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14話

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 セレネがじっと待っていると、音もなく人影が滑り込んできた。

「……ノクス?」
「真っ暗だな。オレは夜目が利くからいいが、あんたは違うだろう? 下手に動かないで大人しくしてろ。オレがそばに行くから」
「よかった……無事で……」
「ん?」

 ようやく判別が出来るくらいに近づいてきたノクスは、不思議そうに首を傾げた。

「……エセルスという方をご存じ?」
「……ああ、あの優男。……野郎、やっぱり来たか」
「彼が、貴方を探していたわ。……貴方が――」
「オレが、国王暗殺を企てた犯人だとでも言われたか?」

 事もなげに言われて、セレネは目を見開いた。
 その表情変化を、ノクスの目はしっかりと捕らえたようで、鼻で笑われる。

「で? 姫は、どう思ったんだ?」
「どうもこうも……貴方が危ないと思って、なんとか知らせたかったの」
「は?」
「……でも、わたしは堂々と外を歩ける身ではないでしょう? だから、夜なら……貴方みたいに木に飛び移ればと思って日が沈むのを待っていたの」

 ノクスは、しばらく黙っていた。
 鈍くさいという評価を下した彼だ、呆れて物も言えないのかもしれない。

「……でも、今になって冷静に考えたら、真っ暗なところで人捜しなんて……無計画過ぎでした」

 あてもなく飛び出して――それでノクスを見つけられたとは思えない。
 冷静であろうと思っていたが、実は相当焦っていたのだと気づき、セレネは情けなさと羞恥心から俯いた。

「貴方が来てくれなければ、大変な事態を引き起こすところでした。……ダメですね、わたしは……」
「……あんた、オレを心配してたのか」
「当然です。……貴方のことを聞いたとき、あの方の雰囲気が、なんだか尋常ではない様子でしたから、もしも彼らに見つかれば、貴方がただでは済まないと思って……」
「だろうな。エセルス共にとって、オレは邪魔者だ。こっちも、エセルスの野郎は目障りだがな」
「ノクス、どうして貴方が陛下を害したことになっているのですか? 彼らは、なにか思い違いをしているのでは?」
「…………」
「ノクス、お願いです。聞かせて下さい。エセルスの言葉ではなく、わたしは貴方自身の言葉で真実を知りたいのです」
「――姫……」

 ノクスの手が、伸びてきた。
 あれ? と思う間もなく、担ぎ上げられる。

「ノクス……!?」
「とりあえず、逃げよう」
「逃げるって……」
「あんたは、島から出る気はないって言ったけど――エセルスは、あんたの意思なんて、たやすく踏みにじる。だから、そうなる前に……オレが、あんたをさらうことにした!」
「え? え?」

 自分を肩に担いだまま、難なく歩き出すノクスに、セレネは目を白黒させる。
 状況に戸惑っている間に、ノクスは窓枠に足をかけ――。

「ま、まさか……!」
「口を閉じてろよ、姫。今、あんたを外に出してやるから」

 勢いよく、外へと飛び出した。

(嘘でしょう……!)

 人をひとり担いでいるのに、まるで重さなど感じないような身軽さは、獣のようだ。
  想定していなかった事態で、意識が遠くなる中――セレネはそんなことを考えていた。
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