【R18】恋愛願望強めの魔女は邪な欲望のままに召喚する

とらやよい

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24.癖になっちゃった

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 仕事終わりに行きつけのバルで飲んでいた。
 そして、いつものように横に並んで座る男をついつい見てしまう。冷えたビールを喉を鳴らして飲む彼。陽に焼けた首筋に喉仏が上下する様から目が離せないのだ。どうしてこんな色気を放てるのだろうか。
 ハアっと息を吐き口元を手の甲で拭うとチラリとジェシカを見た。

「おい、見惚れるなよ」
「うっさい、この勘違い男」

 いつも客で賑わうこの店は王都の中でも下町にある。仕事終わりの警備隊の連中がよく利用する店だ。

 そういえば、この前飲みに来た時には、元いた世界戻れずこの世界に留まることはほぼ確定した彼が心配で慰めようとした時だったな。
 声をかけた私に翔太は元の世界に多少の未練はあっても、自分の人生の中で最も煩わしいものと縁が切れるのだから、そう悪くもないと言ったのだ。
 彼は自分の親を毒親と言った。毒親とはどういうものなのかわからないが、翔太曰く俺を自分の所有物と考え厳しい管理下に置き思考を奪いロボットのように生きさせようとした人……らしい。
 彼のあんな厳しい表情を見たのは初めてで。あの時、家族についても元いた世界についても今後何も聞くまいと決めた。
 もう、彼の苦しそうな顔見たくないから。いつもみたいに高飛車に私を誂っていてくれたほうがマシだ。

 翔太はフライドポテトを摘み、話を変えた。

「そういや、泉の奴がイルメラの幼馴染が気に入らないとか男の勘がどうのこうのって言ってたな。幼馴染って確か、魔法研究開発局の新しい局長だったよな」
「ああ、ジスランね」
「親しいのか?」
「魔法省突撃作戦で羽交い締めにされ抑え込まれた相手ってくらいの関わりしかない。私は知り合いではないけど。学生時代のイルメラの話の中でよく登場してきた人だった」
「ああ、羽交い締めの奴か……ふーん、イルメラは仲が良かったんだな。もしかして付き合ってたとか?」
「それはないんじゃないかな。今は廃止されたけど当時は性交制度があって自由な恋愛なんて許されなかったから」
「付き合ってはいないけれど……想い合ってたってことはありそうだな」
「んー、そこんところはわからないけど。今はイズーと恋人になったわけだし過去のことはもういいじゃない」

 過去の男を気にするとかイズーも子供っぽいところがあるわね。
 ビールのおかわりを注文すると翔太が最近仕入れたばかりの情報を提供してくれる。

「それが、あいつ意外に嫉妬深いんだよ。性癖もありそうだし」
「ガールズトークならぬボーイズトークでもしてきたの? イルメラから聞いてるけど、あの子もまんざらでもないっていうか、楽しんでるみたいだから良いんじゃない?」
「そうなのか? でも意外だよな、焦らして虐めたいなんて。俺には楽しさが理解できん」
「虐めるどころか、もっと野獣のように? ショータってあっちのほう激しそうだもんね」

 私と翔太は男女の違いなくこんな話も普通にできてしまう。

 ゆるく首を振って翔太はジョッキを置いた。

「反対だ。俺は女の子は丁重に扱うタイプだ」
「はい、嘘。そんなわけない。同僚女性でさえ丁重に扱えない男が何を言うか!」

 頭にきて強く言い返したものの、優しく女を扱う翔太を想像してしまい緩みそうになる顔を背けた。

「セックスの時は別だろ」
「はい、出た。本性! セックスさせて欲しいから優しくするんでしょ。エッチ目的のその辺の男と一緒じゃないのよ」
「おい、いいかげんにしろよ」

 いつもより一層低い声になった翔太に慌てたが、ここで引くのも悔しいし癪に障る。

「じゃあ、これかれは私のことも丁重に扱いなさいよ」
「それは、俺とセックスをするような特別な関係になりたいってことでいいか?」

 ドキッとするようなことを私を誂うために簡単に口にするな。こんなんで動揺したら本気にしたみたいになっちゃうじゃない。

「いいわよ。受けて立とうじゃないの。一回くらい相手してあげる。あんたのセックスがどれほどのものか試してあげるわよ」

 ああ、なんんて可愛くない女なんだ。どうしてこんな喧嘩を買うような言い方をしてしまうのだろう。

「一回? 一回じゃ済まないだろう。恋人同士になったら最低でも二日に一度はしたいぞ。ああ、回数は任せるけど」
「な、何言ってんのよ。恋人同士って……」
「お前言ってたよな。この前セフレと揉めて別れた時、もうちゃんとした恋人作るって。恋人以外としないってさ」
「好きでもない相手と付き合うとか、いい加減なこと言うような男嫌よ。願い下げ」

 ついこの間までセフレがいた女が何を言うかと怒られそうだが、そもそもセフレと別れたのも翔太の原因なのだ。
 行為の最中にふと彼の笑った顔や、陽に焼けた首筋だとか、血管の浮いた腕とか、私を誂ってご満悦の顔を思い出すてしまうのだ。行為に集中できないでいるのが相手にも伝わり、私もセフレとの行為がつまらないどころか苦痛にさえ感じるようになってしまったのだ。

「俺はお前のこと好きだぞ」
「もういいってば!」

 誂いたいのはわかるが、悪い冗談はこのくらいにして欲しい。いくら私だって傷つく。

「最初から言ってただろ。気の強い女は嫌いじゃないって。お前のその意地っ張りで素直じゃなくて、本当は恥ずかしがり屋で、それを隠すために俺の言葉にいちいち噛みついてくるような性格、癖になっちゃったんだよな俺」

 翔太が顔を近づけてくる。至近距離のイケメンは危険だ。切れ長の目に見つめられて気持ちを落ち着かせるため静かに深呼吸する。

「今度の非番の日、空けとけよ。俺とデートしよう」
「デート?」

 じゃあ、この後どちらかの部屋にとかいう流れになるのかと思いきやデート?

「あれ、夜のお誘いの方が良かったか? でも、ダメだ。言っただろ? 丁重に扱うって。まずは手を繋ぐところから始めよう」

 いつもの挑発的な言い方なのに、どこか甘い。目を逸らせないでいるとテーブルの下で手を握られた。
 手を繋ぐってこんなにドキドキするものだったっけ? 初めて男の子と付き合った時だってこんなじゃなかったのに。

「ああ。そうだ、ジスランって言ったっけ、あんな男に簡単に羽交い締めになんてされるなよ。要は抱きしめられてるのと一緒だぞ。俺がこれから特訓してやるから覚悟しとけよ」
「抱きしめられてるのと一緒とか……イズーが嫉妬深いなんてよく言えたものね」

 手を繋がれたまま動揺を隠すように言い返す。

 翔太は、いつもの私の憎まれ口を満足気に聞いていた。



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