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第二章 双焔
第七話 決闘準備
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鐘楼が七つを打つ早朝。その荘厳な音色が石造りの校舎に反響し、薄暗い学園を包み込む。学園広場の掲示板前には、早くも人垣ができていた。
《公式模擬戦 第二百七号 アルヴィナvsレティシア・アンティクア》
承認印の鮮やかな赤色が、この催しが決定事項だと告げている。演習場入口に張り出された決闘ルールには、以下が書かれていた。
・御守り耐久値 :各2点/全損で敗北。
・場外反則ライン:攻撃が外壁を越えた時点で-1点。
・医療介入 :失神・骨折三か所以上、および立会人の判断で強制停止。
・補足事項 :結界破損レベルが 黄:観客避難準備/赤:即時中断。
相手を殺傷するに至る魔法は禁止とする。
・立会人 :パトロナ・セリュシエ教授。
〈風景を絵にする魔法〉の魔法器〈カメラ〉を連写する新聞部が、「号外作りまーす!」と叫んでいる。
朝練用の運動着姿のアルヴィナは、ため息を漏らして騒ぎから逃げるように足早で立ち去ろうとした。
「おはよう、逃げ腰ヒロインさん」
掲示板に目を向けたまま、ユスティナが皮肉った。
「……ヒロインじゃないよ。ただの庶民」
「庶民なら怪我の治療費も、講堂修理費も高いだろう」
彼女なりの冗談を言うと、眉をひそめながらアルヴィナに向き直る。
「オッズ、もうチェックした? 首席側7:3。今はまだ序の口だ」
「知らない」
(勝負が嫌なわけじゃないけど、変に注目されるのは気持ちがわるい…)
意識してしまうと気分が滅入ってしまうのを振り切って、アルヴィナは練習場へ向かった。
学園校舎内で唯一、戦闘のための魔法訓練を許可された練習場。アルヴィナは同級生のルシアとシルビアに頼み込み、手合わせの相手をしてもらっていた。
「じゃあ、開始!」
アルヴィナが動こうとした瞬間——シルビアの足元から瞬時に魔法が広がる。〈雑草が足を絡め取る〉イメージ。たちまちアルヴィナのブーツを締め上げ、彼女は前のめりに転倒する。
「うわっ!?」
立ち上がろうとした胸元へ、短杖が突き付けられる。
「チェックメイト♪ いくら炎が強くても、足を取られたら終わりだよ」
シルビアが笑うと、アルヴィナは仰向けのまま天井を見上げた。
(なるほど……搦手への対応がまるで足りないんだ)
魔法は〝イメージの具体性〟が要だ。アルヴィナはその点で豪快さでは抜きん出ているが、相手のイメージに対処する経験が乏しい。課題がはっきりした瞬間だった。見物していた生徒たちは、早速この情報を広めに次々と練習場から出ていくのであった。
その同日、昼休みの練習場裏。黒スーツ姿の見慣れない大人が二人、場内設備を点検している。腕章も校章もなく、学生たちはひそひそ囁く。
「誰? 保安スタッフ?」
「いや、市庁舎からの監査官かも」
「今回の決闘って、そんなに注目されてるの!?」
彼らは測定器らしき装置をあたりに向け、淡々と手帳に数値を記録している。
杖を締め上げる蛇――金糸で縫われた紋章が陽光でキラッと一瞬光る。
「……嘘だろ、あの印―《オルド・アルカヌム》!?」
新聞部の上級生が息を呑む。黒スーツたちは目的が達成したのか、生徒たちをまるで相手にもせず、一糸乱れぬ軍人のような動きで、無言で立ち去った。予想外の組織の登場に、新聞部は興奮と不安を募らせた。
夕刻、芝生のグラウンド。夕陽が長い影を落とす中。遠く聞こえてくる声によると〈レティシア 1.3倍/アルヴィナ 4.0倍〉と、朝の一件が早くもオッズに反映されたようだった。
「朝は3.2倍だったのに更に跳ねた!」
「手合わせでぼこぼこにされていた噂、本当だったんだな」
「あのレティシアに目をつけられたんだから、よほどの使い手かと思ってたが……大したことなさそうじゃないか」
言いたい放題の生徒たちの姿に、アルヴィナは思わず笑ってしまう。
(あーあ、ここまで私の負けに期待されているのなら、プレッシャーを感じるのも変だよね)
開き直った心境になったところで、よーしと気合を入れた。髪の先端が一瞬だけ朱に染まる。屋根の上では黒猫が満月を背にしてシルエットをつくる。古い物語の語り部のように、すべてを見守りながら。
◆決闘のルールのおさらい
1.立会人となる教員の指示に従い、制止の合図があれば直ちに戦闘を中断すること。
2.事前に申請した参加者を守ること。変更は許可されない。
3.参加者には「守りの御守り(アミュレット)」が2つ支給される。御守りは装備者に攻撃が命中すると、その威力の大小に限らず身代わりとなって破壊される。魔法を使ったどのような手段をとっても良いので、相手の御守りを先に2つ破壊した方を勝利者とする。
4.その他、何らかの理由で立会人の判断で勝敗を決めた場合は、不服であっても従うこと。
------
▶︎次話『第八話 闘いの基本』につづく
《公式模擬戦 第二百七号 アルヴィナvsレティシア・アンティクア》
承認印の鮮やかな赤色が、この催しが決定事項だと告げている。演習場入口に張り出された決闘ルールには、以下が書かれていた。
・御守り耐久値 :各2点/全損で敗北。
・場外反則ライン:攻撃が外壁を越えた時点で-1点。
・医療介入 :失神・骨折三か所以上、および立会人の判断で強制停止。
・補足事項 :結界破損レベルが 黄:観客避難準備/赤:即時中断。
相手を殺傷するに至る魔法は禁止とする。
・立会人 :パトロナ・セリュシエ教授。
〈風景を絵にする魔法〉の魔法器〈カメラ〉を連写する新聞部が、「号外作りまーす!」と叫んでいる。
朝練用の運動着姿のアルヴィナは、ため息を漏らして騒ぎから逃げるように足早で立ち去ろうとした。
「おはよう、逃げ腰ヒロインさん」
掲示板に目を向けたまま、ユスティナが皮肉った。
「……ヒロインじゃないよ。ただの庶民」
「庶民なら怪我の治療費も、講堂修理費も高いだろう」
彼女なりの冗談を言うと、眉をひそめながらアルヴィナに向き直る。
「オッズ、もうチェックした? 首席側7:3。今はまだ序の口だ」
「知らない」
(勝負が嫌なわけじゃないけど、変に注目されるのは気持ちがわるい…)
意識してしまうと気分が滅入ってしまうのを振り切って、アルヴィナは練習場へ向かった。
学園校舎内で唯一、戦闘のための魔法訓練を許可された練習場。アルヴィナは同級生のルシアとシルビアに頼み込み、手合わせの相手をしてもらっていた。
「じゃあ、開始!」
アルヴィナが動こうとした瞬間——シルビアの足元から瞬時に魔法が広がる。〈雑草が足を絡め取る〉イメージ。たちまちアルヴィナのブーツを締め上げ、彼女は前のめりに転倒する。
「うわっ!?」
立ち上がろうとした胸元へ、短杖が突き付けられる。
「チェックメイト♪ いくら炎が強くても、足を取られたら終わりだよ」
シルビアが笑うと、アルヴィナは仰向けのまま天井を見上げた。
(なるほど……搦手への対応がまるで足りないんだ)
魔法は〝イメージの具体性〟が要だ。アルヴィナはその点で豪快さでは抜きん出ているが、相手のイメージに対処する経験が乏しい。課題がはっきりした瞬間だった。見物していた生徒たちは、早速この情報を広めに次々と練習場から出ていくのであった。
その同日、昼休みの練習場裏。黒スーツ姿の見慣れない大人が二人、場内設備を点検している。腕章も校章もなく、学生たちはひそひそ囁く。
「誰? 保安スタッフ?」
「いや、市庁舎からの監査官かも」
「今回の決闘って、そんなに注目されてるの!?」
彼らは測定器らしき装置をあたりに向け、淡々と手帳に数値を記録している。
杖を締め上げる蛇――金糸で縫われた紋章が陽光でキラッと一瞬光る。
「……嘘だろ、あの印―《オルド・アルカヌム》!?」
新聞部の上級生が息を呑む。黒スーツたちは目的が達成したのか、生徒たちをまるで相手にもせず、一糸乱れぬ軍人のような動きで、無言で立ち去った。予想外の組織の登場に、新聞部は興奮と不安を募らせた。
夕刻、芝生のグラウンド。夕陽が長い影を落とす中。遠く聞こえてくる声によると〈レティシア 1.3倍/アルヴィナ 4.0倍〉と、朝の一件が早くもオッズに反映されたようだった。
「朝は3.2倍だったのに更に跳ねた!」
「手合わせでぼこぼこにされていた噂、本当だったんだな」
「あのレティシアに目をつけられたんだから、よほどの使い手かと思ってたが……大したことなさそうじゃないか」
言いたい放題の生徒たちの姿に、アルヴィナは思わず笑ってしまう。
(あーあ、ここまで私の負けに期待されているのなら、プレッシャーを感じるのも変だよね)
開き直った心境になったところで、よーしと気合を入れた。髪の先端が一瞬だけ朱に染まる。屋根の上では黒猫が満月を背にしてシルエットをつくる。古い物語の語り部のように、すべてを見守りながら。
◆決闘のルールのおさらい
1.立会人となる教員の指示に従い、制止の合図があれば直ちに戦闘を中断すること。
2.事前に申請した参加者を守ること。変更は許可されない。
3.参加者には「守りの御守り(アミュレット)」が2つ支給される。御守りは装備者に攻撃が命中すると、その威力の大小に限らず身代わりとなって破壊される。魔法を使ったどのような手段をとっても良いので、相手の御守りを先に2つ破壊した方を勝利者とする。
4.その他、何らかの理由で立会人の判断で勝敗を決めた場合は、不服であっても従うこと。
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▶︎次話『第八話 闘いの基本』につづく
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