9 / 67
第一章 新婦の誤解
第03話 結婚式(下)
しおりを挟む
そのように、主に政治家たちの相手はティルフィーユとキアンに代わってジェラルドが行いつつ、式後の挨拶行列は無事に解消された。
しかし結婚式はまだ終わっていない。祈りの広間を出て、華やかだが婚礼衣装に比べると少しばかり簡素な衣装に着替えたティルフィーユとキアンは、続いてスベーク城東棟の大広間に向かった。そこには立食形式で多くの料理が用意されており、正式に招待された客人のほか、参加料を支払った一般市民たちが食事と懇談を楽しんでいた。
「新郎新婦のご入場です!」
大きな声の司会者がそう言うと、客人たちの視線が一気に大広間の出入口に向けられた。ティルフィーユはキアンの腕にそっと掴まりながら、用意されていた高砂へと並んで歩いていく。その間、左右にいる招待客と一般参加の市民から祝辞の言葉を贈られた。そしてこの披露宴でも、多くの客人との会話が繰り返された。結婚式には参加できなかった一般市民たちが、物珍しげに二人に話しかけてきたのだ。
キアンはだいぶ顔が知られているのか、「騎士団長さん!」と気軽に話しかけられることが多かった。相変わらず返す言葉は少なく、笑うこともなく不機嫌そうに見える無表情だったが、祝辞ではなくただの雑談を繰り広げるだけになった市民たち相手でも、キアンは淡々と対応した。
ティルフィーユの方は、何か問われたら答えるぐらいの対応はできたが、しかし緊張と元来の口下手が重なって、自分から客人たちに話を振るということはほとんどできなかった。それに今日一日ずっと隣にいるキアンともろくな会話をすることはできず、食事はどれも美味しかったが、人生で一度きりの結婚式の日だというのに、ティルフィーユの心の中は何かがずっと満たされないままだった。
大広間での宴会は、陽が沈むまで続いた。宴会終了後、ティルフィーユたちは再び控室で着替え、馬車に揺られてストーラーの屋敷に帰った。疲れもあってか、ティルフィーユもキアンも、行きと同じように互いに一言も発しなかった。二人を気遣うジェラルドが一緒ではなかったので、帰りの馬車の中には、結婚式を終えたばかりの新婚夫婦がいるとは思えないほど重苦しい空気が流れていた。
屋敷に戻り、湯浴みを終えるとティルフィーユはやっと一息つけた。ベッドに入って目を閉じたら一瞬で夢の中へ行けそうなほどに疲労が溜まっていたが、しかし今日はもうひとつ、最後に大事なイベントがある。
(いよいよ……初夜……)
今日をもって、ティルフィーユとキアンは正式な夫婦となった。つまり、今夜は夫婦として過ごす最初の夜となるので房事が行われるはずだ。
かなり昔の時代のグントバハロン宗家には、性教育をほとんど受けないまま嫁いでしまった姫もいたらしい。しかし今は宗家の子女全員にきちんと教育が施されているため、ティルフィーユも子作りの手順などは一応最初から最後まで知っている。さらに、年の離れた長女と次女がすでに既婚者なので、家庭教師からの教育に加えて二人の姉たちからもいろいろと実体験の話を聞いていた。
(だ、大丈夫……痛いのは我慢すれば……きっと大丈夫)
ネグリジェの上に羽織った厚手のガウンの裾をぎゅっと握りしめて、ティルフィーユは自分を鼓舞した。
女性の身体の仕組み、男性の身体の仕組み。それから、妊娠と出産の仕組み。それらは時に挿絵なども交えながら、みっちりと家庭教師から教わった。しかし、どんな知識よりもティルフィーユの中に強く残ったのは、姉二人が口をそろえて言った、「最初はめちゃくちゃ痛い、とにかく痛い」という言葉だった。
自分の身体で練習する方法も教わって、一度や二度、試したことはある。しかし、自分の指一本がどうにか入るほどの狭さの穴に肥大した男性の生殖器を受け入れることなど本当にできるのかと、疑念が深まっただけだった。それに加えて姉たちが「最初は本当に痛かった」と力説するものだから、初めての性交に対してティルフィーユは、ただただ強い痛みを予想して身体が硬直してしまうのだった。
(キアン様……今夜は寝室にいる……わよね?)
忙しかったのか、それとも床を共にしたくないほど自分のことを疎ましく思っているのか。ティルフィーユはこの屋敷に来てから一度も寝室でキアンを見ていない。だが今夜は初夜であるし、政略結婚に不服があったとしてもさすがに子作りはしてくれるだろう。そうでないと仮面夫婦の体裁すら保てないはずなのだから。
「ふぅ……」
ティルフィーユは深呼吸をすると、脱いだガウンを私室のソファにそっと置く。そして緊張した手を伸ばし、寝室につながるドアをそっと開けた。
――キ、ィ……。
寝室の中は薄暗かった。けれども、小さなランプの明かりが大きな背中の影を壁に映しているのを見て、ティルフィーユはひとまずほっと息を吐いた。
「あの……キアン様」
ゆっくりと室内に足を踏み入れながら、ティルフィーユは消え入りそうな声で呼びかけた。すると、寝台に腰掛けていたキアンはゆっくりと振り返り、じっと観察するようにティルフィーユを見つめた。
「…………」
「…………」
どうにか見つめ合ったが、次になんと言えばよいのかわからず、ティルフィーユは沈黙した。それはキアンも同じなのか、それともティルフィーユと会話もしたくないのか、キアンの方も何も言わない。ティルフィーユは困った表情を浮かべながら視線をそらし、自分の室内履きをじっと見下ろした。
「こちらへ」
「あ……は、はい……」
長い沈黙のあと、渋々といった感じでキアンはティルフィーユを招いた。ティルフィーユは震える声で頷き、恐る恐る寝台に乗り上がる。自分一人ならかなり広く感じた寝台だったが、キアンがいると彼の身体があまりにも大きいからか、妙に狭く感じる。二人で使うのならばもう少し広いベッドでもいいのかもしれないと、ふとティルフィーユは思った。
(基本は夫に任せる……で、いいのよね)
母国での性教育ではそう教わった。だが、キアンはダミアレア族だ。グントバハロンとは違った流儀やマナーがあるかもしれない。打ち合わせと称するには大仰だが、何か事前に確認しておいた方がいいかもしれない。ティルフィーユはそう考えたが、しかしどんな言葉でキアンに話しかければいいのかわからず、悶々としながらも声を発することができなかった。
「仰向けになってくれるか」
「はっ……はい」
薄闇の中で浮かび上がっているような輪郭を持った低い声が、ティルフィーユに要請する。ティルフィーユは枕に頭を乗せて仰向けになったが、緊張のせいでその身体はかちこちに硬くなっており、おまけに痛みへの恐怖で体温も下がってきてしまっていた。
そんなティルフィーユに覆いかぶさるように、キアンは無言で四つん這いになる。
濃紺の長袖長ズボンの寝間着姿のキアンは、これまで見た中で一番気取っていない印象だった。しかしその表情は相変わらず変化に乏しく、硬直状態に近いティルフィーユが気に入らないのか、眉間に一筋の皺が刻まれている。
「怖いのか」
「っ……い、いいえっ」
キアンのこげ茶色の瞳に見下ろされたティルフィーユは、必死に首を横に振った。
しかし、正直言って怖い。姉二人が口をそろえて何度も嘆いていた「初めての痛み」――それがどんなものなのか、果たして耐えられるのか、それを思うと「怖い」という感想しか出てこない。だがそれを言うことは許されないと思い、ティルフィーユは必死で平気なふりをした。
キアンはまだ何かを問いたげで少しだけ唇が動いたが、しかしそれ以上言葉を発することはなかった。その代わり、沈黙のままにその顔をティルフィーユの首元にうずめ、すんすんと匂いを嗅いでは生暖かい息をティルフィーユの首筋に吐きかけた。
「やっ……」
その息がくすぐったかったので、ティルフィーユは自然と顔を横に向けた。
自分の身体にキアンの体重が乗っているわけではないはずなのに、やけに沈み込む寝台のマットに、彼の身体の大きさと重さを感じる。ティルフィーユは薄目を開いて、間近にいるキアンをそっと見つめた。
昼間は少し青みがかって見える赤毛は、夜の薄暗さの中ではむしろ黒髪にも見えた。ティルフィーユの全身を隠してしまいそうなほどに広く大きな体躯は、なんだか信じられないぐらいに厚みがある。ティルフィーユの顔の真横に置かれた、彼の自重を支える腕は寝間着ごしにもわかるほどに太く、二人の間には相当大きな体格の違いがあることをひしひしと感じた。
――ちゅ。
「んっ……」
ネグリジェの端を少し下げて露出させたティルフィーユの鎖骨に、キアンは口付ける。やわらかくてくすぐったいその感触にティルフィーユは小さく震え、くぐもった吐息を漏らした。
(ひどいことは……きっとされない。大丈夫、キアン様はそんな方じゃない。でも)
ゆっくりと、交わす言葉はほぼなく始まろうとしている初めての交合。
男性の生殖器は挿絵でしか見たことがないが、果たしてキアンの持ち物は自分の身体の中にきちんと入るだろうか。もしも身体の大きさと生殖器が比例するならば、彼のそれはうんと大きいに違いない。自分の指一本くらいしか入らない狭い穴は、裂けて血まみれになってしまわないだろうか。
(痛いのは……怖いっ……)
そう考えると、ティルフィーユの身体はますます強張ってしまう。
するとその時、ふっとキアンが上体を起こした。そして、冷たい瞳でティルフィーユを見下ろして静かに呟く。
「これは所詮、政略結婚だ。夜の行為は必須ではない」
(えっ……?)
何を言われたのか、ティルフィーユの頭は十数秒経っても理解できなかった。理解できたことはただひとつ。それ以上何も言わずに寝台を降りたキアンが寝室を出ていってしまったので、新婚初夜の今夜も、この広いベッドで一人寂しく眠らなければいけないということだけだった。
しかし結婚式はまだ終わっていない。祈りの広間を出て、華やかだが婚礼衣装に比べると少しばかり簡素な衣装に着替えたティルフィーユとキアンは、続いてスベーク城東棟の大広間に向かった。そこには立食形式で多くの料理が用意されており、正式に招待された客人のほか、参加料を支払った一般市民たちが食事と懇談を楽しんでいた。
「新郎新婦のご入場です!」
大きな声の司会者がそう言うと、客人たちの視線が一気に大広間の出入口に向けられた。ティルフィーユはキアンの腕にそっと掴まりながら、用意されていた高砂へと並んで歩いていく。その間、左右にいる招待客と一般参加の市民から祝辞の言葉を贈られた。そしてこの披露宴でも、多くの客人との会話が繰り返された。結婚式には参加できなかった一般市民たちが、物珍しげに二人に話しかけてきたのだ。
キアンはだいぶ顔が知られているのか、「騎士団長さん!」と気軽に話しかけられることが多かった。相変わらず返す言葉は少なく、笑うこともなく不機嫌そうに見える無表情だったが、祝辞ではなくただの雑談を繰り広げるだけになった市民たち相手でも、キアンは淡々と対応した。
ティルフィーユの方は、何か問われたら答えるぐらいの対応はできたが、しかし緊張と元来の口下手が重なって、自分から客人たちに話を振るということはほとんどできなかった。それに今日一日ずっと隣にいるキアンともろくな会話をすることはできず、食事はどれも美味しかったが、人生で一度きりの結婚式の日だというのに、ティルフィーユの心の中は何かがずっと満たされないままだった。
大広間での宴会は、陽が沈むまで続いた。宴会終了後、ティルフィーユたちは再び控室で着替え、馬車に揺られてストーラーの屋敷に帰った。疲れもあってか、ティルフィーユもキアンも、行きと同じように互いに一言も発しなかった。二人を気遣うジェラルドが一緒ではなかったので、帰りの馬車の中には、結婚式を終えたばかりの新婚夫婦がいるとは思えないほど重苦しい空気が流れていた。
屋敷に戻り、湯浴みを終えるとティルフィーユはやっと一息つけた。ベッドに入って目を閉じたら一瞬で夢の中へ行けそうなほどに疲労が溜まっていたが、しかし今日はもうひとつ、最後に大事なイベントがある。
(いよいよ……初夜……)
今日をもって、ティルフィーユとキアンは正式な夫婦となった。つまり、今夜は夫婦として過ごす最初の夜となるので房事が行われるはずだ。
かなり昔の時代のグントバハロン宗家には、性教育をほとんど受けないまま嫁いでしまった姫もいたらしい。しかし今は宗家の子女全員にきちんと教育が施されているため、ティルフィーユも子作りの手順などは一応最初から最後まで知っている。さらに、年の離れた長女と次女がすでに既婚者なので、家庭教師からの教育に加えて二人の姉たちからもいろいろと実体験の話を聞いていた。
(だ、大丈夫……痛いのは我慢すれば……きっと大丈夫)
ネグリジェの上に羽織った厚手のガウンの裾をぎゅっと握りしめて、ティルフィーユは自分を鼓舞した。
女性の身体の仕組み、男性の身体の仕組み。それから、妊娠と出産の仕組み。それらは時に挿絵なども交えながら、みっちりと家庭教師から教わった。しかし、どんな知識よりもティルフィーユの中に強く残ったのは、姉二人が口をそろえて言った、「最初はめちゃくちゃ痛い、とにかく痛い」という言葉だった。
自分の身体で練習する方法も教わって、一度や二度、試したことはある。しかし、自分の指一本がどうにか入るほどの狭さの穴に肥大した男性の生殖器を受け入れることなど本当にできるのかと、疑念が深まっただけだった。それに加えて姉たちが「最初は本当に痛かった」と力説するものだから、初めての性交に対してティルフィーユは、ただただ強い痛みを予想して身体が硬直してしまうのだった。
(キアン様……今夜は寝室にいる……わよね?)
