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第二章 双焔
第九話 開炎前夜
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真昼の中央広場。イグニス寮の応援団の太鼓が地面を震わせ、かけ声が広場を揺らす。いくつも出店する屋台には蜂蜜入りパンや紅茶ジュレ、色とりどりの食べ物が並ぶ。いつもなら甘味に目がないアルヴィナも、楽しむきになれず見ないようにしていた。
オッズボードは『レティシア 1.1/アルヴィナ 9.0』へと更新。上級生が笑う。
「勝敗は決まったも同然だな!」
木陰では毎日繰り返される黒服の姿がある。黒エナメルの鋳鉄ボディの計測器で、結界をチェックしている。袖口から真鍮製のボタンに刻まれた〈蛇を締め上げる杖〉の紋が覗くが、名札も所属もない。新聞部がカメラを向けると、黒服は淡々と立ち去った。
大講堂前を通りかかりアルヴィナは中を覗き込んだ。爆発で失われたステンドグラスの開口部は、仮窓が嵌め込まれていた。乳白色のガラスを通った柔光が、石壁を淡く染める。
(修理始まったんだ……修繕費、返せるかな)
明日の主役の一人である彼女が佇む姿に、誰一人と気にもとめない。
決戦前夜。演習場外周の仮設テントでは応援団が旗を縫い、上級生が談笑している。
「首席圧勝に百ルーミ!」
アルヴィナが短杖を片手に、魔法を撃つ動作を反復していると、背後でクスクスと火を擦るような笑い声。
「この期に及んで基礎練だけ? それで首席に挑むのかよ」
なんとでも言えばいい。アルヴィナは黙々と自分のできることを続けた。
オッズボードがさらに更新し『1.08/10.0』の数字が並ぶ。ユスティナがその数字を見てほくそ笑む。
「大穴ってこういう時に使う言葉だな」
と小声で呟き、ポケットの中の紙片を握り込んだ。
深夜零時。無灯の演習場。アルヴィナは一人、砂煙の中で〈運命流〉の訓練を繰り返す。上にいくつもの小石を放り投げる――足元から光の矢印が発生し、未来に小石が落ちてくる位置を指す。視界が狭まり、時間がゆっくり進むような感覚。
鼓動が炎をあおる。白い髪が完全な緋へ染まりかけた瞬間、遠くの見学スタンドでカメラの赤ランプが点り、黒服の二人が無言で撮影する。
(今、時間が止まった?)
何かを掴みかけたような感触があったが、炎が思った以上に大きく弧を描き、空中で竜の影のように揺らめいた。アルヴィナは落ち着いて深呼吸し、息を整えた。髪の色がスッと白に戻っていく。
「暴走させてはダメ」
演習場を出ると、アルヴィナの鍛錬が終わるのを待っていたユスティナが手を振る。
「さすがのクールなあなたも、落ち着かないんだ?」
「……別にいいだろ」
ユスティナは目を逸らしながら続ける。
「倍率、十倍だって」
「おもしろいじゃない。わたしが勝てば皆びっくり、そうでしょ?」
「……なにか作戦はあるのか?」
「そうだねえ。とにかく全力でぶん殴る、かな?」
アルヴィナは笑みとともに短杖を肩へ担ぎ、夜空の月を見上げる。遠くには松明が決闘場を明るく灯している。いよいよ明日、炎を焚べる場所だ。
オッズボードは『レティシア 1.1/アルヴィナ 9.0』へと更新。上級生が笑う。
「勝敗は決まったも同然だな!」
木陰では毎日繰り返される黒服の姿がある。黒エナメルの鋳鉄ボディの計測器で、結界をチェックしている。袖口から真鍮製のボタンに刻まれた〈蛇を締め上げる杖〉の紋が覗くが、名札も所属もない。新聞部がカメラを向けると、黒服は淡々と立ち去った。
大講堂前を通りかかりアルヴィナは中を覗き込んだ。爆発で失われたステンドグラスの開口部は、仮窓が嵌め込まれていた。乳白色のガラスを通った柔光が、石壁を淡く染める。
(修理始まったんだ……修繕費、返せるかな)
明日の主役の一人である彼女が佇む姿に、誰一人と気にもとめない。
決戦前夜。演習場外周の仮設テントでは応援団が旗を縫い、上級生が談笑している。
「首席圧勝に百ルーミ!」
アルヴィナが短杖を片手に、魔法を撃つ動作を反復していると、背後でクスクスと火を擦るような笑い声。
「この期に及んで基礎練だけ? それで首席に挑むのかよ」
なんとでも言えばいい。アルヴィナは黙々と自分のできることを続けた。
オッズボードがさらに更新し『1.08/10.0』の数字が並ぶ。ユスティナがその数字を見てほくそ笑む。
「大穴ってこういう時に使う言葉だな」
と小声で呟き、ポケットの中の紙片を握り込んだ。
深夜零時。無灯の演習場。アルヴィナは一人、砂煙の中で〈運命流〉の訓練を繰り返す。上にいくつもの小石を放り投げる――足元から光の矢印が発生し、未来に小石が落ちてくる位置を指す。視界が狭まり、時間がゆっくり進むような感覚。
鼓動が炎をあおる。白い髪が完全な緋へ染まりかけた瞬間、遠くの見学スタンドでカメラの赤ランプが点り、黒服の二人が無言で撮影する。
(今、時間が止まった?)
何かを掴みかけたような感触があったが、炎が思った以上に大きく弧を描き、空中で竜の影のように揺らめいた。アルヴィナは落ち着いて深呼吸し、息を整えた。髪の色がスッと白に戻っていく。
「暴走させてはダメ」
演習場を出ると、アルヴィナの鍛錬が終わるのを待っていたユスティナが手を振る。
「さすがのクールなあなたも、落ち着かないんだ?」
「……別にいいだろ」
ユスティナは目を逸らしながら続ける。
「倍率、十倍だって」
「おもしろいじゃない。わたしが勝てば皆びっくり、そうでしょ?」
「……なにか作戦はあるのか?」
「そうだねえ。とにかく全力でぶん殴る、かな?」
アルヴィナは笑みとともに短杖を肩へ担ぎ、夜空の月を見上げる。遠くには松明が決闘場を明るく灯している。いよいよ明日、炎を焚べる場所だ。
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