国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

文字の大きさ
134 / 136
第二部 外伝

第一集 犯罪者の夜 上

しおりを挟む
「全員集まったか」
 
 暗い室内に、男達が集まっていた。

 円卓の中心にはランプが一つ。
 頼りない光は、ちょうど円卓を囲む男達の顔が、ぼんやりと見える程度に調節されている。

 円卓には十名の男が座っていた。

 円卓の後ろにも多くの男達が立っている。
 影になって見えないが、室内には相当な人数の男が集まっていた。
 
「では会議を始める」
 
 円卓に座っていた男の一人が、控えめながらもはっきりと通る声で宣言した。

「四聖剣の一。ザンマが会議の進行を務める。各々方、よろしいな?」

 ザンマと名乗った男が円卓に座る男達を見る。

「四聖剣の二。ハオウ、異論は無い」
「四聖剣の三。ブラスト、異論無し」
「四聖剣の四。アダマ、異論無い」

 ザンマは頷くと、立ち上がり黒板に文字を書く。
 
 ザンマの指から微かに立ち昇る燐光が、辺りを僅かに明るくする。
 黒板の文字は暗闇の中でも軌跡を残し輝いた。

 黒板に書かれた文字は、こうだ。
 



『第一回 アヤメ様の初夜を妨害する会』


 
 
「これは全てに優先される緊急事態である」

 緊急事態だった。
 




< 第二部 外伝 『犯罪者達の夜』 >





「本日はアヤメ様が結婚された大変にめでたい日である。しかし問題が生じてしまった」

 ザンマは、まず前置きから入る。

「どこがめでたい日だ!」「悲報だ!」「ふざけんな!」

 いきなり罵声がザンマに飛ぶ。
 出だしから荒れそうな気配しかしない会議であった。

「何よりまず結婚など断じて許される事ではない。あんな子供が子供と結婚するなどおかしい。世の中狂っている」

 ハオウの言葉は実に正論であった。

「まずそこから認識にズレがあるか」

 ザンマは顔をしかめながら黒板に文字を書いていく。
 こうやって意見をちゃんとまとめなければ、会議というのは取っ散らかってしまう。
 ザンマは黒板に『アヤメの結婚に反対説』と書いた。

「結婚は仕方のない事だ。残念な事だが」

 ブラストはため息をつきながら言う。

「何が仕方ないだ。アヤメ様が結婚したら、俺がアヤメ様と結婚する夢はどうなる」「俺も結婚したい」「結婚したい」「俺もだ」「結婚」
「静かに」

 荒ぶる円卓メンバーを手で制すブラスト。

「ネーネ族との友好を築くために、この結婚は必要であった。言わば政略結婚だ」
「政略結婚なんてお父さん許しませんよ!」

「静かに。だが、結婚したとして、我々にチャンスが無くなる。そうだろうか? 王というモノは一夫多妻制なのだ。我々がアヤメ様と結婚するチャンスは、ゼロではない」
「なるほど。確かに」

 ザンマは黒板に『アヤメの結婚は仕方ない説』と書いた。

「誰がお父さんだ!」「俺がお父さんだ!」「俺もだ!」「お前がお父さんだと!?」

 後ろの方で殴り合いが始まった。

「私はこの結婚を受け入れるしかない――そう思っている。何より、もう結婚は決まってしまったのだ。もはやアヤメ様がセツカとリッカと喧嘩して、離婚する以外、結婚という事実は否定できない」
「それは可哀想だ。幼女でバツイチとか意味が分からないし」

「そうだろう。だから受け入れるしかない、と思うのだ。その上で道を探すべきである」

 円卓のメンバーはブラストの言葉に唸った。

 さすが現神の森大戦で戦い抜いた剛の者だけある。
 ブラストの発言力は四聖剣の中でも一番であった。

「だとしたらアヤメ様の初夜は絶対に防げないというのか? それは理不尽だ!」

 アダマは悔しそうな表情を浮かべながら机を殴った。

 後ろにいる男達も怒りの声を上げる。
 中には悔し泣きする男もいた。

「いや、初夜になるとは限らん」

 ザンマは腕組みをしながら呟いた。

「まず前提として、三人共、女性である。女性同士では不可能だ」
「確かに」

 ザンマの言葉にブラストは頷いた。
 女性同士では初夜は成り立たない。
 理論上、不可能である。

「それならば、とりあえずの脅威は無いか」

 アダマは息を吐く。
 荒れていた心が、僅かに落ち着いたのを感じた。
 そして黒板に「今の所は大丈夫説」と書く。

「いや――」

 それを否定したのはハオウであった。
 その場にいた全員がハオウを見る。

 そしてハオウは底冷えするような声で、こう言った。

「道具を使う可能性がある」

 その言葉は円卓の間を凍り付かせた。

「そんな馬鹿な事があるか!」「ふざけるな!」「ありえん!」

 ハオウに向かって非難が飛ぶ。

「可能性はゼロと言えるか?」

 だがハオウは落ち着いた声でもう一度、言った。

「ゼロだそんなもん!」「なんという下種な考え!」
「想像してみろ! アヤメ様が道具を持ってそんな――考えられる訳がないだろう! ちょっと考えれば分かる!」「えっ! アヤメ様が道具を使って」「責める!?」
「想像するなクズ共が!」「想像は自由だああああああああ」「うおおおおおおおお許さーん!!」

 また別の場所で喧嘩が始まった。

「いや、だが、まあ、やはりイメージできんな。単純に似合わん」

 ブラストは想像しようとしたが、出来なかった。
 だがハオウは、なおも続ける。

「何もアヤメ様が使う訳ではない」
「何だと……?」

 ブラストの声が思わず掠れる。

「例えば――セツカとリッカが、使うとしたら?」

 発想の逆転だった。

 皇帝という立場であるからかアヤメが責めのイメージだったが、逆だってあり得る。
 むしろそちらの方が可能性は高いのではないか?

 ネーネ族の話では、彼女達の年齢は十八なのだという。
 ならば双子がアヤメに道具を使ってもおかしくないし、使い方も知っているかもしれない。

「あり得る……のか? そんな事が」
「その可能性はゼロではない」

 ブラストの言葉に、ハオウは冷徹に応える。

「お前の希望が混じっているのではないか? そうあって欲しい――双子に責められるアヤメ様が見たい、という願望が」

 ザンマがハオウに突っ込む。

「その可能性はゼロではない」
「お前それどういう意味で言ってんだ?」

「可能性は無限大だ」
「コイツ摘まみだした方がいいだろ」
「冗談だ。ハッハッハッ」

 ハオウはそう言って笑う。
 だが目が笑っていなかった。

「アダマ、可能性はあると思うか?」
「可能性があろうがなかろうが関係ない。初夜を潰す。それだけだ」

 過激派だった。

 静かだが確かな熱意に、ザンマは恐れを抱く。
 確かに止めねばならない。
 だが力で止めてはならない。
 できる限り穏便に止めねばならない。

 何故なら全員の首が、あらゆる意味で飛ぶからである。

「落ち着け。暴力はいかん」
「もちろん力でどうこうできる方ではないのは分かっている。ただ、初夜を水を差せばよいだけだ。それで十分なのだ」

 アダマは前のめりになりながら、言った。

「私にいい考えがある」

 ハオウは唾を飲み込みながら、アダマの言葉を待つ。
 アダマは一つ深呼吸してから、悪魔的閃きを述べた。



「――初夜の最中に乱入する」



「こいつを摘まみだせ!」

 ハオウが絶叫する。

「最中に乱入すれば、それでやる気が失せるはずだ! 初めて同士が共に過ごす夜に邪魔が入ってみろ! 即座に中断に決まっている! つまり初夜を止められる! 何が悪い!」
「悪い事しかないわ! そもそもその乱入役は誰がするんだ! タダでは済まんぞ!」

「もちろん俺だ!」

 アダマは自分を指差しながら即答した。

「さては乱入ついでにアヤメ様の裸を見たいだけだな貴様!」
「そんなもの見たいに決まっているだろう! 頭おかしいのか!?」

 アダマとハオウが胸倉を掴み合いながら叫ぶ。
 ついに四聖剣同士が殴り合いを始めた。

「……駄目だ。まとまらん」

 荒れる円卓の間に、ザンマは頭を抱える。

 すでに時刻は『子供は寝る時間』であった。
 今、この瞬間にも初夜は始まっているかもしれないのに。
 アヤメ様から剣を賜いし四人が集まっているにも関わらず、アヤメ様の初夜を止める事ができないとは。

 なんと自分達は無力なのか。

「頭を冷やしてくる」

 ブラストは立ち上がる。
 戦場と化した円卓の間では、ちゃんとした思考は出来そうになかった。

 少なくとも初夜を止める建設的な意見など出そうもない。

「ああ……だが余り時間はかけるなよ」
「分かった」
 
 ブラストはため息をつくと、円卓の間から出た。
 
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...