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わからせてあげる
気持ちを切り替えるどころか、モヤモヤした気持とジュクジュクとした感情は堆積し自分の心の中に堰き止めておくのが難しくなっていた。
席に戻るとフェリクスは私を見るなり顔を強張らせた。
「リディ?」
テーブルに置かれた私の手を握る。
「…化粧室で何かあったね?何をされた?…あいつ…マダムに何かされたんじゃ…」
「大丈夫だから…」
「大丈夫そうには見えない。僕には言えない?」
言えないも何も…あなたが最大限に関係していることで、しかも自分のこんな情けない感情をフェリクスみたいなキラキラしたイケメンに話すなんて悲しくなる。少しでも良く見せたい…こんな情けない姿を見せたくない。笑われてしまうくらい、ちっぽけな私のプライド…これくらいは守りたいのに。
きっと、こんな感情…フェリクスにはわからない。
モヤモヤした気持とジュクジュクとした感情は徐々に怒りに変わっていった。
誰への怒りなのかもわからない。けれど、もう堰き止めておくのは無理だった。
感情的に声を荒げていた。
こんなのただの八つ当たりだ…しかも一番嫌われたくない相手に。
「フェリクスにはわからないよ!私の気持ちなんて……もう頭の中もごちゃごちゃで気持ちが追い着いていかない…」
目が熱くなり視界がぼやける。
「ごめん……リディ、少し落ち着こう…」
フェリクスは席を立つと私のバッグを持ち、もう片方の手で私の手を引きレストランを出た。
俯き涙の滲んだ視界に入るのは地面だけ。だらりと力が入らない手をフェリクスに引かれて、どこに連れていかれるのか…わからぬまま進んだ。
気がつくとソファに座らされていた。
やっと視線を上げ周囲を見ると、モダンな室内。奥には清潔なベッド。作りからして高級なホテルの一室のように見えた。
私のバッグをテーブルに置くと隣に座るフェリクス。
「ここなら大丈夫だよ…いくら大きな声を出しても、泣いても…暴れても」
「ここ…どこ?」
「経営しているホテルの一つ。レストランのすぐ近くにある」
二人きりの静かな空間に身を置いたことで徐々に気持ちが落ち着いていく。
黙り込む私にフェリクスも黙ったままで…私の涙を指で優しく拭ってくれていた。
「…ねえ、どうして私なの?」
漸く言葉を絞り出す。
今の私はコンプレックスの塊だ。
フェリクスと再会するまでは自分の容姿にコンプレックスはあるものの、ここまで卑屈になることはなかった。
自分に自信がない、フェリクスの前に立つと余計にそうなる。フェリクスみたいなイケメン紳士が私みたいな平凡で地味な女がいいなんて何の気の迷いだろう。マダムに言われた言葉を思い出す。
「じゃあ聞くよ、どうして僕なの?リディだって言っていただろ?私だけじゃなかった同じだったのって…」
「そうだけど……あなたは誰から見てもキラキラなイケメンで…フェリクスみたいな人に再会したら誰だって嬉しくなると思う…でも…五年振りに会った私は、こんな地味女で……ガッカリしなかったの?」
「こんなって何?…地味ってどこが?そもそもリディは五年前も今も変わらず可愛いのに…再会してガッカリとかあり得ないだろう」
まったく合点がいかないといった目で見つめ返される。
「世間一般の…世の中の正当な評価では私なんて…目立たない…どこにでもいるような地味な女だって言っているの!何度も言わせないで!お付き合いした人だって五年間に一人だけ。しかも二か月もしない内に相手からいきなりフラれたし!理由らしい理由もなく、曖昧に…僕よりいい人がいるよとか…言われてフラれるなんて…一番モヤっとするフラれ方で…」
言っていて自分で悲しくなってくる。一番嫌われたくない彼の前で何て醜態だ…わかっているのに…もう止まらない。
「君は自己評価が低過ぎる!平凡とか地味顔とかそんなの誰が決めたの?人の美意識や美しいもの可愛いものへの認識や評価は千差万別だ。基準がある訳でもないだろう?それに、あんな男…大した男じゃなかった!別れて正解だろ?!」
「じゃあ…自己評価の上げ方を教えてよっ。こんな私でも…自信が持てるような自己啓発講座でも受けさせる?それに…あんな男って何よ…知りもしないくせに酷いこと言わないで…そりゃあ、あなたみたいな人から見れば…あんな程度なのかもしれないけれど…」
この前の彼も…今まで付き合ってきた男性は皆…フェリクスみたいなイケメンじゃないし、決して目立つタイプの男性ではなかったけれど…同じクラスの気の合う男の子だったり、好きな漫画が一緒で趣味が合ったりして、それなりに良い人達だったと思う。
「僕がどんなに君を好きか嫌ってくらいわからせてあげる……愛されることで自分に自信が持てれば自己評価も上がるだろう?」
フェリクスは私の顔をそっと掌で包む。
「僕はリディのふわふわの茶色の髪も、光の加減で金色にも光るそのブラウンの瞳も…丸顔もこのほっぺも可愛くて仕方がない。こんなに僕が惹きつけらているのに、それじゃ足りない?他の男達の評価がないと安心できないの?世間の評価なんてどうでもいい!寧ろ他の男達に君を評価するなんてことして欲しくもない!」
フェリクスはチュッとキスを落とすと鼻先が触れるくらいの距離で視線を絡める。
一気に体中の熱が上がる。
私の髪を撫で始めると切なげに吐息を漏らす。
「ずっとこの髪にも触れたかった…ずっと我慢してたんだ…」
フェリクスの言葉は最近再会したばかりなのに大げさだと思ったが、そんなことを考える余裕もなくなるくらい鼓動が速まっていた。
髪を撫でていた手はそのまま後頭部にまわされ私の顔を上向かせると唇を塞ぐ。どんどん深くなるキスに蕩ける。キスってこんなに気持ちの良いものだったっけ…差し込まれてきた舌に夢中で応えるうちに、ささくれ立った気持ちが柔らかくなっていく。
体が溶けてしまったかのように力が抜ける。
フェリクスの手はキスをしながらも器用にスカートの裾をたくし上げた。
「…んあっ…フェリクス…駄目」
唇をほんの少しずらして抗議し慌ててスカートを押さえると彼はチュッと音を鳴らして唇を離した。
ニヤリと何かを企んでいるように微笑み私の前に跪く。
「気持ち良くしてあげる…駄目?…ねえ、いいでしょ…リディ」
綺麗な顔が上目遣いに私を見る。小首を傾げた彼の魅惑的な誘いに…思わず、こくりと喉が鳴る。
嫌だなんて言える筈がない…だって、もう私は期待してしまっている。フェリクスにもっともっと淫らに触れられることを。
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