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第2章~学園動乱編~
詐欺師と油断と戦乙女
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俺が予期せぬ出来事にパニックを起こしていると、ホブゴブリン・ザ・スウィンドラーの勝利を確信したかのような笑い声が響き渡る。
「ゲハッハーー!!!!良クヤッタゾシャーマン!!」
「ワタシノ魔法“バインド”デ、ソヤツノ“アシ”ハ封ジマシタ!!!ワタシノ魔力ガ続クウチニソヤツヲ血祭リニ!!」
くそっ!完全に油断した。
レベル10のボスモンスターを圧倒することができ、自分の強さに酔いしれてしまった。
すぐにとどめを刺せば良かったのに、完全にこの場を制圧している気になり長々と命乞いを聞いてしまいシャーマンの存在を忘れてしまっていた。
あるいは、シャーマンがいようとも2匹まとめて倒せるという慢心が無意識のうちにあったのか。
いずれにせよ自らの傲慢が招いたこの事態。
「血ノ祭カ!良キカナ!コイツノ手足ヲキリオトシテコノ後ノ“メインディッシュ”ニ添エヨウデハナイカ!」
俺の自責の念などつゆ知らずホブゴブリン・ザ・スウィンドラーは、逃げられぬ獲物を前にした獰猛な笑みを浮かべ片手剣を振り下ろす。
その斬撃を刀で受け止めるが、足が地面から離れない為体勢が不十分で威力をうまく逃がす事もできない。
次いで二の太刀を放ってくる偽りの王。
完全に受けきる事ができず浅くではあるがダメージを負う。
足の自由を奪われている為、踏み込みも満足に行えず反撃さえもままならない。
また反撃後の隙を狙われるリスクを考えると防御に専念せざるを得ない。
その防御さえも、足が全く使えない為に不十分で着実にダメージを蓄積させてしまう。
ホブゴブリン・ザ・スウィンドラーは敵の武器である素早さを奪い一気に形勢逆転したことを悟り、反撃への憂いが消えその太刀筋から迷いが無くなる。
偽りの王は口を大きく裂け牙をむき出しにしながら、一方的に攻撃できる愉悦に浸っている。
これではシャーマンの魔力が尽きる前に俺のHPが全損してしまう。
あるいはある程度ダメージを俺に与えたら、宣言通り手足を切り落としにかかるのか。
出血の継続ダメージで死んでしまいそうだが、もしかしたら止血する魔法でもあるのかもしれない。
卑しく下劣なゴブリン達のことだ、それくらいの方法は心得ていそうだ。
しかも、この群れによる犠牲者には多少戦いの心得がある女性もいただろう。
その女性達を捕まえ無力化させる為には、今俺の足の自由を奪うような魔法くらいあると予想できたはずだ。
――油断・慢心・傲慢。少し前の自分を激しく責め立てたい衝動に駆られる。
「ゲハハッハーーー!!!サッキマデの威勢はドウシタ?ソウ言エバサッキオ前ニ嘘ヲツイタカラ謝ラナイトナーー!!人間ノオンナナンテ掃イテ捨テルヨウニイル!飽キルマデ子種をブチコンデ飽キタラ殺ス!ソシテ人間ヲ殺して経験値を得てオレは上位種にナルンダ!ソウシタラ人間ヲ孕マセルコトもデキル!酒池肉林ノ王国ヲオレハツクルゾ!!」
俺が自分の判断の甘さを嘆いていると、偽りの王が心底胸糞の悪くなる言葉を吐きながら攻勢を強めてくる。
「安心シロ!お前ガツレテキタオンナ、アレハ上玉ダ!オレガ上位種ニナルマデタップリトカワイガッテ、オレノ子供ヲタクサン産マセテヤルゾ!王女ニスルコトモ考エテヤル!オ前モペットトシテ飼ってヤッテモイイゾ!!!」
これが詐欺師ゆえの能力なのか、ゴブリン全部がそうなのかはわからないが冷静さを失いそうになる偽りの王の言葉。
思わず手を出しそうになるが、下手に攻撃を繰りだし反撃を喰らったらまずい。
特に手にしている刀――春時雨を落としてしまったら確実に詰む。
柄に力を込め絶対に落とさないようにする。
しかし偽りの王からの言葉を受け、感情を乱されながらの防御を繰り返す中でいくらかの被ダメージを許してしまう。
気付くと俺のHPゲージは半分を下回り、もう何回攻撃を防いだかもわからず直撃を避ける為の集中力も切れそうだ。
極限状態の俺を唯一支えるのは、エリスを守りたいという一心だった。
ここに来てエリスへの想いの強さを再認識する。
恋心とはまた違うが、幸せになって欲しいと思える存在。
あの純粋無垢で真っすぐな心を守ってやりたいという気持ち。
その先にある彼女が作ろうとする未来を共に見てみたいという願望。
この想いに名付ける為の引き出しを俺はついぞ持ち合わせていないままだった。
――HPゲージは3割を下回る。
ボスの攻撃を全て防ぎきれず、何発かは直撃してしまっている。
サラリーマンだった日本での生活を含めても、こんなにも人を想った事はあっただろうか。
こんなところでせっかくの異世界生活が終わるのは勘弁だな・・・。
ここで死んだら日本に戻れるのかな?
でもそうなったらエリスは?
「――ナツヒ君。」
入学試験の翌日に初めて名前を呼んでもらった時は、年甲斐もなく心が躍ったものだ。
――絶対に諦めてなるものか!弱気になってはいけない。
心の中にエリスの声が響き戦意を奮い立たせる。
俺は目の前のボスを見据えどうにか一矢報いようとする。
ボスの武器を落とす事ができれば!
俺が片手剣を握るボスの手を狙い斬撃を繰り出し、イチかバチか指を切り落とさんと試みた時だった。
「――ナツヒ君!!」
ん?幻聴か?エリスの声が聞こえる。
「ナツヒ君、耐えて!絶対に死なないで!!シャーマンは任せて!」
いや、この透き通るような響きの中に芯の強さを感じさせる声は、紛れもなくエリスのものだ。
俺の安否を憂うこの言葉は幻聴なんかでは無い。
エリスが女性達を逃がし終え戻ってきてくれたのだ。
俺がその場から動けずにいる状況を見て、ゴブリンシャーマンの魔法によるものだとわかったのだろう、エリスは桜色のツインテールをなびかせ疾走しゴブリンシャーマンへと迫る。
先のゴブリンシャーマンからの攻撃を受け、傷つきながらも大剣を携え勇敢に敵に立ち向かうその姿。
装備こそ破壊され、そのきめ細やかで艶やかな肌の大部分を露出させてしまっており、ところどころ出血も見られる。
しかし、その美しさが失われる事はなく尚美しい。
――戦乙女。
現実に目にした事は無いが、俺の頭の中にそんな言葉が浮かんだ。
「ゲハッハーー!!!!良クヤッタゾシャーマン!!」
「ワタシノ魔法“バインド”デ、ソヤツノ“アシ”ハ封ジマシタ!!!ワタシノ魔力ガ続クウチニソヤツヲ血祭リニ!!」
くそっ!完全に油断した。
レベル10のボスモンスターを圧倒することができ、自分の強さに酔いしれてしまった。
すぐにとどめを刺せば良かったのに、完全にこの場を制圧している気になり長々と命乞いを聞いてしまいシャーマンの存在を忘れてしまっていた。
あるいは、シャーマンがいようとも2匹まとめて倒せるという慢心が無意識のうちにあったのか。
いずれにせよ自らの傲慢が招いたこの事態。
「血ノ祭カ!良キカナ!コイツノ手足ヲキリオトシテコノ後ノ“メインディッシュ”ニ添エヨウデハナイカ!」
俺の自責の念などつゆ知らずホブゴブリン・ザ・スウィンドラーは、逃げられぬ獲物を前にした獰猛な笑みを浮かべ片手剣を振り下ろす。
その斬撃を刀で受け止めるが、足が地面から離れない為体勢が不十分で威力をうまく逃がす事もできない。
次いで二の太刀を放ってくる偽りの王。
完全に受けきる事ができず浅くではあるがダメージを負う。
足の自由を奪われている為、踏み込みも満足に行えず反撃さえもままならない。
また反撃後の隙を狙われるリスクを考えると防御に専念せざるを得ない。
その防御さえも、足が全く使えない為に不十分で着実にダメージを蓄積させてしまう。
ホブゴブリン・ザ・スウィンドラーは敵の武器である素早さを奪い一気に形勢逆転したことを悟り、反撃への憂いが消えその太刀筋から迷いが無くなる。
偽りの王は口を大きく裂け牙をむき出しにしながら、一方的に攻撃できる愉悦に浸っている。
これではシャーマンの魔力が尽きる前に俺のHPが全損してしまう。
あるいはある程度ダメージを俺に与えたら、宣言通り手足を切り落としにかかるのか。
出血の継続ダメージで死んでしまいそうだが、もしかしたら止血する魔法でもあるのかもしれない。
卑しく下劣なゴブリン達のことだ、それくらいの方法は心得ていそうだ。
しかも、この群れによる犠牲者には多少戦いの心得がある女性もいただろう。
その女性達を捕まえ無力化させる為には、今俺の足の自由を奪うような魔法くらいあると予想できたはずだ。
――油断・慢心・傲慢。少し前の自分を激しく責め立てたい衝動に駆られる。
「ゲハハッハーーー!!!サッキマデの威勢はドウシタ?ソウ言エバサッキオ前ニ嘘ヲツイタカラ謝ラナイトナーー!!人間ノオンナナンテ掃イテ捨テルヨウニイル!飽キルマデ子種をブチコンデ飽キタラ殺ス!ソシテ人間ヲ殺して経験値を得てオレは上位種にナルンダ!ソウシタラ人間ヲ孕マセルコトもデキル!酒池肉林ノ王国ヲオレハツクルゾ!!」
俺が自分の判断の甘さを嘆いていると、偽りの王が心底胸糞の悪くなる言葉を吐きながら攻勢を強めてくる。
「安心シロ!お前ガツレテキタオンナ、アレハ上玉ダ!オレガ上位種ニナルマデタップリトカワイガッテ、オレノ子供ヲタクサン産マセテヤルゾ!王女ニスルコトモ考エテヤル!オ前モペットトシテ飼ってヤッテモイイゾ!!!」
これが詐欺師ゆえの能力なのか、ゴブリン全部がそうなのかはわからないが冷静さを失いそうになる偽りの王の言葉。
思わず手を出しそうになるが、下手に攻撃を繰りだし反撃を喰らったらまずい。
特に手にしている刀――春時雨を落としてしまったら確実に詰む。
柄に力を込め絶対に落とさないようにする。
しかし偽りの王からの言葉を受け、感情を乱されながらの防御を繰り返す中でいくらかの被ダメージを許してしまう。
気付くと俺のHPゲージは半分を下回り、もう何回攻撃を防いだかもわからず直撃を避ける為の集中力も切れそうだ。
極限状態の俺を唯一支えるのは、エリスを守りたいという一心だった。
ここに来てエリスへの想いの強さを再認識する。
恋心とはまた違うが、幸せになって欲しいと思える存在。
あの純粋無垢で真っすぐな心を守ってやりたいという気持ち。
その先にある彼女が作ろうとする未来を共に見てみたいという願望。
この想いに名付ける為の引き出しを俺はついぞ持ち合わせていないままだった。
――HPゲージは3割を下回る。
ボスの攻撃を全て防ぎきれず、何発かは直撃してしまっている。
サラリーマンだった日本での生活を含めても、こんなにも人を想った事はあっただろうか。
こんなところでせっかくの異世界生活が終わるのは勘弁だな・・・。
ここで死んだら日本に戻れるのかな?
でもそうなったらエリスは?
「――ナツヒ君。」
入学試験の翌日に初めて名前を呼んでもらった時は、年甲斐もなく心が躍ったものだ。
――絶対に諦めてなるものか!弱気になってはいけない。
心の中にエリスの声が響き戦意を奮い立たせる。
俺は目の前のボスを見据えどうにか一矢報いようとする。
ボスの武器を落とす事ができれば!
俺が片手剣を握るボスの手を狙い斬撃を繰り出し、イチかバチか指を切り落とさんと試みた時だった。
「――ナツヒ君!!」
ん?幻聴か?エリスの声が聞こえる。
「ナツヒ君、耐えて!絶対に死なないで!!シャーマンは任せて!」
いや、この透き通るような響きの中に芯の強さを感じさせる声は、紛れもなくエリスのものだ。
俺の安否を憂うこの言葉は幻聴なんかでは無い。
エリスが女性達を逃がし終え戻ってきてくれたのだ。
俺がその場から動けずにいる状況を見て、ゴブリンシャーマンの魔法によるものだとわかったのだろう、エリスは桜色のツインテールをなびかせ疾走しゴブリンシャーマンへと迫る。
先のゴブリンシャーマンからの攻撃を受け、傷つきながらも大剣を携え勇敢に敵に立ち向かうその姿。
装備こそ破壊され、そのきめ細やかで艶やかな肌の大部分を露出させてしまっており、ところどころ出血も見られる。
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