サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

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第1章

サラリーマンのおっさんと冒険者ギルドとはずれジョブ

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「なにぃぃぃ!!!はずれジョブ!?!?!?」

俺、南夏陽みなみなつひは34才のおっさんサラリーマンでひょんな事から異世界に転移した。
今はこの異世界での天職を顕現できる【星結いの儀ほしゆいのぎ】を行っている。

天職というのは星から授けられる職業で、その人間の一生を左右すると言っても過言では無いものらしい。

「はい・・・。言いにくいんだけどあなたの天職“おつかい士”は、いわゆるおつかい・雑用・パシリみたいなもので、冒険者でおつかい士になる人はゼロね。はっきりいって“はずれジョブ”と言われているの・・・。」

「そんな!はずれジョブが天職だなんて僕はどうすればいいんですか!?」

くっそ!言わせておけば好き放題言いやがって。

サラリーマン生活で培われたコミュニケーションスキルが身に染みつき、初対面の人には礼儀正しく接しようとするが“はずれジョブ”を引いたショックでつい目の前の女に声を荒げてしまう。

「うーん・・・。色々あるんだけど。ひとつはレベル20まで上げて他のジョブに転職。ふたつめがおつかい士のまま冒険者になる。みっつめが冒険者養成学園を卒業し冒険者に適したジョブに転職ってとこかな。」

ふむ。冒険者になる為には適さないはずれジョブを引いてしまったようだが、まだ可能性はあるらしい。

「なるほど。ちなみにレベル20まで上げるのはどれくらいかかるんですか?」

「人にもよるけど、早い人で10年くらいと言われているかな。遅い人だと一生かかってもレベル20に達しない人もいるわ。」

早くて10年って長すぎだろ・・・。せっかく異世界に来られたなら、冒険者になって世界を救う英雄とかになってみたいのに。

「おつかい士のまま冒険者になるというのも現実的にありなんですか?」

「うん!過去にはおつかい士のまま冒険者をやっている人もいたわ。だけど基本的に戦闘能力は低いから強い敵も倒せなくてレベルも上がりにくいし、大きなクエストなんかにも挑戦できていなかったかな。でもパーティの荷物持ちや雑用係として重宝されていたみたいだよ!」

・・・・・荷物持ちに雑用係。励まそうとしてくれている表情から、この人が本気の親切心で言っているのがわかるから余計に質が悪い。

俺は異世界に来てまで、そんな雑用みたいな事はしたくねーんだよ!

しかも戦闘力低いとか大きなクエストには挑戦できないとか、めちゃくちゃ傷つけてくるじゃねーか!

・・・いや、この人は俺の質問に答えてくれているだけなんだ。

ここで感情的になってしまっては単なる八つ当たりだ。

一度落ち着く為にも改めて目の前の女性を観察する。

アリナという名のその女性は、髪がしぼりたてのミルクのような乳白色、ほんのりウェーブがかかっており、胸元くらいまで伸びている。

頭からは獣の耳がちょこんと垂れていて、さらには短い角も生えている。

目は黒曜石のような煌びやかな黒で、黒目がちの大きな目は意志の強さと愛嬌を同時に感じさせる。

そしてアリナの外見の中でも最も特徴的なのが、男なら誰しもが目を惹いてしまうであろう胸部である。

白いブラウスを着ているが、その下に内包されている質量は凄まじい事が伺える。

ブラウスがはちきれんばかりに膨らんでおり、ボタンが今にも弾け飛びそうだ。

・・・十中八九、牛の獣人だろう。

牛の獣人って事はミルクとかでるんだろうか?

「ちょっとー!!聞いてるんですか?」

「あっ、すみません。おつかい士として冒険者になっても結局パーティの雑用をやるんですよね。ちなみに冒険者養成学園に行った場合は卒業までどれくらいかかるんですか?」

乳に関する事を考えていた事が悟られないように別の質問を投げかける。

「学園は基本3年間で卒業できるわ。3年間冒険者としての知識や技術を学び、卒業試験に合格できれば卒業。その人に適正のある冒険者向きのジョブに転職できるようになるの。」

どれも俺がこの世界で英雄になるには、時間がかかる気がするがこれが1番現実的か。それにこの年になってから学校に行くってのも楽しそうだしありかもな。

「もし学園に行きたいなら、ちょうど今日から1週間入学試験を行っているから受けてみたらどう?」

俺のまんざらでも無さそうな表情を読み取ったのか、アリナが入学試験の事を教えてくれる。

気がきくアリナに少し恋に落ちそうになる。

顔も普通にかわいいし、乳は凶悪なまでにでかいし性格も良いし色々やばい。

異世界の女性はみんなこんな感じなのか?

要リサーチだな。頭の中でタスクに追加する。

「アリナさんありがとうございます。明日にでも冒険者養成学園の試験を受けてみようと思います。それで今日なんですが、僕は文無し宿無しで、できればアリナさん家に泊めてもら・・・」

「あっ!それなら冒険者ギルドが1週間無償で宿と食事を用意するから大丈夫よ。あなた達みたいな“迷い人”がいた時には冒険者ギルドの規定でそういう事になっているから安心して!」

ちっ。アリナの家に泊まって異世界ランデブー作戦は失敗したものの、とりあえず寝る場所と、食事には1週間困らない事がわかり安心する。

ちなみに迷い人というのは、この世界における“どこか別の世界からきたっぽい人”の総称らしい。

この後も一通りアリナからこの世界の事を教わり冒険者ギルドを後にする事になった。

「アリナさん色々とありがとうございました。アリナさんのお陰でこの世界の事や自分の置かれている状況がわかって本当に助かりました。ではまた!」

「ううん。いいのよ、冒険者ギルドの仕事でもあるから。また困った事とかがあればいつでも来てね!」

もう少しアリナと話したかったとこだが、初対面で踏み込みすぎるのもよくないと思い、爽やかな別れを心がける。

冒険者ギルドを出て、改めて街並みを見渡す。

石畳の道に、その上をガタガタと木の車輪を鳴らしながら走る馬車。いや、馬車というのは適切でない。ひいているのは馬ではなく、恐竜を彷彿とさせるような大きなトカゲのような生き物だからだ。

道行く人々も多種多様で、大胆に肌を露出した背の高い女性の耳はウサギのように長い。

その隣を連れ立って歩く男性は猫のような耳と尻尾が生えている。

ツーハンドアックスを持ったドワーフっぽい人や、片手剣を腰に佩(は)いた剣士風の男性、とんがり帽子にローブ姿のエルフらしき女性の一団はまさに冒険者。

・・・・・きたーーーー!!!!異世界!!!

アニメやラノベの世界でしかありえないと思っていた異世界転移。

34のおっさんだって夢見てしまう異世界転移。

俺は今、紛れもなく異世界にいる。

この異世界での新たな人生に胸が高鳴る。

何をしてもサラリーマン生活よりは楽しそうだ。

だけど、どうせなら英雄とかになってみたいな。



なんて年甲斐もなく思いながら、アリナに紹介された宿へ向かうのだった。
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