ゲ・ラ‼︎

紫が字

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第4話 人を守るゲラ

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「ぐ……」

 解放された衝撃で、夢宙は冷たい地面に倒れ込む。
 唾液が顎を伝う感覚も無視して、自分が置かれている状況を確認するために首を動かした。

 夢宙の黒い瞳に映ったのは、夢宙を襲った不気味な生物が、先ほどの三つ編みの男に左目を抉り取られている様子だった。

 三つ編みの男は、黒髪の男を殺していたときと同じように、獲物の首を片手で締め上げている。

「あぁ、おまえ、つかえないなー」

 三つ編みの男は、長い舌をチロチロと動かしながら首を傾げた。
 そしてピタリと止まると、不気味な生物の胸元にゆっくりと腕を伸ばし、伸ばし続けて、貫通させた。

 そして素早く腕を引き抜くと、爪の隙間に入り込んだ血や肉片も気にせず、生き絶えた生物から手を離した。

 力のない重みが、地面に落ちる音がした。

 一部始終を見ていた夢宙は、整い始めていた呼吸が、また乱れ始めたことを感じ取っていた。
 胃から競り上がってくる吐き気をなんとか抑え、死体から視線を逸らし、三つ編みの男を見上げる。

 そして次、地面に横たわるのは、地面の温度を感じられなくなったときかもしれないと、人知れず息を呑んだ。

 三つ編みの男は、夢宙の方向へ体を向けると、舌を動かしながら夢宙に近寄る。
 床から動けずにいる夢宙を見下ろした瞳には、明確な感情は読み取れない。

 蛇に睨まれた蛙。まさしくそう言える状況に、夢宙はごくりと喉を鳴らした。

「ねぇ」

 三つ編みの男が、口を開いた。
 夢宙は少し遅れて「な……何」と、力を振り絞って声を捻り出した。

「キミはゲラ?」
「げら……? 何それ」
「ゲットキラー。略してゲラ」
「……知らないね。私は生まれてから十八年間、人間やらしてもらってるんで」
「人間……」

 三つ編みの男は、夢宙をジッと見つめる。
 そして、何かを見つけようとしているように、キョロキョロと目を動かす。

「コアがない。つまり人間」
「……アンタは、そのゲラってやつなの?」
「俺は蛇のゲラ。名前はガラガラ」

 三つ編みの男——ガラガラは、そう名乗ると共に「人間に衝撃映像をお届けしてしまった。ごめん」と謝り、汚れていないほうの手を夢宙に差し出した。
 夢宙は警戒しつつも、ガラガラの手を取って立ち上がる。

「いや……確かにトラウマもんだけど、殺してくれなかったら殺されてたし……。普通に助かった。ありがとう」
「俺は人間を守るゲラ。助けるのは当然」
「ほーん……? なら、人間守らねぇゲラでもいんの?」
「ゲラは人間を殺す殺人兵器。普通は殺す」
「あ、そお……」

 機械的に淡々と語るガラガラに、薄れていた恐怖心を再度呼び覚ましかけた夢宙は、顔を引き攣らせながら笑顔を浮かべた。

「ん……? てか何でそんな奴らがこんなとこにいたんだ? そもそも、人間を殺す兵器って必要なのか?」
「元々は研究所で、戦争に行かせる軍事兵器として造られた。それ以外は俺にもわからない」

 そう答えたガラガラに、夢宙は衝撃を走らせた。

「え……。もしかしてガラガラって仲間ハズレなの……?」という中々に失礼な物言いの夢宙に、ガラガラは「そうなの?」と首を傾げた。

「だって、同じゲラなのに人間殺さないし、事情知らされてないんだろ?」
「殺さないし、知らされてない」

 夢宙は何かを察したかのように、瞳を閉じて静止した。
 換気扇の羽が、近くで回っている錯覚を起こす。

 気づいたときには、ガラガラの手を両手で包み込んでいた。

「私がお前の友達になってやるよ‼︎」
「友達」
「私の名前は雨浦夢宙。夢宙って呼んでいいぜ」
「むちゅー」
「夢に宇宙のちゅうと書く!」
「ほう」
「よーし! ならば人間を救うため、共に頑張ろうじゃないか友よ!」

 夢宙は、高らかに「ハーハッハ!」と笑い声を路地裏に響かせながら、空を指差した。
 そんな様子の夢宙を、ガラガラは不思議そうに眺めていた。
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