どん底韋駄天這い上がれ! ー立教大学軌跡の四年間ー

七部(ななべ)

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第一章 産声

第九話 神在月の産土。ー後編ー

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今は秋。時は既に熟している。今年は異常気象、秋なのに桜咲く季節。今ここで花咲かなければ、いつ咲こうというのだ?
誰もが立教の芽生えを待ち望んでいる。
出雲駅伝、第五区、6.4km。
脚が予想以上に悴んでいる。でも、長距離で死ぬことなんてない、その精神で限界という概念を壊す。
この第五区は細かなアップダウンが波のようにあり、走者達を苦しめ果てさせる。
最初の1キロ区間はさほどアップダウンがない。ここは体力を温存させる。
解説員「立教大学横浜、体力温存でしょうか、前の立命館大学との差を縮めていますが尚も体力を温存しています。」
それでいいのだ。この1キロ区間は足との戦いよりも精神との戦いだ。できるだけ、思いっきりという邪念を払拭し、落ち着いて走る。ただ、それだけ。
1キロ通過、3分14秒。前の法政大学とはその差22秒、相反するように4位立命館とはその差7秒。
ここからぼちぼちと波のように激しい坂が多く見えるようになった。ここで、ここからギアを上げていく。
解説員「放送席、こちら2号車です。えーいま立教大学の横浜が先ほどからギアを上げたでしょうか?前をゆく法政大学三年、奥田との差がじわりじわりと近づいています。」
同じMARCHの一角として法政だけはここで抜かす。新進気鋭の立教。またギアを上げにかかる。出雲北東部の山々を、駆ける一閃の馬のように、視界で捉える法政をただひたすらに駆ける。
ここで神からのご加護のように天啓が降る。前の法政が足を痛めたそうだ。この千載一遇のチャンス。限界かもしれないが、今の僕に限界という文字はない。ここで行く。
2キロ通過、6分4秒。法政のアクシデントに少し揺らぎすぎた。飛ばし過ぎたのだ。それでもあの1キロの休息を頼りにギアを上げ続ける。
解説員「ちょっと今立教の横浜がまたしてもギアを上げ続けています。それに対応するかのように法政の奥田もギアを上げています。そしてここで一位、早稲田大学の四年、西条がペースを一段と落としている。」
だが油断は禁物、早稲田のラストを駆ける四年、明和憂太は今最も日本大学駅伝会で注目されている男。ここで抜かさなねれば。
3キロ通過、9分1秒。ギアを上げているが、バテているのが目にわかる。悩みどころの3キロ地点。ここで少しばかりの休息を2キロ踏むことを決定した。後ろの立命館とは30秒も離した。とは言っても後ろも要警戒で力を抑える。
4キロ通過、12分0秒。
5キロ通過、14分59秒。ここで一気に解放する。最初からこうすればいいんだ。作戦なんてその日次第。
清風の時なんてくそくらえ!でも、僕はふいに、高校駅伝の、中継所で待っている姿が浮かんだ。
ーそれは長谷部が疲れながらも、楽しく笑っている姿を。最終区を繋ぐ役目は同じだ。長谷部はこういう気持ちで駆けていたのか。そう思うと涙が溢れそうになるー
6キロ通過、17分50秒。この1キロで2分50秒しか走っていないのだ。僕はそう思いながらも高校時代を思い出し、初めて、高校時代で涙が出た。小粒の涙が一滴。あと距離は、300mほどだろうか。
解説員「さぁ、今ここで早稲田の時代がやってきたのか?早稲田大学西条。今最強ランカー明和へ!襷を繋いで!今繋がったー!
そして今2位の法政大学がっ!おっ?立教大学です!今立教大学の横浜が必死に後を追っています!さぁ熾烈な2位争いがブドウ実るここで火花を散らしています!後その距離は100mほどでしょうか。互いに譲りません!互角です!あーっと!今ここで立教の横浜が前に出た!後ろに降りたか法政大学!?第二位は、今回初出場、立教大学が今、四年星野へ渡ったー!っとあーっとこけた!いま、繋がったと同時に横浜が転けましたね!?大健闘、立教大学一年、横浜快斗です。タイムは18分50秒!凄まじい快進撃です!」
先輩、頑張りましたよ。
何もいうことはない。というより何も言えることができない。そのまま横になりながら、星野先輩の勇姿を後ろ姿で見ている。
タイムは…19分を切っている。18分43秒。最善を尽くした結果が19分を切れてなによりも嬉しい。悔し涙の次の駅伝は、嬉し涙と思い出し涙で溢れた。
第六区、最終区は立教最強、星野先輩。だが一位は早稲田の明和先輩。序盤から激しいデットヒートが炸裂する。
終始デットヒートが続き、5キロ地点でその差は3秒。僅かに早稲田優勢のまま、7キロ地点へ向かっていく。
7キロ地点。ここから明和先輩はさらに勢いを増して、F-1カーのような速さで走っていく。星野先輩も負けていない。むしろ明和先輩よりも凄まじいペースで1キロを走る。
ゴールテープ前で立教大学駅伝部のみんなが待機して、その姿を一番乗りで観ようと待ち望んでいる。
浜田「横浜、あの法政抜きはすげぇな!入れた甲斐があったぜ!」
「まぁね、ありがとう!立教大学最高や!」
浜田「おう!そうだね!」
出雲の乾いた風に僕ら青春を感じている。出雲の神々しい山々に、僕ら青春を感じている。至るどころに、最後の青春のその1ページを謳歌している。
ゴールテープ前に人が現れた。
「明和だ」
そのまま抜かされることなしに、一位早稲田大学がゴールイン。
次の姿はその5秒後。
「星野先輩だっ!」
早稲田の胴上げ姿そっちのけで、星野先輩のゴールのその瞬間を喜んだ。
立教の野間監督の胴上げを皆心して臨んだ。
一回、二回、三回。初々しいこの立教の胴上げを生放送でキャッチしている。
早稲田の大人びがかった胴上げよりも、立教の子供のようなの胴上げの方が声が出ていた気がする。
解説員「まさか立教がこの出雲の地で2位にまで上るとは誰も思っていませんよ!」
この大会進撃の号外が飛ぶように売れ、新時代の幕開けに皆釘打たれた。
この立教の春は奇跡だと思う人が大勢いるが、それは今だけはそう思うだろう。だがしかし来年再来年と実績を積んでいき、もう奇跡とは言わせない。そんな4年間、いや、100年間にしたいと想う若かりし頃。
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