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第七章 孤独な鳶は月に抱かれて眠る
115 残りの時間
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──『鍵を開けてほしい』
その頼みには『わかった』と即答したカイトだが、
──『世界のために、死んでほしい』
それに対する返答は『……それは断る』だった。
鍵を開けることと、自分の死が結びついていることは理解した上で、カイトは悪あがきをするつもりだった。
ユエがいなかったら、もしくはユエと結ばれていなかったら、おそらくカイトは諦めただろう。むしろ、世界の平和のためにヒトひとりの命で足りるなら割りがいいくらいだし、そんな最期ならまずまず悪くないとさえ思ったかもしれない。
けれどユエがいるから。
もし立場が反対で、ユエひとりの犠牲で世界が守られるとしても、自分なら世界がどうなろうとユエひとりを守る──ユエも同じだと知っているから、カイトは自分の命を簡単に諦められない。
***
「……ちゃんと、説明して」
半泣きだったユエはぐいっと涙を拭って、気丈に顔を上げる。「どうしてカイトの中に妖精の鍵が封印されてるの?」
ウィノから知らされた自身の出生の秘密を、今度はカイトがユエに語る番だ。
「覚えてるか?眠りについた妖精たちの中で、見張り役としてひとりだけ起きていたと言う話を」
「うん。妖精の鍵の守り手でもあったって」
「そうだ。彼らは今のお前のように、からだの中に鍵を封印して守っていたらしい」
「そっか、一心同体になってなくさないようにしてたんだ」
「鍵を封印したまま、土砂崩れに巻き込まれて行方不明になったとされていた人物──それが、俺の母親にあたるらしい」
「えっ、カイトの、お母さん?」
親という存在がまだしっくりきていないため、カイトの言い方はどこか他人行儀だ。
「名前はフィンリ。彼女は鍵を使って人間になり、鍵を封印したままのからだで妊娠し、俺を産んだらしい」
「お父さんは?」
「父親の情報は……メーディセインの住人であることくらいだ」
「そっか……でも、じゃあ、お父さんは人間?」
「だろうな。つまり俺は妖精と人間の間に産まれた人間で、どうやら、産まれるより前に母親から妖精の鍵を受け継いだらしい」
「鍵を受け継いだ……あっ!鍵を封印したまま妊娠したから?えっ……?お腹の中にいた赤ちゃんだったカイトに、封印が移っちゃったってこと?そんなことあるの……?」
人間であるカイトに妖精の鍵が封印されているという矛盾──それを説明できることが喜ばしいのかどうなのかわからなくて、ユエの反応は様子をうかがいつつになる。
「ウィノによると、鍵を封印したまま妊娠したという前例がないからなんとも言えないが、普通はありえない、フィンリも想定外だったはずだ、と」
「そう、だよね。普通は勝手に移動したりしない。じゃあ、なにが普通じゃなかったの?」
「俺だ」
ずっと追い求めてきた真実が明らかになり、カイトはひとりすっきりした顔をしている。
「俺が歳を取らないのは鍵の力だが、三種の力すべてを純血なみに引き出せるのは、もともと俺が持って生まれた能力だったようだ」
ウィノが評したところによると、カイトとは『平均化されなかった人間』ということになるらしい。
三種、妖精と人魚とドワーフを混ぜて三で割ったのが一般的な人間だとすると、カイトは割らなかった状態だというのだ。
「つまり俺は、三種の純血をそのまま、無理やり、人間の肉体の中に詰め込んだ存在なんだと」
「鱗と小石と葉っぱを十個ずつ、全部持ってるってこと?そんなことできないんじゃなかったの?」
以前、三種の平均化について説明された時の例に当てはめて、ユエは正しく理解する。
「そうだ、普通はありえない。容量の上限が十の肉体に三十を無理やり押し込めるようなものだ。過剰な力に肉体が耐えきれず……本来なら産まれる前に死んでしまうものらしい」
実は、そういう例はカイトが唯一ではない。
ウィノら妖精たちの間では以前からその存在は確認されていたが、全員が流産という結果になっていて、あまり詳しい調査はなされてこなかった。
今のところ、亜種のうちなのではないかという説と、純血の上位種なのではないかという説があるが……──と、ウィノは言葉を濁した。
***
始まりは、フィンリが恋をしたこと。
種の存続のため、妖精たちは鍵を使って人間になることを禁じていたが、それを破るほどの熱情があったのだろうと、ウィノは彼女を責めることはなかった。
事前に兄弟に知らせなかったのは、出産を反対されると思ったからだろう。その点については思慮が足りなかったと言えるが、それでもフィンリひとりにこの結果の責任を負わせることはできない。
なぜなら万が一の備えでは足りないことが四つも重なってしまっては、もう、ヒトがどうこうできる範囲を超えるからだ。
一つは、フィンリが妖精の鍵を封印したからだで妊娠したこと。
二つ目は、宿った命が、人間なのに純血を超越した異端の存在だったこと。
三つ目は、本来なら産まれることのなかったその命を、妖精の鍵が救ったこと。
そして四つ目、水害。
カイトに封印が移ったその理由が、カイトの命を助けるためだったという点については、ウィノとカイトの意見は一致している。
カイトの肉体が過剰な力に耐えられるのは、鍵の助けがあってこそだ、と。
しかしなぜそうしたのか、妖精の鍵の気持ちについては、二人とも鍵と意思疎通できないため推測の域を出ない。
おそらくは情が移ったのではないか、とカイトは面映くもそう思った。
胎児だったカイトと鍵は、母親のからだの中で言うならば同居していたようなもの。同居人としての情か、はたまたそれ以上の、子の成長を見守る親のような気持ちが芽生えたのか──。
確実なのは、悪意ではなく、好意だったこと。
けれど鍵の好意は、妖精たちに思いがけない混乱を呼び、そしてカイトに深い業を背負わせることになった。
鍵のおかけで無事に産まれたカイトだったが、おそらくフィンリは出産時の出血が元で亡くなってしまったのではないか、とウィノは予想している。
この時、産まれたばかりの赤子が鍵を持っているとは誰も思っていない。唯一鍵が移ったことを感じ取れたフィンリは、それを伝える前に、それも人間の姿のままで息絶えてしまったから。
もし妖精の姿だったなら、死と同時に肉体は灰のように崩れ、村人たちもすぐに鍵がないことに気づけたかもしれない。
『守護者の村』の人間たちには、見張り役の身に何かあったときの取り決めがあった。
