僕と賢者の108日

三谷玲

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15日

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 犯された日からオスカーは口づけもなく、ミッシャの魔力を性器で奪うようになった。
 傷口は癒されているが、痛みは変わらない。
 じくじくと腫れている感覚が続いて、ミッシャは無理やり口に入れられていた食事を何度も吐いた。
「せっかく食べさせてあげているのに」
 オスカーは口からこぼれる吐瀉物を乱暴にふき取ると、また粥を口に押し込む。

「貴族のあなたにはお口にあいませんか?」

 口を開く元気もなく、ミッシャが睨むと、オスカーは薄く笑った。

「食べなければ回復もしないので、無理にでも食べてもらいます。嫌なら俺の魔力を流して循環してもらうだけですが」

 ミッシャはおとなしく咥内に残る酸味を帯びた粥を飲み込み、なんとか吐き戻さないように堪えた。



 血液と同じで、分け与えられた魔力は一度器に入れば、その人間の魔力へと書き換わる。
 ミッシャの水のような魔力は特に馴染みがいいらしい。分け与えた者は、なんの反応もなく自分のものへと受け入れていく。
 その逆で、ミッシャは他人の魔力を受け入れにくい。
 相性が良くても酩酊するように酔うし、悪ければ弾いてしまう。
 オスカーの魔力など流されたら、今以上に気分が悪くなるだろうことは、疲れ切った頭でも容易に想像ついた。
 食事を終えると、魔力を奪われ、眠らされる。
 その繰り返しの中、ミッシャは考えていた。

 魔術を一通り教え、魔獣討伐の依頼をこなしているうちはよかった。
 ギルメディアン王国は隣国と小さな小競り合いを始めた。
 ギルドにも戦場への依頼が増えた。
 王国からの依頼は高く、カツカツの生活だったミッシャは軽い気持ちで引き受けた。
 それがよくなかったと、今なら分かる。
 まだ若いオスカーに戦場は酷だった。
 その頃にはすでにミッシャよりも多くの魔術を扱えるようになっていたオスカーは前線へと駆り出された。
 夜に合流すると、オスカーの身体には人の焼けた臭いが染みつくようになっていた。
 身を小さくして震えて眠ろうとして眠れないオスカーに、魔力を流して眠らせて、朝には何事もなかったように、前線へ向かう背中を見つめて送り出す。
 小競り合いは長引き、ようやく勝利したときには、オスカーはミッシャの魔力がなければ眠れなくなっていた。
 小さな部屋の小さなベッドは、男がふたり眠るには狭い。
 ミッシャが抱きしめられる時期もあっという間に終わり、オスカーに抱きしめられて眠るようになって、気付いた。

 オスカーが自分に依存していることに。
 オスカーが自分に欲情していることに。

 18歳なら仕方ないと思わないでもないが、12歳も離れた男に依存するのは不健全に思えた。
 何度か、娼館に誘って発散させても、夜には同じベッドで眠る。
 ぴたりとくっついていれば、嫌でも分かるオスカーの熱にミッシャは怖くなった。
 だから、逃げた。
 オスカーの将来を思ってしたことは、結局オスカーを傷付けることになったのを、今、思い知らされている。



 オスカーへの贖罪の気持ちで、傷付けられるだけの行為は受け入れた。しかし、痛みと吐き気はどうにもならない。
 声を上げないように、吐かないようにと枕に顔を埋め、魔力を奪われ続けた。
 眠っている間に傷を回復され、汗ばむ身体を拭かれ、目覚めればまた犯される。
 朝日も、幸せな夢も見られない日々はミッシャの心を少しずつ蝕んでいった。
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