王子「女勇者に無理難題を突き付けたら全裸で帰ってきた」

小野

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 一つの村が滅びの運命を辿ろうとしていた。


 恐怖に顔を引き攣らせる村人達の瞳には海を覆い尽くすほど大量の魔物が映っており、自分達が住んでいる場所が島という海路を塞がられたら全く逃げ場がない場所だという事を痛いくらい理解している村人達は突然訪れた終焉に、ある者は泣き叫び、ある者は家族に最期の別れを告げ、ある者は神に向かって祈り出す。


 ……そして、そんな絶望に染まる島を眺めながら美しい姿をした魔物……海の魔女ウインディーネは恍惚とした声で呟いた。


「ああ……なんて甘美な絶望……やはり人間の絶望が一番美しいわ……」


 ペロリと青い舌で唇を舐め、邪悪な笑みを浮かべるウインディーネは久々に味わう人間達の絶望を堪能しつつ、先頭を行く配下の魔物達に「まずはあの邪魔な男達を殺せ」と命令を下す。すると、ウインディーネの命令を聞いた先頭の魔物達は心得たとばかりに聞くも耐え難い悍ましい笑い声を上げて、島に接近し、少しでも生存の可能性を生み出そうと武器を構えている男達に向かい、常人なら一度当たっただけで即死する雷撃を放った。……しかし、

 突如、一陣の風と共に現れた白くてモコモコとした服を着た人間に雷撃を弾き返されて、跳ね返ってきた雷撃に当たり「ギャッ!」と悲鳴をあげてブクブクと海の中に沈んでいく。


「!?」


 突如現れた人間にウインディーネは驚き、慌てて魔物達に制止の合図を送るが、その人間が忌々しい白銀の光を放つ剣を持っている事に気が付くと三日月に唇を歪めて笑った。


「あらあら、うふふっ……まさか、こんなに早く勇者が来るなんてね……フッフフ……どうしてここが分かったのかしら?」

「大灯台からアナタが大勢の魔物を引き連れてこの島に向かうのを見ていました!こんな大勢の魔物でこんな小さな村を襲うなんて……卑怯だと思わないんですか!?」

「……卑怯?卑怯って……ぷっ、くっくく……あーははははっ!!持てる力を全て使って敵を叩き潰す、それの一体何が卑怯なのかしらぁ!?それに卑怯と言うのは……こういう事を言うのよ!!」

「!!」


 そう叫んだウインディーネに応える様にザパァッと海の中から青白い触手が飛び出し、触手の口から吐き出された毒々しい液体が勇者……ではなく、恐怖のあまり腰が抜けて動けなくなった親子に向かって放たれる。そう、これこそウインディーネが千年もの間、幾人の勇者と戦い生き残ってきた理由。勇者の善良な心を利用した忌むべき禁じ手「身代わりの計略」である。


(さあ、早くその人間の親子を庇って毒液を浴びなさい!そしたら後は今まで戦ってきた勇者と同じ様に嬲り殺してあげるわ!)


 これまでの経験から勇者が親子を助ける事を疑わず、ウインディーネは驚愕に目を見開く勇者を眺めながら勝利を確信し、ニィイと醜悪な笑みを浮かべたーー……





◇◇◇◇◇





「勇者……まだ帰って来ませんね……」


 シンシンと降り頻る雪を窓越しに眺めながら女王マリーが呟くと、隣で執務をこなしていたライゼルがサラサラと書類の上にペンを走らせながら女王の呟きに答えた。


「母上、勇者様が残りの三神器を探しに行かれてまだ一週間も経っていませんよ。先日……『太陽の冠』を三日で見つけてきた時が異常に早かっただけです」

「ええ……まあそれはそうなんだけど……やはりいくら勇者と言えど年頃の娘を一人で三神器探索に向かわせたのは気に掛かると言いますか……ライゼルは気にならないのですか?勇者の事が……」

「はい、全く気になりません」


 キッパリと言い切ったライゼルに女王マリーは顔を引き攣らせながら「ちょっと育て方を間違ったかしら…」と思うが、次期国王としての資質をほぼ全て兼ね備えているライゼルに「これ以上求めるのも酷か」と思い、侍女が用意したお菓子を一摘み、摘もうとした時。突然フワッと春風を思わせる暖かい風が執務室に吹き……隠すべき場所以外隠れていないほぼ全裸の勇者が執務室に現れた。


「!?」


 六日前、この城を出た時は魔法耐性が高い雪兎装備を一式纏っていたのにほぼ全裸の状態で帰ってきた勇者に女王マリーは驚くが、流石に二回目ということもあり、ほぼ全裸の勇者に対してそこまで動揺せず、すぐに近くにいた侍女に服を持ってくるように指示を出そうとした。が、女王が指示を出す前に勇者はグラリと体をフラつかせたかと思うと、そのまま何も言わずバターン!と大きな音を立てて執務室の床の上に倒れた。


「えっ……ゆ……勇者ミリア……?」
 
 
 この世で恐らく一番強いであろう人間が突然倒れた事に衝撃が隠せず、女王含め執務室にいる人間達は誰もがポカンと唖然とする。しかし、執務室にいる人間の中で唯一ライゼルだけがスタスタと床に倒れるミリアに近付くと、そのまま体を屈ませてミリアの首に手を当て脈を取り、唖然とする使用人達に向かって命令を出した。
 
 
「いますぐ勇者様を医務室に運んで下さい」
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
「ライゼル様ありがとうございます!お陰で体が大分楽になりました!」
 
 
 清潔なベッドに腰掛けるミリアはニコニコと笑いながらライゼルに礼を言う。あの後、ライゼルの命令を聞いた使用人達により迅速に医務室に運ばれた勇者は王宮医師の手によって体を蝕んでいた毒を浄化されて、こうして会話が出来る様になるまで回復した。ライゼルは礼を言う勇者に対して「無事で何よりです」と模範的回答を返し、勇者が解毒の処置を受けている間ずっと聞こうと考えていた事を聞く為に口を開いた。
 
 
「……勇者様、そろそろ何があったのか聞いてもよろしいですか?」

「はい!何でも聞いて下さい!」


 ニコニコ笑いながら元気良く返事をする勇者にライゼルは「元気になったな」と思いつつ「まずは…」と前置きをして言った。




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