ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~三章 復讐の乙女編~

十一話 踊る死体

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 城門を抜けた先、城下町でバラコフは私の手を引いた。

「ちょ、はぁはぁ、ちょっと待ちなさい」

「なんでそんな疲れてるの?」

「あんたが……はぁはぁ、速すぎるからよ!」

 顔をつっ伏しながら言う彼の呼吸は動物のそれである。

「わはは! ごめんごめん。ちょっと休憩する?」

「そうじゃなくて! あんたこの先の事なんも考えてないでしょ! 食事、宿、替えの服! せっかく王都にいるんだから準備整えなきゃ駄目でしょ!」

 バラコフは私の額に指を突き立てて怒る。

「あっそっか! すっかり忘れてたよありがとう」

「ほんっっとあんた見てると心配だわぁ……。ちゃんとお嫁にいけるのかしら?」

「何とかなるろい!」

「ならないろい!!」

 速攻で否定される。むむ、私だってこれでも乙女なんだぞと思ったが、そう言えば私バラコフよりも料理できないし部屋も少し汚いかも……。

「私お嫁にいけるかな!?」

「努力することね」

 千里の道も一歩から。身に染みた午後である。

「……話しが脱線したわね。とにかく今日は準備整えて宿で休んで明日の朝に出るわよ」

「そうしよう! じゃあ食料から買いに行こうか」



           ・



「よし! 準備万端! 行くわよ!」

「待てぃ」

 朝一番で宿を飛び出たところで私の首根っこをバラコフが掴んだ。

「あんたブリガディーロ遺跡の方向知ってるの?」

「え? こっちでしょ?」

「そっちは真逆よ! おバカ! こっちよ!」

 ずるずると私を引きずって歩く彼は、まるで目が離せない子供を連れ歩く保護者のようだ。

 そんなこんなでジュニオルスを後にした私達は草原を抜け、道の整った森へと入る。昼過ぎを回った頃、森の道中にあった切り株に腰を掛けると私達は遅い昼食を取ることにした。

「この森はどれくらいで抜けられるのかな?」

「えぇーと……地図によるとまだ少しかかりそうねぇ。まぁあたし達の足なら夜にさしかかる前には抜けれると思うわぁん。森を出れば次の町まではそんなに距離はないからそこを目指しましょ」

 二人は近くの木に実っていた果物を食べながら話し合う。

「森とか山に来ると何か落ち着くね。建物が沢山ある王都も面白いけど、やっぱり私は自然に囲まれてた方が気分がいいな」

「そうねぇ。なんだかんだこっちの方が肌に合うのかしらねぇ。でもあんた村を発展させたら自然が減るわよ?」

「私が求める発展はただ単純に建物や人口をいたずらに増やす事じゃないわ。あのヴァスコ村の自然の豊富さを維持しつつ知名度を上げて、誰でも来やすい観光地にしたいのよ」

「夢物語ねぇ……。でも嫌いじゃないわぁ。あたしもそれには賛成よぉ」

 村を思う気持ちは募る一方である。私とバラコフはいなくなった村人の事を思いながら食事を進める。

「そろそろ行こうかしら。ヴィエリィ、早く食べちゃいなさい」

 バラコフが立ち上がると私は手に持っていた果物を全部一気に口に入れる。

「動物じゃないんだからみっともない食べ方するもんじゃないわよぉ」

「ふぁひゃくたへほってひうはら」

「行儀悪いわよぉ! 口に物入れながらしゃべらないでよねぇ」

 急いで食べる私を見て彼は呆れて言った。

「ふぁふぁこふ!」

「だから飲み込んでからしゃべりなさいよぉ。女子のすることじゃないわぁ」

「ふひろ!!」

「わかんないわよぉ。早く食べ──」


 ガッシィッッ!!


 突然に鈍い音が響いた。あまりにも急な事にバラコフはその場で倒れ、後ろを見れば大きな巨体の男が自分めがけてその大きな腕を振り下ろしてこようとしていたのだ。

 だが、それは未遂に終わる。男の腕は乙女の左の蹴り足により受け止められていた。

「なっ!? 誰よぉあんた!」

「……何者だ!」

 バラコフは驚き、私はやっとこさ口に入った食べ物を飲み込んで怒りをあらわにした。

「……………………」

 男は答えない。その生気を感じさせない虚ろな目でこちらを見ると、今度は問答無用に蹴りを放ってきたのだ。

 私はそれを避けると、逆に相手の腹を蹴り返して数メートル吹っ飛ばす。

「よし、よーくわかったわ。敵ね! なら倒す!」

 私は構える。男は無表情で何とも無さそうな素振りで立ち上がると再び襲って来るのだ。

「こいつ……。結構本気で蹴ったのに効いてない──?」

 私は疑問を感じつつ男の攻撃を避けながら様子を見る。

「ヴィエリィ!」

「大丈夫! こいつの攻撃は大した事無い! いくわよ! 『流掌打りゅうしょうだ』!」

 流れる身体から放たれる無数の掌底はただの打撃では無い! この技は敵の内臓を狙った打撃! 人体の構造は水分で満ちている、 表面を叩き内側に響かせる事により内臓を傷つける痛覚とは違う苦しみを与える技である!

 ガッ!ガッ! ガッ!

 腹、胸、脇に打ち込まれる私の攻撃。常人なら吐きながら転げ回る苦しみを味わう技であるが、

「──!!」

「………………」

 男はそんな攻撃にも無表情であった。そして反撃する拳が私の肩をかすると、その拳を掴んで思い切り私は相手を背負った。

「流術『流木落りゅうぼくおとし』!!」

  敵の攻撃の勢いを利用した脳天から落とす投げ技! 男は地響きを立てて頭から落ちる。──しかし、それさえも痛がる様子無くすぐに立ち上がるのだ。

「こいつ……」

「なんでぇ!? ヴィエリィの攻撃がなんで効いてないのよぉ!?」

 敵は常人では無い。身体に触れて私はわかった。

「あなた本当に生きてるの?」

「………………」

 男は何も答えない。ただその変わらぬ表情をこちらに向けるだけだ。

「どういうこと!?」

「こいつ、何か変だ。まるで死体と闘ってるみたい──」

 異様である。頭から地面に落ちて無傷とはこれいかに。男は首を揺らしながらその拳を振り回す。それはもう亡くなっている筈の死体が踊るような動き、まるで誰かに操られたような屍に近い。

「くっ! 『流旋脚りゅうせんきゃく』!」

 胴を回し、地面をえぐるように旋回する足は敵の攻撃をいなすと、刈り取るように首筋にガツンと当たる──!

「硬い……!」

 肉を蹴った感触では無い。無機物を相手にしたような手応えに私はさらに違和感を覚える。思考に浮かぶのはこの男が逸脱による異能者であること、でなければ説明がつかない。

「(こいつはなんだ……? 体を硬くする能力──それともダメージを無効化する能力……)」

「………………」

 私の思考を邪魔するかのように敵の攻撃は止まらない。徐々にではあるが私の動きに相手もついてくるように速度が上がってきている。

「ヴィエリィしっかり! このままじゃまずいわよ!」

「わかってる! でもこいつ人間じゃないみたいに硬いし手応えが無いのよ! おまけに感情も伝わってこない……まるで操られた死体だ!」

「操られた死体……そいつ本当に生きてないのね!?」

「わかんない! かもしれない!」

 私は敵の猛攻をさばきながらバラコフの質問に答える。すると、彼はそのつぶらな瞳を光らせて言うのだ。

「それなら話しは早いわ! 生きてないなら"あたしの能力"が使えるかも知れないってことでしょ?」





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