34 / 98
第一部 勇者パーティ追放編
34 証拠を集める
しおりを挟む
早速、ロウが転移の魔道具を使ってネイヴァを王宮に送り届けた後、彼が戻ってきてすぐに迷宮ダンジョンへ向かうことになった。
「ほんと、ロウの転移の魔道具は便利ね。一日に何度も使っても魔力は減らないし」
感心して言った。私の転移魔法の場合は、数回連発すると魔力切れで翌日は寝込むことになるからだ。
勇者パーティ時代はアーサーから「ソニアが足が痛いと言っている」と言われて、ちょっとの距離でも転移魔法を使わされてた。私、よく我慢していたなぁ。今ならもちろんお断りだけど。
「こいつはかなり高価な代物だが、今回は特別だ」
少し名残惜しそうにロウは言ってきた。
今回ばかりは売りつけてこないらしい。人一人の命がかかっているものね。
代金を請求するとしても、大魔法使いさまになるのかな?
「じゃあ、行くか」
「はい」
ロウが転移の魔道具を発動させて、ひんやりと冷える洞窟にやってきた。
ランタンの魔道具に照らされて、かろうじて前が見える。
先へ進むほど、道幅が狭くなっていく。
前を行くロウは魔獣が封印されていた場所を知っているのか、枝分かれの道を迷うことなく進んだ。
「嫌な気配がしますね。もう魔獣はいないようですが、強い残り香があります」
私の肩に乗ったリアがコソッとそう教えてくれた。
「ああそうだ。近いな」
ロウの声に、リアがびくりと震えた。
「ちょっと、ロウ! 私の大事な友達を怖がらせないでよ!」
「悪い。そんなつもりはなかった」
軽く謝ると、ロウは歩き始めた。
なぜかリアにはロウに対して苦手意識があるみたい。
あいつの見た目がとっつきにくそうだからね。それは仕方がないかも。
「――ここだな」
ロウは行き止まりの道で足を止めた。ランタンを持ち上げると、石の壁が見える。
そこには、封印の剣が刺さっていたとされる窪みがあった。
「あの勇者パーティの聖女に封印を解かれたと思うと、腹立たしいな……」
独り言のようにロウが言うと、私の肩に座るリアを見た。
「では、妖精のリア。石の精霊に過去の記憶を取り出していいかどうか、交渉を頼む」
「わかりました」
リアは大人しく従い、石の壁へ飛んで行った。
私には実体は見えないが、石の精霊――光の粒が現れた。
一礼したリアは身振り手振りを交えながら、妖精の言語で交渉に入る。
リアが慌てていることもあったことけれど、頑張ってほしいと祈るしかできなかった。
それでも、数分後に晴々とした顔で飛んで戻ってきた。
「眠っているところを起こしてしまったようで少し手間取りましたが、ちゃんと許可をもらいましたよ」
「助かった。ありがとう」
すぐにロウが礼を言った。
私も「リアのおかげね。ありがとう」と言ってリアの髪の毛を撫でると、「どういたしまして」と嬉しそうに頬を擦り寄せてきた。
ロウは水晶玉の形の魔道具を取り出すと、石の壁に近づけた。そして、彼が何やら聞いたことのない呪文を唱えると、水晶玉が光った。
ロウって剣術だけじゃなくて、魔法も使える人なんだわ。
そう感心していると、ロウは「転写が完了した」と言ってきた。
「試しに映し出してみるか」
「そうね」
何が起こったのかはネイヴァの話で大体わかっているけど……。
作動させると水晶玉が光を発して、石の壁に映像が映し出された。
そこには最初、誰もいなかった。しかし、近づいてくる者たちの声が聞こえてきた。
『……ちょっとソニア、どこへ行くんだよ?』
『やらなくてはいけないことができたの』
『お、おい! 急にどうしたんだよ!』
ネイヴァとソニアが揉めている様子だ。
それからすぐにソニアがこの空間に飛び込んできた。どこか遠くを見るような熱にうかされたような目をしている。
石壁に刺さっている剣の前に立つと、躊躇なく剣のグリップを握り締める。
遅れて、ネイヴァとアーサーがこの空間に入ってきた。
『なんだよ、これは……』
ネイヴァの驚きの声を無視して、ソニアが剣を引き抜いた。
そして、辺りに閃光が走ると、魔獣ネアトリアンダーが出現した。
一部始終を映し終えると、水晶玉は光を失った。
つい見入ってしまった。
「やっぱり、アーサーが嘘を吐いていたんじゃない! ここにバッチリ証拠が映っているわよ!」
「そうだな」
アーサーがリーダーシップを発揮しなかったのは、頭に支障があったからだろう。ソニアがそれを治そうとして魔獣と取引した。魔獣と取引したソニアも許されないことだが、後に、罪をネイヴァに擦り付けたアーサーも許されない。
これは決定的な証拠になるだろう。
どうやら石の精霊の許可さえ取れれば、石が存在していた期間なら記憶を取り出すことができるらしい。下手したら何万年も遡って。
「ま、俺たちの前で嘘を吐くのが運の尽きだよな」
ロウが口元に悪い笑みを浮かべる。
俺たちの前? それって……?
