サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

文字の大きさ
17 / 62
第2章~学園動乱編~

女戦士とおっさんの計略

しおりを挟む
校門でクロードとの望まぬ邂逅を果たした俺は、合格通知に記された入学式の会場である大講堂へと向かう。

はぁ・・・。なんでいきなりあいつと会わなければいけないんだよ。どうせなら女戦士ちゃんと出会って「あ!あなたはあの入学試験の時の!」とかなって入学初日から仲良くなったりしたかったのにな。

まぁ実際の異世界は俺がラノベで読んできたような、テンプレの出来事は意外と起きないという事もこの世界にきて充分わかったし過度な期待は辞めておこう。

爽やかな風を頬に受け薄紫の花のほのかに香る甘酸っぱい匂いを感じながら、石畳の通路を歩く。

目的地である大講堂は立派な薄茶色のレンガ造りの建物で、入り口の上には時計台がそびえ立っている。

大講堂の入り口あたりで連れ添いの親御さんたちは、別れの挨拶をして我が子を見送り帰っていた。

「入学式がんばるのよー。」と言いながら手を振る中年のマダムや、柔らかな微笑みを浮かべる紳士たち。

大講堂の中に入れるのは生徒だけなのか。

中に入るとオペラ劇場のようなステージがあり、そのステージを見渡せるように半円状に座り心地の良さそうな椅子が配置され、前から後ろにいくにつれ古代コロッセウムのように徐々に高くなっている。

普段は厳かな雰囲気なのだろうが、新入生たちが思い思いの場所に座り、友人たちとの会話を弾ませているのでアイドルのコンサートなどのイベント前のような雰囲気だ。

とりあえず後ろの方で、全体が見渡せそうな場所の空いている席に適当に座る。

前の方で人だかりができていてその中心にはクロードがいて仰々しく話していたり、俺みたいにぼっちで来ている人は少なそうだったり、なんとなく会場の様子をしばらく観察する。

すると「すみません。隣あいていますか?」と鈴を転がすような声で話しかけられた。

「あっ、どうぞ。空いていますよ。」と言いながら声の主の方へむけると、そこにいたのは女戦士ちゃんだった。

きたーーー!!!俺にもついに異世界美少女イベントきたよ!!

心臓が少しだけ早くなるが努めて冷静にふるまう。女戦士ちゃんは俺と同じく1人で来ているようだ。

あまりじろじろ見て気持ち悪いと思われないように、視線はステージの方へ向けておく。

・・・。「あ、あの!同じ日に入学試験を受けた方ですよね?お互い無事に入学できて良かったですね!」

とか話しかけられるのを期待したが、なかなか話しかけられない。

そう、異世界はそんなに甘くない。

自分から話しかけないと・・。

そこでサラリーマン時代に培った経験をもとに選択肢をいくつか並べてみる。

まずそもそも話しかけるか、話しかけないか。

高校生当時の俺なら、恰好をつけて話しかけないという選択肢もあっただろうが、自分から行動をしないと今以上の何かが生まれる事はない。

つまりこのままだと、“入学式の時にたまたま隣に座った人”でしかない。

話しかけた場合には、相当失礼な事を話し相手の地雷を踏まない限りは嫌われる事はない。少なくとも“入学式初日に話した事のある人”うまくいけば“初めてできた知り合い”くらいにはなれるかもしれない。

ここは“話しかける”1択だ。

次に敬語かタメ語か。

敬語の場合、初対面としては当たり障りがないだろう。しかし、少し堅苦しく面白みのないやつだと思われる可能性もある。
タメ語の場合は、堅苦しさなどは感じられないだろうが、いきなり慣れ慣れしいと思われる可能性がある。

そして、入学試験の様子を見るに女戦士はそこまで固いタイプでは無く、どちらかといえば明るく人当たりは良い気がする。試験会場に流れた「不正じゃね?」という雰囲気を一言で変えてしまうくらいのコミュ力を持っている。
だが、先ほど席の空きを確認してきた時は敬語だった。

という事は、人とのコミュニケーションは得意だが最低限の礼節はわきまえているタイプだ。

敬語だ!!まず敬語かタメ語の選択肢においては敬語でいく事に決めた。

最後に話しかける話題だ。とりあえず3パターンで検討する。

①なるべく爽やかな笑顔と共に「なんか入学式ってわくわくしますね。」これは、入りとしては万人受けするかもしれないが、続く会話が「はい。そうですね。」で終わってしまう可能性がある。その後も会話を広げればいいのだが、パーソナルな部分に踏み込むことなく印象が弱いまま終わってしまう可能性がある。
それにこれは、美少女が男に話かけるパターンとしては良いかもしれないが、男から美少女に向かって行っても効果が薄い。相手に考えさせ答えを求めるような会話はこの場ではNGだ。

②少しテンション高めに「いやー!こんな可愛い子と同期だなんて嬉しいです!俺はナツヒって言います。これからよろしく!」これはチャラい印象を与えるが、入学初日の緊張気味の人にはありがたいと思われるかもしれない。それに名を名乗って自己紹介する事によってとりあえず既知の関係という既成事実も作れる。しかし、女戦士ちゃんがオープンそうな性格だからといってチャラいやつが苦手では無いとは限らない。ややリスキーだ。

③少し驚いた様子で「あっ!入学試験の時に大剣で魔法人形をぶった斬ってた人ですよね?」これは相手が自分の事を覚えていない場合に、「え?誰こいつ?なんで私の事しってるの?きも!」と思われるリスクがある。しかし、自分の事を覚えてもらっていて嫌な気分になる人はいないし、本人が失敗したとは思っていない、プラス面の内容で覚えているとなれば問題はないはずだ。それに、大剣や自己強化魔法の事に踏み込めればごく自然にパーソナルな会話もできそうだ。

③だ!これで俺の方針は固まった。敬語で入学試験の時の話をする。この作戦で入学式の初日に舞い降りたイベントを突破する。

「あっ!入学試験の時に大剣で魔法人形をぶった斬ってた人ですよね?」少し驚いた様子を意識しながら話しかける。

「えっ!あっそうです。でもどうしてそれを?」

くっ・・。やはり俺の事なんて覚えていなかった。でも魔法を使えなかった事は印象に残っているはずだ。自分の心をえぐるようだがあえて話すか。めげずに二の句を続ける。

「実は僕も同じ日に入学試験を受けていたんです。僕は、魔法を撃てなくて魔法人形にダメージを与えることができなかったんですけどね。」自虐的に笑いながら話す。

「あーーー!」やや勝気な感じだが、愛嬌を感じさせるエメラルドグリーンの大きな瞳をさらに大きく開き驚いた様子を見せる。

かわいい。そしてやはりあのダメな印象は強かったようだ。ただ、こうして女戦士ちゃんに覚えてもらっていただけで良しとしよう。

「でもしっかり魔法チャージできていましたよね?ただ撃てなかっただけなのにあんなにみんな笑うことないのになーって思いました。あぁいう風に頑張っている人をバカにする人私は好きじゃないな。」

眉根をよせながら形の良い唇を少しとんがらせ非難の色を浮かべる。

ぐはっ・・・心が苦しい。いい子過ぎる。こんなに可愛くてこんなにいい子がいるなんて。
魔法試験でバカにされていた見ず知らずの俺の為に怒ってくれるなんて。

サラリーマン生活ですり減り、そして修復を繰り返し図太く強くなった俺のハートが柔らかにとろけていく。

「あぁ・・。ははっ!ありがとうございます。でも魔法を使えなかったのは事実ですしあぁいう風に笑われちゃってもしょうがないです。それにあれくらいじゃくじけませんから!僕は冒険者として名を挙げて英雄になりたいんです!その為だったらあれくらい余裕です。」

本当はサラリーマン生活に比べたらノーダメージってのもあるが、ややこしくなるし意味わからないやつだと思われるのでもちろん伏せておく。

俺の言葉に女戦士ちゃんは何か珍しいものを見るような、そして見定めるような表情でこちらを見る。

視線がぶつかる。なんか変な事を言っただろうか。冒険者学校で英雄になりたいは禁句だったとか?しかし可愛いな。

「英雄・・・。うん!とっても素敵だと思います!」

一言目は本人の口から意図せずこぼれてしまったようにも思う。果たして声として発していた事に気付いていただろうか。

“英雄”という言葉を発した瞬間がまるで無かったかのように、女戦士ちゃんは入学試験の時に見せた、弾けるような笑顔をこちらに向ける。

・・・かわいい。あぁ好きだわ。俺の中のどこかで恋に落ちた音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

処理中です...