12 / 20
わからせてあげる
しおりを挟む気持ちを切り替えるどころか、モヤモヤした気持とジュクジュクとした感情は堆積し自分の心の中に堰き止めておくのが難しくなっていた。
席に戻るとフェリクスは私を見るなり顔を強張らせた。
「リディ?」
テーブルに置かれた私の手を握る。
「…化粧室で何かあったね?何をされた?…あいつ…マダムに何かされたんじゃ…」
「大丈夫だから…」
「大丈夫そうには見えない。僕には言えない?」
言えないも何も…あなたが最大限に関係していることで、しかも自分のこんな情けない感情をフェリクスみたいなキラキラしたイケメンに話すなんて悲しくなる。少しでも良く見せたい…こんな情けない姿を見せたくない。笑われてしまうくらい、ちっぽけな私のプライド…これくらいは守りたいのに。
きっと、こんな感情…フェリクスにはわからない。
モヤモヤした気持とジュクジュクとした感情は徐々に怒りに変わっていった。
誰への怒りなのかもわからない。けれど、もう堰き止めておくのは無理だった。
感情的に声を荒げていた。
こんなのただの八つ当たりだ…しかも一番嫌われたくない相手に。
「フェリクスにはわからないよ!私の気持ちなんて……もう頭の中もごちゃごちゃで気持ちが追い着いていかない…」
目が熱くなり視界がぼやける。
「ごめん……リディ、少し落ち着こう…」
フェリクスは席を立つと私のバッグを持ち、もう片方の手で私の手を引きレストランを出た。
俯き涙の滲んだ視界に入るのは地面だけ。だらりと力が入らない手をフェリクスに引かれて、どこに連れていかれるのか…わからぬまま進んだ。
気がつくとソファに座らされていた。
やっと視線を上げ周囲を見ると、モダンな室内。奥には清潔なベッド。作りからして高級なホテルの一室のように見えた。
私のバッグをテーブルに置くと隣に座るフェリクス。
「ここなら大丈夫だよ…いくら大きな声を出しても、泣いても…暴れても」
「ここ…どこ?」
「経営しているホテルの一つ。レストランのすぐ近くにある」
二人きりの静かな空間に身を置いたことで徐々に気持ちが落ち着いていく。
黙り込む私にフェリクスも黙ったままで…私の涙を指で優しく拭ってくれていた。
「…ねえ、どうして私なの?」
漸く言葉を絞り出す。
今の私はコンプレックスの塊だ。
フェリクスと再会するまでは自分の容姿にコンプレックスはあるものの、ここまで卑屈になることはなかった。
自分に自信がない、フェリクスの前に立つと余計にそうなる。フェリクスみたいなイケメン紳士が私みたいな平凡で地味な女がいいなんて何の気の迷いだろう。マダムに言われた言葉を思い出す。
「じゃあ聞くよ、どうして僕なの?リディだって言っていただろ?私だけじゃなかった同じだったのって…」
「そうだけど……あなたは誰から見てもキラキラなイケメンで…フェリクスみたいな人に再会したら誰だって嬉しくなると思う…でも…五年振りに会った私は、こんな地味女で……ガッカリしなかったの?」
「こんなって何?…地味ってどこが?そもそもリディは五年前も今も変わらず可愛いのに…再会してガッカリとかあり得ないだろう」
まったく合点がいかないといった目で見つめ返される。
「世間一般の…世の中の正当な評価では私なんて…目立たない…どこにでもいるような地味な女だって言っているの!何度も言わせないで!お付き合いした人だって五年間に一人だけ。しかも二か月もしない内に相手からいきなりフラれたし!理由らしい理由もなく、曖昧に…僕よりいい人がいるよとか…言われてフラれるなんて…一番モヤっとするフラれ方で…」
言っていて自分で悲しくなってくる。一番嫌われたくない彼の前で何て醜態だ…わかっているのに…もう止まらない。
「君は自己評価が低過ぎる!平凡とか地味顔とかそんなの誰が決めたの?人の美意識や美しいもの可愛いものへの認識や評価は千差万別だ。基準がある訳でもないだろう?それに、あんな男…大した男じゃなかった!別れて正解だろ?!」
「じゃあ…自己評価の上げ方を教えてよっ。こんな私でも…自信が持てるような自己啓発講座でも受けさせる?それに…あんな男って何よ…知りもしないくせに酷いこと言わないで…そりゃあ、あなたみたいな人から見れば…あんな程度なのかもしれないけれど…」
この前の彼も…今まで付き合ってきた男性は皆…フェリクスみたいなイケメンじゃないし、決して目立つタイプの男性ではなかったけれど…同じクラスの気の合う男の子だったり、好きな漫画が一緒で趣味が合ったりして、それなりに良い人達だったと思う。
「僕がどんなに君を好きか嫌ってくらいわからせてあげる……愛されることで自分に自信が持てれば自己評価も上がるだろう?」
フェリクスは私の顔をそっと掌で包む。
「僕はリディのふわふわの茶色の髪も、光の加減で金色にも光るそのブラウンの瞳も…丸顔もこのほっぺも可愛くて仕方がない。こんなに僕が惹きつけらているのに、それじゃ足りない?他の男達の評価がないと安心できないの?世間の評価なんてどうでもいい!寧ろ他の男達に君を評価するなんてことして欲しくもない!」
フェリクスはチュッとキスを落とすと鼻先が触れるくらいの距離で視線を絡める。
一気に体中の熱が上がる。
私の髪を撫で始めると切なげに吐息を漏らす。
「ずっとこの髪にも触れたかった…ずっと我慢してたんだ…」
フェリクスの言葉は最近再会したばかりなのに大げさだと思ったが、そんなことを考える余裕もなくなるくらい鼓動が速まっていた。
髪を撫でていた手はそのまま後頭部にまわされ私の顔を上向かせると唇を塞ぐ。どんどん深くなるキスに蕩ける。キスってこんなに気持ちの良いものだったっけ…差し込まれてきた舌に夢中で応えるうちに、ささくれ立った気持ちが柔らかくなっていく。
体が溶けてしまったかのように力が抜ける。
フェリクスの手はキスをしながらも器用にスカートの裾をたくし上げた。
「…んあっ…フェリクス…駄目」
唇をほんの少しずらして抗議し慌ててスカートを押さえると彼はチュッと音を鳴らして唇を離した。
ニヤリと何かを企んでいるように微笑み私の前に跪く。
「気持ち良くしてあげる…駄目?…ねえ、いいでしょ…リディ」
綺麗な顔が上目遣いに私を見る。小首を傾げた彼の魅惑的な誘いに…思わず、こくりと喉が鳴る。
嫌だなんて言える筈がない…だって、もう私は期待してしまっている。フェリクスにもっともっと淫らに触れられることを。
0
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる