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19日
しおりを挟む朝も昼もなく、夜が訪れた気配にミッシャはふと目が覚めた。
ここに来てから目覚めは不規則だった。
「うっ……」
湧き上がるものを慌てて掴んだリネンに吐き出す。
泡になった胃酸しか出てこない。
無理やり食べさせられた粥はすべて体力と魔力回復へと回されているようで、排泄した気配もない。
――あってもこの部屋で糞はしたくないな。
と何もない部屋を眺める。
魔術師の身体の不思議をこの時ほどありがたいと思ったことはない。
この頃は何も味を感じない粥を、オスカーが作ってるのだと思うとおかしくて、吐き気も忘れて笑った。
「あいつ、あはは。どんな顔して作ってるんだか、ははっ」
ミッシャがひとしきり笑うと、扉が開いた。
「何がおかしいんですか?」
「いやなに。賢者様が作る粥はすげぇなって。魔力回復に効果あるもんばっかり詰め込んだんだろ? あはは」
でなければ、器の小さくなったミッシャが毎日毎日魔力を奪われて、生きていられるわけがない。
昔は、ミルクを温めるだけでも鍋を焦がしていたオスカーが、料理をしている。ミッシャはまたケラケラと笑った。
「あ、ヤバイ。ツボに入ったかも。腹痛ぇ……ははっ」
すっかり笑うと、疼痛も吐き気も収まっていた。
「昔からよく笑ってましたが、こんな状況でも笑うんですね」
「おかしいもんは、おかしいんだから、仕方ないだろ」
まだ笑いの余韻で気分の良いミッシャは、はぁと枕に頭を沈めた。
このまま眠れたら、いいのにと思うが、オスカーが跨ってきた。
――まぁ、そうなるんだろうな。どうせなら回復するときみたいに寝てる間にしておいてくれると、助かるんだが。
寝間着をまくりあげられ、年のせいで筋肉のないミッシャの細い下肢が露わになる。
あまり見ていたいものでもなく、ミッシャは両腕で顔を隠した。
足首を持って膝を折られる。
慣れない体勢に背がきしむ。
ぐっと押されてオスカーが侵入してくると、ミッシャは自分の腕を噛んだ。
痛みを分散し、叫び声を抑えられるとミッシャの腕は噛み痕による鬱血があちらこちらにあった。
外の傷は治してくれるオスカーだったが、内出血は消えなかった。
慣れたくもない血の臭いと味をかみしめて、自分の魔力が尽きるのを待つ。
最初は先端だけで触れるだけだったオスカーだったが、日を追うごとに内部へと入り込んでいた。
どれくらい入っているのか、想像もしたくない。
早く、終われ。
早く……。
そう思うのに、終わる気配もなく、内を擦るものが前後している。
腕を噛み、息を詰めていたミッシャの呼吸が浅くなる。まるでオスカーの動きに合わせて息を吐いてるみたいだった。
「は、っ……は、はっ……は、っ、くっ……ふっ、はっ」
これでは魔力不足の前に酸欠になりそうだ。
力を振り絞って腕を外すと、ぼんやりとオスカーの顔が見えた。
若いころは輝いていた琥珀色の瞳は濁り、その眉間のシワは消えることはない。
今は一層深く見える。
ミッシャは自分の罪を数えるようにそのシワを数えることで、痛みに耐えた。
オスカーを拾ったこと。あの戦争に連れて行ったこと。オスカーを癒せなかったこと。執着させてしまったこと。
そして手放してしまったことを。
――ごめんな……、ごめん、僕が、悪かった……オスカー、ごめん
ミッシャは涙を零しながら、心の中でオスカーへの謝罪の言葉を繰り返して、眠りについた。
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