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第四章 初夜に向けて
第13話 準備中(下)
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「安定期にはもう入っているの。出産予定日までは四カ月を切ったくらいかしら」
「あのっ、おめでとうございます。でも、その……この活動をまだ続けていらっしゃって大丈夫なのですか」
「うふふっ、そうよね。実はあと二回活動をしたら、学びの発表会はしばらくお休みしようと思うの。夫にも無理をしないようにって、毎日耳にたこができるほど言われているしね」
それを聞いたティルフィーユは一瞬、自分が代わりにこの活動を継続することを提案しようかと考えた。だが、この活動はソイラ自身のものだ。若輩の自分が気軽に代わっていいものではないように思う。自分はあくまでも「手伝い」の一人でいた方が、おさまりがいいように思われた。
「あの、ソイラ様。未熟な私では頼りにならないかもしれませんが、でも何かできることがあれば必ずいたします。ですからどうぞ、お困りの際は声をかけてくださいね」
自分がキアンとの関係で悩んでいるところへ、ソイラは話を聞きに来てくれた。「お互いに何か勘違いしているのでは?」と、夫婦関係改善の道を切り拓いてくれたのはソイラだ。
「ありがとう、ティルフィーユさん。そう言ってもらえると嬉しいわ」
初めての出産で不安なことも多いだろうに、ソイラはしっかりと淑女の笑みを浮かべた。
(出産……キアン様がミリ族だから、私が出産する時はフメ族のお世話になるのかしら)
ソイラと別れ、バルボラと共にストーラーの屋敷を目指して歩きながらティルフィーユは考えた。
公家に嫁いだ長女エルメンヒルト。武家に嫁いだ次女ハイデマリー。二人の姉にはすでに子供がおり、彼女たちの出産の際は公家と武家、それぞれの使用人がつきっきりで世話をしていたという。ティルフィーユはベアトリーチェと共に、出産の三日後ぐらいに姉を見舞っただけだった。
ティルフィーユはキアンと結婚して「ティルフィーユ・ストーラー」というフルネームになったが、ミリ族の一員にもダミアレア族の一員にもなっていない。一応、望めば血縁関係がなくてもダミアレア族の一員になることはできるらしいが、自分もキアンもそれを望んでいないので、ティルフィーユは一族に加わってはいないのだ。
けれども、キアンは正真正銘のダミアレア族だ。そのキアンの妻である自分がいざ出産となったら、自分がというよりキアンがフメ族を頼るような気がした。
(妊娠をしていないどころか、いまだに処女なのだけど……でも、妊婦さんを間近で見ると考えてしまうわ)
女性にとって人生の一大イベントである妊娠と出産。自分たち夫婦はとても体格差があるが、果たして自分にキアンの子が無事に産めるだろうか。
(だめだめ、その前にちゃんと……夜の営みができるかどうかが先よ)
ティルフィーユがそう考えていたからなのかどうかはわからないが、その日の夕餉の席で、キアンが少し真剣な面持ちで切り出した。
「六日後に、フメ族から納品されるようだ」
何を、とキアンは明言しなかったが、フメ族の特製媚薬のことだとティルフィーユはすぐに理解した。
「せっかくだから、その前後で少し休暇を多めにとろうと思う」
「騎士団のお仕事は大丈夫ですか?」
「ああ。今日ロイックから聞いたんだが、今年の聖女の他国訪問の行き先が、正式にエヴァエロン共和国に決定したそうだ。聖女を迎えるにあたってやるべきことは山積みだが、聖女が来るのは約三カ月後だ。本格的に忙しくなるのはもう少し先になる。その前に、ティルときちんと夫婦になっておきたいんだ」
キアンが誠実に告げると、ティルフィーユの頬はポッと赤くなった。
仲直り以降、ほぼ毎日のように夜は甘く睦み合っている。しかしその行為はどれも前戯止まりで、ティルフィーユはいまだに処女だ。しかし、それももう間もなく終わる。特製媚薬を入手できれば、いよいよキアンとの本番行為に臨むのだ。
嬉しい反面、近付く本番を思うとティルフィーユの身体はまた緊張してしまった。
「あのっ、おめでとうございます。でも、その……この活動をまだ続けていらっしゃって大丈夫なのですか」
「うふふっ、そうよね。実はあと二回活動をしたら、学びの発表会はしばらくお休みしようと思うの。夫にも無理をしないようにって、毎日耳にたこができるほど言われているしね」
それを聞いたティルフィーユは一瞬、自分が代わりにこの活動を継続することを提案しようかと考えた。だが、この活動はソイラ自身のものだ。若輩の自分が気軽に代わっていいものではないように思う。自分はあくまでも「手伝い」の一人でいた方が、おさまりがいいように思われた。
「あの、ソイラ様。未熟な私では頼りにならないかもしれませんが、でも何かできることがあれば必ずいたします。ですからどうぞ、お困りの際は声をかけてくださいね」
自分がキアンとの関係で悩んでいるところへ、ソイラは話を聞きに来てくれた。「お互いに何か勘違いしているのでは?」と、夫婦関係改善の道を切り拓いてくれたのはソイラだ。
「ありがとう、ティルフィーユさん。そう言ってもらえると嬉しいわ」
初めての出産で不安なことも多いだろうに、ソイラはしっかりと淑女の笑みを浮かべた。
(出産……キアン様がミリ族だから、私が出産する時はフメ族のお世話になるのかしら)
ソイラと別れ、バルボラと共にストーラーの屋敷を目指して歩きながらティルフィーユは考えた。
公家に嫁いだ長女エルメンヒルト。武家に嫁いだ次女ハイデマリー。二人の姉にはすでに子供がおり、彼女たちの出産の際は公家と武家、それぞれの使用人がつきっきりで世話をしていたという。ティルフィーユはベアトリーチェと共に、出産の三日後ぐらいに姉を見舞っただけだった。
ティルフィーユはキアンと結婚して「ティルフィーユ・ストーラー」というフルネームになったが、ミリ族の一員にもダミアレア族の一員にもなっていない。一応、望めば血縁関係がなくてもダミアレア族の一員になることはできるらしいが、自分もキアンもそれを望んでいないので、ティルフィーユは一族に加わってはいないのだ。
けれども、キアンは正真正銘のダミアレア族だ。そのキアンの妻である自分がいざ出産となったら、自分がというよりキアンがフメ族を頼るような気がした。
(妊娠をしていないどころか、いまだに処女なのだけど……でも、妊婦さんを間近で見ると考えてしまうわ)
女性にとって人生の一大イベントである妊娠と出産。自分たち夫婦はとても体格差があるが、果たして自分にキアンの子が無事に産めるだろうか。
(だめだめ、その前にちゃんと……夜の営みができるかどうかが先よ)
ティルフィーユがそう考えていたからなのかどうかはわからないが、その日の夕餉の席で、キアンが少し真剣な面持ちで切り出した。
「六日後に、フメ族から納品されるようだ」
何を、とキアンは明言しなかったが、フメ族の特製媚薬のことだとティルフィーユはすぐに理解した。
「せっかくだから、その前後で少し休暇を多めにとろうと思う」
「騎士団のお仕事は大丈夫ですか?」
「ああ。今日ロイックから聞いたんだが、今年の聖女の他国訪問の行き先が、正式にエヴァエロン共和国に決定したそうだ。聖女を迎えるにあたってやるべきことは山積みだが、聖女が来るのは約三カ月後だ。本格的に忙しくなるのはもう少し先になる。その前に、ティルときちんと夫婦になっておきたいんだ」
キアンが誠実に告げると、ティルフィーユの頬はポッと赤くなった。
仲直り以降、ほぼ毎日のように夜は甘く睦み合っている。しかしその行為はどれも前戯止まりで、ティルフィーユはいまだに処女だ。しかし、それももう間もなく終わる。特製媚薬を入手できれば、いよいよキアンとの本番行為に臨むのだ。
嬉しい反面、近付く本番を思うとティルフィーユの身体はまた緊張してしまった。
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