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第01話 特別な操言士と祈聖石
4.水の村レイト(中)
しおりを挟む「操言士団の守護部は、騎士団と同じく怪魔退治が主な仕事です。危険と隣り合わせですが、一番人々に感謝されますし注目もされますから、花形と言われるんです」
「へえ、そうなんですね」
師弟関係を結んで以降、王黎がなかなか紀更を指導せずに放っておいたのは、実は怪魔と戦っていたからなのだろうか。
「でもね~お給料は普通なんだよね~。危険なんだから、もうちょっとくれてもいいのになー。民間部に移動しようかなー」
王黎は気の抜けた声で語尾を伸ばした。
「お給料って、そんな」
王黎のことを見直した紀更だったが、王黎の現金な発言に呆れて、その気持ちはあっという間にしぼんでしまった。
「王黎殿なら、民間部でもどこでも活躍できそうですね」
「え?」
苦笑しながらも王黎を評価するルーカスに、紀更は疑いの眼差しを向けた。こんなマイペースで不真面目な操言士が、どこでも活躍できるとはどういう意味だろうか。
すると、紀更の表情に気が付いたルーカスは王黎の胸元を指差した。
「王黎殿の操言ブローチを見てください。Ⅳの字が刻まれていますが、紀更殿はこの数字の意味をご存じですか」
「あ、えっと……習ったような気はするんですけど、あまり憶えていなくて」
「操言院の修了試験に合格するとその操言ブローチがもらえますが、試験結果によってもらえる数字は異なるんです。Ⅳは、試験結果が著しく優秀な操言士がもらえるものだそうですよ」
「うそ……」
紀更は疑いから一転して、驚愕の表情で隣に座る王黎を見つめた。
「ちょっと違うけど、まあ、Ⅳをもらえる人は少ないかな~」
王黎はルーカスの説明に少し異議を唱えたいようだったが、自分のことについてはあまり詳しく説明する気はないようで、おざなりに頷いた。
「Ⅳのブローチを持っている王黎殿なら、怪魔と戦う守護部でもそれ以外でも、十分活躍できるんじゃないでしょうか」
言従士を従える操言士は強くて優秀という噂話は、やはり事実なのだろうか。
マイペースでのほほんとしており、ふざけたりごまかしたりしている王黎の姿ばかりを目にしてきた紀更は、自分の師匠のことがますますわからなくなった。
(もしかして私、実はすごい人に弟子入りしてる?)
確かに、今の組織の説明といい、ふざけていない王黎からは高い知性を感じる。能ある鷹は爪を隠すように、紀更がまだ知らないだけで、操言士としての王黎はかなりの実力者なのかもしれない。
「んー、さすが水の村レイト、水が美味しいからお酒も美味しいねえ」
酒に酔って、王黎の頬は赤くなっている。
人の話を聞かず、のらりくらりとしている印象が強かったが、紀更の中の王黎という人物像は、この日少しだけ変わった。
「はあ、休暇さいこ~」
そんな弟子の心など知らず、王黎はのんきに酔っぱらう。
そうして夕餉の時間は過ぎていった。
宿の一階にある共同浴場で湯浴みをすませると、もうやることはない。明灯器があるとはいえ、基本的に人々の生活は日光と共にある。陽が昇ったら起床し、陽が沈んだら活動を終えて眠りにつくのが普通だ。
「お休みなさいませ」
「あ、はい。おやすみなさい」
早々に寝台に横たわった最美にならい、紀更も寝台に横になる。だが、すぐには眠れそうになかった。昼間に見た馬が、街道が、森が、風が、怪魔が、戦うルーカスとエリックの姿が、王黎の胸元の操言ブローチが、湧き出るように次から次へと思い出される。
(濃い一日だったわ)
頭が冴えて眠れない。それくらい、今日一日で見て感じたものは濃かった。操言院での勉強漬けの日々も中身が詰まっていたと言えば詰まっていたが、それとはまた別の濃密さだ。
(今まで知らなかった世界を感じたなあ)
王都ベラックスディーオは、国一番の都である。石畳で舗装された道、隙間なく隣り合う建物、そのほとんどがこの宿のような木材ではなく、頑丈な石材だ。
