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第一部 二章
第十二話 国を建て直せ
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「ぎゃーん!」
オルデミアの言葉を遮るように、女性の悲鳴が玉座の間に響き渡った。
いや女性――というより獣の悲鳴に近かったかもしれない。
「何だ? 物の怪か?」
ミーミルが油断なく辺りを見渡す。
玉座の間には、王座の奥に扉があった。
そこから声が聞こえて来たような気がする。
「どこから聞こえた?」
「奥の部屋かな?」
アヤメが奥の扉を指差した。
「失礼します」
その指差した瞬間に、扉が開いた。
奥の部屋から、女性が出てくる。
金色の髪の毛に青い瞳。
高い身長に、白銀の美しい軽鎧が似合っている。
とても美しい女性だったが、目つきが悪いのが玉に傷であった。
眉間に刻まれた皺は、キツイ性格を現わしている。
だがそんな事は割とどうでも良かった。
「ミゥン様をお連れしました」
その美しい女性は肩に、ぐったりした少女を担いでいたからだ。
「リリィ、またお前は無茶を」
「口で言っても聞かないので、体に聞かせました」
そう言って女性は肩に担いでいた少女を王座に座らせる。
少女は白目をむいて気絶していた。
少女を座らせたものの前に倒れそうになったので、リリィは背もたれに重心を寄せ、安定させる。
少女が安定したのを確認すると、リリィと呼ばれた女性はこちらに向き、深く首を垂れた。
「ふぅ。あなた方が、剣皇様と、閃皇様ですね。私はアイリス帝国第二騎士団長リリィ・アリアンです。よろしくお願い致します」
「よ、よろしくお願いします」
言葉は礼儀正しいのだが、行動と釣り合っていない。
こういうタイプの人間は恐ろしい、とミーミルは直感する。
会社にいる「明日だけど、この仕事お願いしていいかな? 君だけが頼りなんだよ」と土曜日に徹夜確定レベルの仕事を頼む上司と同じだ。
「そしてこちらの方がアイリス帝国、第71代皇帝ミゥン・ノーグロード様です」
そう言ってリリィは王座に寄り掛かったまま動かない少女を指差す。
「完全に気絶してるように見えますけど大丈夫ですか」
アヤメの言葉に答えないまま、リリィは何かを呟く。
するとリリィの指先に青い光が灯った。
その光を少女のこめかみに押し付ける。
「ギャッ!」
少女の体が跳ねたと思うと細かく痙攣する。
「リリィ! 皇帝だ! 皇帝だから!」
「やめなされ! えげつない事はやめなされ」
騎士団長と大臣の制止で、リリィがやっと指を離すと少女の痙攣は止まった。
少女は目を開くと、ぼんやりとした目でリリィを見上げる。
「……ミゥン様、お目覚めですね」
「お花畑?」
「そうですね、お花畑です。そして目の前にいるのが剣皇様と、閃皇様です」
「あ、えー? お子さんと、亜人さんですね。何でこうなりました?」
「本物です。その力は私も間近で見ました」
「でも伝承と全然違いますけど。私の目の焦点が合ってないのですかね」
「長い歴史の中で伝承にズレが生まれたのかもしれません。二千年以上も前の伝承ですし」
「はぁ、なるほどですねー」
こくこくと何度も頷くと、少女――アイリス帝国皇帝『ミゥン・ノーグロード』はアヤメとミーミルをしっかりと見据えた。
二人もミゥンを見返しながら、観察する。
子供ではないが、大人でもない。
こちらの世界で言えば、中学生か高校生くらいの年齢だろう。
黒くショートカットの髪の毛の先端は、何故か白く染められている。
薄い紫色の瞳は、彼女が異世界の人間であると、はっきり思い知らされるに十分であった。
リリィとは正反対で、美人というより可愛い少女だ。
だが可愛い顔にも関わらず、その目には確固たる意志が宿っているように見える。
そして見た目に違わず、凛とした声でこう言った。
「謁見ご苦労様です。それでは各自解散!」
そう言ってミゥンは王座から立ち上がり、その場を高速で去ろうとする。
完全に虚を突いたミゥンに反応できたのはリリィだけだった。
「お座り下さい」
立ち上がったミゥンを強引に椅子に座らせるリリィ。
「うっ……嫌だぁ」
ミゥンは何故か泣きそうになりながらアヤメとミーミルを見ていた。
「ほら、簡単でもいいので、早く。お二人とも困惑されております」
