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第三章 儚い星空
第13話 出かけて縮める距離(上)
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(この格好……変じゃないよな?)
ブリッジベル・カケラキーパーズの練習見学から数日後、謙志は桃音との待ち合わせ場所であるアミティー駅の南口広場に立っていた。自分の白いスニーカーやベージュ色のズボンを見下ろし、濃紺の半袖に変な皺がないか確認し、「大丈夫だよな?」と自分自身に再度問う。
天文研究会の夏合宿まであと一週間という今日、ついに桃音とデートをする。デートと言ってよいのか、それとも「合宿のための買い出し」という色気のない名目にしておいたほうがよいのか。謙志は悩みに悩んだが、自分の気持ちとしては、桃音との「デート」だと思いたい、との結論に至っていた。
好きだと思っているが、まだ自分のその気持ちを伝えられていない片思いの女子と、二人で少し遠くに出かけるという、人生初のシチュエーション。そう意識すると、どうしようもなく緊張してしまうけれども、一方でこれまでに感じたことのない、わくわくとした気持ちも止められなかった。
(飯が食えそうな場所は探したけど……アウターを買ったあとのことまで考えきれてない……どうすっかな)
約束の時間の二十分前にはこの場所に立っていた謙志は、流れていく人の波をなんとはなしに見つめながら、ため息をつく。
親友の将樹には、桃音と二人で出かけることになったと報告した。日付や場所は言わなかったし、「アドバイスしてやろうか?」という申し出も断った。だが、素直に助言をもらっておけばよかったかもしれない。「なるようになる」と思ったが、いざ約束の時間が近くなると、果たしてうまく振る舞えるだろうかと、心配で仕方なくなってきた。
(でも、舟形の意見を聞かないで決めるのもよくないだろうし……)
謙志は悶々と考える。「カノジョが行きたいと言う場所に付いていくだけ」としか思っていなかった元カノたちとのデートの時とは、雲泥の差だ。
「松浦先輩」
「っ……」
その時、ぼうっとしていた謙志は横から声をかけられてはっとした。
慌てて隣を見れば、ピンクのロング丈のシフォンスカートに白いレースの襟のノースリーブ、かかとの低いサンダルで髪の毛をハーフアップにまとめた桃音が立っていた。
「あ、お、おはよう……早いな」
「おはようございます。その……前回のカフェではお待たせしてしまったので、今日は私が先に来ようと思ったんですけど……すみません、また待たせてしまいました」
「いや、俺が早すぎただけだから」
約束の時間までは、まだ十分少々ある。前回だって桃音は約束の時間に遅れたわけでもないのに、なんとも律義でいじらしい心遣いだと謙志は思った。
それに、大学で見かける時よりも、服装かメイクか、それとも雰囲気か、うまく言葉にできないのだが、桃音のどこかがいつも以上にかわいらしく見えてしまい、高まっていた緊張感がさらに強くなった気がする。
「あ、えっと……先に……昼飯にするか? 無難なんだけど、近くにパスタの店があって……どうだ?」
「はい。パスタ、食べたいです」
桃音がにっこりとほほ笑んで頷いたので、謙志は事前に地図アプリで調べておいたルートを歩き始めた。
ここは第二首都特区の中心であるリフホエス駅から、スカイジンラインに乗って数駅先にあるアミティー駅。駅の北側は住宅エリアだが、南側は商業エリアになっており、その区画に、このあたりでは一番の大きさを誇る中古のアウトドア用品店があった。大学があるレンテバー駅からはやや離れているが、それが逆に、桃音と二人で歩いても大学の友人知人たちに見られる可能性はなくて、謙志は安心だった。
桃音と二人でパスタの店に入り、注文をして料理が運ばれてくるのを待つ。緊張でやけに喉が渇いていたのか、謙志はお冷をハイペースで飲み干した。
「て、天気……晴れて……よかったですね」
「え、ああ……そうだな……」
せっかくのデート――と、少なくとも謙志は思うことにしている――なのに、会話の波に乗れないと、今日も二人の間には沈黙が長く続いてしまう。
何か、なんでもいいから話さなければと謙志は必死に考えて、今日のデートについての連絡が遅くなったことを謝った。
「あ、えっと……ごめん、連絡が……遅くなって」
「えっ、いいえっ、あの……大丈夫です」
「数日前に、プロ野球チームの練習を見学させてもらってたんだけど、その準備が少し……あって……」
嘘だ。カケラキーパーズの練習見学のための準備など、外泊のための荷造りぐらいだった。桃音に連絡が遅くなったのは、今日のことをいろいろと考えて、うじうじと悩んでいたからだ。
だが、そんな女々しいことを素直に白状することはできなくて、謙志はそれらしい言い訳でごまかした。
「プロ野球チームの練習を……見学したんですか?」
「ああ、えっと……所属してるゼミの教授が、研究の一環でたまに行くんだ。それに今回は俺も同行させてもらって……プロの選手やコーチがどんなふうに練習したり、トレーニングメニューを考えたりしているのか、教えてもらってきたんだ」
「すごい……」
謙志の話を聞いて、桃音は大きく目を見開いた。
スポーツとほとんど縁のない生活を送ってきた桃音にとって、プロ野球チームを訪問するということだけでも異質で特別なことに思えるが、謙志はそこで、将来を見据えての学びを得てきたのだ。桃音には到底考えられない経験だ。
「ああ、すごかった。大学で学んでいるから、少しは話についていけるかと思ったけど……なんていうか、大学の講義じゃ学べないこと、見えないことがたくさんあったんだ。俺はあくまでも初歩的なことを知ったつもりになっているだけで……でも、あれが本当の〝現場〟なんだなって……まだまだもっと勉強して、それをこの先もずっと続けなきゃいけないんだって……そう思った」
「収穫がたくさん……あったんですね」
一年次の桃音は、まだ基礎的な講義しかとれていない。学科の専門講義は必修なので履修しているが、その内容はそれこそ初歩的なものだ。「大学に入って専門知識を身に付けました」とは、とてもではないがまだ言えるような段階ではない。
だが、三年次の謙志は講義でもそうした課外活動でも、専門的に学んで一歩先を歩いている。本人は自分の未熟さを痛感しているようだが、一年次の桃音からしたら、十分に先を進んでいる感じがした。
「あ、えっと……舟形は?」
「え?」
「夏休み……まだ二週間ぐらいしか経ってないけど、大学の図書館には行っているのか」
「はい。バイトのない日は開館から閉館まで、行けるだけ行っています。それと、結美ちゃんちに遊びに行きました」
「井口の家? 本当に仲良しなんだな」
「そうですね。一番の親友ですから……。結美ちゃんのお母さんが化粧品メーカーに勤めていて、化粧品のサンプルをよく持ち帰るんです。それを私と結美ちゃんで使って……メイクの仕方は全部、結美ちゃんと結美ちゃんのお母さんから教わったんですよ」
そう言って笑う桃音は、よく見るといつもと少し、顔の印象が違う気がした。どこがどう違うのか、謙志には細かく具体的にはわからなかったが、少しだけ大人っぽいように思う。桃音は愛らしい顔の作りのわりに落ち着いていて肝が据わっているところがあり、「かわいい」と思わせる外見とのギャップが、謙志は妙にドキドキするのだった。
「なんか……女子らしいやり取りだな」
注文したパスタが運ばれてきて、それぞれフォークを手に取る。しかし、ようやく流れだした会話の波は止まらなかった。
「松浦先輩も、野中先輩と一緒に遊んだりしますか?」
「まあ……たまに。あいつとは散々、一緒に馬鹿をやったけど」
「馬鹿をやる……ですか?」
「中学の校門から片足移動だけで、遠くまで行けたほうが勝ち……とか」
「ふふっ……そ、そんなこと……したんですか?」
今の謙志と将樹からは想像できない、やんちゃというかなんの生産性もない、小学生男子がやるようなくだらない遊びを聞いて、桃音は噴き出すように笑ってしまった。
「人間の足が二本あることはすごくありがたいことなんだと、心から実感したよ」
「ふっ、ふふっ……」
そりゃそうだ、と思って桃音は笑った。
桃音の兄の望夢も、小学生の頃はそれなりにやんちゃだった。友達と鬼ごっこをしていた際に不注意で電柱にぶつかって頭にたんこぶを作った次の日、今度は自転車から転がり落ちて新しいたんこぶを作ったこともあった。男の子は皆、大なり小なりそういう「馬鹿なこと」を大真面目にやる時期があるものなのだろう。
今の謙志はいつだって冷静で、くだらない遊びを進んでやるようには思えない。だが、そうではない時期もあったのだ。謙志のその意外な一面を楽しみつつ、桃音はパスタを平らげた。
「それじゃあ、行くか」
「はい」
別々に会計をして店を出た二人は、今日の一番の目的である中古のアウトドア用品店に向かった。広い面積の店内は一階から四階まであり、中古ではなく新品も一部にはあるようだ。
「ひとまずアウターでいいんだよな」
「はい。足元はズボンで平気……ですよね?」
「ズボンの下に一枚何かはければ、まあ、大丈夫だと思う。えっと……女子ならタイツとかレギンスとかか」
「それは持ってるので大丈夫そうです。じゃあ、アウターを」
「わかった。こっちだな」
初めて来る店だったが、スポーツ用品店に行き慣れている謙志は、案内板からすぐに「登山用品」の文字を見つけて、そちらに向かう。そして、自分が持っているのと同じシリーズの品を見つけて、桃音にどうかと見せた。
「すごい……新品みたいですね」
「買ったはいいけど、ほとんど使わないで売る人が結構いるんだ」
「えっ、どうしてですか?」
「スキー、登山、キャンプ、サーフィン……そういうちょっと手間のかかるアウトドアって、毎シーズン定期的に続けるのはなかなか難しいんだ。始めてみようと思って道具を買ってそろえたけど、一回やれば満足して、使わないまま箪笥の肥やしになる……それかわりと早々に、こうして中古として売られるのが、よくあるパターン」
「なるほど……」
ブリッジベル・カケラキーパーズの練習見学から数日後、謙志は桃音との待ち合わせ場所であるアミティー駅の南口広場に立っていた。自分の白いスニーカーやベージュ色のズボンを見下ろし、濃紺の半袖に変な皺がないか確認し、「大丈夫だよな?」と自分自身に再度問う。
天文研究会の夏合宿まであと一週間という今日、ついに桃音とデートをする。デートと言ってよいのか、それとも「合宿のための買い出し」という色気のない名目にしておいたほうがよいのか。謙志は悩みに悩んだが、自分の気持ちとしては、桃音との「デート」だと思いたい、との結論に至っていた。
好きだと思っているが、まだ自分のその気持ちを伝えられていない片思いの女子と、二人で少し遠くに出かけるという、人生初のシチュエーション。そう意識すると、どうしようもなく緊張してしまうけれども、一方でこれまでに感じたことのない、わくわくとした気持ちも止められなかった。
(飯が食えそうな場所は探したけど……アウターを買ったあとのことまで考えきれてない……どうすっかな)
約束の時間の二十分前にはこの場所に立っていた謙志は、流れていく人の波をなんとはなしに見つめながら、ため息をつく。
親友の将樹には、桃音と二人で出かけることになったと報告した。日付や場所は言わなかったし、「アドバイスしてやろうか?」という申し出も断った。だが、素直に助言をもらっておけばよかったかもしれない。「なるようになる」と思ったが、いざ約束の時間が近くなると、果たしてうまく振る舞えるだろうかと、心配で仕方なくなってきた。
(でも、舟形の意見を聞かないで決めるのもよくないだろうし……)
謙志は悶々と考える。「カノジョが行きたいと言う場所に付いていくだけ」としか思っていなかった元カノたちとのデートの時とは、雲泥の差だ。
「松浦先輩」
「っ……」
その時、ぼうっとしていた謙志は横から声をかけられてはっとした。
慌てて隣を見れば、ピンクのロング丈のシフォンスカートに白いレースの襟のノースリーブ、かかとの低いサンダルで髪の毛をハーフアップにまとめた桃音が立っていた。
「あ、お、おはよう……早いな」
「おはようございます。その……前回のカフェではお待たせしてしまったので、今日は私が先に来ようと思ったんですけど……すみません、また待たせてしまいました」
「いや、俺が早すぎただけだから」
約束の時間までは、まだ十分少々ある。前回だって桃音は約束の時間に遅れたわけでもないのに、なんとも律義でいじらしい心遣いだと謙志は思った。
それに、大学で見かける時よりも、服装かメイクか、それとも雰囲気か、うまく言葉にできないのだが、桃音のどこかがいつも以上にかわいらしく見えてしまい、高まっていた緊張感がさらに強くなった気がする。
「あ、えっと……先に……昼飯にするか? 無難なんだけど、近くにパスタの店があって……どうだ?」
「はい。パスタ、食べたいです」
桃音がにっこりとほほ笑んで頷いたので、謙志は事前に地図アプリで調べておいたルートを歩き始めた。
ここは第二首都特区の中心であるリフホエス駅から、スカイジンラインに乗って数駅先にあるアミティー駅。駅の北側は住宅エリアだが、南側は商業エリアになっており、その区画に、このあたりでは一番の大きさを誇る中古のアウトドア用品店があった。大学があるレンテバー駅からはやや離れているが、それが逆に、桃音と二人で歩いても大学の友人知人たちに見られる可能性はなくて、謙志は安心だった。
桃音と二人でパスタの店に入り、注文をして料理が運ばれてくるのを待つ。緊張でやけに喉が渇いていたのか、謙志はお冷をハイペースで飲み干した。
「て、天気……晴れて……よかったですね」
「え、ああ……そうだな……」
せっかくのデート――と、少なくとも謙志は思うことにしている――なのに、会話の波に乗れないと、今日も二人の間には沈黙が長く続いてしまう。
何か、なんでもいいから話さなければと謙志は必死に考えて、今日のデートについての連絡が遅くなったことを謝った。
「あ、えっと……ごめん、連絡が……遅くなって」
「えっ、いいえっ、あの……大丈夫です」
「数日前に、プロ野球チームの練習を見学させてもらってたんだけど、その準備が少し……あって……」
嘘だ。カケラキーパーズの練習見学のための準備など、外泊のための荷造りぐらいだった。桃音に連絡が遅くなったのは、今日のことをいろいろと考えて、うじうじと悩んでいたからだ。
だが、そんな女々しいことを素直に白状することはできなくて、謙志はそれらしい言い訳でごまかした。
「プロ野球チームの練習を……見学したんですか?」
「ああ、えっと……所属してるゼミの教授が、研究の一環でたまに行くんだ。それに今回は俺も同行させてもらって……プロの選手やコーチがどんなふうに練習したり、トレーニングメニューを考えたりしているのか、教えてもらってきたんだ」
「すごい……」
謙志の話を聞いて、桃音は大きく目を見開いた。
スポーツとほとんど縁のない生活を送ってきた桃音にとって、プロ野球チームを訪問するということだけでも異質で特別なことに思えるが、謙志はそこで、将来を見据えての学びを得てきたのだ。桃音には到底考えられない経験だ。
「ああ、すごかった。大学で学んでいるから、少しは話についていけるかと思ったけど……なんていうか、大学の講義じゃ学べないこと、見えないことがたくさんあったんだ。俺はあくまでも初歩的なことを知ったつもりになっているだけで……でも、あれが本当の〝現場〟なんだなって……まだまだもっと勉強して、それをこの先もずっと続けなきゃいけないんだって……そう思った」
「収穫がたくさん……あったんですね」
一年次の桃音は、まだ基礎的な講義しかとれていない。学科の専門講義は必修なので履修しているが、その内容はそれこそ初歩的なものだ。「大学に入って専門知識を身に付けました」とは、とてもではないがまだ言えるような段階ではない。
だが、三年次の謙志は講義でもそうした課外活動でも、専門的に学んで一歩先を歩いている。本人は自分の未熟さを痛感しているようだが、一年次の桃音からしたら、十分に先を進んでいる感じがした。
「あ、えっと……舟形は?」
「え?」
「夏休み……まだ二週間ぐらいしか経ってないけど、大学の図書館には行っているのか」
「はい。バイトのない日は開館から閉館まで、行けるだけ行っています。それと、結美ちゃんちに遊びに行きました」
「井口の家? 本当に仲良しなんだな」
「そうですね。一番の親友ですから……。結美ちゃんのお母さんが化粧品メーカーに勤めていて、化粧品のサンプルをよく持ち帰るんです。それを私と結美ちゃんで使って……メイクの仕方は全部、結美ちゃんと結美ちゃんのお母さんから教わったんですよ」
そう言って笑う桃音は、よく見るといつもと少し、顔の印象が違う気がした。どこがどう違うのか、謙志には細かく具体的にはわからなかったが、少しだけ大人っぽいように思う。桃音は愛らしい顔の作りのわりに落ち着いていて肝が据わっているところがあり、「かわいい」と思わせる外見とのギャップが、謙志は妙にドキドキするのだった。
「なんか……女子らしいやり取りだな」
注文したパスタが運ばれてきて、それぞれフォークを手に取る。しかし、ようやく流れだした会話の波は止まらなかった。
「松浦先輩も、野中先輩と一緒に遊んだりしますか?」
「まあ……たまに。あいつとは散々、一緒に馬鹿をやったけど」
「馬鹿をやる……ですか?」
「中学の校門から片足移動だけで、遠くまで行けたほうが勝ち……とか」
「ふふっ……そ、そんなこと……したんですか?」
今の謙志と将樹からは想像できない、やんちゃというかなんの生産性もない、小学生男子がやるようなくだらない遊びを聞いて、桃音は噴き出すように笑ってしまった。
「人間の足が二本あることはすごくありがたいことなんだと、心から実感したよ」
「ふっ、ふふっ……」
そりゃそうだ、と思って桃音は笑った。
桃音の兄の望夢も、小学生の頃はそれなりにやんちゃだった。友達と鬼ごっこをしていた際に不注意で電柱にぶつかって頭にたんこぶを作った次の日、今度は自転車から転がり落ちて新しいたんこぶを作ったこともあった。男の子は皆、大なり小なりそういう「馬鹿なこと」を大真面目にやる時期があるものなのだろう。
今の謙志はいつだって冷静で、くだらない遊びを進んでやるようには思えない。だが、そうではない時期もあったのだ。謙志のその意外な一面を楽しみつつ、桃音はパスタを平らげた。
「それじゃあ、行くか」
「はい」
別々に会計をして店を出た二人は、今日の一番の目的である中古のアウトドア用品店に向かった。広い面積の店内は一階から四階まであり、中古ではなく新品も一部にはあるようだ。
「ひとまずアウターでいいんだよな」
「はい。足元はズボンで平気……ですよね?」
「ズボンの下に一枚何かはければ、まあ、大丈夫だと思う。えっと……女子ならタイツとかレギンスとかか」
「それは持ってるので大丈夫そうです。じゃあ、アウターを」
「わかった。こっちだな」
初めて来る店だったが、スポーツ用品店に行き慣れている謙志は、案内板からすぐに「登山用品」の文字を見つけて、そちらに向かう。そして、自分が持っているのと同じシリーズの品を見つけて、桃音にどうかと見せた。
「すごい……新品みたいですね」
「買ったはいいけど、ほとんど使わないで売る人が結構いるんだ」
「えっ、どうしてですか?」
「スキー、登山、キャンプ、サーフィン……そういうちょっと手間のかかるアウトドアって、毎シーズン定期的に続けるのはなかなか難しいんだ。始めてみようと思って道具を買ってそろえたけど、一回やれば満足して、使わないまま箪笥の肥やしになる……それかわりと早々に、こうして中古として売られるのが、よくあるパターン」
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