4 / 4
第四章
風の中の声
しおりを挟む
雨期の終わり、ビルマの空は静かだった。
雲の切れ間からこぼれる陽が、山の斜面に残る無数の白い骨を照らしていた。
戦後二十年が過ぎたころ、インド国境近くの村では、いまも子供たちが遊ぶたび、土の
中から錆びた銃弾や徽章の欠片が顔をのぞかせるという。
その丘の名を、村人たちは「ナガの丘」と呼ぶ。
だが年寄りたちは、昔の呼び名で「日本山」とも言う。そこに、数えきれぬほどの日本
兵が眠っているからだ。
ある朝、薄い霧を割って一人の老女が現れた。
褐色の肌に、深い皺。白髪を布で覆い、小さな壺を胸に抱えている。
彼女の名は、メー・リン。かつて日本兵たちを看取った村の娘の一人だった。
彼女はそっと丘の中腹に膝をつき、壺の蓋を外した。
そこには、骨の粉が少し。
五十年ほど前、山を越えて行った青年の遺骨の一部だ。
風が吹いた。
メー・リンは、細い指で土を撫でながら、呟く。
「アキラ……あなたの村は、今も桜が咲くのでしょうか」
丘の上で、竹の葉がかすかに鳴った。
まるで応えるように。
1970 年代初頭、日本からの遺骨収集団が再びミャンマー(当時ビルマ)に入った。
その中に、一人の青年がいた。
一ノ瀬光(ひかる)。
二十六歳。戦没した兵士・一ノ瀬アキラの甥にあたる。
彼は幼いころから、母――アキラの妹・美津子――から何度も兄の話を聞かされて育った
。
「兄はな、優しい人やった。母さんの手紙をいつも大事に持ってた」
「終戦の年の春に、軍から“消息不明”の知らせが来てね……」
光はその言葉の意味を、長く実感できなかった。
だが大学で東南アジア史を学び、ビルマ戦線の資料に触れるうちに、叔父の足跡を辿り
たいという思いが募った。
飛行機を降りた瞬間、湿った空気が肌にまとわりつく。
まるで、七十万の亡霊がいまもこの地に息づいているかのようだった。
同行する日本の調査団員たちは、政府の派遣と民間ボランティアが混在していた。
誰もが黙っていた。笑いもない。
重い沈黙だけが、熱気の中で漂っていた。
彼らはメー・リンの案内で、かつて第十五軍が越えた山道へ向かった。」
そこは、もはや道と呼べぬ獣道だった。
崖に沿って延びる泥の斜面、苔むした石、そして朽ちた木箱。
メー・リンが足を止め、指を差す。
「ここ、日本ノ兵、たくさん死んだ。夜、泣き声、いまも聞こえる」
光は息をのんだ。
周囲を包むジャングルのざわめきが、確かに呻き声のように聞こえた。
調査団は丘の斜面を掘り返した。
スコップの音が、湿った土に鈍く響く。
しばらくして、ひとりの作業員が叫んだ。
「出ました!」
白く細い骨が、土の中から姿を現した。
横に並ぶように、軍帽の残骸、そして錆びた水筒。
水筒の底には、小さな紙片が貼りついていた。
光が震える手でそっと取り上げる。
乾いた紙の上に、かすれた墨の跡。
「母へ――桜の咲くころ、また村で会おう」
光の喉から、かすかな声が漏れた。
「叔父さん……」
メー・リンが、そっと肩に手を置いた。
「その言葉、あのときも言ってた。たくさんの日本兵が、そう言ってた。
でも、誰も帰らなかった」
風が吹いた。
木々の葉がざわめき、鳥が一斉に飛び立つ。
その音の中に、光は確かに聞いた。 ――足を止めるな。道がある限り、我らは進む。
それは、伍長の声だった。
記録にも、歴史書にも残らぬ声。
だが、確かにそこにあった。
日が傾き、丘の影が長く伸びる。
収集された遺骨は、ひとつずつ白布に包まれた。
メー・リンはそのそばに膝をつき、両手を合わせる。
「あなたたちは悪くない。
この土地を汚したのは、戦の狂気。
けれど、わたしたちはあなたたちを忘れない」
村の子供たちが、花を手に集まってきた。
黄色いフランジパニ、白い蘭、そしてどこからか持ってきた桜の枝
その桜は、日本から持ち帰ったものを、メリーンが何十年も育てた木だった。
光は立ち上がり、母の名を呼ぶように空を見上げた。
雲の切れ間から、淡い光が差し込む。
その瞬間、彼の耳に確かに届いた。
アキラの声。 ――光よ、母を頼む。俺たちはここにいる。風になって、いつも見ている。
頬を伝う涙を、光はそのまま拭わずにいた。
それは悲しみではなかった。
時を越えた再会のような、静かな温もりだった。
数か月後。
長野の山村。桜が満開の季節。
郵便受けに、一通の封筒が届いた。
差出人は「厚生省戦没者慰霊課」。
中には、小さな骨壺と一枚の紙が添えられていた。
「ビルマ・ナガ丘にて、一ノ瀬アキラ氏の遺骨と思しき遺留品を発見。
これを故郷にお返しいたします。」
老いた美津子は、震える手で壺を抱いた。
目の前には、若き日の兄が笑っている写真。
あの日、母に宛てて書いた手紙と同じ文面が、再び封筒に入っていた。
“母へ――桜の咲くころ、また村で会おう”
美津子は空を仰いだ。
桜の花びらが、風に乗って舞い散る。
その一枚一枚が、兄の声のように思えた。 ――もう帰ったよ、美津子。もう、帰ったんだ。
再びビルマ。
ナガ丘の上では、いまも風が吹いている。
竹の葉がざわめき、鳥たちが輪を描く。
丘の麓には、白い小さな碑が建てられていた。
【ここに眠る大東亜戦争インパール作戦に散った者たち
我ら、風となりて故郷を見守る】
その文字を刻んだのは、光だった。
彼は数年ごとにこの地を訪れ、墓標の周囲を清め、桜の苗を植え続けた。
今では、丘一面に淡い桜が咲く。
ある夜、月が昇る。
メー・リンがそっと丘を見上げると、風の中から声がした。 ――我らの行軍を、忘れる。
死者の声ではなく、生き残った者への託宣。
やがて桜の花びらが風に乗り、星明かりの空を舞った。
その光の中に、アキラの笑顔があった。
そして、その笑顔は、静かに夜の闇へ溶けていった。
2025 年、インパール作戦から八十年。
丘に立つ石碑の前で、若い日本人観光客が立ち尽くしていた。
スマートフォンを手に、無言で碑文を読んでいる。
風が吹いた。
竹の葉が揺れ、どこからともなく声がする。 ――この風を感じるか。ここにも、帰れぬ春があったのだ。
青年はふと顔を上げた。
夕陽が丘を染め、桜がひとひら、彼の肩に落ちた。
その花びらを指で掬いながら、彼は小さく呟いた。
「忘れませんよ。あなたたちの行軍を。」
風が静かに笑った。
そしてまた、丘の上に永い沈黙が戻った。
だがその沈黙の奥には、確かに響いていた―― あの鼓動の音が。
インパールへと歩み続けた、幾万の兵士たちの足音が。
雲の切れ間からこぼれる陽が、山の斜面に残る無数の白い骨を照らしていた。
戦後二十年が過ぎたころ、インド国境近くの村では、いまも子供たちが遊ぶたび、土の
中から錆びた銃弾や徽章の欠片が顔をのぞかせるという。
その丘の名を、村人たちは「ナガの丘」と呼ぶ。
だが年寄りたちは、昔の呼び名で「日本山」とも言う。そこに、数えきれぬほどの日本
兵が眠っているからだ。
ある朝、薄い霧を割って一人の老女が現れた。
褐色の肌に、深い皺。白髪を布で覆い、小さな壺を胸に抱えている。
彼女の名は、メー・リン。かつて日本兵たちを看取った村の娘の一人だった。
彼女はそっと丘の中腹に膝をつき、壺の蓋を外した。
そこには、骨の粉が少し。
五十年ほど前、山を越えて行った青年の遺骨の一部だ。
風が吹いた。
メー・リンは、細い指で土を撫でながら、呟く。
「アキラ……あなたの村は、今も桜が咲くのでしょうか」
丘の上で、竹の葉がかすかに鳴った。
まるで応えるように。
1970 年代初頭、日本からの遺骨収集団が再びミャンマー(当時ビルマ)に入った。
その中に、一人の青年がいた。
一ノ瀬光(ひかる)。
二十六歳。戦没した兵士・一ノ瀬アキラの甥にあたる。
彼は幼いころから、母――アキラの妹・美津子――から何度も兄の話を聞かされて育った
。
「兄はな、優しい人やった。母さんの手紙をいつも大事に持ってた」
「終戦の年の春に、軍から“消息不明”の知らせが来てね……」
光はその言葉の意味を、長く実感できなかった。
だが大学で東南アジア史を学び、ビルマ戦線の資料に触れるうちに、叔父の足跡を辿り
たいという思いが募った。
飛行機を降りた瞬間、湿った空気が肌にまとわりつく。
まるで、七十万の亡霊がいまもこの地に息づいているかのようだった。
同行する日本の調査団員たちは、政府の派遣と民間ボランティアが混在していた。
誰もが黙っていた。笑いもない。
重い沈黙だけが、熱気の中で漂っていた。
彼らはメー・リンの案内で、かつて第十五軍が越えた山道へ向かった。」
そこは、もはや道と呼べぬ獣道だった。
崖に沿って延びる泥の斜面、苔むした石、そして朽ちた木箱。
