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第二章 十字行路に風は吹く
15 ギルド
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十字行路に突き当たった一行の目の前には、石畳の道がどこまでも続いている。騎乗または馬車で駆ける人々と、徒歩の人々がすれ違うのに十分な広さもある。
十字行路は移動するには便利だが、しっかりと管理されているため、貧乏旅には向かない。野宿を禁止している国も多く、宿に泊まれない旅人は、わざわざ道を外れて郊外まで足を運ばなければならない。
決まった相手からしか仕入れない店も多く、金に困ったからと簡単に何かを売るということも難しい。
事前に一行はこう計画を立てていた。
まずはちょうどいい仕事があるか探すこと。十字行路をベレン領まで北上する、護衛の仕事があれば最高だ。
しかしそう上手く仕事が転がっているとは思えない。もし無ければ、宿には泊まらず、馬で一気に駆け抜ける強攻策に切り替えるつもりだった。
******
他の面々に荷物の整理と補充を頼み、一人雑踏に消えようとするカイトを、アイビスがすんでのところで引き留めた。
「待て、ギルドに行くんだろう?俺も行く」
聞き慣れない単語に、「ギルド?」ユエが誰にともなく聞き返すと、
「お前も来てみるか?」
カイトに誘われ、少し考えてから頷いた。
行路上には、今までユエが見てきた人間を全て合わせたより多いのではないかと思えるほどの人が溢れている。
並んで何かを相談するカイトとアイビスの後ろを、フードで顔を隠して付いて行く。
目的の建物は、他の店に比べて広い間口と、十頭ほどの馬が並んでいるのが特徴的だ。そこに出入りするのは、武器を携えた屈強な男たちだった。
たくさんの紙が貼られた板の前に、人が集まっている。そこをカイトとアイビスで確認したが、目に叶う依頼はなかったため、カウンターに並んで「他に仕事はないか?」カイトが自分の腕を見せながら問いかける。
カイトの腕輪を確認したカウンターの男は、「少々お待ちを」といくつもの用紙を広げてから、「銀、銀……」とその中の四枚を選り分けた。
「この四枚はどうですか?」
「……悪いが合わないな。十字行路を北上する仕事はないか?できればベレン領かその近くまで……八人組で銀が二人、銅が一人いる。子どもが混じっていても構わない、心の広い雇い主がいいんだが。一応子どもも赤を持っていて経験はある」
「子どもぉ?またずいぶんと条件が多いですな……いくら銀が二人でも……っと、待てよ、確か昨日……」
初老の男はぶつぶつと文句を呟きながら立ち上がって、カウンターの奥の扉の中へ消えて行った。
少しして戻って、カイトの前に一枚の紙を広げる。
「ちょうど何日か前に、隣のギルドから届いた依頼でね。あっちの街で公演しているサーカス団の護衛兼、雑用の依頼ですよ。何でもけが人が続出で、護衛も公演も手が足りないとか。ベレン領までは行かないが、十字行路を北上予定。女性も多いから、団員に手を出さない、信頼できる護衛をお望みだ。料金は……まあ相場より安いが、『女性も子どもも可』となっているから、そちらさんの条件にも合うだろう」
カイトは依頼書に一通り目を通し、アイビスに渡す。
「けが人……何か想定外の問題でもあったのか?」
「さあね。その辺りは直接聞いてくれや。受ける気なら、受付は隣のギルドになる」
読み終わったアイビスから頷きをもらい、カイトは男に「受ける」と依頼書を返す。男から何かを書き込んで判子をもらった別の紙を受け取って、その場を後にした。
「……あそこは何だったんだ?仕事をもらったのか?」
黙って成り行きを見守っていたユエは、カイトの袖口を引っ張って、いくつも浮かんでいた疑問の一つを投げかける。
「あそこは『ギルド』と呼ばれている。色々な仕事を仲介する場所だ。ほとんどは傭兵の紹介だがな」
「傭兵……『銀』とか『赤』とか言っていたのは?」
「階級のことだ。実績に応じて上がる仕組みになっている。赤から銅、銀、金、とな。赤は基本的にはギルドに登録すればもらえる。それからこなした仕事の数や評価に応じて、銅に上がる。俺とジェイが今のところ銀、アイビスが銅で他は赤だ。ほら、俺のモノはここが銀色、アイビスは銅色になっているだろう」
