身をゆったりと愛撫されて、ユエは案の定、うとうとと微睡みかける。
「……このまま寝るか?」耳許で暗示のようにささやかれるが、ゆるゆると首を振って「きて、カイト」と譲らない。
「あ……っ」
ゆっくりと穿たれる感覚に、背中が震える。
『今日はおれが上』というユエの希望を守って、カイトはその体勢のまま器用に挿入していく。ユエはべったりと抱きついて離れないから、あまり深くまでは進めない。
けれどカイトは無理に押し入らないで、どこまでもユエの心地よさを優先してくれる。
楽に繋がったまま、また全身をゆったりと撫でられると、「ふ、あ……ぁ……」力が抜けて自分で自分の前をカイトのお腹に押しつけるようになる。刺激はそれだけで充分だった。
ほとんど抽送はなく、カイトは上に乗ったユエごとゆらゆらとからだを揺らすようにして、じわり、じわりと昂めていく。まるであやされているような優しい振動だ。
「ふぁ……」
それはいつもの突き抜けるような快楽とは違って、繋がった場所からとろとろと溶けて混ざっていくような──この時ユエが思い浮かべたのは、ウィノの羽の振動で溶けるアルケーのことだった。
あのアルケーのような粘液になって、自分とカイトの境目がなくなって、ひとつになっていく──「……っ」そんな想像をしながら、ユエは達していた。
「ん、んぅ……」
今のユエにとってその快感は、眠る直前の浮遊感とほとんど同じものだった。
けれどカイトがまだだということは感触でわかるから、浮遊感が落ちる感覚に変わる前に、「カイト、も、だして……」と何とか口に出す。
もう開きそうにないまぶたに、ちゅっと唇が触れた。
眠りに落ちる寸前、お腹の中を圧迫していた剛直が優しく離れていくが、ユエは引き留めることはできない。
(待って……行かないで……)
声にならなかった言葉は、夢の中でもユエの頭に残り続けていた。
******
──「っごめん、カイト!おれ、寝ちゃ……って?」
夢の中まで後悔を引きずっていたユエは、起き抜けにいきなり謝ったはいいが、今がいつなのかわからなくてぽやんとなる。
あの続きなのか、夢の中なのか、起きたところなのか──最後の記憶そのまま、カイトの上に寝転がった状態だったからなおさらだ。
視界を占めたカイトの顔は、驚いた後にふっと緩む。
「気にするな。予想通りといえば予想通りだった」と微妙な慰めをもらい、ユエの眉は情けなく下がる。
反省を込めて、こてんとカイトの胸にひたいをくっつける。
落ち着いてみれば、カイトもユエも乱れた服は整えられているし、窓の外は明るくなっているし、お腹は減っているし──それだけの時間が経っていることは明白だ。
「今、何時くらい?」
ユエはそれでも朝のうちだろうと思っていたが、知らされた時刻はもう昼近く。
そんなに寝ていた自分にも驚くが、それよりユエが不思議なのはカイトだった。
「カイトも今起きたの?」
「いや、そうでもない」
「だよね」
カイトは基本的に、夜更かししても朝はそれほど寝過ごさない。今朝もそうだったということは、つまりユエが起きるまでこの体勢で待っていてくれたのだろうか、とユエは首を傾げる。
それはカイトがただ寝坊するよりも不思議なことだった。
ここはベレン卿の館という安全地帯で、今は急ぎの旅の途中──その条件下ならカイトは、ユエを寝かせたまま自分は起きて、旅の準備に取りかかるというのが通常運転のはず。
違和感がふたつ重なって、ユエは一気に不安になった。
そしてその日の午後には三つ目の違和感が忍び寄って、さすがにひとりで秘めていられなくなる。
「どうしたの、カイト。なんか、おかしいよ」
のんびり散歩するカイトを、ユエは直撃した。
起きてからものんびり朝食兼昼食を食べ、のんびり荷物の整理をして、そしてのんびりベレン卿の館周りの庭を散歩するなんて、カイトらしくない。
ユエが「準備はいいの?」と訊いても「大丈夫」と答えるばかり。休息のためにのんびりすることはあったが、今のカイトは何もしないことを選んでいるように見える。
「妖精の鍵を探しに行くんじゃないの?半年後に、ちゃんと間に合う?」
ベレン領へ戻るまでにも半月以上かかっている。焦りを見せるユエに、カイトはまた「大丈夫」だ。
その場ではいったん収めたユエだが、夕食後、明日の予定を尋ねたことで不安は再燃した。
「明日はどうするの?」
「……もう少し休んでもいいだろう」
「もう少しってどのくらい?いつ出発するの?」
不安を通り越して、間に合わなければどうしようと恐怖を感じているユエを見て、カイトは負けを認めたように手を挙げた。
「わかった、ちゃんと話す。……もう少しだけ、なにも考えずにいたかったんだがな」
後半は弱々しく、自嘲の笑みとともに吐き出される。
「カイト……?」
「お前にまだ話してないことがある」
けれど話し始めたカイトは、どこかあっけらかんとした清々しさがあった。
「おれだけ、知らないこと?」
「いや、知ってるのは俺とウィノだけだ。俺がウィノに頼んだ。ユエには俺から話すから、黙っておいてくれって。それから、他のやつらには俺たちと別れた後でウィノから伝えてほしいってな」
嫌な予感がじわりとにじみ出す。
どう考えてもいい報告ではなさそうなのに、カイトの口調がどちらかというと明るいことが、何よりユエを恐れさせる。
怖いけれど、後回しにする方がもっと怖いから、「……なに?」と勇気を出した。
「妖精の鍵はもう見つかってる。だから探しに行く必要はないんだ」
「え……それって、ウィノがもう持ってるってこと?」
「いや、持っているのは、俺だ」
混乱するユエの手を取って、カイトは自身の胸に二人の手を重ねて置く。
「ここに、妖精の鍵はある」
「え……?」
「あとは取り出すだけだ。けれど……取り出すにはユエ、お前の許可がいる」
「えっ?なんで、おれ?」
「俺の命運はお前が握っているからだ」
もっと混乱したユエに、カイトは「……怒るなよ」といたずらを告白する子どものような顔で先手を打つと、「俺はお前に賭けることにしたんだ」とまた訳のわからないことを言う。
「賭け?」
「妖精の鍵を取り出すと、俺は生きていられなくなるだろう」
「……え」
「でも取り出さないと世界の鍵を開けることはできず、大災害を避けることは難しくなる。つまり……世界の安全をとるか、俺の命を優先するか──そんなもの、選ぶべくもないが」
「カイト、なにいってるの?」
「鍵を開けることに異論はない。けどな……」
流れ落ちる寸前で、ユエの涙はカイトの唇に吸い込まれた。その口許は優しい微笑みをつくる。
「俺は簡単に死んでやる気はないぞ」
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