緋色の魔法遣い

Naoyuki Okada

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第一章 学園都市アストラフォラへ

第六話 決闘宣言

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 月曜日。「勝負しなさい!」──学園の門の影から突撃。
 火曜日。「勝負しなさい!」──夜明けと共に学生寮の私室を叩かれる。
 水曜は昼下がりの図書館塔、木曜は食堂の列、そして金曜は昼休みに入った講義室前のロビー。観衆が見守る中での、これみよがしの強行だった。
「アンティクア家の令嬢が、庶民を毎日呼び出してるらしいぞ」  
「あの白髪の子、炎がやばいんだって?」
 噂が噂を呼び、週末にはもはや決闘することは決定事項として学園中を駆け巡った。いつの間にか生徒によって勝手に立てられた看板に、非公式賭博のオッズが貼り出されている。さすがは名門のレティシアが圧倒的に本命のようだ。
 通りすがりの上級生がアルヴィナの肩を叩いた。
「お前に賭けてるんだ、頼むぜ! 三日後、夕刻だってよ」
 決闘の受理を伝えたのは、レティシア本人ではなく、浮き足立つ生徒だった。
「ちょ、ちょっと待って……わたし、決闘なんてやらないし……」
 既に自分たちの話に夢中な彼らは、そう答えるアルヴィナの声に聞く耳を持たない。

 日曜の図書館塔裏のベンチ。アルヴィナはもそもそと蜂蜜入りパンを頬張る。毎朝焼き立てが並ぶお気に入り店のメニューだが、心ここにあらずで味もわからなかった。
「どうしてこうなった」
 昨日のレティシアの突撃は特に強烈で、ついに口喧嘩にまで発展したのだ。それがまずかった。売り言葉に買い言葉で、聴衆はもう二人がやり合う姿を期待してしまっているのだ。覚えていないが、どうもアルヴィナ自身も受けて立つと言ってしまっていたらしい。  
 ユスティナがサンドウィッチを片手に淡々と助言する。
「体だけは守れ。御守りが二枚でも統計だと骨折率は三割を超えるぞ」  
「うえ……負けてもいいよ。レティシアさんが満足するなら」  
「……壊したステンドグラスの修繕費、一部を請求されてるんだろ? 能力を示して汚名を返上しないと、本当にただの問題児だぞ」
 その件はアルヴィナにとっても耳の痛い話であった。おそらく両親には既に連絡が届いており、請求額に目を回していることだろう。想像するだけで胃がしくしくと縮んだ。金額は想像もつかないが、きっと山の恵みの暮らしだけで払える額ではない筈だ。  
 申し訳なく思うと同時にこうも思う。
(ドラゴン探しどころじゃない……わたし一体何をしているの…?)
 落ち込むアルヴィナを静かに見つめるユスティナ。一度受理されてしまった決闘を辞退することが、どういう意味を持つか説明しようとしたその時。

「――ヘぇ、あなた負けてもいいとおっしゃいましたか?」

 近くを通りかかったレティシアが、ずかずかと寄ってきた。腰に手を当てて挑発的な視線で、アルヴィナの目を真っ直ぐ見つめる。
 第一印象の貴族ぜんとした振る舞いではない、威嚇する猫のような迫力に思わずアルヴィナはたじろぐ。だが、レティシアから次に放たれた言葉によって少女の心に焔が点いた。
「あなたの炎、派手だったけど全然なっていないわ」  
「……はぁ?」
 アルヴィナの髪の毛先がパッと紅く染まる。
「魔法はロジックよ。力任せの火遊びなんて、あたしは絶対に認めない」
 図書館塔前に居合わせた生徒たちがどよめく。
「おおお……盛り上がってきた!」  
「これは白髪頭も一本取られたな」  
「おい、お前も何か言い返せよ」
 散々の言いたい放題に、さすがのアルヴィナも面白くない。
「三日後よ。炎の腕は私のほうが上だって証明してあげる」
 とうとう逃げ道を塞がれてしまったアルヴィナ。
(能力を示せなければ、こうやってすり潰されていくんだ。でも、もう惨めな自分はぜったいに嫌)
 故郷で何もできず、無力感で過ごした子どもの日々。アルヴィナは何としてでもチャンスを掴みたかった。
「やりたくなくても……勝負、受けなきゃ」
 運命が加速してゆく。激流に流されぬように耐える少女の眼の奥で、ちりちりと小さく炎が揺らめいていた。
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