サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

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第2章~学園動乱編~

黒き思惑

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――入学式後の学園長室。

良質の木材を使っている事が伺える、重厚な机を5人の男女たちが囲んでいる。

深緑色のなめし革を贅沢に使った、座り心地の良さそうなソファに座っているその男女たちはオルニア学園の教員たちだ。

今年の1年生をうけもつ予定の彼らは、この日行われた入学式中の最終試験の模様を、映像記憶クリスタルを通して確認した後だった。

「しっかし学園長も今年の入学最終試験は派手にやりましたなぁ!」

「ええ!本当に!初めて入学試験で死人がでちゃうかと思いました。」

「あ・・あぁ。いざとなれば私の魔法で回復するつもりだったからな。さすがに入学試験で死者を出す気はない。」

「それにしても今年は豊作ですな!特に“紅炎の一族”アスト=ソルフレイの体術と好戦的な性格は歴代の生徒の中でも群を抜いている!鍛えがいがありそうだ!」

「確かに彼も良いが、“ハイエルフの異端児”エルシオン=サンピエールの冷静さと、勝負所の勘の良さも目を見張るものがあったぞ。光の勇者と共にザ・ホープリッパーにとどめも刺していたからな。」

「うんうん!アスト君もエルシオン君もすごかった!けど私はやっぱり“月の巫女”セレナちゃんの魔法が綺麗で好き。あの魔法が破られた時どんな顔するのか楽しみだなぁ!」

「まーたお前は・・・。しかし魔法と言えば大賢者が興したと言われる魔法の名家であるヴァレンティア家の娘もいたな。魔法よりも接近戦で戦っていたのが気になったが、あの大剣さばきは見事だ。」

「うむ。目立っていた生徒はその4人に加え光の勇者クロード=アルヴェイユといったところか。勇者の名は伊達では無かったな。」

最後の学園長による光の勇者に対しての評価に関しては、みな異存が無いという様子だ。

「200年に1度とも300年に1度とも言われる光の勇者の再来・・・。クロード=アルヴェイユがオルニア学園の歴史上でも屈指の実力を持っていることは間違いない。しかし、本物の光の勇者だという確証はまだない。」

「そうですかねー?私はかなり高い確率で本物だと思いますけど?」

「あぁ。これだけの粒ぞろいが入学してくる年はいまだかつて無かった。」

「そうですね。言い伝えでは光の勇者が現れたら、時を同じくしてその仲間となる戦士たちも現れるとされていますからね。」

「確かに皆の言う通りだ。だが、我々は光の勇者の仲間足りえる者がいるかも含めて彼らが本物かどうかを確実に見定める必要がある。今後オルニア学園は確実に彼らを中心として動いていくだろう。皆しかと頼んだぞ。」

エルヴィアーヌ学園長の言葉に教員たちはそれぞれ肯定の意を示す。

「・・・それともう1人、ナツヒ=ミナミという男もよく注意して見ておいて欲しい。」

「ん?他に目立っていた生徒はいなかったように見えましたがどの生徒です?」

学園長は、映像記憶クリスタルから投影されている映像を指さし皆に伝える。

「ただ薬草を配っているだけじゃないですか?モンスターとも戦ってないし。あ、でも学園長に誰よりも先に薬草を使っていますね。」

「しかも学園長に薬草を使ったのもモンスターに攻撃されてたまたま学園長のそばに吹っ飛んできただけじゃないですかぁ?」

「うむ・・。私もそう思ったのだが、薬草を使う際にこいつは私の胸を・・・。」

学園長はその先の言葉を言いよどみ、ハイエルフ特有の壮絶なまでに美しく整った顔を赤らめる。

「胸を・・・?」

「いや、その・・・胸をだな・・・。」

「あー!胸の動きを見て、息があるかを確認しようとしてきたって事ですか?」

「あ、あぁ・・・!そうだ!皆が恐慌状態に陥っている中、この男だけはやけに冷静に感じたのだ。変に余裕があるというか・・。私の勘違いという可能性もあるが、一応でいいナツヒ=ミナミもよく見ておいて欲しい。」

こうしてナツヒの“目立たずに学園生活を満喫する”という目標は自らの下心によって音を立てて崩れ去ったのである。

その後クラス編成の会議を終え、教員たちは学園長室を後にする。

――教員たちがいなくなりしばらく経った後。

闇の中より1人の男が現れる。その男は黒いフードを目深にかぶっており、表情の全てをうかがい知る事はできない。

「学園長~~!最終試験お疲れ様でしたーー!!」

フードから唯一伺い知る事のできる口元に、軽薄な笑みを浮かべエルヴィアーヌに労いの言葉をかける黒ローブの男。

「貴様・・・。あれは一体どういうつもりだ?」

「え?あれって一体なんのことですか?もしかしてザ・ホープリッパーの事ですか?」

「そうだ。一歩間違えば死者がでていたぞ。」

「嫌だなぁ!ボクは学園長に頼まれた仕事をちゃぁんとこなしただけですよぉ。不測の事態が起きても対応できるかどうか。冒険者としての強さを持っているかどうか。それを確かめただけじゃないですかぁ。」

学園長の非難の言葉を受けてもなんら悪びれる様子もない黒ローブの男は、おどけた仕草と共に言葉を紡ぐ。

「だが、私が頼んだのはエビルクロウ150体の召喚までだ。それだけで最終試験としての見極めはできていたはずだ。」

「いやーー!!確かにボクもそう思っていたんですけど光の勇者のせいで、試験が台無しになっちゃったじゃないですかー?まさかあんな魔法を使ってくるとは思わなかったものですからぁ!気を利かせてザ・ホープリッパーを召喚してあげたんですよ!それに本当に止めたかったらすぐに止めれば良かったじゃないですかぁ?」

「くっ・・・。」

「学園長も、彼らの力を推し量りたくて最後まで見ていたかったんでしょぉ?それにオルニア学園から次の英雄を輩出したいという想いはボクも学園長と一緒ですよぉ。」

「・・・そうか。それにしては、貴様が冒険者を嫌いだとかなんとか言っていた時には随分と真に迫ったものがあったが?」

「・・・。特に意味は無いですよ。ちょっとみんなを怖がらせるために言ってみただけです。とりあえずこれからもボクにできる事があれば、またなんでも手伝いますからいつでも頼って下さいね!学園長♪今日はそれを伝えたかったので。ではごきげんよう~。」

一方的に喋り別れの挨拶を済ませると、黒ローブの男は自らが作り出した闇の中へ消えていった。

「・・・。あの男一体何を企んでいるんだ。確かに予想以上に今年の新入生は強くザ・ホープリッパーの召喚により判断できた事は多かったが・・・。手を組むにしても今後はより用心をしないといけないかもな。」

エルヴィアーヌ学園長の憂いを帯びた言葉が、誰にも聞かれることなく空気に溶けていった。

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