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第11話 無声の操言士と二人の動揺
4.来襲(中)
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夜が明けて、東の空に太陽が昇る。
カルディッシュ滞在二日目の朝から、紀更は王黎に連れられてこの地を守る祈聖石を巡っていた。
これまでにも多くの祈聖石を巡り、その場所と擬態を憶えようとしてきた紀更だが、もうすでにいくつかの祈聖石の場所は完全に頭の中から抜け落ちている。しかし王黎は正確に、ひとつひとつの祈聖石の場所と擬態を教えてくれる。王黎のその記憶力の良さに紀更はあらためて感心した。
「王黎師匠、エイルーで途中になってしまったことを訊いてもいいでしょうか」
昼過ぎ、読書広場のベンチに腰掛けて休憩していた紀更は隣に座る王黎に話しかけた。
紅雷はミズイヌ型になって紀更の足元で昼寝をしており、ルーカスとユルゲンは護衛の任務をしばらくの間エリック一人に任せ、二人で街外れの空き地に行って鍛錬をしている。
「操言の力を使う時の声の大きさの話だね?」
「そうです。声の大きさと操言の力は関わりがないのでしょうか」
「ないこともないけど、声の大きさは操言の力にあまり影響しないよ」
王黎はゆっくりと解説し始めた。
「むしろ、大きさよりも発音の正確性の方が大事だね。たとえば『風よ吹け』と言って一筋の風をこの広場に吹かせるとしよう。その『かぜよふけ』と五文字を言う間にくしゃみをしてしまったり、舌を噛んで『かじぇようけ』なんて発音になってしまったり、そんな風に〝言葉〟として正しい音にできなかったら、操言の力はうまく発動しないね」
「発音が正しく言葉になっていれば、小さな声でも効果は出るんですか」
「出るよ。ユルゲンくんが腕相撲していた時、外野の声がうるさかったから僕の小さな声は聞こえなかっただろうけど、声の小ささは操言の力に影響しない。言葉とイメージが結び付いていて、その言葉が正しく発音されていれば、声の届かない場所にも操言の力は届くよ。やってみせようか」
王黎はそう言うと上空を指差して、紀更に空を見上げるよう指示した。
【青空流れる白き雲、その白色を失い、我が指の示す円から速やかに消えよ】
王黎は左手の人差し指と親指で円を作り、それを上空にかざした。するとその円の中におさまっていた雲が消え、空の雲の一部に不自然な青い穴が生まれた。
「僕の声はあの雲の高さには絶対に届いていないけど、効果は出たでしょ?」
「なるほど」
「ただ、大きな声はそれだけ自分の耳にもはっきりと音が届くから、正しく言葉を言えたかどうかの判断材料になる。そういう意味では、最低限自分にはっきりと聞こえる音量で言葉を紡ぐべきかな」
「はい」
「それと、大きすぎる声量にはデメリットがあるよ。なんだと思う?」
「大きすぎる……あっ! 相手にこちらの意図が伝わってしまうことですね」
紀更は先のライオスとの戦いを思い出した。
「〝布〟で視界を覆われることがわかったら当然その〝布〟をなんとかしようとするし、あるいは目を保護しようとするよね。大きな声だと自分が紡いだ言葉を相手にうまく利用されて、的確に反撃されてしまう恐れがあるんだ」
「でも戦闘中は力が入ってしまうので……」
「そうだね、自然と声は大きくなっちゃうよね。気持ちはわかるけど、いかに冷静な自分を保って敵には聞こえない程度の声で操言の力を使えるか、っていうのも修行するしかないかなあ。怪魔相手なら問題ないけど、ピラーオルドの操言士相手に言葉が伝わっちゃったら、反撃の糸口を与えるようなものだからねえ。でも、仲間が多い場合は誰にどんな加護を与えたのか把握しやすいから、必ずしも大きな声が悪いわけじゃないんだ」
「時と場合に合わせた加減が大事なんですね」
昨夜、ユルゲンの言っていた「戦い方を考える」ということ。きっと声の大きさも、紀更が考えるべき課題のひとつだろう。
(私の操言ブローチの刻印はタイプⅢ。戦闘を得意とすると認められたなら、この刻印に恥じないようになりたい)
怪魔相手にはもちろんのこと、王黎や操言士を付け狙うピラーオルドに抵抗するためにも、まだまだ磨くべきところはたくさんある。ルーカスやユルゲンが鍛錬を怠らないように、自分も操言士としての修行を怠らないようにしよう。
紀更は、新しい雲が移動してきて徐々に埋まっていく空の青い穴を見上げた。
王黎との祈聖石巡りは順調に進み、陽が沈んであたりは暗くなってきた。
ゼルヴァイスやポーレンヌなら、日暮れからまだしばらくの間は街の中に活気があり、夕餉の時間を楽しげに過ごす人々の声が街路にあふれ出ていた。
しかしカルディッシュ城下町に住む人々は静かな気質の人が多いのか、前述の城下町に比較するととても穏やかで静かだ。まるで暗くなって本を読めなくなったらもうすることがない、という風に。住民たちは早々と帰宅し、通りは一気に静寂を帯びてくる。
紀更たちは今夜も城下町の中心にある食事処で夕食をとった。そして街路を照らすかすかな明灯器の灯りの下、歩いて少しのところにある宿に戻ろうとする。ところが少し歩いたところで、ふと紅雷の足が止まった。
「紅雷? どうしたの」
紀更に尋ねられても紅雷は返事をしない。城下町の東の方角をじっと見つめ、民家の間からただよってくるかすかな夜風の匂いをしきりに嗅いでいる。
「紀更様、火事かも」
「えっ」
「あっち、草木が燃える臭いがしてきます」
紅雷の大きく開かれた今様色の瞳孔が、薄闇の中で光る。
「紅雷、規模はわかる?」
真剣な面持ちで、王黎が紅雷の隣に立った。紅雷は指差した方角を見つめながら深く息を吐く。まるで、これから起きることへの覚悟を決めたかのようだ。
「まだ燃え始めぐらい……でもどんどん濃くなってる……広がってきてます」
「カルディッシュの東側は畑や牧草地帯だ。昨日、今日と雨が降っていないから、植物は適度に乾燥してる。そこに火をつけられていたらまずい」
「王黎師匠、火をつけられたらって、それって」
紀更の背筋に緊張が走った。
陽が沈んだあとの、闇が始まる時間。混乱を招き、注意を引くための陽動のような火事。
この状況は――。
「――ポーレンヌの時と同じだ。もしかしたらピラーオルドかもしれない」
そう告げる王黎の眼差しに、嘘や冗談は一切見えない。
少し離れていたエリック、ルーカス、ユルゲンが一歩王黎に近付き、互いに顔を見合わせた。ユルゲンが短く王黎に問う。
「どうする?」
「まずは役場やカルディッシュ城城主に、火事のことを知らせるべきでは?」
ルーカスの提案に王黎は頷いた。
「そうだね。紅雷の嗅覚だから気付けただけで、まだ気付いていない人もいるだろう。紅雷、この通りを北に行けば町役場だ。そこで、街の東側で火事が起きていると大声を上げて騒ぎを起こしてきてくれるかな。あとの消火活動は街の人たちに任せよう。街の人たちが動き始めたら、キミはすぐに紀更のところへ戻っておいで。煙の臭いでキミの鼻が利かなくなる前に、紀更の匂いを手掛かりにするんだ」
「了解ですっ!」
紅雷は二つ返事で頷くと、宿とは反対方面の北へと走り出した。
「さて、護衛のユルゲンくんやエリックさんたちからすると、僕に隠伏しておいてほしいところですよね」
「ピラーオルドの狙いはあなたのようだからな。彼らが諦めてこの街を離れるまで、隠れていてほしいものだ」
「でもせっかくあちらさんが来てくれたのに、彼らの尻尾をつかまずに隠れているなんてできない相談ですね」
王黎の挑発的な笑み。それが予想できていたエリックは眉間に皺を寄せて受け入れがたい表情を浮かべながらも、強く引き止めはしなかった。
「僕のせいで街や人々に迷惑がかかるのは最小限に抑えたい、とは思います」
「ピラーオルドとやり合うつもりか」
仲間全員が危険にさらされる選択を示唆した王黎に、ユルゲンは少し厳しい視線を向けた。ピラーオルドから逃げずに立ち向かうとなると、このパーティメンバー全員で対応することになる。誰一人、無駄な戦力はいない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。彼らの正体を明かすなら、彼らに近付かなければ」
「でも、王黎師匠」
「大丈夫だよ、紀更。無理はしない。いいですか、全員よく聞いてください。まず、街の北部に移動します。ウガラスノ樹林を左手に見ながら北東へと伸びる東国道なら、左右に民家はありません。ピラーオルドと戦うならそこがいいでしょう」
「どうやって奴らをそこにおびき寄せるんだ?」
「向こうは僕を見つけたいはずです。僕がいれば自然と来るでしょう。こうしている今も、すでにどこかから僕を監視しているかもしれない」
「ライオスはメヒュラでしたしね。紅雷さんのように、王黎殿の臭いをすでに見つけているかもしれません」
激情に駆られたタテガミライオン型のライオスを思い出して、紀更は考えを巡らせる。
ライオスとは二日前に遭遇したばかりで、ほぼ間を置かずに彼がこうして再度襲撃してきたということは考えられる。だが、本当にライオスがカルディッシュに来たのだろうか。相手はライオスだけだろうか。
「キャアア! 誰か! 誰かあ!」
「怪魔だ! 怪魔が街の中に!」
その時、静かだったカルディッシュ城下町に悲鳴が響いた。それは紅雷が走っていった町役場に続く左手の道の方から聞こえてくる。紀更たち全員の顔色はよりいっそう険しくなり、そして焦りが浮かび始めた。
「紀更、ピラーオルドの襲撃に一番巻き込みたくないのはこの中で一番弱いキミだ。だけどキミも操言士である以上、怪魔に立ち向かう義務がある」
王黎は操言ローブをしっかりと胸元で止めながら真剣な声で告げた。
「わかっています。怖いけど……でも、怪魔が街と人を襲うなら私は怪魔と戦います」
王黎は、ピラーオルドに狙われている自分のせいで紀更を危険な状況に巻き込みたくないと言う。けれどもそのピラーオルドが怪魔を操ってこの国を傷つけるのなら、操言士団守護部に所属する「操言士紀更」は逃げるわけにはいかない。逃げるはずがない。
「それが、操言士としての私の役目です」
紀更は覚悟を決めた重々しい表情で頷いた。
「よし、街中にいる怪魔を斃しながら北へ行きましょう!」
王黎の合図を皮切りに、ルーカスを先頭にして五人は走り出した。
◆◇◆◇◆
カルディッシュ滞在二日目の朝から、紀更は王黎に連れられてこの地を守る祈聖石を巡っていた。
これまでにも多くの祈聖石を巡り、その場所と擬態を憶えようとしてきた紀更だが、もうすでにいくつかの祈聖石の場所は完全に頭の中から抜け落ちている。しかし王黎は正確に、ひとつひとつの祈聖石の場所と擬態を教えてくれる。王黎のその記憶力の良さに紀更はあらためて感心した。
「王黎師匠、エイルーで途中になってしまったことを訊いてもいいでしょうか」
昼過ぎ、読書広場のベンチに腰掛けて休憩していた紀更は隣に座る王黎に話しかけた。
紅雷はミズイヌ型になって紀更の足元で昼寝をしており、ルーカスとユルゲンは護衛の任務をしばらくの間エリック一人に任せ、二人で街外れの空き地に行って鍛錬をしている。
「操言の力を使う時の声の大きさの話だね?」
「そうです。声の大きさと操言の力は関わりがないのでしょうか」
「ないこともないけど、声の大きさは操言の力にあまり影響しないよ」
王黎はゆっくりと解説し始めた。
「むしろ、大きさよりも発音の正確性の方が大事だね。たとえば『風よ吹け』と言って一筋の風をこの広場に吹かせるとしよう。その『かぜよふけ』と五文字を言う間にくしゃみをしてしまったり、舌を噛んで『かじぇようけ』なんて発音になってしまったり、そんな風に〝言葉〟として正しい音にできなかったら、操言の力はうまく発動しないね」
「発音が正しく言葉になっていれば、小さな声でも効果は出るんですか」
「出るよ。ユルゲンくんが腕相撲していた時、外野の声がうるさかったから僕の小さな声は聞こえなかっただろうけど、声の小ささは操言の力に影響しない。言葉とイメージが結び付いていて、その言葉が正しく発音されていれば、声の届かない場所にも操言の力は届くよ。やってみせようか」
王黎はそう言うと上空を指差して、紀更に空を見上げるよう指示した。
【青空流れる白き雲、その白色を失い、我が指の示す円から速やかに消えよ】
王黎は左手の人差し指と親指で円を作り、それを上空にかざした。するとその円の中におさまっていた雲が消え、空の雲の一部に不自然な青い穴が生まれた。
「僕の声はあの雲の高さには絶対に届いていないけど、効果は出たでしょ?」
「なるほど」
「ただ、大きな声はそれだけ自分の耳にもはっきりと音が届くから、正しく言葉を言えたかどうかの判断材料になる。そういう意味では、最低限自分にはっきりと聞こえる音量で言葉を紡ぐべきかな」
「はい」
「それと、大きすぎる声量にはデメリットがあるよ。なんだと思う?」
「大きすぎる……あっ! 相手にこちらの意図が伝わってしまうことですね」
紀更は先のライオスとの戦いを思い出した。
「〝布〟で視界を覆われることがわかったら当然その〝布〟をなんとかしようとするし、あるいは目を保護しようとするよね。大きな声だと自分が紡いだ言葉を相手にうまく利用されて、的確に反撃されてしまう恐れがあるんだ」
「でも戦闘中は力が入ってしまうので……」
「そうだね、自然と声は大きくなっちゃうよね。気持ちはわかるけど、いかに冷静な自分を保って敵には聞こえない程度の声で操言の力を使えるか、っていうのも修行するしかないかなあ。怪魔相手なら問題ないけど、ピラーオルドの操言士相手に言葉が伝わっちゃったら、反撃の糸口を与えるようなものだからねえ。でも、仲間が多い場合は誰にどんな加護を与えたのか把握しやすいから、必ずしも大きな声が悪いわけじゃないんだ」
「時と場合に合わせた加減が大事なんですね」
昨夜、ユルゲンの言っていた「戦い方を考える」ということ。きっと声の大きさも、紀更が考えるべき課題のひとつだろう。
(私の操言ブローチの刻印はタイプⅢ。戦闘を得意とすると認められたなら、この刻印に恥じないようになりたい)
怪魔相手にはもちろんのこと、王黎や操言士を付け狙うピラーオルドに抵抗するためにも、まだまだ磨くべきところはたくさんある。ルーカスやユルゲンが鍛錬を怠らないように、自分も操言士としての修行を怠らないようにしよう。
紀更は、新しい雲が移動してきて徐々に埋まっていく空の青い穴を見上げた。
王黎との祈聖石巡りは順調に進み、陽が沈んであたりは暗くなってきた。
ゼルヴァイスやポーレンヌなら、日暮れからまだしばらくの間は街の中に活気があり、夕餉の時間を楽しげに過ごす人々の声が街路にあふれ出ていた。
しかしカルディッシュ城下町に住む人々は静かな気質の人が多いのか、前述の城下町に比較するととても穏やかで静かだ。まるで暗くなって本を読めなくなったらもうすることがない、という風に。住民たちは早々と帰宅し、通りは一気に静寂を帯びてくる。
紀更たちは今夜も城下町の中心にある食事処で夕食をとった。そして街路を照らすかすかな明灯器の灯りの下、歩いて少しのところにある宿に戻ろうとする。ところが少し歩いたところで、ふと紅雷の足が止まった。
「紅雷? どうしたの」
紀更に尋ねられても紅雷は返事をしない。城下町の東の方角をじっと見つめ、民家の間からただよってくるかすかな夜風の匂いをしきりに嗅いでいる。
「紀更様、火事かも」
「えっ」
「あっち、草木が燃える臭いがしてきます」
紅雷の大きく開かれた今様色の瞳孔が、薄闇の中で光る。
「紅雷、規模はわかる?」
真剣な面持ちで、王黎が紅雷の隣に立った。紅雷は指差した方角を見つめながら深く息を吐く。まるで、これから起きることへの覚悟を決めたかのようだ。
「まだ燃え始めぐらい……でもどんどん濃くなってる……広がってきてます」
「カルディッシュの東側は畑や牧草地帯だ。昨日、今日と雨が降っていないから、植物は適度に乾燥してる。そこに火をつけられていたらまずい」
「王黎師匠、火をつけられたらって、それって」
紀更の背筋に緊張が走った。
陽が沈んだあとの、闇が始まる時間。混乱を招き、注意を引くための陽動のような火事。
この状況は――。
「――ポーレンヌの時と同じだ。もしかしたらピラーオルドかもしれない」
そう告げる王黎の眼差しに、嘘や冗談は一切見えない。
少し離れていたエリック、ルーカス、ユルゲンが一歩王黎に近付き、互いに顔を見合わせた。ユルゲンが短く王黎に問う。
「どうする?」
「まずは役場やカルディッシュ城城主に、火事のことを知らせるべきでは?」
ルーカスの提案に王黎は頷いた。
「そうだね。紅雷の嗅覚だから気付けただけで、まだ気付いていない人もいるだろう。紅雷、この通りを北に行けば町役場だ。そこで、街の東側で火事が起きていると大声を上げて騒ぎを起こしてきてくれるかな。あとの消火活動は街の人たちに任せよう。街の人たちが動き始めたら、キミはすぐに紀更のところへ戻っておいで。煙の臭いでキミの鼻が利かなくなる前に、紀更の匂いを手掛かりにするんだ」
「了解ですっ!」
紅雷は二つ返事で頷くと、宿とは反対方面の北へと走り出した。
「さて、護衛のユルゲンくんやエリックさんたちからすると、僕に隠伏しておいてほしいところですよね」
「ピラーオルドの狙いはあなたのようだからな。彼らが諦めてこの街を離れるまで、隠れていてほしいものだ」
「でもせっかくあちらさんが来てくれたのに、彼らの尻尾をつかまずに隠れているなんてできない相談ですね」
王黎の挑発的な笑み。それが予想できていたエリックは眉間に皺を寄せて受け入れがたい表情を浮かべながらも、強く引き止めはしなかった。
「僕のせいで街や人々に迷惑がかかるのは最小限に抑えたい、とは思います」
「ピラーオルドとやり合うつもりか」
仲間全員が危険にさらされる選択を示唆した王黎に、ユルゲンは少し厳しい視線を向けた。ピラーオルドから逃げずに立ち向かうとなると、このパーティメンバー全員で対応することになる。誰一人、無駄な戦力はいない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。彼らの正体を明かすなら、彼らに近付かなければ」
「でも、王黎師匠」
「大丈夫だよ、紀更。無理はしない。いいですか、全員よく聞いてください。まず、街の北部に移動します。ウガラスノ樹林を左手に見ながら北東へと伸びる東国道なら、左右に民家はありません。ピラーオルドと戦うならそこがいいでしょう」
「どうやって奴らをそこにおびき寄せるんだ?」
「向こうは僕を見つけたいはずです。僕がいれば自然と来るでしょう。こうしている今も、すでにどこかから僕を監視しているかもしれない」
「ライオスはメヒュラでしたしね。紅雷さんのように、王黎殿の臭いをすでに見つけているかもしれません」
激情に駆られたタテガミライオン型のライオスを思い出して、紀更は考えを巡らせる。
ライオスとは二日前に遭遇したばかりで、ほぼ間を置かずに彼がこうして再度襲撃してきたということは考えられる。だが、本当にライオスがカルディッシュに来たのだろうか。相手はライオスだけだろうか。
「キャアア! 誰か! 誰かあ!」
「怪魔だ! 怪魔が街の中に!」
その時、静かだったカルディッシュ城下町に悲鳴が響いた。それは紅雷が走っていった町役場に続く左手の道の方から聞こえてくる。紀更たち全員の顔色はよりいっそう険しくなり、そして焦りが浮かび始めた。
「紀更、ピラーオルドの襲撃に一番巻き込みたくないのはこの中で一番弱いキミだ。だけどキミも操言士である以上、怪魔に立ち向かう義務がある」
王黎は操言ローブをしっかりと胸元で止めながら真剣な声で告げた。
「わかっています。怖いけど……でも、怪魔が街と人を襲うなら私は怪魔と戦います」
王黎は、ピラーオルドに狙われている自分のせいで紀更を危険な状況に巻き込みたくないと言う。けれどもそのピラーオルドが怪魔を操ってこの国を傷つけるのなら、操言士団守護部に所属する「操言士紀更」は逃げるわけにはいかない。逃げるはずがない。
「それが、操言士としての私の役目です」
紀更は覚悟を決めた重々しい表情で頷いた。
「よし、街中にいる怪魔を斃しながら北へ行きましょう!」
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