私の頭の中に、とある可能性が浮かび上がった。
「もしかしてロウって……大魔法使いさま――」
ロウがハッと息を呑んだ。
「ほんと、ロウの転移の魔道具は便利ね。一日に何度も使っても魔力は減らないし」
感心して言った。私の転移魔法の場合は、数回連発すると魔力切れで翌日は寝込むことになるからだ。
勇者パーティ時代はアーサーから「ソニアが足が痛いと言っている」と言われて、ちょっとの距離でも転移魔法を使わされてた。私、よく我慢していたなぁ。今ならもちろんお断りだけど。
「こいつはかなり高価な代物だが、今回は特別だ」
少し名残惜しそうにロウは言ってきた。
今回ばかりは売りつけてこないらしい。人一人の命がかかっているものね。
代金を請求するとしても、大魔法使いさまになるのかな?
「じゃあ、行くか」
「はい」
ロウが転移の魔道具を発動させて、ひんやりと冷える洞窟にやってきた。
ランタンの魔道具に照らされて、かろうじて前が見える。
先へ進むほど、道幅が狭くなっていく。
前を行くロウは魔獣が封印されていた場所を知っているのか、枝分かれの道を迷うことなく進んだ。
「嫌な気配がしますね。もう魔獣はいないようですが、強い残り香があります」
私の肩に乗ったリアがコソッとそう教えてくれた。
「ああそうだ。近いな」
ロウの声に、リアがびくりと震えた。
「ちょっと、ロウ! 私の大事な友達を怖がらせないでよ!」
「悪い。そんなつもりはなかった」
軽く謝ると、ロウは歩き始めた。
なぜかリアにはロウに対して苦手意識があるみたい。
あいつの見た目がとっつきにくそうだからね。それは仕方がないかも。
「――ここだな」
ロウは行き止まりの道で足を止めた。ランタンを持ち上げると、石の壁が見える。
そこには、封印の剣が刺さっていたとされる窪みがあった。
「あの勇者パーティの聖女に封印を解かれたと思うと、腹立たしいな……」
独り言のようにロウが言うと、私の肩に座るリアを見た。
「では、妖精のリア。石の精霊に過去の記憶を取り出していいかどうか、交渉を頼む」
「わかりました」
リアは大人しく従い、石の壁へ飛んで行った。
私には実体は見えないが、石の精霊――光の粒が現れた。
一礼したリアは身振り手振りを交えながら、妖精の言語で交渉に入る。
リアが慌てていることもあったことけれど、頑張ってほしいと祈るしかできなかった。
それでも、数分後に晴々とした顔で飛んで戻ってきた。
「眠っているところを起こしてしまったようで少し手間取りましたが、ちゃんと許可をもらいましたよ」
「助かった。ありがとう」
すぐにロウが礼を言った。
私も「リアのおかげね。ありがとう」と言ってリアの髪の毛を撫でると、「どういたしまして」と嬉しそうに頬を擦り寄せてきた。
ロウは水晶玉の形の魔道具を取り出すと、石の壁に近づけた。そして、彼が何やら聞いたことのない呪文を唱えると、水晶玉が光った。
ロウって剣術だけじゃなくて、魔法も使える人なんだわ。
そう感心していると、ロウは「転写が完了した」と言ってきた。
「試しに映し出してみるか」
「そうね」
何が起こったのかはネイヴァの話で大体わかっているけど……。
作動させると水晶玉が光を発して、石の壁に映像が映し出された。
そこには最初、誰もいなかった。しかし、近づいてくる者たちの声が聞こえてきた。
『……ちょっとソニア、どこへ行くんだよ?』
『やらなくてはいけないことができたの』
『お、おい! 急にどうしたんだよ!』
ネイヴァとソニアが揉めている様子だ。
それからすぐにソニアがこの空間に飛び込んできた。どこか遠くを見るような熱にうかされたような目をしている。
石壁に刺さっている剣の前に立つと、躊躇なく剣のグリップを握り締める。
遅れて、ネイヴァとアーサーがこの空間に入ってきた。
『なんだよ、これは……』
ネイヴァの驚きの声を無視して、ソニアが剣を引き抜いた。
そして、辺りに閃光が走ると、魔獣ネアトリアンダーが出現した。
一部始終を映し終えると、水晶玉は光を失った。
つい見入ってしまった。
「やっぱり、アーサーが嘘を吐いていたんじゃない! ここにバッチリ証拠が映っているわよ!」
「そうだな」
アーサーがリーダーシップを発揮しなかったのは、頭に支障があったからだろう。ソニアがそれを治そうとして魔獣と取引した。魔獣と取引したソニアも許されないことだが、後に、罪をネイヴァに擦り付けたアーサーも許されない。
これは決定的な証拠になるだろう。
どうやら石の精霊の許可さえ取れれば、石が存在していた期間なら記憶を取り出すことができるらしい。下手したら何万年も遡って。
「ま、俺たちの前で嘘を吐くのが運の尽きだよな」
ロウが口元に悪い笑みを浮かべる。
俺たちの前? それって……?
私の頭の中に、とある可能性が浮かび上がった。
「もしかしてロウって……大魔法使いさま――」
ロウがハッと息を呑んだ。
251
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】大魔術師は庶民の味方です2
枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。
『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。
結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。
顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。
しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる