サラダ

トマト

僕はベーコンに誘われるかのようにゆっくりと起きた。
鏡の前に立つと歯ブラシに歯磨き粉を付けた。
ジュージューとキッチンの方から優しげな音がする。
それからちん！というパンのやける音も
早朝の鳥のさえずりと共にコーヒーの置く音がした。
支度を終えゆっくりと席に着くと、ランチョンマットの上にパン、ベーコン、トマト、スクランブルエッグそして、コーヒーが置いてあった。
｢美味しい！｣
満面の笑みで僕が言うと、
眉間に皺を作って｢いつもと変わらないでしょう？｣と微笑む。
眉間に皺を作って笑う杏が僕は大好きなんだ。
本当に大好きなんだ。
｢そんな事ないよ
   このベーコンのカリカリ具合も
   トマトの甘酸っぱさも
   スクランブルエッグのトロトロ具合も
   杏じゃないと作れないよ。｣
お世辞では無い。
本当に杏の作る優しい朝ごはんが大好きなのだ。
この朝の優しいひとときは他の何とも変えられないくらい素敵だった。

朝ごはんも食べ終えゆっくり杏と映画鑑賞をした。
僕はあんまり映画に馴染みはないけど杏は好きらしい。
しかも、ホラーばっかり見るから僕は苦手だ。
どうせなら、アメコミの方が面白いと思い、口をすぼませていると杏は決まって言う。
｢もー男なのに弱っちぃの！｣
映画が見終わると夕方になっていた。
夕方は僕の一番大好きな時間。
時がゆっくりと流れ杏と僕を包む
時間が空いたので一緒に買い物をする。
明日の朝ごはんと、今日の夜ご飯のためだ。
カートにはほうれん草や、肉、色とりどりの野菜が並んでいた。
｢ごめん、 ちょっと用事あるから先帰ってて。｣
杏が言った。
｢いいよ全然会計済ませて先帰るね。｣
早々と会計を済ました僕は、杏の後をついて行くことにした。