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第8話 冒険者の登録事情

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「もちろん、構わないけれど……どんな依頼を受ければ良いのかしら?」 
 
 冒険者組合は依頼する側として、何度も関わったけれど、冒険者側として関わったことはあまりなかった。 

 あっても臨時に私が冒険者パーティーに加えてもらうとか、そういう関わり方であって、実際に冒険者として登録するとか、そういうことはなかったのだ。 

 だから、冒険者になるときにどのような手続きが必要かについては、ぼんやりとしたイメージしかない。 

 必要なかったからだ。 

 また、冒険者に登録する際の確認事項はそれぞれの国や街の冒険者組合によって方針が異なることも少なくない。 

 どういうことかと言えば、たとえば、このならし、というのは冒険者の実力を見るために行われる。 

 しかし、その実力の意味合いがそれぞれの場所によって異なる。 

 冒険者に対する需要が異なるからだ。 

 もちろん、基本的な戦闘技能とか、最低限の常識とか、それは当然どこでも求められる水準はあまり変わらない。 

 ただ、それに加えて、たとえば薬師の多い地域でなら薬草採取等の見分けを課されたり、魔物が多ければ戦闘力を見るために模擬戦を、ということになったりなど、様々な場合があるということだ。 

 だから、この街ジュールで一体どのような冒険者が必要とされているのか分からない私には、ゴドールが何を求めてくるか、分からなかった。 
  
 私の質問にゴドールは答える。 
 
「あんたもこれは最低限、知っていることだろうが、このシガラ森林国を含む小国家群は、魔物たちの大量生息地である魔境に接している危険な地域だ。そのため、まず必要とされるのは一にも二にも、戦闘能力……それは分かるな?」 
 
「ええ。それは当然でしょうね……それがなければ、この辺りで冒険者として活動してもそれこそすぐに死んでしまうでしょうし。でも、それはどこでも一緒だとは思うけれど」 
 
「まぁな。だが、アンスタンなんかじゃ、その辺の村から出てきたばかりの駆け出し少年でも、簡単な審査ですぐに冒険者にしちまう。だが、この街じゃ、それはしない」 
 
「……それは……貴方の方針で?」 
 
「そうだ。割と評判がいいんだぞ。無駄死にする奴も少ないし、田舎の村から出てきたが、こっちの出す課題に応えられなくて家に戻って、結果良かったって奴もかなりいるからな」 
 
「へぇ……それは面白いわね」 
 
 冒険者になろう、なんていう子供というのは、たとえ門前払いされても自分で勝手に魔物と戦いに行ったりなど、無謀なことをしそうなものだが。 

 そう私が思ったことを表情から理解したのか、ゴドールは苦笑して、 
 
「もちろん、こっちの話なんてまともに受け取らない奴もいるぜ? まぁ、そういう奴らについては、それとなく見守って、心変わりを待ったりとかするのさ。そうすりゃ、大半は最後には穏便に諦めていくよ」 
 
「結構な手間をかけてるわね。アンスタンじゃ、無謀な若者が生きようが死のうが勝手にすれば良い、みたいな価値観の方が強いわ」 
 
 良くも悪くも、あちらは都会だ。 

 人に対する優しさというのが薄いのかも知れない。 

 しかしこちらは、助け合っていかなければ生きていけないような厳しい土地柄だ。 

 人に対しても自ずと、深く関わっていこうとする精神が皆、養われているのかも知れなかった。 
 
「都会の奴らは薄情だぜ……ま、俺たちだって出来ることと出来ないことはあるからな。あまりにも無謀な場合には流石に手を貸さないさ。出来ることだけ、やっている」 
 
「それでも立派なものだわ……ともあれ、話は理解した。そんな無謀な少年たちをはじき出すような試練が、私に与えられるわけね?」 
 
「そういうことになる。ただ、正直なところあんたについては心配はしてねぇけどな……」 
 
「そうなの?」 
 
「そりゃ、さっきの様子を見りゃあな。むしろ、スライム1匹倒すのに森一つ潰さないかの方が心配なくらいだぜ」 
 
「……それについてはないように善処するわ」 
 
「確実にやってもらいたいんだが……まぁ、いい。で、依頼だ。あんたには街の雑用依頼を一つ、そして魔物の討伐依頼を一つこなしてもらうことになる。それで問題がなければ正式に登録ということになる」 
 
「雑用依頼も?」 
 
 雑用依頼とは、その名の通り、様々な雑用の依頼だ。 

 より分かりやすく言うのなら、何でも屋のようなことである。 

 冒険者組合、というのがそもそも冒険をするための金銭を何でも屋をして稼ごう、という根無し草の思想から生まれたものであるため、魔物討伐や護衛関係などが依頼のメインになってもなくならずに存在しているものだ。 
  
 また、これは使う側から見るとかなり便利なのでなくなってほしくない、という要望もある。 
 
 具体的な内容としては、家の掃除から実験の手伝いなど、多岐にわたる。 

 冒険者に頼めること、なら何でも依頼できるのだ。 

 もちろん、倫理に悖ることとか、法に触れることなどは依頼できない。 

 だが、結構変則的な依頼も少なからずあり、片付けるにはそれなりの経験が必要になってくる場合もある。 

 簡単な依頼とは限らないわけだ。 
 
「あぁ。もちろん、複雑な依頼を片付けろとか言うつもりはねぇ。これについてはあんたの人当たりや事務能力を見るためだな。ようは、依頼者と揉めないような奴かどうかを見るためだ」 
 
「審査基準を公開して良いの?」 
 
「言ったところで結果が変わるもんじゃねぇからな。言われたから人当たり良くした、とか頑張った、とかいうのは別にそれはそれで構わねぇ。取り繕える力があるならそれでいいんだ」 
 
「……まぁ、身も蓋も内は無しだけど、そういうものね」 
 
「おう。じゃあ、早速依頼を受けるか? 今すぐでも可能だが……」 
 
 ゴドールはそう言ってくるが、私は首を横に振った。 
 
「いえ、明後日くらいにしてもいいかしら?」 
 
「そりゃまたどうして? 準備が出来てねぇって感じでもないが。あれだけの力があるんだからそのままでも……」 
 
「戦えればいいってもんでもないでしょう。私、まだ宿も取ってないのよ……それに、装備や道具類も揃えたいわ。だから、それが済んでからにしたいの」 
 
 装備についてはそれなりのものを持っているし、道具類についてもある程度のものはある。 

 ただ、少し過剰な品が多いので、駆け出し冒険者として適切な品を揃えてからにしたかった。 

 ゴドールはこれに、 
 
「そうだったか。宿については冒険者組合でも紹介できるぞ? 仮登録でも多少割り引いてくれるところがいくつかあるからな」 
 
 と親切に言ってくれたので、私は、 
 
「本当に? じゃあ、ありがたくご紹介を受けるわ。お願いね」 
 
 そう言ったのだった。
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