「こ……この度は復活おめでとうございます? お二人ともお疲れでしょう。今日は早めにお休みになって――」
「そんな事より先に言うべき事があるでしょう」
「ぐううー」
ミゥンは目の端に涙を浮かべながら、頭を二人に下げて、こう言った。
「帝国をこんなに衰退させて申し訳ありません。何もかも全てわたしのせいです。煮るなり焼くなり好きにして下さい」
「ミゥン様、その煮るなり焼くなりというのはおやめ下さらんか」
たまりかねた大臣がさすがに口を挟んできた。
「だって絶対怒ってるんです! あの栄華を誇った帝国が今にも滅びそうなんて! 帝国作った人が怒らない訳が無いんですよ!」
「それはそうですが、もう少し公人としての立場を」
「私が皇帝なのも意味分からないのに、政治の事なんて何も分からないです! 子供に禁呪覚えさせるくらい無茶苦茶! 剣術大会決勝戦の審判を赤ちゃんに任せるくらい無茶苦茶! こんなのもうやだああああああおうち帰りたいいいいい」
ミゥンはひとしきり叫ぶと号泣し始めた。
「……」
「……」
顔を引きつらせたアヤメとミーミルは顔を見合わせる。
どうやらこの国は予想以上に大変な事になっているようであった。
皇帝がこんな状態では、もはや滅びるのも時間の問題だろう。
「その……申し訳ありません。お察しの通り、かなり事態は切迫しておりまして」
オルデミアは本当に申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「何とか、力になって頂けないでしょうか?」
「わしからもお願いします」
カカロも二人に頭を下げる。
「こんな皇帝ですが、何とかしてあげて下さい」
リリィも深く頭を下げる。
「うっ……うっ……おえっ……」
そして王座の間にはミゥンの悲痛な泣き声だけが響き渡る。
「分かりました」
アヤメとミーミルが答えたのは同時だった。
選択肢はそれしかない。
ゲームでよくある、いいえを選べない強制選択肢だった。
いいえを選んでも「そこを何とか!」でまた選択肢がループするアレだ。
要するに詰んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リリィ・アリアン=第二騎士団団長(ドS)
ミゥン・ノーグロード=アイリス帝国現皇帝(恐るべきぽんこつ)
オルデミアの言葉を遮るように、女性の悲鳴が玉座の間に響き渡った。
いや女性――というより獣の悲鳴に近かったかもしれない。
「何だ? 物の怪か?」
ミーミルが油断なく辺りを見渡す。
玉座の間には、王座の奥に扉があった。
そこから声が聞こえて来たような気がする。
「どこから聞こえた?」
「奥の部屋かな?」
アヤメが奥の扉を指差した。
「失礼します」
その指差した瞬間に、扉が開いた。
奥の部屋から、女性が出てくる。
金色の髪の毛に青い瞳。
高い身長に、白銀の美しい軽鎧が似合っている。
とても美しい女性だったが、目つきが悪いのが玉に傷であった。
眉間に刻まれた皺は、キツイ性格を現わしている。
だがそんな事は割とどうでも良かった。
「ミゥン様をお連れしました」
その美しい女性は肩に、ぐったりした少女を担いでいたからだ。
「リリィ、またお前は無茶を」
「口で言っても聞かないので、体に聞かせました」
そう言って女性は肩に担いでいた少女を王座に座らせる。
少女は白目をむいて気絶していた。
少女を座らせたものの前に倒れそうになったので、リリィは背もたれに重心を寄せ、安定させる。
少女が安定したのを確認すると、リリィと呼ばれた女性はこちらに向き、深く首を垂れた。
「ふぅ。あなた方が、剣皇様と、閃皇様ですね。私はアイリス帝国第二騎士団長リリィ・アリアンです。よろしくお願い致します」
「よ、よろしくお願いします」
言葉は礼儀正しいのだが、行動と釣り合っていない。
こういうタイプの人間は恐ろしい、とミーミルは直感する。
会社にいる「明日だけど、この仕事お願いしていいかな? 君だけが頼りなんだよ」と土曜日に徹夜確定レベルの仕事を頼む上司と同じだ。
「そしてこちらの方がアイリス帝国、第71代皇帝ミゥン・ノーグロード様です」
そう言ってリリィは王座に寄り掛かったまま動かない少女を指差す。
「完全に気絶してるように見えますけど大丈夫ですか」
アヤメの言葉に答えないまま、リリィは何かを呟く。
するとリリィの指先に青い光が灯った。
その光を少女のこめかみに押し付ける。
「ギャッ!」
少女の体が跳ねたと思うと細かく痙攣する。
「リリィ! 皇帝だ! 皇帝だから!」
「やめなされ! えげつない事はやめなされ」
騎士団長と大臣の制止で、リリィがやっと指を離すと少女の痙攣は止まった。
少女は目を開くと、ぼんやりとした目でリリィを見上げる。
「……ミゥン様、お目覚めですね」
「お花畑?」
「そうですね、お花畑です。そして目の前にいるのが剣皇様と、閃皇様です」
「あ、えー? お子さんと、亜人さんですね。何でこうなりました?」
「本物です。その力は私も間近で見ました」
「でも伝承と全然違いますけど。私の目の焦点が合ってないのですかね」
「長い歴史の中で伝承にズレが生まれたのかもしれません。二千年以上も前の伝承ですし」
「はぁ、なるほどですねー」
こくこくと何度も頷くと、少女――アイリス帝国皇帝『ミゥン・ノーグロード』はアヤメとミーミルをしっかりと見据えた。
二人もミゥンを見返しながら、観察する。
子供ではないが、大人でもない。
こちらの世界で言えば、中学生か高校生くらいの年齢だろう。
黒くショートカットの髪の毛の先端は、何故か白く染められている。
薄い紫色の瞳は、彼女が異世界の人間であると、はっきり思い知らされるに十分であった。
リリィとは正反対で、美人というより可愛い少女だ。
だが可愛い顔にも関わらず、その目には確固たる意志が宿っているように見える。
そして見た目に違わず、凛とした声でこう言った。
「謁見ご苦労様です。それでは各自解散!」
そう言ってミゥンは王座から立ち上がり、その場を高速で去ろうとする。
完全に虚を突いたミゥンに反応できたのはリリィだけだった。
「お座り下さい」
立ち上がったミゥンを強引に椅子に座らせるリリィ。
「うっ……嫌だぁ」
ミゥンは何故か泣きそうになりながらアヤメとミーミルを見ていた。
「ほら、簡単でもいいので、早く。お二人とも困惑されております」
「こ……この度は復活おめでとうございます? お二人ともお疲れでしょう。今日は早めにお休みになって――」
「そんな事より先に言うべき事があるでしょう」
「ぐううー」
ミゥンは目の端に涙を浮かべながら、頭を二人に下げて、こう言った。
「帝国をこんなに衰退させて申し訳ありません。何もかも全てわたしのせいです。煮るなり焼くなり好きにして下さい」
「ミゥン様、その煮るなり焼くなりというのはおやめ下さらんか」
たまりかねた大臣がさすがに口を挟んできた。
「だって絶対怒ってるんです! あの栄華を誇った帝国が今にも滅びそうなんて! 帝国作った人が怒らない訳が無いんですよ!」
「それはそうですが、もう少し公人としての立場を」
「私が皇帝なのも意味分からないのに、政治の事なんて何も分からないです! 子供に禁呪覚えさせるくらい無茶苦茶! 剣術大会決勝戦の審判を赤ちゃんに任せるくらい無茶苦茶! こんなのもうやだああああああおうち帰りたいいいいい」
ミゥンはひとしきり叫ぶと号泣し始めた。
「……」
「……」
顔を引きつらせたアヤメとミーミルは顔を見合わせる。
どうやらこの国は予想以上に大変な事になっているようであった。
皇帝がこんな状態では、もはや滅びるのも時間の問題だろう。
「その……申し訳ありません。お察しの通り、かなり事態は切迫しておりまして」
オルデミアは本当に申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「何とか、力になって頂けないでしょうか?」
「わしからもお願いします」
カカロも二人に頭を下げる。
「こんな皇帝ですが、何とかしてあげて下さい」
リリィも深く頭を下げる。
「うっ……うっ……おえっ……」
そして王座の間にはミゥンの悲痛な泣き声だけが響き渡る。
「分かりました」
アヤメとミーミルが答えたのは同時だった。
選択肢はそれしかない。
ゲームでよくある、いいえを選べない強制選択肢だった。
いいえを選んでも「そこを何とか!」でまた選択肢がループするアレだ。
要するに詰んでいた。
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リリィ・アリアン=第二騎士団団長(ドS)
ミゥン・ノーグロード=アイリス帝国現皇帝(恐るべきぽんこつ)
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