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25.人生変えていける
しおりを挟むいつものように子供達の下校を見送るイルメラの元に一人の男の子が走って来た。
「あら、セルジュ。今日は教室に忘れ物をしてきていない?」
「学院長先生、僕はいつも忘れ物をしてきてるわけじゃないよ。昨日はたまたま忘れちゃっただけ!」
頬を膨らませる男の子の髪は灰色でくせ毛なのか所々ハネている。
「あのさ、先生って独身でしょ? うちのパパも独身だよ!」
「そうね。私も独身だし……ジスランもまだ独身だったわね」
独身とハッキリ言われると傷つく。しかし、悪気なんてない子供が言っていることだ。ここは苦笑いするしかない。
「そう! だからさ、もう、パパと結婚したらどうかな」
「えっと、それは」
あまりの提案に返答に困っていると、更に畳み掛けられる。
「だって、パパ言ってたもん。学院長先生が初恋の相手だったって! それって初めて好きになった人ってことでしょ? 凄いよね!」
「そ、そうね。初恋の認識は間違ってないけど……その……結婚てお互いの総意が必要で……私には恋人」
小さな子供に何と答えるのが正解なのか困り果てゴニョゴニョと口籠る。
「えー、ダメだよー。だって学院長先生には恋人がいるってママ言ってたもん!」
セルジュの後ろにいた女の子が身を乗り出す。
「え?! 先生、本当なの?」
「えっと……」
言葉を探していると、女の子は間髪入れず続ける。
「本当だよ! あの綺麗な顔の男の人! 高等部のお姉ちゃんがファンクラブ作ったって言ってたよ」
「え……何故、そんな話が保護者に伝わって……」
性交制度が廃止され自由恋愛が許されるのだから、年上の美青年が身近にいたらそりゃあ浮足立つのだってわかる。
泉が寮母になり学院内を歩くようになってから女生徒が彼を目で追ってキャアキャア騒いでいるのは知っている。女の子達の気持ちが理解出来ないわけでもない。
しかも、既に何回も女生徒から告白もされているのだ。
彼を好きな女として好みが一致しているのだからドキドキする気持ちは嫌という程わかるが、だからこそ一層ヤキモキするのだ。
コホンと小さく咳払いをした。
今は泉がモテてる云々よりも目の前の状況をどうにかしないと。
ショックで悲しそうな顔をするセルジュに言葉を選びながら伝える。
「あのね、私とセルジュのお父さんは、二人みたいに本当に仲の良い友達なの。ここで共に学んだ仲間。だから私とジスランはこの先もずっとずっと変わらず仲の良い友達なのよ」
そして、少し恥ずかしそうに続けた。
「それにね、先生には大切な男性がいるのも本当。だから他の人とは結婚を考えていないのよ」
「そっか……」
しょんぼりしたまま聞いていたセルジュだったが、そんな彼の背中を隣の女の子がバンっと叩く。
「大丈夫よ! 先生にはフラれちゃったけど。セルジュのお父さんも渋いイケメンだもの。きっと次が見つかるわよ!」
あっけらかんと、大人びたことを言う少女に面食らい笑いが漏れた。
「うん……うん! そうだよね!」
この少女の言葉に明るい笑顔を浮かべたセルジュはいつものように元気一杯で帰って行った。
◆
「あいつ、また来てるのか」
疎ましいものを見るように冷たい視線を送る。
灰色の髪は夕陽を浴びて銀色にも銅色にも輝く。黒いローブを翻し校内を歩くジスランに生徒達は羨望の眼差しを向けている。
ジスランは翔太とはまた違うタイプの渋さを持ち合わせていた。知的で隙のない大人の雰囲気といったところだろうか。
「……カッコいいってのはわかる……けど」
卒業後の生徒の就業について決めなくてはいけないことが山程あるからって、こんなに頻繁に会う必要あるのか?