ところが、一歩王都の外に出ると、そこには手つかずの林が、森が、草地が残っている。王都でない都市部は、王都に比べると当然だが人も少なく少し寂しい雰囲気に感じられ、これまでに紀更が味わったことのない空気が流れていた。
(知らないことが、たくさんある)
見たことがないもの。今まで知らなかったこと。それらに触れて初めて、自分が無知であったことに気付く。手の届く範囲だけが世界だと思っていたが、そんなことはない。
(新鮮だけどちょっと不安……でもわくわくして)
馬に乗って一日かけて移動し、怪魔に遭遇して怯える。初めて訪れる都市部で夕食をとり、宿の寝台で眠る。それも、家族ではない人たちと一緒にだ。今日はいくつもの人生初体験があった。
(それでもやっぱり、どこか少し怖くて)
その時、あの痛みが紀更の胸に襲い掛かった。ふいに感じる、あの痛みだ。急に寂しくなり、悲しくなる。入り乱れる興奮と憂いの合間に顔を出す孤独感。この世界で自分一人だけ、誰にも気付かれず、真っ白になる感じ。
(寝よう……っ)
紀更は目を閉じた。しかし視覚情報がなくなれば、逆に感覚が研ぎ澄まされる。
足元が覚束ない。不安定な足場の上で、爪先立ちをしているような錯覚だ。
なぜこんな感覚になるのだろう。どうしたらこの胸の痛みはやわらぐのだろう。
紀更の眠れない夜は、いつもより少しだけ長かった。
翌朝、ドアが開く音と部屋に差し込む光で紀更は目覚めた。日の出を知らせる壱の鐘は、とっくに鳴り終わっていた。
「おはようございます。紀更様、どうぞ身支度にお使いください」
先に起きていた最美が、小さな桶を部屋に持ってきてくれる。
「お、おはようございます。わざわざすみませんっ」
共同浴場や、なんなら井戸が近くにあればそこで水を汲んで顔を洗うのが普通だが、そうしないですむようにと気遣ってくれたようだ。
今日もご丁寧に世話を焼かれてしまう紀更は、恐縮しながら桶の中の冷水を使って顔を洗い、髪の毛をとかし、服を着替えて朝の身支度をすませた。
それから最美と一緒に食堂へ下りると、男性陣三人はすでに朝食をとり始めていた。
「おはよう。紀更、よく眠れた?」
香ばしい焼きたてのアップルパイを頬張りながら、王黎が笑顔を向ける。寝起きでまだ少し血の巡らない頭で、紀更はこくんと頷いた。
「今日はこの村でのんびりしようね。あ、でも僕はもう行くから」
「え、どちらへですか」
「ん? 仕事……かなあ」
咀嚼もほどほどに、王黎は席を立った。一人前の操言士に与えられる白い操言ローブを慣れた手付きで羽織り、紀更と同じ大きさの疑問符を浮かべる。
「残念だけど、仕事かもしれないねえ」
「かもしれない、って」
「最美は紀更の傍にいてね。何かあったら紀更を守るんだよ」
「畏まりました」
「じゃあね~」
「えっ、王黎師匠!?」
まだ仕事開始を知らせる弐の鐘が鳴る前だというのにすでに仕事モードに入っているのか、王黎は意気揚々と食堂を出て宿の外へ去っていった。まるで誰にも追いかけられたくないと言わんばかりの足の速さだ。
残された紀更は、朝っぱらから自由気ままな師匠にため息をつきつつ、自分も朝食をとろうと椅子に座る。
「もう、王黎師匠ってば」
「苦労しますね、紀更殿」
隣に座るルーカスが、苦笑しながら慰めの言葉をかけてくれた。
「絶妙なんですよね。なんというか、こう、強く怒るほどでもなくて、でも自分勝手で。おまけに逃げ足が速くて」
「王黎殿は、操言院でもあんな感じなんですか」
「えっ……えっと」
ルーカスに問いかけられて、紀更は操言院での王黎を思い出そうとした。師弟関係を結んでから約二ヶ月、操言院での王黎はどうだったか。
「あんな感じ……だったと思います」
師弟関係を結んだとはいえ、師匠と弟子は四六時中一緒にいるわけではない。特に紀更は特別な経緯で学ぶ身であるから、王黎と師弟関係を結んだあとも、ほとんどは朝から晩まで操言院の授業があった。授業が終わった頃にふらりと紀更の前に現れた王黎はたわいもない話をして去っていくだけで、それほど長く一緒に過ごしたことはないのだ。
