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82日
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二人で泣いた日以来、オスカーが変わった。部屋を案内してくれたり、風呂に入れてくれたり。魔力譲渡も、無理はしなくなった。
手で受け渡すだけで、一日中握っていることもある。
今も、オスカーの部屋にある湯船につかりながら、ゆっくりと魔力を奪われている。
「自分で、洗える」
「昨日、転んだのをもう忘れたんですか?」
体力づくりのためと言って、一人で階段を下りていたら、最後の一段を踏み外した。くじいたわけでも、ましてや骨を折ったわけでもないのに、オスカーは大げさに抱え上げ、寝室に連れ戻された。
無事だと分かってもなお、昨日は何もさせてもらえなかった。いくら清拭されても、風呂には劣る。子爵家ではじめて風呂に浸かることを覚えたミッシャの、数少ない娯楽だ。
軽く絞った海綿がミッシャの首や肩を滑る。ミッシャを洗うオスカーの右手。左手は、ミッシャの手を握り、魔力を吸い取っている。
ちゃぷちゃぷと湯が跳ねる音を目を閉じて聞きながら、ミッシャは心を落ち着かせるのに必死だった。
「気持ちいいですか?」
「あ? あぁ……、うん……」
湯加減だとか、身体を洗っていることを言われているのだと気付いて、慌てて答えた。今ミッシャは困っている。
右手から徐々に魔力を奪われているせいで、身体が反応していた。
年を取ってからあまり反応しなくなった陰茎が、ほんの少し兆しを見せ始めている。なんとか落ち着かせようとしているのだが、魔力譲渡と淫靡な行為がセットで行われていたから、身体が覚えてしまっていた。
オスカーに気付かれないように、しなければと思えば思うほど、意識は下半身に集中してしまう。海綿で隅々まで撫でられて瞼が震える。
わかっているはずなのに、オスカーはそのことに一切触れず、ミッシャは一人悶々としていた。
何か話をすれば気がまぎれるかもしれない。そう思ったミッシャは話題を探した。
「そういえば、さ。ミルク粥ってあれ、デザートだって知ってたか? はじめて王都で食べたとき、びっくりした」
「一度、食べましたけど僕には無理ですね……。甘すぎます」
「だよなぁ。好きな食べ物はって聞かれてさ。好きってわけじゃないけど名前知ってるのってあれくらいだから答えたら、出てきたのがとろとろの甘いやつだろ? 残すわけにはいかないし」
食後のデザートとしてはじめて出てきたときは、本当に驚いた。子爵は当たり前のようにそこにたっぷりとジャムをかけて食べていた。
「夜中にさ、どうしても甘くないやつ食べたくなって、厨房に忍び込んだりしてさ……」
「泥棒に間違われたりしませんでした?」
「さすがにそこまでどんくさくない」
大した話ではないが、オスカーと普通に会話が出来ることが嬉しかった。
ケラケラと笑うミッシャにオスカーの手が止まった。
「いままですいませんでした。完成を急ぐあまり、無理をさせて……」
「オスカー、いいんだ。俺ももうそんなに長くないだろうしさ。王都じゃ役に立たないのに、お前の役に立てるならそれで」
「ですが、なにも無理矢理傷付ける必要は、なかったとは言いませんが、それでも……」
後悔しているのか、オスカーは顔を曇らせ言葉を詰まらせた。ミッシャは空いていた手でその頭を撫でた。
いいんだと言い聞かせるために、何度も撫でた。
「……子供じゃないんですから」
「そうだな」
頭を撫でられるのは不服らしい。少し照れ臭そうに目を逸らしたオスカーにミッシャは苦笑した。
するりと手を後頭部へと下ろすと、なけなしの体力を使って引き寄せた。
琥珀色の髪がミッシャの額に触れる。
少しくすぐったいそことは別に、唇には温かい感触がした。
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