さっきの男に示したように、カイトが自身の腕とアイビスの腕を並べて見せてくれる。
カイトの言葉通り、二人の腕には同じ腕輪が嵌っていたが、その中心を一周する一本の線の色だけが違っていた。
「……馬がたくさんいた」
「馬貸しもしているからな。ギルドは商会が管理している」
「商会……?」
「正式には『ヴァンダイン商会』。世界最大の貿易会社だ。十字行路では特に、商会なくして流通は回らないと言われるほどだ」
ヴァンダイン商会が世界最大になったのは、その組織力と公平性にある。
基になったのは小さな商船だと言われていて、海上で始め、陸に上がって規模を拡大させた。
商会はあくまで貿易が主で、小売店は持たない。しかしその分、世界各地にギルドを設け、そこを通してその土地の状況を把握して、上手く流通を回している。『一つの町に一つのギルド』と言われるほどの数を誇り、それによって馬貸しや傭兵の紹介はずっと便利になった。
そして商会は今でも海上の大きな船を本拠地にしていて、国や領地のしがらみを超えて商売ができるのだ。『本物』しか取り扱わず、商会のお墨付きをもらった商品は桁違いに信頼されているし、今やギルドに登録しなければ、傭兵の仕事はないとも言われるほどだ。
「他に質問は?」
他の五人と合流するまでカイトは、ユエの質問に律儀に答え続けた。
******
その日の昼過ぎには、隣の街のギルドまで辿り着くことができた。
依頼主は恰幅のよい中年の男だ。
「こちらもあの条件で引き受けてくれるとは思ってなかったからね、助かるんだが……」
ギルド内の一室で顔を合わせた一行を見回して、少し心配そうに眉を寄せる。
「……俺たちでは不安ですか?」
依頼書には『女性、子どもも可』となっていたが、いざ目の前にしたら気が変わったのだろうか、とアイビスが尋ねる。今までにもあったことだ。いかにも『子どもな』ラーク、ヘロンや、華奢なクレインの見た目は、一見頼りなく映るのだろう。実際は三人とも戦えるし、その特性を生かして他にはできない仕事ができるのだが、それは外見では分かってもらえない。
しかしアイビスのその懸念は、全くの的はずれであった。
「ああ、いやね、君たちの腕を疑っている訳ではないんだよ」
カールと名乗った依頼主は、人好きのするいたずらっぽい笑顔になって、
「私が心配しているのは、君たちの『腕』じゃなくて……『顔』なんだよ」
「……はぁ?」
思いがけない言葉に、アイビスの真面目な顔が崩れる。
「いやね、うちのサーカス団は若い女の子も多くいてね。君たちみたいなかっこいい子たちに、クラっとしてしまうんじゃないかってね」
「はぁ……」
『かっこいい』と面と向かって言われて、否定も言葉通り受け取ることもできず、曖昧な返事になる。
「ははは、すまないね。でも……あながち冗談ではなくてね」
顔を引き締め直して、カールは姿勢を正す。
「うちの女の子たちがお熱になってしまうのも困るんだが、その反対も、ね」
「……つまり、俺たちが団の女性に手を出す、と?」
いかにも『心外だ』と鼻を鳴らしたアイビスに、カールは「いやいや!」と大げさにブンブンと手を振る。
「もちろん君たちを疑っている訳ではなくてね!ギルドからも信用できるとお墨付きをもらっているし。ただ……困ったことに、そういうことは今までにもない訳ではなくってね。こっちとしても過敏になっているんだよ。なにせ、うちの自慢の女性陣はとっても魅力的だから」
最後には片目をバチンと閉じて目配せまでする。言うべきことをはっきり伝えながらも、相手を不快にさせないところは、団を率いる団長としての貫禄が見えた。
「『今までにも』?けが人が出ていると聞いたが、もしかして何か……?」
カイトが言葉を拾うと、カールは顔を曇らせる。その表情の変化はまるで、彼自身が役者のような芸達者ぶりだ。
「さよう……我がアンナ・リーリアサーカス団は、各地の祭や催しに招かれて、旅をしながら芸を披露しているんだがね。先の公演で、少しばかり面倒が起きてね。その土地のとある権力者の誕生祭に招かれて、公演自体は上手くいったのだが……」
「分かった!!」
ヘロンが口を挟む。
「あれだろ?その権力者ってやつが女の子に手を出した!だろ?!」
「おお!正解だ、少年よ!」
急に大きな声を出したヘロンを咎めるどころか、パチパチと拍手まで送ってみせるカールに、一行は親しみを込めた苦笑を送る。
