勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里

文字の大きさ
60 / 98
第三部 竜の棲む村編

60 野営

しおりを挟む

 酒場は麦酒を一杯飲んで、情報は得られたから長居は無用と、場所を変えることになった。宿屋でゆっくりご飯を食べた方が気楽だとなったのだ。
 
 そうして、宿屋に向けて、薄暗くなってきた道を並んで歩く。
 たわいのないことを話しているうちに、小さな村に一つしかない宿に到着した。

「申し訳ございませんが、一部屋しか空いていません。どうしますか?」
 
 受付に二部屋でとお願いしたところ、繁盛していたようで残っていたのは最後の一部屋だったようだ。

 酒場に行くより前に、宿の部屋を確保しておけばよかったと後悔する。

「ロウ、どうする?」
「俺が魔道具の寝袋を使うから、ロザリーがベッド使えば問題ないだろう」
 
 問題ない? いいえ、大アリよ! 憧れの大魔法使いさまが寝袋を使ってるのに、私だけがベッドで悠々と寝るなんてできないわ!
 
「私が寝袋使うから、ロウがベッド使ってください!」
「いや、それは逆だろう。俺が寝袋に……」
「逆とか関係ないわ!」
「お客さま……」
 
 受付の女性に飽きられてしまった。
 結局のところ、宿に泊まるのはやめた。
 村のはずれで野営をして、二人それぞれの寝袋を使うことで話が落ち着いたのだ。
 ロウから「二人用の寝袋もあるぞ」と冗談を言われたけれど、それは問答無用で却下した。

 裏は木が生い茂る山で、葉の揺れる音や虫の声が聞こえてどこか懐かしい。
 酒場で食べ損ねた夕食を簡単に済ませると、二人で温かいコーヒーを飲みながら束の間の休息をとる。

「竜の村はどうする? 今なら目的地を変更できるぞ」

 ロウは私に確認してきた。竜の村の選択肢は残して、私に選んでほしいようだ。
 私の心は決まっていた。

「噂話を鵜呑みにするわけにはいかないわ。野蛮な村というのは、行かない理由にならない。自分の目で見てみたいの」
 
「……そうだな。野蛮は理由にならないな。……だが、命の危険が迫っていたら、遠慮なく転移の魔道具を使わせてもらう。ロザリーの竜に会うという希望は叶わない可能性もある。それでもいいのなら」

 ロウの瞳からはそこは譲れないという強い意志を感じ、その妥協案をのんだ。
 
「わかったわ。ロウの判断で転移の魔道具を使っていいし、最終的に竜に会えなくても、それはそれで諦めるわ」
 
「じゃあ、それで決定だ。竜の村へ行こう」
 
「……もっと反対されるのかと思ったわ」
 
「反対したところで、好奇心は止められないだろう。ま、俺もそうだが」
 
「――こんな私に付き合って旅をしてくれてありがとう」
 
 私の言葉を聞いたロウは、フッと微笑んだ。
 照明代わりの魔道具のライトに照らされて、ロウの頬の影が揺れた。
 
「どういたしまして、ロザリー。君の側にいると本当に飽きないな」

「私もロウの側だと飽きないわよ」

 私も負けじと言い返すと、ロウは苦笑して「それは光栄だな」と言った。
 もうコーヒーは冷えていた。

「明日は早い。寝ようか」
「そうね」
 
 カップを片付けると、ロウが魔道具の格納庫から出した寝袋を広げてくれた。

「どうぞ」
「ありがとう」

 ゴソゴソと寝袋に入ると、背中は柔らかく反発して、腰も支えてくれる。
 頭のクッションも程よく、高級枕のようだ。

 宿場のベッドよりも遥に良い。下手したら、王宮のベッドよりもこっちの方が良いと言う人もいそうだ。
 
「あったかい。意外に寝心地がいいわね」

「当然だろう。俺の選りすぐりの魔道具だからな」

「勇者パーティだった時に使いたかったぐらいよ。野宿が多かったから。そうね、きっと少しくらい高くても売れるわよ。冒険者に需要があるわ。販路さえ決まっていれば」

「販路は確かにないな。出会った冒険者に売りつけるか、俺に会えたらラッキーな感じになっているからな」
 
 趣味の延長線にあるような魔道具屋だ。商売っ気がないのは非常にもったいない。
 ロウは機会があれば商売も大事にしたい考えだったが、今は私と冒険するのを楽しみたいようだ。
 魔獣との大きな戦いが終わり、久々に与えられた休暇のようなものだ。私も気楽な二人旅を楽しみたい。
 
「明日は竜の村だな」
「そうね。覚悟して行かなきゃ」

 真上には夜空が広がり、勇者パーティ時代に見た、輝く星々が見える。懐かしい記憶だ。
 寝袋がもぞりと動いて、ロウが顔だけこちらを向けたのが分かった。私も顔を横に向けて視線がぶつかる。
 
「そうだな。おやすみ」
「おやすみ」
 
 目を閉じると、疲れが溜まっていたのか早々に意識を手放した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...