「師匠として何か教えてくれたことは、ほとんどありません」
「そうですか」
紀更のため息に、ルーカスはご苦労様ですと言うことしかできない。
だが、紀更を放置する王黎の態度は、それはそれで良かったのだ。ただでさえ操言院の授業は次から次へと暗記を強要するばかりでストレスだったし、中には紀更のことを露骨に良く思っていない教師操言士もいた。どちらかというと刺々しい態度をとる者が多い環境で、師匠なのにたいして指導も教育もせず常にふわふわしている王黎が、紀更の負担増になることはなかったのだから。
「紀更殿、先ほど王黎殿から頼まれましたので、今日はわたしがレイトの村を案内します。弐の鐘が鳴ったら、宿の正面口に集合していただけますか」
昨日と寸分違わず、今日も騎士の制服をきちっと着ているエリックは言った。
「ありがとうございます。でもいいのでしょうか。騎士の方に観光案内をしてもらうなんて」
紀更が恐縮しながら言うと、エリックもルーカスも優しい表情を作った。
「王都の騎士は、意外となんでもこなすのですよ」
「怪魔との戦い、壊れた橋の修理、火事現場の消火活動、泥棒の捕縛、王族の警護、パレードの警備、迷い犬の捜索、それから観光案内なんかも。ほぼ何でも屋ですね」
「ふふっ」
おどけてみせるルーカスと一緒に、紀更もくすりと笑った。
「あの、エリックさんもルーカスさんも、私なんかに丁寧に話さなくていいですからね」
「それは……どうしましょうか、エリックさん」
「紀更殿がそう言ってくれるなら、わたしは楽に話させてもらおう。ルーカスも好きにするといい」
「うーん、自分はこれで不便ではないので」
エリックは砕けた話し方にしてくれるようだったが、ルーカスは性分なのか、その後もたいして丁寧な口調は変わらなかった。
◆◇◆◇◆
「へえ、そうなんですね」
師弟関係を結んで以降、王黎がなかなか紀更を指導せずに放っておいたのは、実は怪魔と戦っていたからなのだろうか。
「でもね~お給料は普通なんだよね~。危険なんだから、もうちょっとくれてもいいのになー。民間部に移動しようかなー」
王黎は気の抜けた声で語尾を伸ばした。
「お給料って、そんな」
王黎のことを見直した紀更だったが、王黎の現金な発言に呆れて、その気持ちはあっという間にしぼんでしまった。
「王黎殿なら、民間部でもどこでも活躍できそうですね」
「え?」
苦笑しながらも王黎を評価するルーカスに、紀更は疑いの眼差しを向けた。こんなマイペースで不真面目な操言士が、どこでも活躍できるとはどういう意味だろうか。
すると、紀更の表情に気が付いたルーカスは王黎の胸元を指差した。
「王黎殿の操言ブローチを見てください。Ⅳの字が刻まれていますが、紀更殿はこの数字の意味をご存じですか」
「あ、えっと……習ったような気はするんですけど、あまり憶えていなくて」
「操言院の修了試験に合格するとその操言ブローチがもらえますが、試験結果によってもらえる数字は異なるんです。Ⅳは、試験結果が著しく優秀な操言士がもらえるものだそうですよ」
「うそ……」
紀更は疑いから一転して、驚愕の表情で隣に座る王黎を見つめた。
「ちょっと違うけど、まあ、Ⅳをもらえる人は少ないかな~」
王黎はルーカスの説明に少し異議を唱えたいようだったが、自分のことについてはあまり詳しく説明する気はないようで、おざなりに頷いた。
「Ⅳのブローチを持っている王黎殿なら、怪魔と戦う守護部でもそれ以外でも、十分活躍できるんじゃないでしょうか」
言従士を従える操言士は強くて優秀という噂話は、やはり事実なのだろうか。
マイペースでのほほんとしており、ふざけたりごまかしたりしている王黎の姿ばかりを目にしてきた紀更は、自分の師匠のことがますますわからなくなった。
(もしかして私、実はすごい人に弟子入りしてる?)
