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第一部 勇者パーティ追放編
14 その頃の勇者パーティは④
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いくらなんでもこのタイミングでフィアルが辞めるとか冗談でしょう?
私は呆れて開いた口が塞がらない。
「フィアル! 無責任なことを言わないでちょうだい! 今は任務進行中なのよ、せめてこのダンジョンから帰ってから……」
必死に説得しようとしたら、フィアルから冷ややかな瞳で一瞥された。
「リーダーがこんな状態になって、任務進行中と言えますか? 異常事態ですよ」
「そう……だから一度出直して、アーサーさまに匹敵するくらいの剣士を仲間に入れて、再度迷宮ダンジョンの任務をしましょう?」
考え直してほしい一心で、再度説得を試みる。
しかし、フィアルの心には響かなかったようだ。
「リーダーもいらなくなったら捨てるのですか? ロザリーみたいに?」
ロザリーの名前を出されて、私は「うっ」と推し黙る。
フィアルは怯んだ私を見逃さなかった。
「変な理由をつけてロザリーを追い出したことも気に食わなかったんですよね。ま、僕も辞めようと思っていたんで見逃してあげましたけど」
フィアルが初めて反抗した。
もしかして。ロザリーの脱退を賛同してくれたんじゃなくて、フィアルも辞めようとしてたから何も言わなかったってこと?
「僕は敬愛するロザリーがいなくなったパーティに興味はないんで。じゃあ」
キッパリと衝撃の事実を言い放ったフィアルは、バイバイと手を振ると迷宮ダンジョンから去った。
フィアルがいなくなったパーティはさらに混沌とした。
棒付きキャンディを舐めたまま、どこに連れて行ってもらえるのかとワクワクした顔のアーサーさま。
口喧嘩してから、視線さえ合わせないネイヴァと私。
「魔物討伐を続けるのは無理だわ。迷宮ダンジョンの入り口に戻りましょう」
「……そうだな」
同じことを考えていたのだろう、ネイヴァは素直に同意してくれた。
――勇者の精神が蓋をしていることに悩んでいるようだな。
急に地の底に響くような声が頭の中に響いてきた。上位の魔物の中には脳に直接語りかけることができる個体がいるらしいことは知っていたけど。
(そうです。あなたにはわかるのですか!?)
今最大の悩みに共感してくれたことが嬉しくて、つい反応を返してしまった。
気づいたときには、魔物の術中にハマっていた。
――ああ。精神の蓋を取り除くのは人間には不可能だろう。だが、我なら治すことができる。
本能的に怪しいと感じたが、魔物の提案が魅力的すぎて抗うことができなかった。
(それなら……アーサーさまを治してください。お願いします)
――我には可能だ。だが、タダじゃあ治せないな。
声の主がニタァと笑ったような気がした。
やはり、願いを叶えるために魔物と取引をするには代償が必要。
(……どうすればよろしいでしょうか)
――我の封印を解くのだ。
そんな簡単なことでいいのか。と、思ってしまった私は魔物の思う壺だった。
せめてフィアルがいたならば、鋭く察知して、これからすることを止めてくれたかもしれない。しかし彼はいない。
ダンジョンの入り口へと戻っていたはずの私が足を止めて、クルッと方向転換したのを見たネイヴァは声を上げる。
「……ちょっとソニア、どこへ行くんだ!」
「やらなくてはいけないことができたの」
「お、おい! 急にどうした!」
私を一人にしておけないと思ったのだろう。もしくはアーサーさまと二人で取り残されたくなかったのだろうか。ネイヴァはアーサーさまを連れて私の後ろをついてくる。
魔物の導きで、行き止まりの道に来た。石の壁には古びた剣が突き刺さっている。
――剣を抜くのだ。
(わかりました)
剣を抜けばこの魔物の封印が解けるのだろう。
「なんだよ、これは……」
ネイヴァの驚きの声を無視して、壁に突き刺された剣を抜いた。聖女の力に反応したのか、案外軽くズズズと音をさせながら抜ける。
パアアアッ!
辺りが光った。眩しくて目を細める。
封印を解いて発生した青白い光で、壁だと思っていたのが魔物の尾だとわかった。その魔物の尾は、砂煙を上げながらゆっくりと動く。
――封印が解けたようだな。お前の約束を果たそう。
皮膚は石の鱗、人の二倍の高さのある大きなトカゲのような図体で、首をもたげ、大きな赤い目にギョロリと見つめられてギクリとした。
「……ネアトリアンダー」
ネイヴァは呆然と、伝説の勇者パーティが封印した魔物の名を呟いた。
私、なんて罰当たりなことを……。
アーサーさまが青白い光に包まれて、目を開いた。
懐かしい理知的な瞳だった。
「ソニア、助けてくれて感謝する」
「アーサーさま……」
やっと正気を取り戻したアーサーさまに会えたことが嬉しくて、涙がポロリと流れた。
(こんなにすんなりと伝説の勇者パーティの封印が解けてしまっていいの!?)
戸惑って剣を握りしめた私の疑問に、魔物が親切にも答えてくれた。
――それは、封印されたときに細工をしたからだ。人間が触れば簡単に抜けるように。
(そうか。だからか……)
知恵の働く魔物だわ。自分で封印を解いたというのに恐ろしくなった。
魔物を封印した大魔法使い、さらには王都に最悪をもたらすだろう。
でも、封印を解かなければアーサーさまを救えなかったわけで……。
ごめんなさい。謝っても許してもらえないけど、ごめんなさい。
何が悪かったの? ロザリーを追放したのが元凶だったの?
後悔してもあの頃には戻れない。
私は呆れて開いた口が塞がらない。
「フィアル! 無責任なことを言わないでちょうだい! 今は任務進行中なのよ、せめてこのダンジョンから帰ってから……」
必死に説得しようとしたら、フィアルから冷ややかな瞳で一瞥された。
「リーダーがこんな状態になって、任務進行中と言えますか? 異常事態ですよ」
「そう……だから一度出直して、アーサーさまに匹敵するくらいの剣士を仲間に入れて、再度迷宮ダンジョンの任務をしましょう?」
考え直してほしい一心で、再度説得を試みる。
しかし、フィアルの心には響かなかったようだ。
「リーダーもいらなくなったら捨てるのですか? ロザリーみたいに?」
ロザリーの名前を出されて、私は「うっ」と推し黙る。
フィアルは怯んだ私を見逃さなかった。
「変な理由をつけてロザリーを追い出したことも気に食わなかったんですよね。ま、僕も辞めようと思っていたんで見逃してあげましたけど」
フィアルが初めて反抗した。
もしかして。ロザリーの脱退を賛同してくれたんじゃなくて、フィアルも辞めようとしてたから何も言わなかったってこと?
「僕は敬愛するロザリーがいなくなったパーティに興味はないんで。じゃあ」
キッパリと衝撃の事実を言い放ったフィアルは、バイバイと手を振ると迷宮ダンジョンから去った。
フィアルがいなくなったパーティはさらに混沌とした。
棒付きキャンディを舐めたまま、どこに連れて行ってもらえるのかとワクワクした顔のアーサーさま。
口喧嘩してから、視線さえ合わせないネイヴァと私。
「魔物討伐を続けるのは無理だわ。迷宮ダンジョンの入り口に戻りましょう」
「……そうだな」
同じことを考えていたのだろう、ネイヴァは素直に同意してくれた。
――勇者の精神が蓋をしていることに悩んでいるようだな。
急に地の底に響くような声が頭の中に響いてきた。上位の魔物の中には脳に直接語りかけることができる個体がいるらしいことは知っていたけど。
(そうです。あなたにはわかるのですか!?)
今最大の悩みに共感してくれたことが嬉しくて、つい反応を返してしまった。
気づいたときには、魔物の術中にハマっていた。
――ああ。精神の蓋を取り除くのは人間には不可能だろう。だが、我なら治すことができる。
本能的に怪しいと感じたが、魔物の提案が魅力的すぎて抗うことができなかった。
(それなら……アーサーさまを治してください。お願いします)
――我には可能だ。だが、タダじゃあ治せないな。
声の主がニタァと笑ったような気がした。
やはり、願いを叶えるために魔物と取引をするには代償が必要。
(……どうすればよろしいでしょうか)
――我の封印を解くのだ。
そんな簡単なことでいいのか。と、思ってしまった私は魔物の思う壺だった。
せめてフィアルがいたならば、鋭く察知して、これからすることを止めてくれたかもしれない。しかし彼はいない。
ダンジョンの入り口へと戻っていたはずの私が足を止めて、クルッと方向転換したのを見たネイヴァは声を上げる。
「……ちょっとソニア、どこへ行くんだ!」
「やらなくてはいけないことができたの」
「お、おい! 急にどうした!」
私を一人にしておけないと思ったのだろう。もしくはアーサーさまと二人で取り残されたくなかったのだろうか。ネイヴァはアーサーさまを連れて私の後ろをついてくる。
魔物の導きで、行き止まりの道に来た。石の壁には古びた剣が突き刺さっている。
――剣を抜くのだ。
(わかりました)
剣を抜けばこの魔物の封印が解けるのだろう。
「なんだよ、これは……」
ネイヴァの驚きの声を無視して、壁に突き刺された剣を抜いた。聖女の力に反応したのか、案外軽くズズズと音をさせながら抜ける。
パアアアッ!
辺りが光った。眩しくて目を細める。
封印を解いて発生した青白い光で、壁だと思っていたのが魔物の尾だとわかった。その魔物の尾は、砂煙を上げながらゆっくりと動く。
――封印が解けたようだな。お前の約束を果たそう。
皮膚は石の鱗、人の二倍の高さのある大きなトカゲのような図体で、首をもたげ、大きな赤い目にギョロリと見つめられてギクリとした。
「……ネアトリアンダー」
ネイヴァは呆然と、伝説の勇者パーティが封印した魔物の名を呟いた。
私、なんて罰当たりなことを……。
アーサーさまが青白い光に包まれて、目を開いた。
懐かしい理知的な瞳だった。
「ソニア、助けてくれて感謝する」
「アーサーさま……」
やっと正気を取り戻したアーサーさまに会えたことが嬉しくて、涙がポロリと流れた。
(こんなにすんなりと伝説の勇者パーティの封印が解けてしまっていいの!?)
戸惑って剣を握りしめた私の疑問に、魔物が親切にも答えてくれた。
――それは、封印されたときに細工をしたからだ。人間が触れば簡単に抜けるように。
(そうか。だからか……)
知恵の働く魔物だわ。自分で封印を解いたというのに恐ろしくなった。
魔物を封印した大魔法使い、さらには王都に最悪をもたらすだろう。
でも、封印を解かなければアーサーさまを救えなかったわけで……。
ごめんなさい。謝っても許してもらえないけど、ごめんなさい。
何が悪かったの? ロザリーを追放したのが元凶だったの?
後悔してもあの頃には戻れない。
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