【R18】恋愛願望強めの魔女は邪な欲望のままに召喚する

とらやよい

文字の大きさ
4 / 25

4.ジェシカ

しおりを挟む

「どういうことかな? これは」

 ジェシカは目尻の上がった大きく丸い紺色の目を瞬かせて二人を見た。

「っていうか、それはこっちが聞きたい」
 
 頭の後ろで手を組みソファに仰け反るように座る美青年にジェシカを目を見張る。
 
「俺達、よく気が狂わないでいられると感心しているくらいだ」

 明らかに不機嫌な表情でソファに座り、長い足を組みかえる大人の男を見て緩みそうになる頬を手で押さえた。
 
「……すぐ来い、一大事だって言うから勤務を途中で代わってもらって駆けつれば……欲望のままに、こんなタイプの違う美男子を二人も召喚しちゃったって。どうすんのよ! イルメラ!」

 燃えるような赤毛を高い位置で一つに結んだジェシカはイルメラの従姉妹であり親友でもある。
 深夜にも関わらずアパートに駆けつけた彼女は、この国の治安を守る警備隊の一員だ。濃紺の詰襟に赤い縁取りの制服に身を包んだジェシカは隊の中でも活躍著しい有能な隊員だが流石にこの状況には面食らった。

「ジェシカ、どうしよう……」

 二人に詰問されすっかり酔いが冷めたイルメラは魔法省内で二人の姿を見られては拙いと自分のアパートに慌てて連れ帰って来たのだ。
 
 真っ青な顔をしたイルメラに対してジェシカが返す答えは一つだった。

「もう、帰すしかないでしょう。元の世界に二人を帰す! はい、それで終了!」
「そんな簡単に言わないでよ! 数千年前の記録でも大魔法使いが異世界から召喚した聖女は、この国に一生を捧げたという記録しかないのよ。元の世界に戻ったなんて記録は存在しないの……」

 イルメラは三人の鋭い視線を身を縮める。
 泉はソファから立ち上がるとイルメラに詰め寄った。

「痴女、お前。二十九歳処女のイルメラって言ったっけ……召喚して恋人にしたかったとか、俺に処女をもらってくれとか言ってたよな」
「そ、それは本心です!」

 ジェシカは驚いて目を見開いた。
 
「はあ? 本心とか……やっぱ頭狂ってるわ、こいつ。酔って正常な判断が出来なかったとか判断能力が欠けていたとか言い訳するならまだしも。この状況どうするつもりなんだよ?」
「はい……仰るとおりです。お二人の生活をこんな形で台無しにして本当にごめんなさい」
 
 追い打ちをかけるように翔太はイルメラを見下ろし言い募る。
 
「イルメラちゃん。悪いと思っているなら諦めずにやってもらおうじゃないか。召喚出来たんだから帰すことくらいどうにかなるだろ? 天才なんだろ?」

 その鋭い眼光にイルメラは小さな悲鳴を飲み込んだ。

 

 ◆

 

 結局、泉と翔太は元の世界に戻ることも叶わないまま時間だけが過ぎていった。

「俺達をいつまでこの狭いアパートに閉じ込めておく気なんだ?」
「ごめんなさい、ショータ。頑張ってはいるんだけど帰す方法は今のところ……」

 早朝に出勤し、深夜に帰宅するイルメラと話ができるのは彼女が帰宅した夜の僅かな時間だけだった。
 二人は深い溜め息をついた。
 
「俺がいるのは夢の中ではなくて異世界だって言うことは……どうにか理解出来た。で、異世界人の俺達の存在がバレると聖女ならぬ聖人扱いされ帰るどころの話ではなくなる。もしくは捕らえられる可能性だってある。要は相当マズイことになるってのもわかった。イルメラが俺達を元の世界に戻すのは難しい状況であるというのは納得はできないけれど……状況は理解した」
「イズー、ごめんなさい」

 日常生活で魔法を使うことは国の法律で禁止されていた。イルメラのような魔力持ちは国に誓約書を書かされているのだ。泉と翔太を召喚したことがバレればイルメラは処罰されるだけでは済まないかもしれない。
 彼女は申し訳無さそうに瞳を伏せた。
 
 イルメラとジェシカが翔太と泉を発音しようとすると発音が難しいらしい。舌足らずな発音で自分達の名を呼ぶイルメラを二人は内心可愛いと思っていたがお互い顔には出さなかった。

「だけどさ! 俺達も人間だ。翔太が言うようにこの狭いアパートに監禁されたままだと流石に気が狂いそうになる。バレないように細心の注意を払うから外に出てもいいだろ?」

 物置として使っていた部屋を片付け翔太と泉は同部屋で寝起きしていた。元いた世界でバイト三昧だった泉はレストランの厨房で磨いた腕を振るい毎日、栄養バランスを考え食事を用意してくれていた。
 イルメラは泉の作ったミネストローネの湯気を見ながら苦悶の表情になる。こんな状況で大きな図体をした男二人を小さなアパートに閉じ込めておくのは彼等の精神的にも身体的にも良くないのは明らかだったからだ。

「この国の常識的なものを教えてもらえれば、なんてことはないと思うぞ。不思議なことに文字は読めないのに相手の言葉は理解できるし話すことも出来るんだからな」

 翔太が泉に視線を向けると彼は嫌味っぽく言った。

「ああ。俺達、意外に適応能力高いと思うんだけど。なんたって、この状況を受け入れているんだからさ」

 それを言われるとイルメラはぐうの音も出ない。
 
「わかった……私とジェシカでこの国の最低限の常識を教えるわ。だからもう少し我慢して」

 その翌日から、イルメラとジェシカによるキトラニ王国の一般常識の深夜授業が始まったのだった。



 ◆

 

 程なくして二人は隣国から引っ越して来たばかりのイルメラの遠縁にあたる兄弟で、職を探すために彼女を頼り同じアパートで暮らしているという設定で街に出ることになった。
 イルメラとジェシカの引率のもと準備してもらった服を着て街に出た二人は好奇心を抑えられない子供のようにはしゃいでいた。
 
 イルメラ自身も数ヶ月振りの休日だった。
 引率というお役目ではあるが男性と一緒に外出するなんて初めてで昨夜は着ていくものを悩む。お洒落をするのは久し振りで自然と心が浮き立ったのだが、その浮き立つ気持ちは鏡に映る自分の姿を見て急に萎んでしまった。
 痛み放題の青紫色の長い髪。目の下の化粧では隠しきれない大きなクマ。乾燥した肌には粉が吹いている。随分と見窄らしくなった己の容姿に凍りついてしまったのだ。

 結局、何年も前に買った水色と白のストライプのワンピースをクローゼットから引っ張り出しストローハットを目深にかぶって顔を隠すような装いに落ち着いたのだ。

 そんなイルメラの隣を歩いていたジェシカはちょっと考えるように斜め上に視線を上げて頬を掻いた後、決意したかのようにイルメラの顔を覗き込んだ。
 
「そういえば……確認なんだけど。彼等を召喚した目的って恋人にするため? その……処女もらってくれって言ったんでしょ? ごめん、イルメラが現状から逃れたいという気持ちはわかっているつもりよ。でも流石に国や魔法省に逆らって恋人を作ったりしたらマズイんじゃないかなって」

 キトラニ王国で魔力持ちは徹底的に管理される。次世代に魔力を持った優秀な子孫を残すために家畜の交配のように魔力持ちの男女の性交も厳しく管理されていた。普通の夫婦のよう愛する相手と結婚し子を成すという生活は彼女には訪れることはないのだ。

 性交のパートナーとなり半年経っても妊娠が確認できなければ次の相手を宛てがわれる。
 子を授かることが出来た男女は互いの希望が一致すればパートナーとして結婚契約が結ぶことも可能だが、どちらか片方が希望しなければ互いにまた新しい相手を魔法省により宛てがわれるのだ。

 一瞬にして強張ったイルメラの表情を見てジェシカは慌てた。

 「ごめん、イルメラ。こんな楽しい時間にする話じゃなかったわ。ずっと心配で。もしかしたら……まだ、あの子のこと気にしているんじゃないかって思って」
「そうね……あのことがなかったら。今でも、こういうものなんだって現状を受け入れていたし疑問さえ持たなかったかもしれない」

 下唇を噛んだイルメラを見てジェシカは胸が締め付けられた。
 ジェシカは知っていたのだ。イルメラが性交制度に疑問を持ち始めたきっかけが学院時代の唯一の友の存在であることを。

「私自身、二十九歳にもなって好きな相手もいないのに性交制度に抗う必要があるのかって言われそうだけれど。性交制度に抗ったあの子の気持ちを蔑ろにしちゃいけないって思いは今でも変わらないの」

 イルメラは立ち止まり声を潜めた。

 「ジェシカ。私ね、苦痛を感じる人がいる限り性交制度はあってはならないと思っているの。私に出来ることがないかと考えて……忙しい仕事の合間に制度のついて密かに情報を集めているのよ。意味のない制度だと証明できれば、こんな制度自体なくせるかもしれないでしょう?」

 イルメラの真剣な瞳にジェシカは正直戸惑い次の言葉が見つからなかった。二人の間に流れる沈黙を破るように大きな声が聞こえた。 
 
「イルメラ! ジェシカ! 先行くぞ」
 
 翔太の声に呼ばれイルメラが大きく息を吸い込み歩き始めるとジェシカは彼女の後ろ姿を見つめるしかなかった。
 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...