国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第一部 二章

第十五話 実は重要なイベントです

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「……し?」
「支配者です。人を従える器も持っている者です」

 何の話か意味が分からなかった。

「何が?」
「私もそうなのです。人を従える器を持っております」
「はぁ」
「そしてミゥン様は、人に従う器を持っております」
「すみません、話が全く見えません」
「つまりこういう事です」

 リリィはいきなり履いていたスカートをたくし上げる。

「ひっ」

 アヤメは慌てて手で目を隠したが、小さな掌のせいか、指の隙間からスカートの中が、不可抗力な感じで、どうしても見えてしまった。
 だがスカートの中より、アヤメの目はリリィの太ももに目が行った。
 別にアヤメが太ももフェチという訳ではない。
 リリィの太ももにはレザーのベルトが巻かれており、そこに折り畳み式のレザーウィップが装着されていたからだ。
『ウィップ』と言っても細長い蛇のようなものではなく、乗馬に使うような取り回しのいい短い鞭であった。
 リリィは折りたたまれていた鞭を伸ばすと、右手に持つ。

「ミゥン様、今日は閃皇様と一緒に遊びましょう」
「ええっ、いいのですか!?」

 ミゥンは喜ぶと、ベッドから飛び降りて四つん這いになる。

「……」
「さ、閃皇様、鞭を持って」

 リリィはアヤメに鞭を差し出す。

「……いや、これは――」

 これは、まさか、あり得ない。

 と頭の中で現実を拒否したいが、先ほどからのリリィの言葉と、用意された鞭、四つん這いの皇帝の姿が、一つの結論にたどり着く事を強制する。
 アヤメは結論が間違っているように、と願いながらリリィに聞く。

「まさか、乗れ、と?」

 リリィはしっかりと頷いた。
 見間違いではなく、確かに頷いた。

「遠慮は要りません。幼い頃から毎日やっている遊びです」
「そうですよ。昔からやっているのです。リリィと二人だけでいつもやっているのですが、三人でやるのは初めてです!」

 そう言ってミゥンは顔を赤らめながら息を荒くしている。

「待って。いきなり世界がおかしい。何か狂った」
「何もおかしい事はありません。さあ」
「ほぼ初対面で、鞭持って皇帝の上に乗れっておかしい所しかないと思うのです」
「きっと最初だけです。閃皇様には人を従える素質があります」
「無いです!」
「絶対にあります。何故なら貴方は、九の敵国に囲まれた小国を、たった十年で一つの国にまとめあげた『初代アイリス帝国皇帝デルフィオス・アルトナ』なのですから」

