インシツな指先

カゲマル

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ビギナーズラック

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 こいつ完全に性欲に支配されてやがる……!
 最早撫でているようなやり方のせいだろう、店員の肩がビクンと軽く跳ねた。その様子に当の菅原も驚き、一瞬振り向いてから早歩きで向こうの棚の方へと消えた。

「えっ?「あっ!小物類忘れてました!どこにありますか?」あ、ええと……こちらです……」

 よかった。どうやら職務を優先してくれたようだ。俺は今度こそ店員の目を盗んで菅原にメールを送り、このフロアを出るように促した。
 すると、奴は再び俺の予想を超えてきた。
 菅原は何故かさっき消えた方角から、やや足をもつれさせながら歩いてきて、店員の尻を凝視していた。俺のことなど視界に入っていないかのようだ。さっきよりも目はどんよりしている。おいおい、変態を隠しきれてねえぞ。
 尻に注がれている熱い視線に気づいたのか、店員が振り返った。
 また近づいてくるとは思ってなかったのか、一瞬怯えた表情を見せたものの、菅原をしっかりと睨み返した。
 その様子に恐れをなしたのか、菅原は立ち止った。最早ただの不審者であることは疑いようがない。だが俺なら何とかしてやれる。

「あの、どうかされましたか?」
「あ、い、いえ、何も……」
「えっと、ハンカチとかはあっちに置いてあるんですよね?」
「は、はいっ、そうですね。ご案内いたします……」

 店員は菅原をちらりと見て俺を別の棚へと案内した。
 俺は去り際に菅原を軽く睨み、視線でこの場を離れるよう促した。さすがにもうわかるだろ。
 そして俺はスーツを一着とハンカチを購入し、やや疲れ気味の笑顔で見送られ、菅原と連絡を取りながらその場を離れた。

 ・・・

 店内で合流するわけにはいかないので、建物の外にあるベンチで待ち合わせすると、菅原は座ってボーっと自分の手の甲を見つめていた。まだ感触が残っているのだろう。ぶっちゃけ羨ましい。俺もあと一回くらいやっときゃよかった。
 おっと、それより先に教師として言うべきことを言わねば。

「さっきのはやばかったな」
「……すいません」
「深追いしすぎだああいう時こそ頭の中をクールにしなきゃな。俺もたまにやらかすけどな」
「そうなんですね」
「で、どうだった?楽しかったか?」
「……はい、最高でした。ここ数年で」

 それはそれでこいつの人生が心配になってくるな。大丈夫か?まじで。本当に。
 まあいい。そっちの方は機会があれば学校で聞いてやろう。

「菅原、もしよかったら「やります」……いや、まだ何も言ってないんだが……」
「先生、僕もっとうまくなるよ!初めてやりたいことが見つかったんだ!」
「…………」

 ダメだ、こいつ。もう手遅れだ。


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