村には『妖精の笛』とカイト一行が呼ぶあの笛がひとつ残っていて、それを使って人間が次の見張り役を起こすという決まりだ。
土地柄なのか妖精の亜種が多く生まれたため、笛で妖精の羽が起こす振動と同じ音を出すことで、村人にもアルケーに封印された妖精を起こすことができたのだ。
けれどそれより前に、水害が村を襲った。
ウィノら何も知らない兄弟たちは水害後、フィンリが鍵を封印したまま土砂崩れに巻き込まれたのだと当然のように導き出し、メーディセインを探し回った。
けれど全ては水の底。証人である村人も、証拠となる出産の痕跡も全てだ。
約三百年経った現在、受け継いだ兄弟の記憶の点と点を繋いで、ウィノはやっとこの真実にこぎつけた。
カイトという正解が先になければ、『フィンリが人間に好意を抱いていた』という情報も、『近々村で出産があると言っていたが』という近隣の生き残った村人のうわさ話も、引っかからずに流してしまっていただろう。
そのため兄弟たちの記憶から想像するのもここまでが限界で、産まれたばかりのカイトがどうやって助かったかは、最早誰にも知る術はない。
そしてどういう巡り合わせか、メーディセインから流出した『妖精の笛』はいつしか聖会の宝物庫にたどり着き、同じくドワーフ王国から流出したもうひとつと一緒になって、アディーン大司教の手を経て、カイトが手に入れることとなる。
こうして本人も妖精たちも知らないまま、カイトはからだの中に妖精の鍵を封印することになった。
鍵が具体的にどうカイトの肉体を維持しているかは、カイトにもウィノにもわからない。
けれど世の道理を曲げるには、それ相応の代償が必要なのではないかとは予想できる。つまり妖精の鍵は、これまで自身に蓄積してきた力をカイトに分け与えることで、肉体を強化してくれているのでは、と。
それともう一つ、不老をもたらしたのは鍵の意思なのか、結果的にそうなってしまったのか、どちらなのかはわからないという点でも二人の意見は一致している。
カイトを死なせたくないという想いが暴走した結果ならば、前者。
そうではなく、例えばカイトの中身に合わせて強化された肉体は、気力・体力の全盛期である青年の姿に自然と合ってしまうのなら、後者だ。現状がもっとも釣り合いが取れているため、老化しない方が自然ということになる。
***
「えぇっと……ちょっと待ってね」
ユエはここまでの情報を整理しようと、いったんカイトの説明を止める。
「カイトは産まれる前から妖精の鍵を封印していて、そのおかげで無事に産まれたけど、そのせいで歳を取らないからだになって……つまり、鍵を取り出したら……」
カイトの不老の原因がわかったのに、それを取り除くことは死を意味するなんて──天国と地獄が隣り合わせだと気づいて、ユエはまたくしゃっと顔を歪める。
けれど今度は涙は堪えた。
『簡単に死んでやる気はない』──ここで話が終わりではなく、何か秘策があるからこそカイトはこんなことを言ったんだ、と信じて。
「状況は絶体絶命ではあるが、それは一発逆転の好機でもある」
カイトは勝負師の顔になって、ユエの両肩に手を置いた。
「要は、妖精の鍵を取り出しても俺が死なないようにすればいい」
「どう、やって……?」
「俺の中の過剰な力を取り出せれば、全部解決すると思わないか?」
「え……?」
絡まった糸の中から、カイトは始まりの端を見つけてみせた。
カイトに妖精の鍵が必要なのは、生まれ持った過剰な力に耐えうるよう肉体を強化してもらうため。翻せば、過剰なそれが正常になれば、鍵に強化してもらう必要はなくなる。
「で、でも、それってカイトの生まれつきなんでしょう?それを取り出すことなんて、できる、の?」
希望にすぐ飛びついて、すぐ裏切られないようにと、ユエは慎重になっている。
「できる──とは、言い切れない」
やっぱりという顔をするユエに、カイトは「けれど、できないとも言い切れない」と続ける。
「……これから方法を探すってこと?」
ユエの無言の抗議の中には、(そんな悠長な。じゃあ、なんで半年後なんて時間制限をつけたの?)という気持ちがありありと透けて見える。
「いや、ひとつ、方法を思いついてはいるんだ」
言い訳するように言ってから、カイトは思わずもう一度念を押してしまう。「……怒るなよ」
「……おれが怒りそうな方法なの?」
じと、と睨まれて、カイトは藪蛇だったかと焦る。
「というより……お前ばかりに負担をかけることになるから、悪いとは思ってる」
「……どういうこと?」
「問題なのは、世界の鍵を開けるのは、なるべく早い方がいいということだ」
「……うん」
「俺の不老を解消することは、特段、急ぎではない。むしろ時間をかけてじっくり検証した方がいいのに、不老の元となっている鍵は早く取り出さなくてはならない」
「急がなくちゃいけないのに、時間もかけなくちゃ、いけない?」
「そう。その時間的な矛盾が問題だ。だから俺が考えた方法は……」
「方法は?」
「延命だ」
「えんめい?」
それほど使用頻度が高い単語ではないはずなのに、聞き馴染みがあって、その場面を思い出そうとユエは記憶を手繰った。手繰った先にあったのは、メーディセイン突入前のウィノの昔語り。
──約千年前、純血が生まれなくなった妖精たちは、自らをアルケーに封印し眠ることで、延命することを選んだ。
「仮死状態になって寿命を延ばす……」
ほとんど無意識に口からこぼれた言葉に、ユエは自分でハッとなった。
カイトも同じく驚いた表情だが、こちらはユエがすぐ正解に結びつけたことに対する驚きだった。
自分の思いつきが正解だったことを、ユエはその表情から知らされる。
色々な混乱でまだ頭が回らないのに、カイトは容赦なく結論をまとめた。
「妖精の鍵を取り出すと同時に、俺のからだをアルケーに封印する。そうすれば……とりあえず、すぐ死ぬことはないはずだ」
******
「つまり、急ぎである鍵のことを先に片付けて、その後時間をかけてカイトのことを考えよう──というのが、わたしとカイトの出した結論」
同じ説明をウィノから受けた仲間たちは、一斉に沈黙した。場所は旧スミュルナのバルボア邸。ヘイレンが呼んだ船の準備ができるまで、滞在させてもらっていたのだ。
ウィノがこちらの組についてきたのには、伝言板の役割をカイトに頼まれたからでもあった。それから、少しでも恋人たちに二人きりの時間をあげたいという、老婆心も。
「あれ?あっ!そっか、そういうこと?!」
息苦しい沈黙を、ヘロンの明るい声が破る。
「妖精の鍵を取り出して、鍵を開けたら、またカイトの中に戻せばいいんじゃん?不老は解決しないけど、それはまた鍵を開けた後で考えればいいんだし!」
おお!と沸き立ちかけた興奮を、「それはできない」ウィノがすぐさま消す。
「でき、ないの?」
「カイトは人間で、今、彼の中に鍵が封印できているのは、無理やり道理を曲げた結果。一度取り出したら、もう二度と封印はできない」
「……やり直しはきかないってことか」
誰よりも暗い顔で、ヘイレンがつぶやく。
「あのさ、そもそもの話、鍵を取り出すことはできるの?」
はい、と手を挙げてクレインが訊く。
「それは可能。確かめたから」
「確かめたって」
「カイトの胸に妖精の鍵があること、そしてわたしがそれに触れることができることは、もう確かめた」
「……でも、取り出した後にカイトがどうなるかは、実際にやってみなくちゃわからないよね」
わざと悪役を買って出るように、クレインはウィノに突っかかる。
「順番を間違えなければ、まず大丈夫だと」
「順番?」
「まずカイトをアルケーに封印する。それから鍵を取り出す──そうすれば肉体はアルケーに守られるはず」
「『はず』でしょ。確実じゃない」
「事前にある程度の実証はできると思う」
睨みつけていた目をふい、と外して、クレインは「ごめん、ウィノが悪いわけじゃないのに」と謝った。ぶつける先のない怒りを持て余していることは、自分でもわかっているのだ。
ウィノも理解して、無言で気にするなと首を振る。
「俺も聞きたいことがあるんだが、いいか?」次に手を挙げたのはフェザント。
「アルケーに封印して仮死状態にってのは、確か、妖精しかできないんじゃなかったっけか」
「そんなことはない」
「あれぇ?でも確か」
「わたしが言った?」
「ん?あれ……違うな。ウィノから聞いたんじゃない……俺たちが勝手にそう思っただけか……?」
自信がなくなってきたフェザントを、アイビスが助太刀する。
「いや、でも、妖精は他とは睡眠の質が違ってて、その生態を高めて仮死状態を可能にしたとか、なんとか」
「ああ、それは、百年、千年単位の延命ならと言う話だ。人間でも数年ならば……長くて十年ほどなら可能だろう」
「そう、なのか……」
「それとこれはまだ可能性の段階だが……もしかしたらあの『再生の水』を使えば、もっと長期間の延命も可能かもしれない」
そう提案しておきながらウィノは、「けれどカイトの場合、延命期間が長ければ長いほどいい、というものではないから」と、背中の羽をしょんぼりさせる。
「……そりゃ、十年以上はきついよ」
「待てないよね。ユエが、つらい」
延命したとしても、時間が無限にあるわけではない。
不老を解消するのは、カイトがユエとともに生きるため。長期戦になって十年も二十年もユエをひとりで待たせることを、例え本人が承知しても、カイトは是とはしないだろう。
「ってことは、こういう流れになるのか」
最初に立ち直ったアイビスが、やるべきことをはっきりさせてくれる。
「カイトをアルケーに封印する。妖精の鍵を取り出す。世界の鍵を開ける。それから、数年のうちに俺たちで、カイトの過剰な力を抜く方法を確立する──」
「その間に、鍵が開いて混乱した世界を、カイト抜きで乗り切らなきゃなんねぇぞ」
整然とした道筋を乱すように、ヘイレンが口を挟んだ。
『数年』を何とか前向きに捉えようとしていた仲間たちは、言われて初めて、ひやっと足を踏み外したような恐怖に襲われる。
──カイトがいない。
もちろんユエとは比べ物にならないけれど、自分たちもカイトという絶対的な道標の不在を覚悟しなければならないのだと気づき、その心許なさに不安が伝染していく。
「……やるしかない」
ここで崩れないで済んだのは、自分たちがあの二人を支える番だと思ったからだ。
「まずはしっかり使者の役割を果たさないとな」
「おう!そんでなるべく早く、あいつらを助けにいかねぇと」
この計画を知らされて、ユエがどれほど不安だろうかと心配するフェザントだったが、ジェイがぼそっと異論を唱える。
「いや、むしろ、俺たちはなるべく遅れて行った方がいいんじゃないか?」
「えっ、どうして?」
フェザントと同意見だったラークは、居ても立っても居られないとすでに半分腰を浮かせている。
「いや、だって……二人きりにしてやった方がいいんじゃないか」
「あ……」
残された短い時間を恋人水入らずで──そんなしんみりした空気になりかけたが、「なに言ってんの」クレインがふん、と吹き飛ばす。
「さっさと集まって、意見を出し合った方が建設的でしょ。鍵を開けた後の対処とか、力を抜く方法とか、今から話し合っておいた方がいいに決まってるし。それに、まだ諦めるには早いんじゃない?」
「諦めるって?」
「なんかカイトもウィノも、鍵を取り出す前になんとかしようとはもう思ってないみたいだけど、まだ半年もあるんだから!」
「えっと……半年の間で、カイトの問題を解決してしまおうという……?」
「そう!そうなったら、なんの問題もなくなるでしょ!」
「……クレイン、なんか怒ってないか?」
恐々、機嫌を取るように訊くジェイに、クレインは威勢よく「怒ってるのは、ユエなんじゃない?」
「ユエが?」
「俺だったら怒るけど?カイトとウィノだけで勝手に決めちゃって、ユエには事後報告で、あと半年なんて言われたら。しかも!鍵を取り出した後のことは、ぜ~んぶユエに丸投げなんて!」
自分が怒られたように首をすくめるジェイに代わって、ウィノがカイトを執りなす。
「あ、いや、丸投げというほど無責任では」
「そう?そうは思えないけど」
「一応、力を取り出す方法を考えてはいる」
「へぇ、どんな」
「三鍵を使う方法」
「鍵を?」
興味が移ったことでクレインの怒りを逸らすことに成功し、ジェイもウィノもこっそりホッとした。
「三種が人間になる時、自前の力を鍵にいったん保存することになる。つまりそこだけ切り取れば、力を吸収する能力があるということ」
「そんな単純なもの?」
「もちろん今のままでは無理。人間にも使えるようにしなければ」
「人間にもって……そんなことできるの?」
「不可能だと、わたしは思っていた」
ウィノの認識では、鍵を使って人間になった純血と生まれながらの人間は、近いようで遥かに遠い関係だった。
ひと世代で一気に何百年もの進化を経るようなもので、進化は不可逆であるから、人間は純血には戻れないのだと。
人間が鍵を使えない理由も同じで、全く別のイキモノだからだとそこで思考停止していたのだ。
しかしカイトは事もなげに『ならば鍵も進化させればいい』と言って、ウィノの目を覚まさせた。
──『俺が謂わば三種の合成種なら、三鍵を統合してひとつにした鍵は、俺に対応するものになるんじゃないか』
鍵と鍵穴がぴったり合った──その時のウィノの心境はまさにそれだった。