 それは確かに素質あるわ。

 とアヤメは思ってしまった。
 つまり断る事は不可能になったのだ。
 断れば史実に反する。

「……」

 アヤメは無言で鞭を受け取る。
 四つん這いで息を荒くしているミゥンの上にゆっくりと足をかける。
 ぐっと体重をかけると、ミゥンの体がびくっと跳ねた。

「ヒッ」
「大丈夫です。怖くありませんから」

 怖いよ! と思いながらアヤメはミゥンの背中を何とか跨ぎ、背中に腰を降ろす。

「閃皇様、やっぱり軽いですね。リリィと重みが違います」

 背中に乗られたミゥンは嬉しそうに言う。

「の、乗りました」
「はい」
「……降りていいですね?」
「えっ? まだこれからなのに! 早いです!」

 不満の声が足元から聞こえてくる。
 アヤメはリリィを見る。
 リリィは右手の鞭を振り下ろせ、とジェスチャーしてきた。

 もうどうにでもなれ。

 そう思ったアヤメはミゥンのお尻に鞭をペチンと振り下ろした。

「弱い!」
「弱い!?」

 リリィの叱咤が飛んできた。

「もっと強く」
「つ、強く」

 アヤメはパシンと鞭を振り下ろす。

「もがー!」

 ミゥンは叫ぶと四つん這いで歩き始める。

「わき腹に蹴りを」
「蹴りを」

 リリィに言われるままかかとでわき腹を蹴る。

「もがー!」

 ミゥンが加速した。

「手綱を忘れていました」

 リリィが目にも止まらぬスピードで、ミゥンの口にベルト付きの棒を噛ませると、ベルトをアヤメに持たせる。

「引っ張ればブレーキです」
「ブレーキ!」
「ごふっごふっ」

 口に棒が食い込んだミゥンは苦しみながら歩みを止めた。

「さあ閃皇様、乗馬をお楽しみ下さい。適当になじりながら鞭を入れればOKです」
「このメスウマ! 恥ずかしい奴め! ウマにしては遅いよ!」
「もがー」

 我ながら語彙の無い責め言葉であったが、それでもミゥンは嬉しそうに鳴いた。
 こんな事で喜ぶなんて変態だ。
 年端もいかない美少女をこんな風に馬扱いして乗り回すなんて。

 だが何だろう。
 体の奥底からじわじわと湧き上がる、この感情は。


 これは――まさか征服感?


「素晴らしい。閃皇様、とてもいい顔をしていらっしゃいますよ」

 リリィが懐から手鏡を取り出すと、アヤメに向ける。

 そこには顔を仄かに紅く染めながら、嗜虐の快感に酔いしれ、笑みを浮かべる幼女が映っていた。

「やはり貴女は私と同類です」

 リリィは口の端を釣り上げて笑みを浮かべる。

「こ、こんな、わたし、違――」
「モガモガうるさいな! 静かにしろ! 今、大事な所なのに!」

 寝室にミーミルがいきなり飛び込んで来た。

「騒ぐなら外で……」

 ミゥンに乗っているアヤメを見て、ミーミルは動きを止める。
 ミーミルの目が見開かれ、顔が歪む。
 口に手を当て、悲鳴を押し殺す。

「これは誤」
「そんな子に育てた覚えはありませんからね!!」

 そう叫ぶと、ミーミルは部屋から、泣きそうになりながら飛び出して行った。




「そんな子に育てた覚えはありません」
「ええ……? はい……」

 アヤメはカーペットに正座しながら項垂れていた。
 衝撃の場面を見てしまったミーミルは、全ての来訪者を追い帰すと、アヤメに説教を始めたのだ。

 アヤメ自身も、勢いでやり過ぎたと反省していた。
 特にあの表情だけは言い訳が出来ない。
 自分でも驚く程、悪い顔をしていた。

「おかしいと思いませんか? 元皇帝が現皇帝に乗馬プレイとするいうのは。何か私は間違っている事を言っていますか?」
「あの空間がおかしかったというか……どうしてああなったのか正直、自分でもさっぱり」

 まさか二人にそういう趣味があるとは欠片も思っていなかった。
 しかも下の立場であるはずの騎士団長が、皇帝を虐げているなんて……。

「まあ、それで、どうしてああなった? 詳しく」
「一言で言うなら、リリィ騎士団長の趣味? 普段からミゥン皇帝とやっているらしいよ」
「マジかー。美人なのにレズなのかー。もったいない!」
「そういうのとはまた違うような気がする」

 何というか、単にリリィは虐める事が好きなだけのような気がする。
 少なくとも恋愛要素は、先ほどの流れで感じ取る事は出来なかった。

 簡単に言うなら、皇帝の扱いが実に雑い。

「まあ、それはともかく、皇帝の乗り心地はどうだった?」
「それどころじゃないよ!」
「正直な所、俺もやりたかった。というかやられたかった」
「キモイからやめて」
「うん……やっぱり幼女のキモいは心にクるな」

 ミーミルはそういうと、ソファーに座った。

「まあアヤメが新しい世界を拓いた訳じゃなくて良かったよ。危うく友達としての付き合い方を考え直す所だったけど、とりあえずコカワさんとの話で、かなりこの世界の事が色々と分かったぞ」

 ミーミルはコカワに書いて貰ったメモを、テーブルに広げる。
 そこには見慣れない文字――だが何故か読める文字が並んでいた。


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アヤメ=乗人技術スキルを習得(パッシブスキル)
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