呪い愛 ~仲の悪い異母姉妹

shoko(仮)

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結び

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 二人の話を聞き終えた俺は、書斎の本棚の前に座り込んだ。侍従たちは死体を外へ運び出しているところであった。

 今でも、自分が夢の中にいるような気がしてならない。目が覚めたら、王都の屋敷のにある、ふかふかの温かいベットで寝ている気さえする。

 しかし、あの王都の屋敷で惨劇が起こったんだなあと実感が湧いてきた。あの場所で、自分はおかしな父親から逃げられると安心しきって生活していた。それがおかしく思えてきた。

 ここで、エレオノールとフェリシーの話を整理しよう。そう考えて、俺は机にあった紙に羽ペンでメモをとった。

――――――――――  
 ・エレオノールとフェリシーは互いを憎みあっていた。
 ・エレオノールはお茶会で魔女コンルウォワから受け取った毒をフェリシーに盛った。
 ・同じお茶会でフェリシーも魔女コンルウォワから受け取った毒をエレオノールに盛った。
 ・ほぼ同時にお茶を飲んだ二人は、ほぼ同時に苦しみ、ほぼ同時に意識を失って、ほぼ同時に死んだ。
――――――――――

 うん。特に矛盾している点はなさそうだ。最後の三つに関しては古文書にも『王国暦1606年10月6日 エレオノールとフェリシーはお茶会で共に毒に倒れた』って書いてあったし。他の話も古文書と違う部分はあまりなかった。

 新しい収穫もあった。父お抱えの魔女コンルウォワが『呪い』の手がかりを知っていたのは、彼女が姉妹の殺人を幇助したからだ。(てか、160年間も死体が腐らないような毒って、いったいどのような成分をしているんだ。あと、あの魔女いったい幾つなんだ?)

 多分、なぜ姉妹がお互いに殺しあったのか理由までは聞いていなかったのだろう。だから、その理由を聞き出せと父に助言したんだ。

 そして、最も興味深かったのは、嫉妬が絡み合った姉妹に、その良いとは言えない仲。王都では、最悪だと言われている俺と父との関係が可愛く見えるくらいに複雑なものだった。

 それはとても意外だった。だったら、あんな『呪い』をかけないんじゃないか?

――ガタリ

 何かが動いた音がした。今、部屋には誰もいない。侍従たちは外で死体の処理をしているし、父はエレオノールが何を語ったのかラベンダーの間へ侍従に聞きに行っている。

 俺は恐る恐る、音のするほうへ近づいた。

 本棚の陰に隠れていたのは、俺の2人の妹たちだった。

 もうすぐ、9歳と10歳になる。

 2人はよく、家庭教師が気味悪がって近づかない、黒魔術関連の物品でいっぱいのここに隠れる。

 姉妹はまだ寝間着姿であった。

「2人とも、勉強の時間だろ? 駄目じゃないか。早く着替えて、授業に行きなさい。」

 妹たちは、俺の顔を凝視したまま、お互いに抱きついた。互いを繋ぎとめる手はミチミチと鳴り、放しそうにもない。

 下手すれば、一日中――食事も、睡眠も、着替えも、排せつも――くっついたまま過ごしてしまうのだ、この姉妹は。

 数年前、2人を無理やり引き離そうとしたときは、互いの肌が血まみれになるまで手を食い込ませて、大人たちに抵抗した。

 我が家の『呪い』――――それは、年子の2人姉妹が生まれやすいこと、そして、その異常なまでの仲の良さだった。いや、もはや、それは『執着』の域に達している。

 初代オーレリアン・ド・アルバ=モンデレの娘も年子2人だった。仲が良いことで有名だった。2人がそれぞれお嫁に行くことが決まった後だった、姉妹の死体が川から上がったのは。ちなみに、姉の右腕と妹の左腕が紐で結ばれていたそうだ。

 彼女らの弟である2代目にも、3代目にも、年子である2人の娘が生まれ、皆、同じように互いへの執着を募らせ、同じような結末を迎えた。そのせいで、5代目の時に直系は終わった。

 5代目の従弟である6代目――俺の曽祖父はこれを『呪い』と認め、妻が立て続けに娘を2人生むと、頑張ってもう1人娘を作ろうとした。(親戚の3人姉妹には『呪い』が発動していなかったからだ。)――無理だったが。

 呪いは止まるところを知らなかった。

 だから、墓を掘り、死体を冒涜しても、この『呪い』について究明しなくてはならなかった。

 そして、俺はエレオノールとフェリシー姉妹の話を聞いて、何をすればいいのか大方見当がついていた。

 蘇生の儀式に使った液体や薬草の余りを持って、出かける準備をする。そして、

「大好きだよ。」

 と伝えて、俺はかわいい2人の妹たちをまとめてハグした。

 

     §

 

 結論から言うと、呪いを収めることには成功した。

 あの時から半年もすると、『呪い』は薄まっていった。

 一番目の妹のほうは婚約者である5歳の坊主とも仲良く遊ぶようになり、二番目の妹は古代詩の勉強に熱中し始めた。最近は詩をそらんじられるようになったと聞いている。

 2人とも、自分の時間を過ごすことが増えたのだ。かといって、2人の仲は完全に悪くなったわけではない。俺から見る限り、共依存から抜け出し、健全な距離感を築けていると思う。

 あの後、俺のしたことは至極単純だった。 

 
     §

  
 俺はモンデレ家及びアルバ=モンデレ家の人々の眠る墓場へと来ていた。そこでは、父が指揮を執り、侍従たちが墓に死体を戻していた。エレオノールとフェリシーは別々の墓に入れられようとしていた。

「待ってくれ。」

 俺は大声で命令した。

「エレオノールとフェリシー、2人の亡骸を同じ墓に入れてくれ。」

 侍従たちは困惑の声を上げた。さらなる戸惑いがやってくるとも知らずに。

「蘇生したまま、棺に入れてほしい。」

 侍従たちは訝しげな顔になる。しかし、父上が俺の意見に賛成すると、作業に取り掛かり始めた。

 エレオノールとフェリシーを本来1人用である棺に入れるのは難しかった。納めるには、2人を抱き合う形にしなければならなかった。それが終わると、俺は死体に謎の液体をかけ、薬草を散らし、呪文を唱えた。2人が動き出し始めないうちに、なんとか棺の扉を閉めると、5人がかりで重い棺を墓穴に入れた。

 仲良く土に埋められていく姉妹の棺を見下ろす。疲れていた俺は嫌みっぽく棺に言い放ってしまった。

「ごゆっくり、仲良く本当のことを喋ってくださいね。何にも邪魔されないんだし。まあ、どうせ隣の芝生は青かったってことしか分からないと思いますがね。」

 土がどんどん被さっていく。完全に見えなくなる前に、これだけは2人に伝えておきたかった。

「あなたたちはお互いをちゃんと見ろってことですよ。」

 ドンッ

 そのとき、棺が内側から叩かれた。侍従は構わず土をかけ続ける。

 そして、最後の土が160年の因縁を埋め、二度と掘り返されることはなかった。

 【完】
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