忙しかったのか、それとも床を共にしたくないほど自分のことを疎ましく思っているのか。ティルフィーユはこの屋敷に来てから一度も寝室でキアンを見ていない。だが今夜は初夜であるし、政略結婚に不服があったとしてもさすがに子作りはしてくれるだろう。そうでないと仮面夫婦の体裁すら保てないはずなのだから。
「ふぅ……」
ティルフィーユは深呼吸をすると、脱いだガウンを私室のソファにそっと置く。そして緊張した手を伸ばし、寝室につながるドアをそっと開けた。
――キ、ィ……。
寝室の中は薄暗かった。けれども、小さなランプの明かりが大きな背中の影を壁に映しているのを見て、ティルフィーユはひとまずほっと息を吐いた。
「あの……キアン様」
ゆっくりと室内に足を踏み入れながら、ティルフィーユは消え入りそうな声で呼びかけた。すると、寝台に腰掛けていたキアンはゆっくりと振り返り、じっと観察するようにティルフィーユを見つめた。
「…………」
「…………」
どうにか見つめ合ったが、次になんと言えばよいのかわからず、ティルフィーユは沈黙した。それはキアンも同じなのか、それともティルフィーユと会話もしたくないのか、キアンの方も何も言わない。ティルフィーユは困った表情を浮かべながら視線をそらし、自分の室内履きをじっと見下ろした。
「こちらへ」
「あ……は、はい……」
長い沈黙のあと、渋々といった感じでキアンはティルフィーユを招いた。ティルフィーユは震える声で頷き、恐る恐る寝台に乗り上がる。自分一人ならかなり広く感じた寝台だったが、キアンがいると彼の身体があまりにも大きいからか、妙に狭く感じる。二人で使うのならばもう少し広いベッドでもいいのかもしれないと、ふとティルフィーユは思った。
(基本は夫に任せる……で、いいのよね)
母国での性教育ではそう教わった。だが、キアンはダミアレア族だ。グントバハロンとは違った流儀やマナーがあるかもしれない。打ち合わせと称するには大仰だが、何か事前に確認しておいた方がいいかもしれない。ティルフィーユはそう考えたが、しかしどんな言葉でキアンに話しかければいいのかわからず、悶々としながらも声を発することができなかった。
「仰向けになってくれるか」
「はっ……はい」
薄闇の中で浮かび上がっているような輪郭を持った低い声が、ティルフィーユに要請する。ティルフィーユは枕に頭を乗せて仰向けになったが、緊張のせいでその身体はかちこちに硬くなっており、おまけに痛みへの恐怖で体温も下がってきてしまっていた。
そんなティルフィーユに覆いかぶさるように、キアンは無言で四つん這いになる。
濃紺の長袖長ズボンの寝間着姿のキアンは、これまで見た中で一番気取っていない印象だった。しかしその表情は相変わらず変化に乏しく、硬直状態に近いティルフィーユが気に入らないのか、眉間に一筋の皺が刻まれている。
「怖いのか」
「っ……い、いいえっ」
キアンのこげ茶色の瞳に見下ろされたティルフィーユは、必死に首を横に振った。
しかし、正直言って怖い。姉二人が口をそろえて何度も嘆いていた「初めての痛み」――それがどんなものなのか、果たして耐えられるのか、それを思うと「怖い」という感想しか出てこない。だがそれを言うことは許されないと思い、ティルフィーユは必死で平気なふりをした。
キアンはまだ何かを問いたげで少しだけ唇が動いたが、しかしそれ以上言葉を発することはなかった。その代わり、沈黙のままにその顔をティルフィーユの首元にうずめ、すんすんと匂いを嗅いでは生暖かい息をティルフィーユの首筋に吐きかけた。
「やっ……」
その息がくすぐったかったので、ティルフィーユは自然と顔を横に向けた。
自分の身体にキアンの体重が乗っているわけではないはずなのに、やけに沈み込む寝台のマットに、彼の身体の大きさと重さを感じる。ティルフィーユは薄目を開いて、間近にいるキアンをそっと見つめた。
昼間は少し青みがかって見える赤毛は、夜の薄暗さの中ではむしろ黒髪にも見えた。ティルフィーユの全身を隠してしまいそうなほどに広く大きな体躯は、なんだか信じられないぐらいに厚みがある。ティルフィーユの顔の真横に置かれた、彼の自重を支える腕は寝間着ごしにもわかるほどに太く、二人の間には相当大きな体格の違いがあることをひしひしと感じた。