しかもカイトはこの方法の問題点である、鍵をひとつにするためには妖精の鍵を取り出さなくてはならない点についても、アルケーを使って封印するという解決策を提示した。
この道が示された時、ウィノは『もうこれしかない』とまで思い込んで、感嘆したものだ。
「なるほど……その方法だと、どの道、鍵を取り出してからが勝負ってわけだ」
無策ではなく、かなり確率の高そうな方法を考えていたことについては、クレインも納得してくれた。
けれど理屈と感情は違うようで、「……だから、なんでそれを相談しないかな」と声を低める。
「ぜんぶ勝手に決めちゃって。責任はぜんぶ自分がかぶるつもりとか?そんなのかっこつけてるだけでしょ」
「あ、いや、カイトはユエや君たちに酷な選択をさせたくない、と」
「でもそれって、俺たちのこと信用してないってことじゃない?」
「大切だからこそだと思うが」
「俺がユエなら、俺の意見は聞いてくれないのかって怒るけど?」
「だから、カイトもこれから話して、ユエの意見を──」
「これからじゃ遅いって言ってんの」
なぜかクレインとウィノでユエとカイトの代理戦争を始めてしまって、周りはポカンだ。
けれど当の本人のウィノは、最初の反応のまま沈黙が続くよりは、こうして言い返された方がずっと気が楽だった。
いつの間にか言い争いは周りにも波及して、「ユエは絶対こうする」「ならカイトはこう言う」という予想合戦から、「どの組が一番最初にベレン領へ行けるか」という競争に発展し、「こっちは不利だ」とか「こっちなんか大変だ」とか「いや、俺たちの方が大変だ」とか、最後にはよくわからない争いになっていく。
仲間たちのこの明るさは、ウィノにとって救いとなった。
兄弟たちが聖会の手に落ちてから、ウィノは全てをひとりで背負ってきたため、誰かに相談するという考えがなかった。だからクレインがカイトに向けている怒りは、ウィノの耳にも痛い。
相談しろ!頼れ!──けれど間接的に怒られて、ウィノの心は軽くなる。
ウィノは『鍵を開けよう』と彼らに言わせてしまったことを悔やんでいた。それはつまり『カイトに死んでほしい』と同義だと思っていたからだ。
けれど仲間たちは同義ではないと信じて──いや、同義にしないために、すぐに前を向いた。
ウィノはたくましい仲間たちに囲まれて、勝手に絶望していた自分を恥じる。そして軽くなった心の中からは、用意していた謝罪が消えていた。
「ふふ」くだらないやり取りにウィノは思わず笑ってから、声を出して笑ったのはいつぶりだろうと自分の頬に触る。久しぶりすぎて感情に表情がついてこなかったため、引きつった頬が痛かった。
そんな自分にまた笑って、そして今笑える自分に安心する。それは絶望を脱した証だと思えたからだ。
なんとかなる──いや、なんとかする。
そう思わせてくれた仲間たちに、ウィノは心の中で感謝した。
******
「カイトのばか……!」
クレインの予想通り、ユエは激怒した。「なんでひとりで勝手に決めちゃうの!?なんでおれに相談してくれなかったの?半年なんて……すぐだよ?こんなのって……」
「ユエ、」
抱き締めようとしたカイトの胸をどんっと突き離して、「ひどいっ!カイトなんて、もう知らない……!」ユエは部屋を飛び出した。
バタン、とドアが閉まって、だんだんだん!と足音が遠去かる。
けれどユエは、仲間たちの予想を超えてくる。
遠去かった足音は三歩で踵を返し、とたとたとた、とまた三歩で戻ってくると、バンっ!と閉じたばかりの扉が開かれる。
部屋へ飛び込んできた勢いそのまま、どんっ!とからだごとぶつかるようにカイトの胸へ飛び込む。
「……ごめん。知らないなんて、うそ。ばかなんて言ってごめんなさい……」
このとんぼ返りにはカイトも驚くが、ユエにならって時間を無駄にすることはやめた。
素直に抱き締めて、耳元でささやく。
「お前が嫌なら、逃げてもいい」
「逃げる……?」
「世界も鍵も仲間もぜんぶ放り投げて、ふたりだけでどっか田舎にでも引っ込んで──」
「それで、世界が壊れるのを待つの?」
『その道を選んで、自分を許せるのか』──互いに相手の目から問いかけられて、ふたりは同時に「ふ、」と息を吐いた。もう二度とこの選択肢が示されることはないと、答えはなくとも通じる。
心は決まった。
鍵は開ける、けれどカイトは死なせない──それが目指す道だ。
「……カイトはさっき、おれに賭けたって言ったよね」
「ああ。呪いとお前の勝負だ。そんなもん、お前が勝つに決まってる」
「わかった。任せて。おれが絶対、カイトの呪いを解くから」
キリリと力強く請け負ってから、次の瞬間には、ユエの顔はふにゃりと情けなく崩れていた。
「でも、怖いよ。怖いときに、カイトに抱き締めてもらえないのが、こわい」
ユエにとってできるか・できないかの議論はあまり意味がない。なぜなら、できるまで諦めないつもりだからだ。
けれど諦めない気持ちを維持することの難しさは知っているから、心が折れそうな時にカイトの支えがないことが、今から想像すると怖くてたまらない。
「ウィノの話を聞くに、封印されたら時間の感覚も痛覚なんかもなくなって、たぶん俺はただ眠るだけだ。だから、お前ばかりがつらい思いをすることになる。ユエ、わる──」「謝らないで。カイトは悪くないもの」
ユエはカイトの胸に頭をぐりぐり押しつけるようにして、首を横に振る。顔を上げさせて視線を合わせると、カイトは服に擦れて赤くなったひたいに口づける。
「じゃあ謝る代わりに、先払いで賭け金を払わせてくれ」
「賭け金?」
「あと半年、ユエ、お前が王様だ」
いきなりそんなことを宣言されて、ユエは目を丸くする。
「その間俺はお前のことしか考えないし、なによりもお前を優先する。寂しい思いをさせる分、先払いで存分に甘やかしてやる」
どう見ても臣下に見えない尊大な態度だが、カイトの誠意は伝わった。
「……おれが王様?」
「なんでも言うこときいてやるぞ」
「なんでも?」
「なんでも。それに先払いだけじゃあ足りないからな。目が覚めた後にも追加で後払いする」
「なに、してくれるの?」
「ひとりにした分、ずっと一緒にいる。家を建てて、二人で住もう。毎日抱き合って、毎日口づけして、一緒に過ごして、一緒に歳を取って──死ぬまで一緒にいてやる」
照れもなく言い切ったカイトの目の中には、一切の不安は浮かんでいなかった。
いくら事前に触れ合っても、未来の約束があっても、その時の寂しさが埋まらないことはもちろん双方わかっている。
けれどカイトは言わずにいられなかったし、ユエもそれにすがるしかない。
「約束?」
「ああ、約束する」
「……なら、さみしいのも我慢する」
強がって笑ってみせるユエを、カイトは誰にも奪わせないとばかりに腕の中に閉じ込める。同じ強さでユエも抱き締め返す。
呪いにも運命にも、カイトを奪われないように。
その頼みには『わかった』と即答したカイトだが、
──『世界のために、死んでほしい』
それに対する返答は『……それは断る』だった。
鍵を開けることと、自分の死が結びついていることは理解した上で、カイトは悪あがきをするつもりだった。
ユエがいなかったら、もしくはユエと結ばれていなかったら、おそらくカイトは諦めただろう。むしろ、世界の平和のためにヒトひとりの命で足りるなら割りがいいくらいだし、そんな最期ならまずまず悪くないとさえ思ったかもしれない。
けれどユエがいるから。
もし立場が反対で、ユエひとりの犠牲で世界が守られるとしても、自分なら世界がどうなろうとユエひとりを守る──ユエも同じだと知っているから、カイトは自分の命を簡単に諦められない。
***
「……ちゃんと、説明して」
半泣きだったユエはぐいっと涙を拭って、気丈に顔を上げる。「どうしてカイトの中に妖精の鍵が封印されてるの?」
ウィノから知らされた自身の出生の秘密を、今度はカイトがユエに語る番だ。
「覚えてるか?眠りについた妖精たちの中で、見張り役としてひとりだけ起きていたと言う話を」
「うん。妖精の鍵の守り手でもあったって」
「そうだ。彼らは今のお前のように、からだの中に鍵を封印して守っていたらしい」
「そっか、一心同体になってなくさないようにしてたんだ」
「鍵を封印したまま、土砂崩れに巻き込まれて行方不明になったとされていた人物──それが、俺の母親にあたるらしい」
「えっ、カイトの、お母さん?」
親という存在がまだしっくりきていないため、カイトの言い方はどこか他人行儀だ。
「名前はフィンリ。彼女は鍵を使って人間になり、鍵を封印したままのからだで妊娠し、俺を産んだらしい」
「お父さんは?」
「父親の情報は……メーディセインの住人であることくらいだ」
「そっか……でも、じゃあ、お父さんは人間?」
「だろうな。つまり俺は妖精と人間の間に産まれた人間で、どうやら、産まれるより前に母親から妖精の鍵を受け継いだらしい」
「鍵を受け継いだ……あっ!鍵を封印したまま妊娠したから?えっ……?お腹の中にいた赤ちゃんだったカイトに、封印が移っちゃったってこと?そんなことあるの……?」
人間であるカイトに妖精の鍵が封印されているという矛盾──それを説明できることが喜ばしいのかどうなのかわからなくて、ユエの反応は様子をうかがいつつになる。
「ウィノによると、鍵を封印したまま妊娠したという前例がないからなんとも言えないが、普通はありえない、フィンリも想定外だったはずだ、と」
「そう、だよね。普通は勝手に移動したりしない。じゃあ、なにが普通じゃなかったの?」
「俺だ」
ずっと追い求めてきた真実が明らかになり、カイトはひとりすっきりした顔をしている。
「俺が歳を取らないのは鍵の力だが、三種の力すべてを純血なみに引き出せるのは、もともと俺が持って生まれた能力だったようだ」
ウィノが評したところによると、カイトとは『平均化されなかった人間』ということになるらしい。
三種、妖精と人魚とドワーフを混ぜて三で割ったのが一般的な人間だとすると、カイトは割らなかった状態だというのだ。
「つまり俺は、三種の純血をそのまま、無理やり、人間の肉体の中に詰め込んだ存在なんだと」
「鱗と小石と葉っぱを十個ずつ、全部持ってるってこと?そんなことできないんじゃなかったの?」
以前、三種の平均化について説明された時の例に当てはめて、ユエは正しく理解する。
「そうだ、普通はありえない。容量の上限が十の肉体に三十を無理やり押し込めるようなものだ。過剰な力に肉体が耐えきれず……本来なら産まれる前に死んでしまうものらしい」
実は、そういう例はカイトが唯一ではない。
ウィノら妖精たちの間では以前からその存在は確認されていたが、全員が流産という結果になっていて、あまり詳しい調査はなされてこなかった。
今のところ、亜種のうちなのではないかという説と、純血の上位種なのではないかという説があるが……──と、ウィノは言葉を濁した。
***
始まりは、フィンリが恋をしたこと。
種の存続のため、妖精たちは鍵を使って人間になることを禁じていたが、それを破るほどの熱情があったのだろうと、ウィノは彼女を責めることはなかった。
事前に兄弟に知らせなかったのは、出産を反対されると思ったからだろう。その点については思慮が足りなかったと言えるが、それでもフィンリひとりにこの結果の責任を負わせることはできない。
なぜなら万が一の備えでは足りないことが四つも重なってしまっては、もう、ヒトがどうこうできる範囲を超えるからだ。
一つは、フィンリが妖精の鍵を封印したからだで妊娠したこと。
二つ目は、宿った命が、人間なのに純血を超越した異端の存在だったこと。
三つ目は、本来なら産まれることのなかったその命を、妖精の鍵が救ったこと。
そして四つ目、水害。
カイトに封印が移ったその理由が、カイトの命を助けるためだったという点については、ウィノとカイトの意見は一致している。
カイトの肉体が過剰な力に耐えられるのは、鍵の助けがあってこそだ、と。
しかしなぜそうしたのか、妖精の鍵の気持ちについては、二人とも鍵と意思疎通できないため推測の域を出ない。
おそらくは情が移ったのではないか、とカイトは面映くもそう思った。
胎児だったカイトと鍵は、母親のからだの中で言うならば同居していたようなもの。同居人としての情か、はたまたそれ以上の、子の成長を見守る親のような気持ちが芽生えたのか──。
確実なのは、悪意ではなく、好意だったこと。
けれど鍵の好意は、妖精たちに思いがけない混乱を呼び、そしてカイトに深い業を背負わせることになった。
鍵のおかけで無事に産まれたカイトだったが、おそらくフィンリは出産時の出血が元で亡くなってしまったのではないか、とウィノは予想している。
この時、産まれたばかりの赤子が鍵を持っているとは誰も思っていない。唯一鍵が移ったことを感じ取れたフィンリは、それを伝える前に、それも人間の姿のままで息絶えてしまったから。
もし妖精の姿だったなら、死と同時に肉体は灰のように崩れ、村人たちもすぐに鍵がないことに気づけたかもしれない。
『守護者の村』の人間たちには、見張り役の身に何かあったときの取り決めがあった。
村には『妖精の笛』とカイト一行が呼ぶあの笛がひとつ残っていて、それを使って人間が次の見張り役を起こすという決まりだ。
土地柄なのか妖精の亜種が多く生まれたため、笛で妖精の羽が起こす振動と同じ音を出すことで、村人にもアルケーに封印された妖精を起こすことができたのだ。
けれどそれより前に、水害が村を襲った。
ウィノら何も知らない兄弟たちは水害後、フィンリが鍵を封印したまま土砂崩れに巻き込まれたのだと当然のように導き出し、メーディセインを探し回った。
けれど全ては水の底。証人である村人も、証拠となる出産の痕跡も全てだ。
約三百年経った現在、受け継いだ兄弟の記憶の点と点を繋いで、ウィノはやっとこの真実にこぎつけた。
カイトという正解が先になければ、『フィンリが人間に好意を抱いていた』という情報も、『近々村で出産があると言っていたが』という近隣の生き残った村人のうわさ話も、引っかからずに流してしまっていただろう。
そのため兄弟たちの記憶から想像するのもここまでが限界で、産まれたばかりのカイトがどうやって助かったかは、最早誰にも知る術はない。
そしてどういう巡り合わせか、メーディセインから流出した『妖精の笛』はいつしか聖会の宝物庫にたどり着き、同じくドワーフ王国から流出したもうひとつと一緒になって、アディーン大司教の手を経て、カイトが手に入れることとなる。
こうして本人も妖精たちも知らないまま、カイトはからだの中に妖精の鍵を封印することになった。
鍵が具体的にどうカイトの肉体を維持しているかは、カイトにもウィノにもわからない。
けれど世の道理を曲げるには、それ相応の代償が必要なのではないかとは予想できる。つまり妖精の鍵は、これまで自身に蓄積してきた力をカイトに分け与えることで、肉体を強化してくれているのでは、と。
それともう一つ、不老をもたらしたのは鍵の意思なのか、結果的にそうなってしまったのか、どちらなのかはわからないという点でも二人の意見は一致している。
カイトを死なせたくないという想いが暴走した結果ならば、前者。
そうではなく、例えばカイトの中身に合わせて強化された肉体は、気力・体力の全盛期である青年の姿に自然と合ってしまうのなら、後者だ。現状がもっとも釣り合いが取れているため、老化しない方が自然ということになる。
***
「えぇっと……ちょっと待ってね」
ユエはここまでの情報を整理しようと、いったんカイトの説明を止める。
「カイトは産まれる前から妖精の鍵を封印していて、そのおかげで無事に産まれたけど、そのせいで歳を取らないからだになって……つまり、鍵を取り出したら……」
カイトの不老の原因がわかったのに、それを取り除くことは死を意味するなんて──天国と地獄が隣り合わせだと気づいて、ユエはまたくしゃっと顔を歪める。
けれど今度は涙は堪えた。
『簡単に死んでやる気はない』──ここで話が終わりではなく、何か秘策があるからこそカイトはこんなことを言ったんだ、と信じて。
「状況は絶体絶命ではあるが、それは一発逆転の好機でもある」
カイトは勝負師の顔になって、ユエの両肩に手を置いた。
「要は、妖精の鍵を取り出しても俺が死なないようにすればいい」
「どう、やって……?」
「俺の中の過剰な力を取り出せれば、全部解決すると思わないか?」
「え……?」
絡まった糸の中から、カイトは始まりの端を見つけてみせた。
カイトに妖精の鍵が必要なのは、生まれ持った過剰な力に耐えうるよう肉体を強化してもらうため。翻せば、過剰なそれが正常になれば、鍵に強化してもらう必要はなくなる。
「で、でも、それってカイトの生まれつきなんでしょう?それを取り出すことなんて、できる、の?」
希望にすぐ飛びついて、すぐ裏切られないようにと、ユエは慎重になっている。
「できる──とは、言い切れない」
やっぱりという顔をするユエに、カイトは「けれど、できないとも言い切れない」と続ける。
「……これから方法を探すってこと?」
ユエの無言の抗議の中には、(そんな悠長な。じゃあ、なんで半年後なんて時間制限をつけたの?)という気持ちがありありと透けて見える。
「いや、ひとつ、方法を思いついてはいるんだ」
言い訳するように言ってから、カイトは思わずもう一度念を押してしまう。「……怒るなよ」
「……おれが怒りそうな方法なの?」
じと、と睨まれて、カイトは藪蛇だったかと焦る。
「というより……お前ばかりに負担をかけることになるから、悪いとは思ってる」
「……どういうこと?」
「問題なのは、世界の鍵を開けるのは、なるべく早い方がいいということだ」
「……うん」
「俺の不老を解消することは、特段、急ぎではない。むしろ時間をかけてじっくり検証した方がいいのに、不老の元となっている鍵は早く取り出さなくてはならない」
「急がなくちゃいけないのに、時間もかけなくちゃ、いけない?」
「そう。その時間的な矛盾が問題だ。だから俺が考えた方法は……」
「方法は?」
「延命だ」
「えんめい?」
それほど使用頻度が高い単語ではないはずなのに、聞き馴染みがあって、その場面を思い出そうとユエは記憶を手繰った。手繰った先にあったのは、メーディセイン突入前のウィノの昔語り。
──約千年前、純血が生まれなくなった妖精たちは、自らをアルケーに封印し眠ることで、延命することを選んだ。
「仮死状態になって寿命を延ばす……」
ほとんど無意識に口からこぼれた言葉に、ユエは自分でハッとなった。
カイトも同じく驚いた表情だが、こちらはユエがすぐ正解に結びつけたことに対する驚きだった。
自分の思いつきが正解だったことを、ユエはその表情から知らされる。
色々な混乱でまだ頭が回らないのに、カイトは容赦なく結論をまとめた。
「妖精の鍵を取り出すと同時に、俺のからだをアルケーに封印する。そうすれば……とりあえず、すぐ死ぬことはないはずだ」
******
「つまり、急ぎである鍵のことを先に片付けて、その後時間をかけてカイトのことを考えよう──というのが、わたしとカイトの出した結論」
同じ説明をウィノから受けた仲間たちは、一斉に沈黙した。場所は旧スミュルナのバルボア邸。ヘイレンが呼んだ船の準備ができるまで、滞在させてもらっていたのだ。
ウィノがこちらの組についてきたのには、伝言板の役割をカイトに頼まれたからでもあった。それから、少しでも恋人たちに二人きりの時間をあげたいという、老婆心も。
「あれ?あっ!そっか、そういうこと?!」
息苦しい沈黙を、ヘロンの明るい声が破る。
「妖精の鍵を取り出して、鍵を開けたら、またカイトの中に戻せばいいんじゃん?不老は解決しないけど、それはまた鍵を開けた後で考えればいいんだし!」
おお!と沸き立ちかけた興奮を、「それはできない」ウィノがすぐさま消す。
「でき、ないの?」
「カイトは人間で、今、彼の中に鍵が封印できているのは、無理やり道理を曲げた結果。一度取り出したら、もう二度と封印はできない」
「……やり直しはきかないってことか」
誰よりも暗い顔で、ヘイレンがつぶやく。
「あのさ、そもそもの話、鍵を取り出すことはできるの?」
はい、と手を挙げてクレインが訊く。
「それは可能。確かめたから」
「確かめたって」
「カイトの胸に妖精の鍵があること、そしてわたしがそれに触れることができることは、もう確かめた」
「……でも、取り出した後にカイトがどうなるかは、実際にやってみなくちゃわからないよね」
わざと悪役を買って出るように、クレインはウィノに突っかかる。
「順番を間違えなければ、まず大丈夫だと」
「順番?」
「まずカイトをアルケーに封印する。それから鍵を取り出す──そうすれば肉体はアルケーに守られるはず」
「『はず』でしょ。確実じゃない」
「事前にある程度の実証はできると思う」
睨みつけていた目をふい、と外して、クレインは「ごめん、ウィノが悪いわけじゃないのに」と謝った。ぶつける先のない怒りを持て余していることは、自分でもわかっているのだ。
ウィノも理解して、無言で気にするなと首を振る。
「俺も聞きたいことがあるんだが、いいか?」次に手を挙げたのはフェザント。
「アルケーに封印して仮死状態にってのは、確か、妖精しかできないんじゃなかったっけか」
「そんなことはない」
「あれぇ?でも確か」
「わたしが言った?」
「ん?あれ……違うな。ウィノから聞いたんじゃない……俺たちが勝手にそう思っただけか……?」
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「いや、でも、妖精は他とは睡眠の質が違ってて、その生態を高めて仮死状態を可能にしたとか、なんとか」
「ああ、それは、百年、千年単位の延命ならと言う話だ。人間でも数年ならば……長くて十年ほどなら可能だろう」
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そう提案しておきながらウィノは、「けれどカイトの場合、延命期間が長ければ長いほどいい、というものではないから」と、背中の羽をしょんぼりさせる。
「……そりゃ、十年以上はきついよ」
「待てないよね。ユエが、つらい」
延命したとしても、時間が無限にあるわけではない。
不老を解消するのは、カイトがユエとともに生きるため。長期戦になって十年も二十年もユエをひとりで待たせることを、例え本人が承知しても、カイトは是とはしないだろう。
「ってことは、こういう流れになるのか」
最初に立ち直ったアイビスが、やるべきことをはっきりさせてくれる。
「カイトをアルケーに封印する。妖精の鍵を取り出す。世界の鍵を開ける。それから、数年のうちに俺たちで、カイトの過剰な力を抜く方法を確立する──」
「その間に、鍵が開いて混乱した世界を、カイト抜きで乗り切らなきゃなんねぇぞ」
整然とした道筋を乱すように、ヘイレンが口を挟んだ。
『数年』を何とか前向きに捉えようとしていた仲間たちは、言われて初めて、ひやっと足を踏み外したような恐怖に襲われる。
──カイトがいない。
もちろんユエとは比べ物にならないけれど、自分たちもカイトという絶対的な道標の不在を覚悟しなければならないのだと気づき、その心許なさに不安が伝染していく。
「……やるしかない」
ここで崩れないで済んだのは、自分たちがあの二人を支える番だと思ったからだ。
「まずはしっかり使者の役割を果たさないとな」
「おう!そんでなるべく早く、あいつらを助けにいかねぇと」
この計画を知らされて、ユエがどれほど不安だろうかと心配するフェザントだったが、ジェイがぼそっと異論を唱える。
「いや、むしろ、俺たちはなるべく遅れて行った方がいいんじゃないか?」
「えっ、どうして?」
フェザントと同意見だったラークは、居ても立っても居られないとすでに半分腰を浮かせている。
「いや、だって……二人きりにしてやった方がいいんじゃないか」
「あ……」
残された短い時間を恋人水入らずで──そんなしんみりした空気になりかけたが、「なに言ってんの」クレインがふん、と吹き飛ばす。
「さっさと集まって、意見を出し合った方が建設的でしょ。鍵を開けた後の対処とか、力を抜く方法とか、今から話し合っておいた方がいいに決まってるし。それに、まだ諦めるには早いんじゃない?」
「諦めるって?」
「なんかカイトもウィノも、鍵を取り出す前になんとかしようとはもう思ってないみたいだけど、まだ半年もあるんだから!」
「えっと……半年の間で、カイトの問題を解決してしまおうという……?」
「そう!そうなったら、なんの問題もなくなるでしょ!」
「……クレイン、なんか怒ってないか?」
恐々、機嫌を取るように訊くジェイに、クレインは威勢よく「怒ってるのは、ユエなんじゃない?」
「ユエが?」
「俺だったら怒るけど?カイトとウィノだけで勝手に決めちゃって、ユエには事後報告で、あと半年なんて言われたら。しかも!鍵を取り出した後のことは、ぜ~んぶユエに丸投げなんて!」
自分が怒られたように首をすくめるジェイに代わって、ウィノがカイトを執りなす。
「あ、いや、丸投げというほど無責任では」
「そう?そうは思えないけど」
「一応、力を取り出す方法を考えてはいる」
「へぇ、どんな」
「三鍵を使う方法」
「鍵を?」
興味が移ったことでクレインの怒りを逸らすことに成功し、ジェイもウィノもこっそりホッとした。
「三種が人間になる時、自前の力を鍵にいったん保存することになる。つまりそこだけ切り取れば、力を吸収する能力があるということ」
「そんな単純なもの?」
「もちろん今のままでは無理。人間にも使えるようにしなければ」
「人間にもって……そんなことできるの?」
「不可能だと、わたしは思っていた」
ウィノの認識では、鍵を使って人間になった純血と生まれながらの人間は、近いようで遥かに遠い関係だった。
ひと世代で一気に何百年もの進化を経るようなもので、進化は不可逆であるから、人間は純血には戻れないのだと。
人間が鍵を使えない理由も同じで、全く別のイキモノだからだとそこで思考停止していたのだ。
しかしカイトは事もなげに『ならば鍵も進化させればいい』と言って、ウィノの目を覚まさせた。
──『俺が謂わば三種の合成種なら、三鍵を統合してひとつにした鍵は、俺に対応するものになるんじゃないか』
鍵と鍵穴がぴったり合った──その時のウィノの心境はまさにそれだった。
しかもカイトはこの方法の問題点である、鍵をひとつにするためには妖精の鍵を取り出さなくてはならない点についても、アルケーを使って封印するという解決策を提示した。
この道が示された時、ウィノは『もうこれしかない』とまで思い込んで、感嘆したものだ。
「なるほど……その方法だと、どの道、鍵を取り出してからが勝負ってわけだ」
無策ではなく、かなり確率の高そうな方法を考えていたことについては、クレインも納得してくれた。
けれど理屈と感情は違うようで、「……だから、なんでそれを相談しないかな」と声を低める。
「ぜんぶ勝手に決めちゃって。責任はぜんぶ自分がかぶるつもりとか?そんなのかっこつけてるだけでしょ」
「あ、いや、カイトはユエや君たちに酷な選択をさせたくない、と」
「でもそれって、俺たちのこと信用してないってことじゃない?」
「大切だからこそだと思うが」
「俺がユエなら、俺の意見は聞いてくれないのかって怒るけど?」
「だから、カイトもこれから話して、ユエの意見を──」
「これからじゃ遅いって言ってんの」
なぜかクレインとウィノでユエとカイトの代理戦争を始めてしまって、周りはポカンだ。
けれど当の本人のウィノは、最初の反応のまま沈黙が続くよりは、こうして言い返された方がずっと気が楽だった。
いつの間にか言い争いは周りにも波及して、「ユエは絶対こうする」「ならカイトはこう言う」という予想合戦から、「どの組が一番最初にベレン領へ行けるか」という競争に発展し、「こっちは不利だ」とか「こっちなんか大変だ」とか「いや、俺たちの方が大変だ」とか、最後にはよくわからない争いになっていく。
仲間たちのこの明るさは、ウィノにとって救いとなった。
兄弟たちが聖会の手に落ちてから、ウィノは全てをひとりで背負ってきたため、誰かに相談するという考えがなかった。だからクレインがカイトに向けている怒りは、ウィノの耳にも痛い。
相談しろ!頼れ!──けれど間接的に怒られて、ウィノの心は軽くなる。
ウィノは『鍵を開けよう』と彼らに言わせてしまったことを悔やんでいた。それはつまり『カイトに死んでほしい』と同義だと思っていたからだ。
けれど仲間たちは同義ではないと信じて──いや、同義にしないために、すぐに前を向いた。
ウィノはたくましい仲間たちに囲まれて、勝手に絶望していた自分を恥じる。そして軽くなった心の中からは、用意していた謝罪が消えていた。
「ふふ」くだらないやり取りにウィノは思わず笑ってから、声を出して笑ったのはいつぶりだろうと自分の頬に触る。久しぶりすぎて感情に表情がついてこなかったため、引きつった頬が痛かった。
そんな自分にまた笑って、そして今笑える自分に安心する。それは絶望を脱した証だと思えたからだ。
なんとかなる──いや、なんとかする。
そう思わせてくれた仲間たちに、ウィノは心の中で感謝した。
******
「カイトのばか……!」
クレインの予想通り、ユエは激怒した。「なんでひとりで勝手に決めちゃうの!?なんでおれに相談してくれなかったの?半年なんて……すぐだよ?こんなのって……」
「ユエ、」
抱き締めようとしたカイトの胸をどんっと突き離して、「ひどいっ!カイトなんて、もう知らない……!」ユエは部屋を飛び出した。
バタン、とドアが閉まって、だんだんだん!と足音が遠去かる。
けれどユエは、仲間たちの予想を超えてくる。
遠去かった足音は三歩で踵を返し、とたとたとた、とまた三歩で戻ってくると、バンっ!と閉じたばかりの扉が開かれる。
部屋へ飛び込んできた勢いそのまま、どんっ!とからだごとぶつかるようにカイトの胸へ飛び込む。
「……ごめん。知らないなんて、うそ。ばかなんて言ってごめんなさい……」
このとんぼ返りにはカイトも驚くが、ユエにならって時間を無駄にすることはやめた。
素直に抱き締めて、耳元でささやく。
「お前が嫌なら、逃げてもいい」
「逃げる……?」
「世界も鍵も仲間もぜんぶ放り投げて、ふたりだけでどっか田舎にでも引っ込んで──」
「それで、世界が壊れるのを待つの?」
『その道を選んで、自分を許せるのか』──互いに相手の目から問いかけられて、ふたりは同時に「ふ、」と息を吐いた。もう二度とこの選択肢が示されることはないと、答えはなくとも通じる。
心は決まった。
鍵は開ける、けれどカイトは死なせない──それが目指す道だ。
「……カイトはさっき、おれに賭けたって言ったよね」
「ああ。呪いとお前の勝負だ。そんなもん、お前が勝つに決まってる」
「わかった。任せて。おれが絶対、カイトの呪いを解くから」
キリリと力強く請け負ってから、次の瞬間には、ユエの顔はふにゃりと情けなく崩れていた。
「でも、怖いよ。怖いときに、カイトに抱き締めてもらえないのが、こわい」
ユエにとってできるか・できないかの議論はあまり意味がない。なぜなら、できるまで諦めないつもりだからだ。
けれど諦めない気持ちを維持することの難しさは知っているから、心が折れそうな時にカイトの支えがないことが、今から想像すると怖くてたまらない。
「ウィノの話を聞くに、封印されたら時間の感覚も痛覚なんかもなくなって、たぶん俺はただ眠るだけだ。だから、お前ばかりがつらい思いをすることになる。ユエ、わる──」「謝らないで。カイトは悪くないもの」
ユエはカイトの胸に頭をぐりぐり押しつけるようにして、首を横に振る。顔を上げさせて視線を合わせると、カイトは服に擦れて赤くなったひたいに口づける。
「じゃあ謝る代わりに、先払いで賭け金を払わせてくれ」
「賭け金?」
「あと半年、ユエ、お前が王様だ」
いきなりそんなことを宣言されて、ユエは目を丸くする。
「その間俺はお前のことしか考えないし、なによりもお前を優先する。寂しい思いをさせる分、先払いで存分に甘やかしてやる」
どう見ても臣下に見えない尊大な態度だが、カイトの誠意は伝わった。
「……おれが王様?」
「なんでも言うこときいてやるぞ」
「なんでも?」
「なんでも。それに先払いだけじゃあ足りないからな。目が覚めた後にも追加で後払いする」
「なに、してくれるの?」
「ひとりにした分、ずっと一緒にいる。家を建てて、二人で住もう。毎日抱き合って、毎日口づけして、一緒に過ごして、一緒に歳を取って──死ぬまで一緒にいてやる」
照れもなく言い切ったカイトの目の中には、一切の不安は浮かんでいなかった。
いくら事前に触れ合っても、未来の約束があっても、その時の寂しさが埋まらないことはもちろん双方わかっている。
けれどカイトは言わずにいられなかったし、ユエもそれにすがるしかない。
「約束?」
「ああ、約束する」
「……なら、さみしいのも我慢する」
強がって笑ってみせるユエを、カイトは誰にも奪わせないとばかりに腕の中に閉じ込める。同じ強さでユエも抱き締め返す。
呪いにも運命にも、カイトを奪われないように。
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