「正確には『手を出されそうになった』だがね。我々はあくまで芸を見せるだけだ。しかし中には、彼女たちを娼婦か何かと勘違いする愚か者がいなくならなくてね」
『夜の相手を』との要求を突っぱねたところ、町を出るまでに盗賊を名乗る一団に襲われ護衛がケガをした上に、道具に細工をされていたのか、練習中にけが人が出てしまったのだ。
この街までは無事辿り着き、公演もなんとか終えたのだが、もしこの先も嫌がらせが続くようならば、今の戦力では心許ないということで、急遽護衛の依頼を出したのだ。
「まあ、ゴロツキを雇った程度で、ここ十字行路にまで手を出せるほどの力はないだろうけどね。でもうちのは護衛と言っても、普段は裏方もしている団員でね。戦力も欲しいが、正直に言って、そっちの手の方が切実なんだよ」
だからこそ『護衛兼雑用』などという、無茶な依頼をダメ元で募ったのだ。
「安心してくれ。ウチの連中は大丈夫だ。ラークとヘロンはこの通り子どもだし、フェザントは亡くした奥方一筋。こっちのアイビスは故郷に婚約者がいる」
「おい!」
それぞれを指しながら、カイトが紹介していく。
「俺とユエ、ジェイとクレインは恋人だ」
「おい!!」
「と、言うことにしておいてくれればいい」
アイビスの突っ込みを完全に無視して、最後はカールに目を向ける。
「そちらが事情を話してくれたんでね、こっちもぶっちゃけよう。俺たちは金がない。寝床と食事を提供してくれるなら、この料金で引き受けよう。ベレン領の南東まで行くんだろう?」
「そうだね。十字行路上で何度か公演をしながら北上して、ひと月後の秋祭りに間に合うように、カルメリアに到着予定だ。君たちに頼みたいのは、カルメリアまでの道中。秋祭りの時には、けが人も回復してくるだろうから」
「それならますますちょうどいい。カルメリアからなら、ベレン領はすぐだ。俺たちには目的地がある。女にうつつを抜かしている暇はないから、安心してくれ」
「ええーー?!俺はいつでも運命の女を探しているぜ!?」
ヘロンの主張はむしろ、カールを安心させるものだった。
「はははっ!!いや、なかなか面白いね!!気に入ったよ!これでも人を見る目はあると自負しているんだ。己の目を信じることにしよう。旅は出会い──双方にとってよい出会いとなればいいね」
十字行路は移動するには便利だが、しっかりと管理されているため、貧乏旅には向かない。野宿を禁止している国も多く、宿に泊まれない旅人は、わざわざ道を外れて郊外まで足を運ばなければならない。
決まった相手からしか仕入れない店も多く、金に困ったからと簡単に何かを売るということも難しい。
事前に一行はこう計画を立てていた。
まずはちょうどいい仕事があるか探すこと。十字行路をベレン領まで北上する、護衛の仕事があれば最高だ。
しかしそう上手く仕事が転がっているとは思えない。もし無ければ、宿には泊まらず、馬で一気に駆け抜ける強攻策に切り替えるつもりだった。
******
他の面々に荷物の整理と補充を頼み、一人雑踏に消えようとするカイトを、アイビスがすんでのところで引き留めた。
「待て、ギルドに行くんだろう?俺も行く」
聞き慣れない単語に、「ギルド?」ユエが誰にともなく聞き返すと、
「お前も来てみるか?」
カイトに誘われ、少し考えてから頷いた。
行路上には、今までユエが見てきた人間を全て合わせたより多いのではないかと思えるほどの人が溢れている。
並んで何かを相談するカイトとアイビスの後ろを、フードで顔を隠して付いて行く。
目的の建物は、他の店に比べて広い間口と、十頭ほどの馬が並んでいるのが特徴的だ。そこに出入りするのは、武器を携えた屈強な男たちだった。
たくさんの紙が貼られた板の前に、人が集まっている。そこをカイトとアイビスで確認したが、目に叶う依頼はなかったため、カウンターに並んで「他に仕事はないか?」カイトが自分の腕を見せながら問いかける。
カイトの腕輪を確認したカウンターの男は、「少々お待ちを」といくつもの用紙を広げてから、「銀、銀……」とその中の四枚を選り分けた。
「この四枚はどうですか?」
「……悪いが合わないな。十字行路を北上する仕事はないか?できればベレン領かその近くまで……八人組で銀が二人、銅が一人いる。子どもが混じっていても構わない、心の広い雇い主がいいんだが。一応子どもも赤を持っていて経験はある」