――ちゅ。
「んっ……」
ネグリジェの端を少し下げて露出させたティルフィーユの鎖骨に、キアンは口付ける。やわらかくてくすぐったいその感触にティルフィーユは小さく震え、くぐもった吐息を漏らした。
(ひどいことは……きっとされない。大丈夫、キアン様はそんな方じゃない。でも)
ゆっくりと、交わす言葉はほぼなく始まろうとしている初めての交合。
男性の生殖器は挿絵でしか見たことがないが、果たしてキアンの持ち物は自分の身体の中にきちんと入るだろうか。もしも身体の大きさと生殖器が比例するならば、彼のそれはうんと大きいに違いない。自分の指一本くらいしか入らない狭い穴は、裂けて血まみれになってしまわないだろうか。
(痛いのは……怖いっ……)
そう考えると、ティルフィーユの身体はますます強張ってしまう。
するとその時、ふっとキアンが上体を起こした。そして、冷たい瞳でティルフィーユを見下ろして静かに呟く。
「これは所詮、政略結婚だ。夜の行為は必須ではない」
(えっ……?)
何を言われたのか、ティルフィーユの頭は十数秒経っても理解できなかった。理解できたことはただひとつ。それ以上何も言わずに寝台を降りたキアンが寝室を出ていってしまったので、新婚初夜の今夜も、この広いベッドで一人寂しく眠らなければいけないということだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】お嬢様だけがそれを知らない
春風由実
恋愛
公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者でもあるお嬢様には秘密があった。
しかしそれはあっという間に公然の秘密となっていて?
それを知らないお嬢様は、日々あれこれと悩んでいる模様。
「この子たちと離れるくらいなら。いっそこの子たちを連れて国外に逃げ──」
王太子殿下、サプライズとか言っている場合ではなくなりました!
今すぐ、対応してください!今すぐです!
※ゆるゆると不定期更新予定です。
※2022.2.22のスペシャルな猫の日にどうしても投稿したかっただけ。
※カクヨムにも投稿しています。
世界中の猫が幸せでありますように。
にゃん。にゃんにゃん。にゃん。にゃんにゃん。にゃ~。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。
だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。
異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。
失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。
けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。
愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。
他サイト様でも公開しております。
イラスト 灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様
あなたを愛すことは無いと言われたのに愛し合う日が来るなんて
恵美須 一二三
恋愛
ヴェルデ王国の第一王女カルロッタは、ディエゴ・アントーニア公爵へ嫁ぐことを王命で命じられた。弟が男爵令嬢に夢中になり、アントーニア公爵家のリヴィアンナとの婚約を勝手に破棄してしまったせいだ。国の利益になるならと政略結婚に納得していたカルロッタだったが、ディエゴが彼の母親に酷い物言いをするのを目撃し、正義感から「躾直す」と宣言してしまった。その結果、カルロッタは結婚初夜に「私があなたを愛すことは無いでしょう」と言われてしまう……。
正義感の強いカルロッタと、両親に愛されずに育ったディエゴ。二人が過去を乗り越えて相思相愛の夫婦になるまでの物語。
『執事がヤンデレになっても私は一向に構いません』のスピンオフです。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる