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第09話 歴解派操言士と空白の物語
6.着々と(下)
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「ということで、三日後の朝に出発したいのでよろしくお願いします、エリックさん」
サバートド地区にある騎士団本部。そこからサバー大通りを超えて西に少し進んだところには、騎士たちの訓練場がある。そこで日課の訓練をしていたエリックとルーカスに話しかけた王黎は、満面の笑顔でそう告げた。相変わらず、こちらの都合など考えずに自分のペースで話を進める人だ。
なんの前触れもなく突如現れた柔和な笑顔の王黎に、エリックはため息交じりに問いかけた。
「今回も前回と同じような内容だと思っていいのか。建前上は、の話だが」
「ええ、基本は都市部から都市部への移動です。前回行かなかった都市部はできれば全部訪れたいですね。それと、可能なら国道や街道を離れて、森の中や川辺にも」
「こんな情勢なのにか」
「こんな情勢だからですよ。修行以外の目的も含んだ旅ですし」
エリックはルーカスと王黎に訓練場の端、人気のない場所に向かうように手でうながした。
「王命だそうだな」
「ええ、紀更には伝えていませんが」
「なぜ、あなたと紀更殿にそんな王命が出るんだ」
エリックは眉間に皺を寄せた。
「護衛をお願いしたユルゲンくんからも同じことを訊かれました。同じ答えを返しますね。紀更が〝特別な操言士〟で、この世界の変化の渦の中心、鍵だからですよ」
「大げさだ」
「そうでしょうか。エリックさんたちも経験したはずです。摩訶不思議な力を持つ、始海の塔。あの塔が呼んだのは紀更だった。世界に何かが起きているいま、紀更なくして話は進まないんです」
言いきる王黎に、エリックは険しい目線を送った。そう簡単に王黎の言うことをすべて鵜呑みにしてたまるか、という理性がそこには灯っている。
「ライアン王が僕らを指名して命令を出したのは、僕らが唯一、ピラーオルドと接触しているからです。ライアン王は僕らが再びピラーオルドに接触し、彼らの正体や目的、あるいは対抗するためのきっかけをつかむようにと望んでいます」
「それってつまり、囮じゃないですか」
「そうとも言えるね」
あっさりと王黎が頷くので、ルーカスはそれ以上何も言えずに沈黙した。万が一ピラーオルドと接触し、パーティの中で一番若くか弱い女性の紀更が彼らに攫われたら、という最悪の事態を想像して、心が痛む。
国王はその可能性も承知で、ピラーオルドの調査を紀更と王黎に命じたのか。そして王黎は、紀更の師匠でありながらもそれを承諾したというのか。
「危険を承知で行かせるのだな、紀更殿を」
「そうしないと、国をじわじわと揺るがしているピラーオルドという脅威を排除できないんです。だからエリックさんとルーカスくんが、そしてユルゲンくんが必要です。僕らを……いえ、紀更を守ってあげてほしい」
「我々の任務は〝操言士の護衛〟だ。紀更殿だけでなくあなたも守る」
「そう言ってもらえるとありがたいです、エリックさん」
渋ってはいても、エリックはいつも最後には王黎の味方になる。仲違いを恐れず意見をぶつけ合い、そのうえで調和をとってくれる年上のエリックの存在は、王黎にとって言葉通りありがたいものだった。
「表向きは祈聖石巡礼の旅です。各地の祈聖石を巡りながら、紀更を鍛える修行の旅……それでいて、僕はピラーオルドに関することで手に入る情報があるならそれを積極的に入手します。前回より長く厳しいものになるかもしれませんが、よろしくお願いします」
「今回は護衛に集中できるようだからな。前回よりは気が楽かもしれん」
「あははっ。僕の監視は不要、って言われましたか。よかったですね」
「わかっているなら、思わせぶりな言動は控えてもらいたい」
「それは難しいかな~。なかなか、簡単には言えないことが多いもので。明日、別途ご相談をしたいので守護部会館にお越しください。詳細は最美に伝えさせます」
王黎はそう言い残すと、笑顔で訓練場を去っていった。
「エリックさん、やはり王黎殿は何か裏があります。でも、それは国を揺るがすようなものには感じられません」
「同感だ。なんというか腹黒いようで腹黒くないからな」
腹の探り合いをしたところで、その探り合いすらも想定のうちであるかのように王黎は対応する。最終的には、手の内がすべて露見しても構わないようだ。
(もしかしたら、本当はすべてをぶちまけてしまいたいのかもしれないな)
大きく重要な秘密は、長く抱え続けていると厄介な重荷となる。その重荷を肩から下ろしたいというのが、実は王黎の本音なのかもしれない。だから自分の秘密を探ろうとするエリックとルーカスを、王黎は笑顔で迎え入れることができるのだろう。
(旅の途中でわかるか、それとも……)
小さくなっていく王黎の背中はもうだいぶ遠いところを歩いている。
エリックはルーカスの肩をたたくと訓練場に戻った。
◆◇◆◇◆
「いい刀だ。どこの職人のモンだ?」
「傭兵の街メルゲント」
「ああ、なるほどな」
ジャウドモ地区にある鍛冶屋に愛刀の補修を頼んだユルゲンは、鍛冶屋の主人に淡々と答えた。
「強くて美しい。傭兵を支える妻のような、そんな刀だな」
「これから長い旅に出るんだが、怪魔と戦うことがある。最善の状態にしてくれ」
「二日はもらいたいが構わんか」
紀更たちの出発日をまだ知らないユルゲンは、返答に窮した。だがさすがに明日出発とはならないだろうとふんで、鍛冶屋の主人に無言で頷く。
「もうひとつ確認だ。こいつで人を斬ることはあるか」
ユルゲンの刀のひとつの刃を真剣に観察しながら、主人が問うてくる。それもまた返答に難しい質問だったが、ユルゲンは店の中をぼんやりと見つめながら答えた。
「あるだろうな」
「そうかい。まあ、以前も人を斬ったことがあるようだからな」
「わかるのか」
「もちろんだ。持ち主が抱く感情は得物に移る。こいつはそう多くないが泣いたことがあるようだ。人を斬る罪悪感でな」
「得物が泣く、か。職人らしい言い回しだな」
「本当さ。武器の声、感情。それらが聞こえんと話にならん商売だからな」
二日後に来な。
主人の言葉を背中で聞きながら、ユルゲンは鍛冶屋を後にした。愛刀が腰元にないと、いささか心許なくて落ち着かない。
「馬も必要だな。そういや、ゼルヴァイスに残したままか」
そう呟いたあとに、ユルゲンはふと、フリー傭兵である楊とミケルとの先日の会話を思い出す。
――ゼルヴァイス城の城主から、馬と荷物を王都に届ける依頼を受けてな。
――王都からゼルヴァイスに来た一行が、どういうわけか馬と荷物を置いていったらしい。それを王都に届けてくれってな。いつもより馬が多くて手間のかかる旅路だったが、なかなかいい報酬を得られたよ。
あの時は「よかったな」と流してしまったが、あれはもしかして、自分たちがゼルヴァイスに残した馬と荷物だったのではないだろうか。
(だとしても、二人がどこに届けたのかわからねぇな。操言士団か?)
故郷のメルゲントから乗り続けてきた馬は、足が強く闇も火も怪魔も恐れない、いい相棒だった。手放してしまったのは惜しいが王都は広い。探せば代わりの馬はいるだろう。
武器の整備、脚の用意、ほかにも買い込んでおきたいものは多々ある。大荷物になりたくはないが、野宿することもあるだろうし、二人の操言士を護衛するという仕事である以上、メインの武器だけでなく小型のナイフや防具など、そろえられる装備はできるだけそろえておきたい。
(そういや、紅雷はどうしたもんか)
ペレス家の警備の仕事の前から紅雷とはなんとなく別行動になったままで、コンビは事実上解散している。共同営舎で一度か二度、姿を見かけはしたが会話はない。
紀更が修了試験に合格したいま、きっといの一番に言従士としての登録を行っただろう。名実ともに正式な言従士として、おそらく四六時中紀更と一緒にいるに違いない。だとすれば、ユルゲンがそこまで心配してやる必要はないだろう。
だが、旅に出れば紅雷もパーティの仲間だ。先日貸し馬屋で生じてしまった不和は、できれば解消しておきたいと思う。
(つっても、原因がな……)
王都から――いや、紀更から離れない理由に紅雷を使っていたのは事実だ。そして紅雷の言うとおり、紀更の隣にいたがる自分自身から目をそらしてもじもじしていることも。
紅雷にしてみれば、ユルゲンの存在はまったく面白くないだろう。紀更の言従士である紅雷を堂々と押しのけてまで彼女の隣にいたがるならまだしも、自分のその欲望を押し通すことをしないまま、こそこそとしているだけなのだから。
(でも今回は、一緒にいる理由がある)
なぜ、紀更たちの旅に同行するのか。
前回は曖昧だったが、今回は明確な理由がある。操言士団から二名の操言士、紀更と王黎の護衛を依頼されたから。だから共にいる。その依頼ゆえに、ユルゲンは紀更と共に行き、紀更を守り、紀更の近くにいることができる。紅雷が持つ「紀更の言従士だから」という理由と比肩できるはずだ。
それでも、その「理由」は期間限定だ。紀更たちの旅が終われば依頼もそこで終了。ユルゲンと紀更をつなぐものはまたなくなってしまう。どんなに「一緒にいたい」とこの心が叫んでも、理由がなくなれば彼女の傍にいることはできなくなる。
(それでも……)
勇気が出ない。この手を伸ばして求めることができない。伸ばした手を振り払われること、必死で求めてもこの手には入らないこと。そんな絶望の未来を想像してしまい、足がすくむ。
彼女と自分とではあまりにも違う。年齢も生い立ちも釣り合わない。そんな風に言い訳を見つけて繰り返してはいるが、結局のところ、ただひとつの勇気が出ないだけなのだ。一緒にいたいと願う自分の心の声に従って、彼女に伝える勇気が。
(紅雷なら平気だよな)
彼女との不和を解消しておきたいとは思ったが、調和を重んじられる紅雷のことだ。旅に出れば当たり障りのない距離をうまくとってくれるだろう。自分の操言士が傍にいてそちらに夢中のはずだから、わざわざユルゲンともう一度こじれることもないはずだ。
ユルゲンはぐちゃっと乱雑にそう結論付けると、それ以上深く考えないようにしながら王都の中を一人歩いた。
◆◇◆◇◆
サバートド地区にある騎士団本部。そこからサバー大通りを超えて西に少し進んだところには、騎士たちの訓練場がある。そこで日課の訓練をしていたエリックとルーカスに話しかけた王黎は、満面の笑顔でそう告げた。相変わらず、こちらの都合など考えずに自分のペースで話を進める人だ。
なんの前触れもなく突如現れた柔和な笑顔の王黎に、エリックはため息交じりに問いかけた。
「今回も前回と同じような内容だと思っていいのか。建前上は、の話だが」
「ええ、基本は都市部から都市部への移動です。前回行かなかった都市部はできれば全部訪れたいですね。それと、可能なら国道や街道を離れて、森の中や川辺にも」
「こんな情勢なのにか」
「こんな情勢だからですよ。修行以外の目的も含んだ旅ですし」
エリックはルーカスと王黎に訓練場の端、人気のない場所に向かうように手でうながした。
「王命だそうだな」
「ええ、紀更には伝えていませんが」
「なぜ、あなたと紀更殿にそんな王命が出るんだ」
エリックは眉間に皺を寄せた。
「護衛をお願いしたユルゲンくんからも同じことを訊かれました。同じ答えを返しますね。紀更が〝特別な操言士〟で、この世界の変化の渦の中心、鍵だからですよ」
「大げさだ」
「そうでしょうか。エリックさんたちも経験したはずです。摩訶不思議な力を持つ、始海の塔。あの塔が呼んだのは紀更だった。世界に何かが起きているいま、紀更なくして話は進まないんです」
言いきる王黎に、エリックは険しい目線を送った。そう簡単に王黎の言うことをすべて鵜呑みにしてたまるか、という理性がそこには灯っている。
「ライアン王が僕らを指名して命令を出したのは、僕らが唯一、ピラーオルドと接触しているからです。ライアン王は僕らが再びピラーオルドに接触し、彼らの正体や目的、あるいは対抗するためのきっかけをつかむようにと望んでいます」
「それってつまり、囮じゃないですか」
「そうとも言えるね」
あっさりと王黎が頷くので、ルーカスはそれ以上何も言えずに沈黙した。万が一ピラーオルドと接触し、パーティの中で一番若くか弱い女性の紀更が彼らに攫われたら、という最悪の事態を想像して、心が痛む。
国王はその可能性も承知で、ピラーオルドの調査を紀更と王黎に命じたのか。そして王黎は、紀更の師匠でありながらもそれを承諾したというのか。
「危険を承知で行かせるのだな、紀更殿を」
「そうしないと、国をじわじわと揺るがしているピラーオルドという脅威を排除できないんです。だからエリックさんとルーカスくんが、そしてユルゲンくんが必要です。僕らを……いえ、紀更を守ってあげてほしい」
「我々の任務は〝操言士の護衛〟だ。紀更殿だけでなくあなたも守る」
「そう言ってもらえるとありがたいです、エリックさん」
渋ってはいても、エリックはいつも最後には王黎の味方になる。仲違いを恐れず意見をぶつけ合い、そのうえで調和をとってくれる年上のエリックの存在は、王黎にとって言葉通りありがたいものだった。
「表向きは祈聖石巡礼の旅です。各地の祈聖石を巡りながら、紀更を鍛える修行の旅……それでいて、僕はピラーオルドに関することで手に入る情報があるならそれを積極的に入手します。前回より長く厳しいものになるかもしれませんが、よろしくお願いします」
「今回は護衛に集中できるようだからな。前回よりは気が楽かもしれん」
「あははっ。僕の監視は不要、って言われましたか。よかったですね」
「わかっているなら、思わせぶりな言動は控えてもらいたい」
「それは難しいかな~。なかなか、簡単には言えないことが多いもので。明日、別途ご相談をしたいので守護部会館にお越しください。詳細は最美に伝えさせます」
王黎はそう言い残すと、笑顔で訓練場を去っていった。
「エリックさん、やはり王黎殿は何か裏があります。でも、それは国を揺るがすようなものには感じられません」
「同感だ。なんというか腹黒いようで腹黒くないからな」
腹の探り合いをしたところで、その探り合いすらも想定のうちであるかのように王黎は対応する。最終的には、手の内がすべて露見しても構わないようだ。
(もしかしたら、本当はすべてをぶちまけてしまいたいのかもしれないな)
大きく重要な秘密は、長く抱え続けていると厄介な重荷となる。その重荷を肩から下ろしたいというのが、実は王黎の本音なのかもしれない。だから自分の秘密を探ろうとするエリックとルーカスを、王黎は笑顔で迎え入れることができるのだろう。
(旅の途中でわかるか、それとも……)
小さくなっていく王黎の背中はもうだいぶ遠いところを歩いている。
エリックはルーカスの肩をたたくと訓練場に戻った。
◆◇◆◇◆
「いい刀だ。どこの職人のモンだ?」
「傭兵の街メルゲント」
「ああ、なるほどな」
ジャウドモ地区にある鍛冶屋に愛刀の補修を頼んだユルゲンは、鍛冶屋の主人に淡々と答えた。
「強くて美しい。傭兵を支える妻のような、そんな刀だな」
「これから長い旅に出るんだが、怪魔と戦うことがある。最善の状態にしてくれ」
「二日はもらいたいが構わんか」
紀更たちの出発日をまだ知らないユルゲンは、返答に窮した。だがさすがに明日出発とはならないだろうとふんで、鍛冶屋の主人に無言で頷く。
「もうひとつ確認だ。こいつで人を斬ることはあるか」
ユルゲンの刀のひとつの刃を真剣に観察しながら、主人が問うてくる。それもまた返答に難しい質問だったが、ユルゲンは店の中をぼんやりと見つめながら答えた。
「あるだろうな」
「そうかい。まあ、以前も人を斬ったことがあるようだからな」
「わかるのか」
「もちろんだ。持ち主が抱く感情は得物に移る。こいつはそう多くないが泣いたことがあるようだ。人を斬る罪悪感でな」
「得物が泣く、か。職人らしい言い回しだな」
「本当さ。武器の声、感情。それらが聞こえんと話にならん商売だからな」
二日後に来な。
主人の言葉を背中で聞きながら、ユルゲンは鍛冶屋を後にした。愛刀が腰元にないと、いささか心許なくて落ち着かない。
「馬も必要だな。そういや、ゼルヴァイスに残したままか」
そう呟いたあとに、ユルゲンはふと、フリー傭兵である楊とミケルとの先日の会話を思い出す。
――ゼルヴァイス城の城主から、馬と荷物を王都に届ける依頼を受けてな。
――王都からゼルヴァイスに来た一行が、どういうわけか馬と荷物を置いていったらしい。それを王都に届けてくれってな。いつもより馬が多くて手間のかかる旅路だったが、なかなかいい報酬を得られたよ。
あの時は「よかったな」と流してしまったが、あれはもしかして、自分たちがゼルヴァイスに残した馬と荷物だったのではないだろうか。
(だとしても、二人がどこに届けたのかわからねぇな。操言士団か?)