「子どもぉ?またずいぶんと条件が多いですな……いくら銀が二人でも……っと、待てよ、確か昨日……」
初老の男はぶつぶつと文句を呟きながら立ち上がって、カウンターの奥の扉の中へ消えて行った。
少しして戻って、カイトの前に一枚の紙を広げる。
「ちょうど何日か前に、隣のギルドから届いた依頼でね。あっちの街で公演しているサーカス団の護衛兼、雑用の依頼ですよ。何でもけが人が続出で、護衛も公演も手が足りないとか。ベレン領までは行かないが、十字行路を北上予定。女性も多いから、団員に手を出さない、信頼できる護衛をお望みだ。料金は……まあ相場より安いが、『女性も子どもも可』となっているから、そちらさんの条件にも合うだろう」
カイトは依頼書に一通り目を通し、アイビスに渡す。
「けが人……何か想定外の問題でもあったのか?」
「さあね。その辺りは直接聞いてくれや。受ける気なら、受付は隣のギルドになる」
読み終わったアイビスから頷きをもらい、カイトは男に「受ける」と依頼書を返す。男から何かを書き込んで判子をもらった別の紙を受け取って、その場を後にした。
「……あそこは何だったんだ?仕事をもらったのか?」
黙って成り行きを見守っていたユエは、カイトの袖口を引っ張って、いくつも浮かんでいた疑問の一つを投げかける。
「あそこは『ギルド』と呼ばれている。色々な仕事を仲介する場所だ。ほとんどは傭兵の紹介だがな」
「傭兵……『銀』とか『赤』とか言っていたのは?」
「階級のことだ。実績に応じて上がる仕組みになっている。赤から銅、銀、金、とな。赤は基本的にはギルドに登録すればもらえる。それからこなした仕事の数や評価に応じて、銅に上がる。俺とジェイが今のところ銀、アイビスが銅で他は赤だ。ほら、俺のモノはここが銀色、アイビスは銅色になっているだろう」
さっきの男に示したように、カイトが自身の腕とアイビスの腕を並べて見せてくれる。
カイトの言葉通り、二人の腕には同じ腕輪が嵌っていたが、その中心を一周する一本の線の色だけが違っていた。
「……馬がたくさんいた」
「馬貸しもしているからな。ギルドは商会が管理している」
「商会……?」
「正式には『ヴァンダイン商会』。世界最大の貿易会社だ。十字行路では特に、商会なくして流通は回らないと言われるほどだ」
ヴァンダイン商会が世界最大になったのは、その組織力と公平性にある。
基になったのは小さな商船だと言われていて、海上で始め、陸に上がって規模を拡大させた。
商会はあくまで貿易が主で、小売店は持たない。しかしその分、世界各地にギルドを設け、そこを通してその土地の状況を把握して、上手く流通を回している。『一つの町に一つのギルド』と言われるほどの数を誇り、それによって馬貸しや傭兵の紹介はずっと便利になった。
そして商会は今でも海上の大きな船を本拠地にしていて、国や領地のしがらみを超えて商売ができるのだ。『本物』しか取り扱わず、商会のお墨付きをもらった商品は桁違いに信頼されているし、今やギルドに登録しなければ、傭兵の仕事はないとも言われるほどだ。
「他に質問は?」
他の五人と合流するまでカイトは、ユエの質問に律儀に答え続けた。
******
その日の昼過ぎには、隣の街のギルドまで辿り着くことができた。
依頼主は恰幅のよい中年の男だ。
「こちらもあの条件で引き受けてくれるとは思ってなかったからね、助かるんだが……」
ギルド内の一室で顔を合わせた一行を見回して、少し心配そうに眉を寄せる。
「……俺たちでは不安ですか?」
依頼書には『女性、子どもも可』となっていたが、いざ目の前にしたら気が変わったのだろうか、とアイビスが尋ねる。今までにもあったことだ。いかにも『子どもな』ラーク、ヘロンや、華奢なクレインの見た目は、一見頼りなく映るのだろう。実際は三人とも戦えるし、その特性を生かして他にはできない仕事ができるのだが、それは外見では分かってもらえない。
しかしアイビスのその懸念は、全くの的はずれであった。
「ああ、いやね、君たちの腕を疑っている訳ではないんだよ」
カールと名乗った依頼主は、人好きのするいたずらっぽい笑顔になって、
「私が心配しているのは、君たちの『腕』じゃなくて……『顔』なんだよ」
「……はぁ?」
思いがけない言葉に、アイビスの真面目な顔が崩れる。
「いやね、うちのサーカス団は若い女の子も多くいてね。君たちみたいなかっこいい子たちに、クラっとしてしまうんじゃないかってね」
「はぁ……」
『かっこいい』と面と向かって言われて、否定も言葉通り受け取ることもできず、曖昧な返事になる。
「ははは、すまないね。でも……あながち冗談ではなくてね」
顔を引き締め直して、カールは姿勢を正す。
「うちの女の子たちがお熱になってしまうのも困るんだが、その反対も、ね」
「……つまり、俺たちが団の女性に手を出す、と?」
いかにも『心外だ』と鼻を鳴らしたアイビスに、カールは「いやいや!」と大げさにブンブンと手を振る。
「もちろん君たちを疑っている訳ではなくてね!ギルドからも信用できるとお墨付きをもらっているし。ただ……困ったことに、そういうことは今までにもない訳ではなくってね。こっちとしても過敏になっているんだよ。なにせ、うちの自慢の女性陣はとっても魅力的だから」
最後には片目をバチンと閉じて目配せまでする。言うべきことをはっきり伝えながらも、相手を不快にさせないところは、団を率いる団長としての貫禄が見えた。
「『今までにも』?けが人が出ていると聞いたが、もしかして何か……?」
カイトが言葉を拾うと、カールは顔を曇らせる。その表情の変化はまるで、彼自身が役者のような芸達者ぶりだ。
「さよう……我がアンナ・リーリアサーカス団は、各地の祭や催しに招かれて、旅をしながら芸を披露しているんだがね。先の公演で、少しばかり面倒が起きてね。その土地のとある権力者の誕生祭に招かれて、公演自体は上手くいったのだが……」
「分かった!!」
ヘロンが口を挟む。
「あれだろ?その権力者ってやつが女の子に手を出した!だろ?!」
「おお!正解だ、少年よ!」
急に大きな声を出したヘロンを咎めるどころか、パチパチと拍手まで送ってみせるカールに、一行は親しみを込めた苦笑を送る。
「正確には『手を出されそうになった』だがね。我々はあくまで芸を見せるだけだ。しかし中には、彼女たちを娼婦か何かと勘違いする愚か者がいなくならなくてね」
『夜の相手を』との要求を突っぱねたところ、町を出るまでに盗賊を名乗る一団に襲われ護衛がケガをした上に、道具に細工をされていたのか、練習中にけが人が出てしまったのだ。
この街までは無事辿り着き、公演もなんとか終えたのだが、もしこの先も嫌がらせが続くようならば、今の戦力では心許ないということで、急遽護衛の依頼を出したのだ。
「まあ、ゴロツキを雇った程度で、ここ十字行路にまで手を出せるほどの力はないだろうけどね。でもうちのは護衛と言っても、普段は裏方もしている団員でね。戦力も欲しいが、正直に言って、そっちの手の方が切実なんだよ」
だからこそ『護衛兼雑用』などという、無茶な依頼をダメ元で募ったのだ。
「安心してくれ。ウチの連中は大丈夫だ。ラークとヘロンはこの通り子どもだし、フェザントは亡くした奥方一筋。こっちのアイビスは故郷に婚約者がいる」
「おい!」
それぞれを指しながら、カイトが紹介していく。
「俺とユエ、ジェイとクレインは恋人だ」
「おい!!」
「と、言うことにしておいてくれればいい」
アイビスの突っ込みを完全に無視して、最後はカールに目を向ける。
「そちらが事情を話してくれたんでね、こっちもぶっちゃけよう。俺たちは金がない。寝床と食事を提供してくれるなら、この料金で引き受けよう。ベレン領の南東まで行くんだろう?」
「そうだね。十字行路上で何度か公演をしながら北上して、ひと月後の秋祭りに間に合うように、カルメリアに到着予定だ。君たちに頼みたいのは、カルメリアまでの道中。秋祭りの時には、けが人も回復してくるだろうから」
「それならますますちょうどいい。カルメリアからなら、ベレン領はすぐだ。俺たちには目的地がある。女にうつつを抜かしている暇はないから、安心してくれ」
「ええーー?!俺はいつでも運命の女を探しているぜ!?」
ヘロンの主張はむしろ、カールを安心させるものだった。
「はははっ!!いや、なかなか面白いね!!気に入ったよ!これでも人を見る目はあると自負しているんだ。己の目を信じることにしよう。旅は出会い──双方にとってよい出会いとなればいいね」
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