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第二部 極北の修道院編

44 ロウの宣言

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「大魔法使いさまがお見えですが、リビングルームにお通ししてもよろしいでしょうか」
 
 メイドのサラにそう聞かれて、もちろん大歓迎だったのですぐに「お願いします!」と返事する。

 鏡を見て、毛先に寝癖がないか確認する。うん大丈夫。
 
 この客間はベッドルームと扉続きのリビングルームがあって、そこでの面会は許されていた。
 扉を開けると、既に部屋に通されていたロウがソファに座っていた。
 
「ロウ!」
「ロザリー。」

 顔を上げたロウの顔を見てびっくり。
 眼鏡を外して、髪の毛もちゃんとセットされていて前髪は横に流している。そして、マントを着て旅装束。憧れの大魔法使いさまの見た目だったのだ。

 待って、心の準備が全然できてなかった……!
 
「あ……!」
「何だ?」
「いや、何でもない……」

 このバージョンのロウが現れるとは思っていなかったから、心臓はバクバクだ。
 そんな内心がバレたくなくて、必死に平常心を取り繕う。
 だけど、正式な調査で大魔法使いさまとして行くんだから、それに相応しい見なりのはずよね。
 
「この生活に不自由ないか?」
「家にいるよりむしろ居心地が良すぎるくらいよ。私が困らないように交渉してくれたんでしょう? ありがとう」
「……それは安心した」

 照れているのか、ロウはそっぽを向いた。
 
「ロウはこれから北の修道院へ出かけるの?」

 旅装束はそのためだろうなと思いながら、話を促す。
 
「ああ、そうだ。必ず証拠を見つけるから、大人しく待っていてほしい」
「わかったわ……ええと……」
  
 私が何かを言い淀んだ様子を見たロウが「どうした?」と聞いてくる。
 それじゃあ、遠慮なく聞かせていただきます!
 
「どうして、大魔法使いさまが私にここまで力を貸してくれるんですか?」

 国を代表する大魔法使いさまが、私のために尽力してくれるのは嬉しいが、申し訳ないと思う。
 この親切な気持ちに、何か私に返せるものがあれば喜んで差し上げたいけれど。
 私にできることって、美味しいお菓子を作ることか、話し相手になることぐらいなんだけどな。
 
「それは……それには理由がある」
「理由って?」
「それは、それはだなぁ……今、言わないといけないか?」
「うん」
 
 ロウがやたらにもったいぶるので、気になって頷いた。
 
「じゃあ言わせてもらう。…………だからだ」
 
 肝心のところが、モゴモゴと話されて聞こえなかった。
 真剣な目をしたロウと視線がぶつかる。
 私にしっかり伝わったと思っているのだろう。いいえ、一番重要なところが聞こえていません!
 
「えーと、聞こえなかったわ。もう一度言ってくれる?」
「……」
 
 ロウが言葉を長く溜めるので、思わず唾を呑み込んだ。
 なぜかロウは顔を赤くした。

「……やっぱり言えない」

 私は心の中でステテーンと転んだ。
 期待させておいて、言ってくれないの? それって、すごく気になるやつ!
 けれど、ロウの言いたいタイミングもあるだろうから、今はそっとしておこうかな。しつこいって思われたら嫌だし。
 
「それなら仕方ないわ。わかった」
 
 あまりに物分かりの良い態度を見せた私に、ロウは一瞬黙り込んだ。
 
「聞きたいんじゃなかったのか?」
「ロウが言いたくないのなら、無理してまで聞かないわ」
「……俺がこの調査でロザリーの無実が証明されたら言わせてもらう。だから、大人しく待っているように」
 
 さっきも大人しくって言ってきたのに、また強調された。
 許可なく部屋から出ていくとでも思っているのかしらね? そんなことないのに。ロウの顔を立てるためにも、約束を破ることはしませんよ!

「ロウの言う通り、大人しく待っているわ。よろしくお願いします」
「ロザリーが自分で大人しくって言うと、違和感があるんだが」
「そんなことないわ! だいぶ私に失礼よ!」
 
 その後は、早々に出発するロウを見送る。……っていっても、すぐそこの部屋の扉の前までだけど。
 
 でも、ロウの私を助けてくれる理由って何だろう。
 
 弟子を助ける師匠の気持ち? そうじゃなければ、捨て猫を助ける人の気持ち? おそらく前者の方なんだろうな。
 
 なら、どうしてあんなに言い渋ったんだろう。
 ……とても気になるけど、時期が来たら教えてくれるわよね。

 つい物分かりの良い大人な態度を取ってしまったわ。
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