しかも、今夜は二人でディナーを食べながら話し合うって言ってたな。ってことは夜遅くまで二人でいるってことだよな。
イルメラの仕事に口出しはしない。
でも、あいつがイルメラの周りをうろつくのは何故か嫌だ。あいつがイルメラを見る目が他の男とは違うって感じた時から心の中がざわつくのだ。
今夜は会うことも出来ないだろう。
深夜、疲れた恋人の元へ温かいハーブティーとお菓子を差し入れようと部屋へ向かった泉は目撃してしまう。部屋の扉が開きイルメラとジスランが出て来る姿を。
談笑する二人はとても親しげで仲良さそうだ。
慌てて回廊の壁の後ろに身を隠した。
こんな時間までイルメラとジスランが私室に二人きりでいることに驚き次第に怒りが込み上げる。そして、咄嗟に隠れた自分自身にも腹が立ってくる。
『イルメラの恋人は俺なのになんで隠れたんだ? 堂々と挨拶するばいいだろ?!』
ピタリと誰かが自分横で立ち止まった。
「やあ、イズー。だったかな? これから彼女の部屋に行く途中か?」
トレーの上に乗ったお菓子とティーセットを見た。
「お久しぶりです。その節は助けていだだきありがとうございました」
全く感情のない言葉だったが、それを気にもとめずジスランは続けた。
「いや、それは逆だろう。お礼を言わなくちゃいけないのは俺の方だ。俺の大切な人を救ってくれてありがとう」
俺の大切な人というフレーズに引っかかりピクリと眉を動かす。
ジスランはプッと吹き出して腹を押さえた。
「こめん、ごめん。イルメラの言っていたとおりだと思って」
「何なんだよ、あんた。いくらイルメラの幼馴染だからって失礼だろ」
息を整えると、渋い男がにこやかな顔になる。
「俺じゃ、どうやったってイルメラを救えなかった。それに……あいつ明るくなった。学生の時みたいに。魔法省の時は仕事に追われ暗い顔ばかりだったからな。イルメラに明るさを取り戻したのは君だろ?」
社畜だった頃のイルメラを思い出した。
「しかも、綺麗になった。成熟した大人の女性にしたのも君だ」
「それは……」
急に恥ずかしくなりさっきまでの威勢が消え失せる。
「ああ、そう言えば。イルメラ心配してたぞ。君は随分とモテるんだってな。一丁前に女の顔で嫉妬していたよ。彼女にあんな顔をされられるのは君だけなんだな。といっても……今の君の顔をみていると嫉妬しているのはイルメラだけじゃないってわかったよ」
そして、髪をかき上げると消え入りそうな声で呟いた。
「ホント、完敗だ」
彼の呟きを微かに泉の耳にも届いていた。
「俺は恋人だから彼女にとって特別かもしれない。でも、辛かった学生時代の唯一の友ってのも彼女にとって永遠に大切な存在だろ」
「まいったな……」
かき上げた髪をクシャリと乱すジスランに、泉はぶっきらぼうに菓子を差し出した。
「これ、沢山焼いたから持ってけよ。この菓子……昔、ジスランと取り合って食べたって言ってた。イルメラの大好物なんだからさ」
差し出された菓子を頬張るジスランの顔は笑顔でくしゃくしゃだ。泣いているのか笑っているのかわからない。どこか子供みたいな笑顔だった。
「美味い! ありがとう、イズー。良い夜を」
意味深にウインクすると、いつものようにローブを翻し颯爽と去って行く後ろ姿を見送った。
夜空には、この世界にやって来た時と同じ大きな月。
なのに髪を揺らし流れる風は心地良い。泉の中にあったドロリとした感情さえも綺麗に流してしまうくらい。
「あいつとは出会い方が違ってたら、意外に仲良くなれたかもしれない」
そう言ってみたものの、すぐさま違うと思った。
異世界に召喚されるっていう出会い方以外俺達にはなかったんだから。やっぱり、この出会い方しかないし、これで良かったんだ。
俺もイルメラもジスランも翔太もジェシカも、これから幾らでも人生変えていけるん。
「もしかしたら、これから……あいつと仲良しになるのかも?」
自問自答しながらイルメラの元に向かう泉の顔には笑みが漏れていた。
《おしまい》
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