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しおりを挟む「どうして毒に侵された状態で帰って来たのか教えて貰えますか」
「はい!えーっと……話せば長くなるんですが、まだ行ってない場所に残りの三神器があると思って、世界地図を作った賢者様がいるという大灯台に行ったら……魔物の軍勢がある離れ小島を襲っている光景を目撃してしまって、居ても立っても居られず、島の人々を守る為に魔物の軍勢と戦ったら戦いの最中に毒液を浴びてしまいまして……でも!魔物の親玉を倒したら体の中から三神器らしき物が出て来たので急いで帰ってきたというわけです!」
「解毒もせずに……?」
「はい!ライゼル様に一刻も早く見せたくて!」
あと少し処置が遅れていれば危ないところだったというのに「早く三神器を見せたい」という理由で解毒もせず帰ってきた勇者に対してライゼルは少し眉を顰める。しかし、それも一瞬の事ですぐにいつもの鉄仮面の様な無表情な顔に戻ると「そうですか」と勇者の話に相槌を打ち、取り敢えず勇者が持って帰ってきた三神器らしき物を見せて貰おうとした。が、ほぼ同時に医務室の扉がコンコンとノックされてこちらの返答を待たずにガチャリと扉が開いたかと思うと、この国では見掛けない青の法衣を纏った老人がヨボヨボと杖を付きながら部屋に入ってきた。
「?」
「……」
突然、医務室に入ってきた老人に対して勇者は疑問符を浮かべるが、ライゼルは老人が纏っている法衣が大神殿のとある人物だけが着る法衣だと知っていた為、最大の礼を込めて床に傅き、恭しく頭を下げる。勇者は急に床に傅いたライゼルに吃驚するが、さらに勇者をもっと吃驚させる言葉を老人が放った。
「お初にお目に掛かります、勇者様。私の名前は教皇ガライ。此度は失われし女神の三神器が一つ『生命の鏡』を竜帝王から取り返して頂きたく大神殿よりお願いに参りました」
ーーーーー
その日、雪原の国の城下町はいつになくざわついていた。
「まだかしら……」
「おい、あんまり押すなって!」
「いやはや長生きするものじゃのう……」
「ええ!これは歴史に残るでしょうね!」
「お母さん!こっち空いてるよ!」
数日前、王宮から齎された報せを聞いた人々は寒さに頬を赤らめながら今かと今かと期待に胸を膨らませて城下町の大広場で『神の使者』を呼び出す儀式が始まる瞬間を待っていた。そして、その瞬間を待っているのは何も城下町の人々だけではなく、この儀式の主役であり、これから『神の園』に向かい『生命の鏡』を手に入れる事になっている勇者も、儀式の見届け人として王宮から城下町に降りてきたライゼルの隣でキラキラと目を輝かせながら『神の使者』を呼び出す準備をしている神官達を見つめていた。
「わあ……何だかドキドキしますね!ライゼル様!!」
「ええ、教皇猊下の話によればこれから勇者様が戦われる相手は神界を滅ぼしたと言われる邪竜。だから緊張されるのも無理はないかと思います」
「あっ、いや、そっちのドキドキじゃなくて……神の使者がどんな姿をしているのか……ライゼル様はドキドキしませんか?」
「いいえ、全く」
「おおう……さすがライゼル様……クールですね……」
そんな感じでライゼルと勇者がたわいもない話をしていると、一際大広場に集まった人々のざわめきが大きくなる。そのざわめきに会話を止めて勇者とライゼルが人々が注目している先に目を向けると、そこには杖を付かずシャッキリした足取りで大広場に向かってくる教皇の姿と儀式の要となる銀の竪琴を抱えた女性が歩いてくる姿が見えた。
いよいよ儀式が始まる……
誰が言わずとも儀式の始まりを察して、大広場に集まった人々は徐々に口を閉じ始め………いつしか大広場に風が抜ける音だけが響く。そうして人々が静かになるのを待っていたかの様に教皇と女性は目を合わせて頷くと、教皇は祝詞を、女性は竪琴を、同時に奏で始めた。
ポロンポロンと美しい竪琴の音色に乗せられる荘厳な言葉の数々はまるで讃美歌の様に大広場に響き渡り、それに応える様に神官達が大広場に描いた大魔法陣が白い光を放つ。魔法が全く使えない勇者は何が出てくるのかドキドキしながら魔法陣を見守っていたが、ライゼルは魔法陣の中から膨大な魔力の塊が今にも飛び出して来そうになっている事に気が付き、来るべき衝撃に備えて勇者と自分の周りに簡易の魔法壁を張った。途端、凄まじい衝撃波が大広場を駆け巡り、集まった人々はあまりの衝撃に立っていられず、地面に膝を付く。しかし、衝撃波が過ぎ去り恐る恐る顔を上げた人々は魔法陣から現れたそれを見て口々に感嘆の声を上げた。
「まあ……!なんて神々しいの……!」
「ウワー!スゲーデッカイ!!」
「なんと美しい……!」
「ありがたや……ありがたや……」
「お母さん見てみて!!すごい大っきい鳥さんだよ!!」
興奮する人々の視線の先には高さ十数メートルはあろうかという巨大な鳥が佇んでおり、キラキラと黄金の羽根を輝かせて、周りに集まった人々を見定める様に眺めていた。魔法壁の中にいる勇者も例に漏れず周りの人々と同様、呼び出された『神の使者』の姿に興奮しており「ライゼル様!本当にあの綺麗な鳥さんに私が乗っちゃってもいいんでしょうか!?」と頻りに何度もライゼルに聞いては、ライゼルに「教皇猊下の指示があるまで乗らないで下さい」とぴしゃりと言い捨てられていた。
が、さすが勇者と言うべきか。人々を見定める様に眺めていた鳥の瞳が急速に勇者を捉え「きゅい!きゅいー!」と意外にも可愛い鳴き声を上げると、どよめく人々を意に介さずノッシノシと巨体を揺らして勇者に駆け寄り、ひょいっと魔法壁の中にいた勇者を咥え上げて満足そうに翼を羽ばたかせた。
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