故郷のメルゲントから乗り続けてきた馬は、足が強く闇も火も怪魔も恐れない、いい相棒だった。手放してしまったのは惜しいが王都は広い。探せば代わりの馬はいるだろう。
武器の整備、脚の用意、ほかにも買い込んでおきたいものは多々ある。大荷物になりたくはないが、野宿することもあるだろうし、二人の操言士を護衛するという仕事である以上、メインの武器だけでなく小型のナイフや防具など、そろえられる装備はできるだけそろえておきたい。
(そういや、紅雷はどうしたもんか)
ペレス家の警備の仕事の前から紅雷とはなんとなく別行動になったままで、コンビは事実上解散している。共同営舎で一度か二度、姿を見かけはしたが会話はない。
紀更が修了試験に合格したいま、きっといの一番に言従士としての登録を行っただろう。名実ともに正式な言従士として、おそらく四六時中紀更と一緒にいるに違いない。だとすれば、ユルゲンがそこまで心配してやる必要はないだろう。
だが、旅に出れば紅雷もパーティの仲間だ。先日貸し馬屋で生じてしまった不和は、できれば解消しておきたいと思う。
(つっても、原因がな……)
王都から――いや、紀更から離れない理由に紅雷を使っていたのは事実だ。そして紅雷の言うとおり、紀更の隣にいたがる自分自身から目をそらしてもじもじしていることも。
紅雷にしてみれば、ユルゲンの存在はまったく面白くないだろう。紀更の言従士である紅雷を堂々と押しのけてまで彼女の隣にいたがるならまだしも、自分のその欲望を押し通すことをしないまま、こそこそとしているだけなのだから。
(でも今回は、一緒にいる理由がある)
なぜ、紀更たちの旅に同行するのか。
前回は曖昧だったが、今回は明確な理由がある。操言士団から二名の操言士、紀更と王黎の護衛を依頼されたから。だから共にいる。その依頼ゆえに、ユルゲンは紀更と共に行き、紀更を守り、紀更の近くにいることができる。紅雷が持つ「紀更の言従士だから」という理由と比肩できるはずだ。
それでも、その「理由」は期間限定だ。紀更たちの旅が終われば依頼もそこで終了。ユルゲンと紀更をつなぐものはまたなくなってしまう。どんなに「一緒にいたい」とこの心が叫んでも、理由がなくなれば彼女の傍にいることはできなくなる。
(それでも……)
勇気が出ない。この手を伸ばして求めることができない。伸ばした手を振り払われること、必死で求めてもこの手には入らないこと。そんな絶望の未来を想像してしまい、足がすくむ。
彼女と自分とではあまりにも違う。年齢も生い立ちも釣り合わない。そんな風に言い訳を見つけて繰り返してはいるが、結局のところ、ただひとつの勇気が出ないだけなのだ。一緒にいたいと願う自分の心の声に従って、彼女に伝える勇気が。
(紅雷なら平気だよな)
彼女との不和を解消しておきたいとは思ったが、調和を重んじられる紅雷のことだ。旅に出れば当たり障りのない距離をうまくとってくれるだろう。自分の操言士が傍にいてそちらに夢中のはずだから、わざわざユルゲンともう一度こじれることもないはずだ。
ユルゲンはぐちゃっと乱雑にそう結論付けると、それ以上深く考えないようにしながら王都の中を一人歩いた。
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