確かに、今の組織の説明といい、ふざけていない王黎からは高い知性を感じる。能ある鷹は爪を隠すように、紀更がまだ知らないだけで、操言士としての王黎はかなりの実力者なのかもしれない。
「んー、さすが水の村レイト、水が美味しいからお酒も美味しいねえ」
酒に酔って、王黎の頬は赤くなっている。
人の話を聞かず、のらりくらりとしている印象が強かったが、紀更の中の王黎という人物像は、この日少しだけ変わった。
「はあ、休暇さいこ~」
そんな弟子の心など知らず、王黎はのんきに酔っぱらう。
そうして夕餉の時間は過ぎていった。
宿の一階にある共同浴場で湯浴みをすませると、もうやることはない。明灯器があるとはいえ、基本的に人々の生活は日光と共にある。陽が昇ったら起床し、陽が沈んだら活動を終えて眠りにつくのが普通だ。
「お休みなさいませ」
「あ、はい。おやすみなさい」
早々に寝台に横たわった最美にならい、紀更も寝台に横になる。だが、すぐには眠れそうになかった。昼間に見た馬が、街道が、森が、風が、怪魔が、戦うルーカスとエリックの姿が、王黎の胸元の操言ブローチが、湧き出るように次から次へと思い出される。
(濃い一日だったわ)
頭が冴えて眠れない。それくらい、今日一日で見て感じたものは濃かった。操言院での勉強漬けの日々も中身が詰まっていたと言えば詰まっていたが、それとはまた別の濃密さだ。
(今まで知らなかった世界を感じたなあ)
王都ベラックスディーオは、国一番の都である。石畳で舗装された道、隙間なく隣り合う建物、そのほとんどがこの宿のような木材ではなく、頑丈な石材だ。
ところが、一歩王都の外に出ると、そこには手つかずの林が、森が、草地が残っている。王都でない都市部は、王都に比べると当然だが人も少なく少し寂しい雰囲気に感じられ、これまでに紀更が味わったことのない空気が流れていた。
(知らないことが、たくさんある)
見たことがないもの。今まで知らなかったこと。それらに触れて初めて、自分が無知であったことに気付く。手の届く範囲だけが世界だと思っていたが、そんなことはない。
(新鮮だけどちょっと不安……でもわくわくして)
馬に乗って一日かけて移動し、怪魔に遭遇して怯える。初めて訪れる都市部で夕食をとり、宿の寝台で眠る。それも、家族ではない人たちと一緒にだ。今日はいくつもの人生初体験があった。
(それでもやっぱり、どこか少し怖くて)
その時、あの痛みが紀更の胸に襲い掛かった。ふいに感じる、あの痛みだ。急に寂しくなり、悲しくなる。入り乱れる興奮と憂いの合間に顔を出す孤独感。この世界で自分一人だけ、誰にも気付かれず、真っ白になる感じ。
(寝よう……っ)
紀更は目を閉じた。しかし視覚情報がなくなれば、逆に感覚が研ぎ澄まされる。
足元が覚束ない。不安定な足場の上で、爪先立ちをしているような錯覚だ。
なぜこんな感覚になるのだろう。どうしたらこの胸の痛みはやわらぐのだろう。
紀更の眠れない夜は、いつもより少しだけ長かった。
翌朝、ドアが開く音と部屋に差し込む光で紀更は目覚めた。日の出を知らせる壱の鐘は、とっくに鳴り終わっていた。
「おはようございます。紀更様、どうぞ身支度にお使いください」
先に起きていた最美が、小さな桶を部屋に持ってきてくれる。
「お、おはようございます。わざわざすみませんっ」
共同浴場や、なんなら井戸が近くにあればそこで水を汲んで顔を洗うのが普通だが、そうしないですむようにと気遣ってくれたようだ。
今日もご丁寧に世話を焼かれてしまう紀更は、恐縮しながら桶の中の冷水を使って顔を洗い、髪の毛をとかし、服を着替えて朝の身支度をすませた。
それから最美と一緒に食堂へ下りると、男性陣三人はすでに朝食をとり始めていた。
「おはよう。紀更、よく眠れた?」
香ばしい焼きたてのアップルパイを頬張りながら、王黎が笑顔を向ける。寝起きでまだ少し血の巡らない頭で、紀更はこくんと頷いた。
「今日はこの村でのんびりしようね。あ、でも僕はもう行くから」
「え、どちらへですか」
「ん? 仕事……かなあ」
咀嚼もほどほどに、王黎は席を立った。一人前の操言士に与えられる白い操言ローブを慣れた手付きで羽織り、紀更と同じ大きさの疑問符を浮かべる。
「残念だけど、仕事かもしれないねえ」
「かもしれない、って」
「最美は紀更の傍にいてね。何かあったら紀更を守るんだよ」
「畏まりました」
「じゃあね~」
「えっ、王黎師匠!?」
まだ仕事開始を知らせる弐の鐘が鳴る前だというのにすでに仕事モードに入っているのか、王黎は意気揚々と食堂を出て宿の外へ去っていった。まるで誰にも追いかけられたくないと言わんばかりの足の速さだ。
残された紀更は、朝っぱらから自由気ままな師匠にため息をつきつつ、自分も朝食をとろうと椅子に座る。
「もう、王黎師匠ってば」
「苦労しますね、紀更殿」
隣に座るルーカスが、苦笑しながら慰めの言葉をかけてくれた。
「絶妙なんですよね。なんというか、こう、強く怒るほどでもなくて、でも自分勝手で。おまけに逃げ足が速くて」
「王黎殿は、操言院でもあんな感じなんですか」
「えっ……えっと」
ルーカスに問いかけられて、紀更は操言院での王黎を思い出そうとした。師弟関係を結んでから約二ヶ月、操言院での王黎はどうだったか。
「あんな感じ……だったと思います」
師弟関係を結んだとはいえ、師匠と弟子は四六時中一緒にいるわけではない。特に紀更は特別な経緯で学ぶ身であるから、王黎と師弟関係を結んだあとも、ほとんどは朝から晩まで操言院の授業があった。授業が終わった頃にふらりと紀更の前に現れた王黎はたわいもない話をして去っていくだけで、それほど長く一緒に過ごしたことはないのだ。
「師匠として何か教えてくれたことは、ほとんどありません」
「そうですか」
紀更のため息に、ルーカスはご苦労様ですと言うことしかできない。
だが、紀更を放置する王黎の態度は、それはそれで良かったのだ。ただでさえ操言院の授業は次から次へと暗記を強要するばかりでストレスだったし、中には紀更のことを露骨に良く思っていない教師操言士もいた。どちらかというと刺々しい態度をとる者が多い環境で、師匠なのにたいして指導も教育もせず常にふわふわしている王黎が、紀更の負担増になることはなかったのだから。
「紀更殿、先ほど王黎殿から頼まれましたので、今日はわたしがレイトの村を案内します。弐の鐘が鳴ったら、宿の正面口に集合していただけますか」
昨日と寸分違わず、今日も騎士の制服をきちっと着ているエリックは言った。
「ありがとうございます。でもいいのでしょうか。騎士の方に観光案内をしてもらうなんて」
紀更が恐縮しながら言うと、エリックもルーカスも優しい表情を作った。
「王都の騎士は、意外となんでもこなすのですよ」
「怪魔との戦い、壊れた橋の修理、火事現場の消火活動、泥棒の捕縛、王族の警護、パレードの警備、迷い犬の捜索、それから観光案内なんかも。ほぼ何でも屋ですね」
「ふふっ」
おどけてみせるルーカスと一緒に、紀更もくすりと笑った。
「あの、エリックさんもルーカスさんも、私なんかに丁寧に話さなくていいですからね」
「それは……どうしましょうか、エリックさん」
「紀更殿がそう言ってくれるなら、わたしは楽に話させてもらおう。ルーカスも好きにするといい」
「うーん、自分はこれで不便ではないので」
エリックは砕けた話し方にしてくれるようだったが、ルーカスは性分なのか、その後もたいして丁寧な口調は変わらなかった。
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