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この一週間、何度も大河の存在を近くに感じる時があった。何故か分からないが、彼が近くにくると遼は大河のフェロモンが分かるようになっていた。
そして大河の存在を感じるたび、遼はその場から逃げた。それでも何度も何度も大河が近くに来ているのを感じて。大河が遼を探してくれているのだと遼には分かった。そんなの気のせいかもしれないのに、何故か遼には大河が自分を探しているという確信があった。
それを心が嬉しいと喜ぶ。
けれど、今まで自分がSubだということを拒み続け、みんなに隠して、誰にも頼らず弱みを見せず強くあろうと気を張って生きてきたのに、簡単にそれを捨てることなんてできない。
(自分から神崎のところに支配されにいくなんて......そんなの......)
なけなしのsubという性への抵抗だけが、弱り切った遼を支えていた。
その時、にわかに食堂の入口が色めきたった。女子の黄色い声が聞こえて、食堂内の視線がそこに一気に集まる。
それと同時に遼の胸がトクントクンと音を刻みだした。
(しまった......食堂が広くて気づけなかった......)
ドキドキと高鳴る鼓動と、抑えきれない欲求が湧き上がって、そこに誰がいるのか見なくても遼には分かった。
(逃げないと......)
そう思うのに。
遼の心が本能が、彼に早く会いたい、彼の元に早く行きたいと叫び出す。
「珍し......神崎だ。こっちの校舎にはあんまり来ないのにな」
佐々木が入口の方に視線を向けて彼の名前を呼ぶ。
「さすが大学一のイケメン、やっぱいつも見ても驚くぐらい男前だな」
すげぇ人気、と佐々木が思わずというように感嘆の言葉を零す。
振り向いたら駄目だと思うのに、我慢することができず遼は大河の方に顔を向けた。
そこにはやっぱり大河がいて。
モデルのようなスタイルのいい体に白衣を羽織り、中に黒のタートルネックを大河は着ていた。その服装が息を飲むほどに整った大河の美貌をさらに引き立たせていて、その場にいるすべての人間の視線を一心に集めていた。
まるでそこだけ空気が違うのかと思うほど大河の姿は輝いていて、大河に焦がれている遼じゃなくても、誰もが見惚れてしまう、それぐらい彼の姿は美しかった。
「っ......」
その姿が視線の中に写るだけで、何かが溢れそうになって遼は胸を抑える。
大河はなにかの気配を辿るように視線を彷徨わせて、そしてすぐに遼の方に視線を向けた。
「青木......‼」
名前を呼んで、向けられる生徒たちの視線になど見向きもせず大河は真っ直ぐに遼の方に歩いてくる。
最初は人の波を避けてゆっくりと、だけど次第にその歩調が足早になって、最後には我慢ができないというように遼の方に駆け出した。
(ああ......)
彼の綺麗な顔が心配そうに遼だけを見ている。遼以外など目に入らないというように遼だけを見つめている。
それがこんなに嬉しいなんて。
(もうダメだ......)
遼は立ち上がると駆けてくる大河の方に手を伸ばした。その手を大河が取って。
大河が遼を抱きしめるのと同時に、遼は大河の胸の中に自分から飛び込んでいった。
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