メー・リンが足を止め、指を差す。
「ここ、日本ノ兵、たくさん死んだ。夜、泣き声、いまも聞こえる」
光は息をのんだ。
周囲を包むジャングルのざわめきが、確かに呻き声のように聞こえた。
調査団は丘の斜面を掘り返した。
スコップの音が、湿った土に鈍く響く。
しばらくして、ひとりの作業員が叫んだ。
「出ました!」
白く細い骨が、土の中から姿を現した。
横に並ぶように、軍帽の残骸、そして錆びた水筒。
水筒の底には、小さな紙片が貼りついていた。
光が震える手でそっと取り上げる。
乾いた紙の上に、かすれた墨の跡。
「母へ――桜の咲くころ、また村で会おう」
光の喉から、かすかな声が漏れた。
「叔父さん……」
メー・リンが、そっと肩に手を置いた。
「その言葉、あのときも言ってた。たくさんの日本兵が、そう言ってた。
でも、誰も帰らなかった」
風が吹いた。
木々の葉がざわめき、鳥が一斉に飛び立つ。
その音の中に、光は確かに聞いた。 ――足を止めるな。道がある限り、我らは進む。
それは、伍長の声だった。
記録にも、歴史書にも残らぬ声。
だが、確かにそこにあった。
日が傾き、丘の影が長く伸びる。
収集された遺骨は、ひとつずつ白布に包まれた。
メー・リンはそのそばに膝をつき、両手を合わせる。
「あなたたちは悪くない。
この土地を汚したのは、戦の狂気。
けれど、わたしたちはあなたたちを忘れない」
村の子供たちが、花を手に集まってきた。
黄色いフランジパニ、白い蘭、そしてどこからか持ってきた桜の枝
その桜は、日本から持ち帰ったものを、メリーンが何十年も育てた木だった。
光は立ち上がり、母の名を呼ぶように空を見上げた。
雲の切れ間から、淡い光が差し込む。
その瞬間、彼の耳に確かに届いた。
アキラの声。 ――光よ、母を頼む。俺たちはここにいる。風になって、いつも見ている。
頬を伝う涙を、光はそのまま拭わずにいた。
それは悲しみではなかった。
時を越えた再会のような、静かな温もりだった。
数か月後。
長野の山村。桜が満開の季節。
郵便受けに、一通の封筒が届いた。
差出人は「厚生省戦没者慰霊課」。
中には、小さな骨壺と一枚の紙が添えられていた。
「ビルマ・ナガ丘にて、一ノ瀬アキラ氏の遺骨と思しき遺留品を発見。
これを故郷にお返しいたします。」
老いた美津子は、震える手で壺を抱いた。
目の前には、若き日の兄が笑っている写真。
あの日、母に宛てて書いた手紙と同じ文面が、再び封筒に入っていた。
“母へ――桜の咲くころ、また村で会おう”
美津子は空を仰いだ。
桜の花びらが、風に乗って舞い散る。
その一枚一枚が、兄の声のように思えた。 ――もう帰ったよ、美津子。もう、帰ったんだ。
再びビルマ。
ナガ丘の上では、いまも風が吹いている。
竹の葉がざわめき、鳥たちが輪を描く。
丘の麓には、白い小さな碑が建てられていた。
【ここに眠る大東亜戦争インパール作戦に散った者たち
我ら、風となりて故郷を見守る】
その文字を刻んだのは、光だった。
彼は数年ごとにこの地を訪れ、墓標の周囲を清め、桜の苗を植え続けた。
今では、丘一面に淡い桜が咲く。
ある夜、月が昇る。
メー・リンがそっと丘を見上げると、風の中から声がした。 ――我らの行軍を、忘れる。
死者の声ではなく、生き残った者への託宣。
やがて桜の花びらが風に乗り、星明かりの空を舞った。
その光の中に、アキラの笑顔があった。
そして、その笑顔は、静かに夜の闇へ溶けていった。
2025 年、インパール作戦から八十年。
丘に立つ石碑の前で、若い日本人観光客が立ち尽くしていた。
スマートフォンを手に、無言で碑文を読んでいる。
風が吹いた。
竹の葉が揺れ、どこからともなく声がする。 ――この風を感じるか。ここにも、帰れぬ春があったのだ。
青年はふと顔を上げた。
夕陽が丘を染め、桜がひとひら、彼の肩に落ちた。
その花びらを指で掬いながら、彼は小さく呟いた。
「忘れませんよ。あなたたちの行軍を。」
風が静かに笑った。
そしてまた、丘の上に永い沈黙が戻った。
だがその沈黙の奥には、確かに響いていた―― あの鼓動の音が。
インパールへと歩み続けた、幾万の兵士たちの足音が。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる