サラダ

貪欲ちゃん

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ファンダンショコラ

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深夜に何故か目が覚めた僕はトイレに行った。
温もりを布団に置いてきたせいかトイレは南極のように寒く、座るのが嫌で仕方なかった。
気づくと僕は杏が知らない男と抱き合ってた場所に来ていた。
何してんだと我に帰り周りを見渡すとぽうっと夜に光る星のようにそう、一瞬の事だった。
頭で考えるより体が【BARわたあめ】の扉に手を伸ばしていた。
人の無意識というのは恐ろしいもので
考えるよりも体が動くというのはこういうことなのだろうな。

【BARわたあめ】は相変わらずの雰囲気を醸し出しており高校の冬(バレンタインかな?)に貰ったファンダンショコラに似ていた。

口の中にまとわりついたファンダンショコラ。
下の上で舞、絡みつき、離れようとしないあの味。
それが愛の重さに感じ一口食べ残りは母にあげた。
母は少し怪訝な顔をしたが、ファンダンショコラを飲み込むように食べた。
その光景が気味が悪く今でも脳の裏で響く。
母の言葉も忘れない「この子と付き合えばいいのに」満足気な母の顔と口の周りに付いていたチョコ。
「ちょっとー!
    ぼーっと突っ立ってないで座んなさいよぉ!」
背中を押されてコケそうになったが何とか体制を保った。
あの時のような慣れた手つきでグラスに注ぎ酒をつくり始めた。
「あらやだ!
    会うの二回目なのに自己紹介忘れてたわ
    ね。
    私ははるっていうのよろしくね。」
はる。か......随分古風な名前だな
まぁと言っても源氏名かと思われるが。
だが相変わらず顔立ちは整っている。
所々に年相当のシワもちょこちょこ見られるがきっと普通の50代(想像)よりも若いだろう。
「なんかあるからここに来たんでしょう?」
比較的がっしりした手を組みいう。
しかし手には温もりがあり思わず触りたいと思ってしまうくらいだった。
彼の左手の薬指には白いラインがあった。
既婚者なのかはたまた離婚者なのか。
以前の焦りはないため、はるさんの体を隅々まで目で追った。
顔立ちはまさにイケメン俳優って感じで
筋肉質だったがマッチョではなくて
細マッチョって感じだった。
「なーんかやぁねぇ」
ほおずえを付き顔を顰めた。
わたあめのはるさんの謎の暖かさに僕は思わず口を開いた。
「その、前の彼女のことなんですけど。
    どうしようかなって......」
相変わらずの顔ではるさんは聞いているが
目には強い光があった。
そして、自分は「」の中にいるような感覚がすごくありもどかしかった。
「あっ......僕。
   こう、思ったことも言えないし、弱いなっ
   て。
   どうしたらはるさんみたいに強くなれるの
    かなって思って......」
一つ一つ丁寧に、オドオドと説明してく
その言葉はたどたどしく赤子が初めて言葉を喋った時のようだ。
そして、それに応える母のような感じではるさんは言った。
「なぁに言ってんよ
    弱いままでもいいんじゃない?
    何も、強く居ることが正義な訳じゃないん  
    だから。
    私はあなたの物腰が柔らかい所だったり
    そういう所が本当の強さを持ってると思う
    けど?」
ふふっと笑っていう。
いつも(2回目だけど)はるさんには救われている。
「私も、若い頃は色々とあったのよ。
   表面では強く見せてるけど内面はズタボロ 
   で、誰にも言えなくて1人泣いてた。
   でも、私は弱いんだって気づいた瞬間、
    無理に笑わないし強がりもしなくなった
    だから今の私がある訳よ。」
はるさんは目に掛かった髪をサッと手で避けて時計を見た。
「あらやだ!
   もう4時よ!」
口に手を当てて言った。
一昔前のアイドルみたいだと思い少し笑った。
はるさんはカーテンの向こうにすっと消えると僕にあの時と同じように名刺を私た。
今度はにんじん色だった。
「ありがとう」と言い去っていった。
素敵な夜だった。
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