勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里

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第三部 竜の棲む村編

66 湖の散策

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 カーテンを開けると、空は良く晴れていた。
 着心地のいい民族衣装は、今日も着させてもらうことになった。
 村の散策にちょうどいいのが表向きの理由で、ロウの民族衣装の姿を拝めるのは嬉しい。
 
 身支度を済ませると、待ち合わせの花の庭に向かう。
 早く到着して、一番乗りだったようだ。
 私の隣を飛んでいたリアは、嬉しそうに声を上げた。

『昨日の料理に飾られていたお花がありますね!』
 
「リアは見つけるのが早いわね。本当、綺麗ね」

 リアと花壇の鑑賞を楽しんでいると、村長の令嬢が来た。
 
 あれ? 今日の湖の散策で同行することになっていたかしら?
 
 でも、あちら側の人数が増えることには問題はないか、と頭を切り替えた。
 私は村長の令嬢に声をかける。
 
「ティエリさま。おはようございます。昨日の晩餐会は楽しい会でしたね」

「……英雄さまたちの冒険の話は楽しかったわ」

 小さな声だったけれど、初めて彼女の声を聞いて、ティエリの印象を改めた。
 引っ込み事案なのではなくて、必要なことしか話さないタイプの子なんだわ。おしゃべりな家族に囲まれているから。
 
「英雄さまなんて、堅苦しい名前で呼ばないでほしいわ。ロザリーと呼んで」

「ではロザリーさまで……」

「この衣装はティエリから借りていると聞いたわ。貸してくれてありがとうね」

「いえいえ……」

 会話に慣れていないのか、ティエリは私の言葉に返しているだけだ。
 
 彼女が緊張しているのが伝わってきて、何話せばいいか困るよー!
 けれど、二人きりで話せるなんて、他の人が来るまでだよね。と、考えて質問を続けた。
 
「今日の湖の散策はティエリさまも行くの?」

「いいえ、私は……行きません」

 じゃあ、どうして集合場所にいるんだろう?
 私の視線を感じたのか、ティエリは説明を加える。

「ロザリーさまが歩いているのが見えたので、追いかけて来たんです」

「それはどうして?」

「一つ言いたくて。……湖には近づき過ぎないでください」

「それは……」

 どうして? と聞きたかったのに、ティエリは他の人の気配を感じて、急に俯いて逃げ出してしまった。

 湖には危険な生物でもいるのだろうか。人喰いワニとか……。

 湖の鑑賞に夢中になって、上から覗き込むことはなさそうだけれど、忠告を心に留めておくことにした。


「ロザリー、おはよう。……ん? 村長の娘さんと話してたか?」

 民族衣装を着たロウが現れた。今日も尊さは健在だ。

「大したこと話してなかったけれど、すぐに行っちゃったわ」

 昨日のことは何もなかったことのようだ。
 うん。喧嘩をした訳ではないし、きっといつもの調子でいればいいんだわ。

「おはようございます! お二人とも早い! これで全員揃いましたね」

 村長とその息子が現れて、村の案内が始まった。

「村長自ら案内してもらえるとは、光栄だ」
「いえいえ! 大魔法使いさまに村の紹介をできるとは、こちらも光栄です」

 そんな風に話しながら、村長とロウは先を歩く。その後ろに私と村長の息子が続いた。

 ブドウの畑も見せてもらった。ワインの出荷が盛んで、王都の限られた酒屋に卸しているとか、手織りの絨毯で有名だとか。村長の村自慢が続く。

「……ロザリーさま」

 そうなのねーと聞き流していたら、横から話しかけられているのに気づくのが遅れた。

「え?」

「ロザリーさまは、ロウさまとご夫婦なんですか?」

 その質問を今ぶっ込んでくる⁉︎
 ネアちゃんを倒したときに、思いは確かに通じ合った。
 けれど、大事な話は聞けていない。
 今の私たちの関係はなに⁉︎

「――ロウとは夫婦ではないわ」

 自分でも驚くほど冷静な声が出た。
 私の声が聞こえたのか、前を歩いていたロウが体を向けて視線が合う。

「けれど、背中を任せられるような、信頼のできるパートナーです!」

 事実と自分の気持ちを言い切った。どうだ!
 ロウが目を見張る。
 
 心臓がやけにドクドクするけれど……!
 これで揺れ動いていた心に踏ん切りがついた。

「……まだ夫婦ではないとしたら、告白のように聞こえますね? 冒険者の男女で、背中を預けられるくらいの信頼があれば、夫婦の絆を超えていますよ」

 村長の息子がいたずらな瞳で問いかけてくる。
 そう、私とロウには信頼という絆がある! それがあればいいじゃないか!

「ウリュさま、言ってくれますね……?」

 私が適当にはぐらかすと、村長の息子の標的はロウに移る。

「ロウさま、こんなに可愛い子を放っておくと、いつか誰かに奪われちゃいますよ?」

「……ああ、わかっている」

 ロウは動じずにそう言ったけれど、私は我慢ならず言い放った。

「ウリュさま! 私たちを冷やかしたいんですか?」

「いいや。若い二人を応援したいだけだよ?」

「それが冷やかしって言う――」

 応援は必要ない。見守ってくれればいいのに。
 私が抗議しようとしたところ、これまで静観していた村長が足を止めた。

 いつの間にか、木々の生い茂る道から開いた場所に出た。
 村長が目の前に広がる湖に手を向ける。

「あれが、竜神さまの棲む湖だ」
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